リーダーとの会話5
スクールに着いてもこれまでと違ってオリエさんの出迎えはなかった。胸騒ぎを覚えながら執務室のドアをノックした。
「どうぞ」
リーダーはいるようだ。
「もうそろそろ来る頃だと思っていました」
「葛葉に外部から緊急告知が送られました。あれはあなたが発信したものですね」
「私が違うと言ってもあなたは信じないかもしれませんね」
「今、何が起こっているか教えていただけませんか」
「いいでしょう。森のすぐそばの海岸に海外から船が来ています。海岸線に沿って放射性廃棄物を投棄しています。今も私達の仲間が海を監視しています。
投棄された放射性廃棄物は運搬中に開かなければいいという簡易なものです。一般廃棄物用の袋に入っているだけで、完全密封とはいいがたい。
運搬した後のことは考えていないのでしょう。現に雨風に晒されて漏れ出してきています」
「最近、測定値が上昇してきていますね。高濃度検知の緊急警告音が出ることも以前より増えました」
「まだ事態の悪化ははじまったばかりです。本格的な影響はこれからでしょう。
これから1-2ヶ月ぐらいすると、更に数値が上昇しますし、半年もするとこの森だけでなく、森の西側も広範な地域で人が住むことができなくなるでしょう」
「廃棄物を漏れ出さないように封じ込めることはできないのでしょうか」
「これを見てください」
リーダーが大きなホログラム映像を出した。
海岸線に沿って赤い色の袋のようなものが置かれているのが見える。廃棄物だろうか。袋には外国の言葉で何か書かれている。
「映像の右下の数値は放射線量です。では高度を上げた映像に切り替えます」
俯瞰する映像に切り替わると息を飲んだ。
青い海と緑の大地の間に亀裂のような禍々しい廃棄物の赤いラインが引かれている。地平線の端まで海岸線の輪郭をなぞるように置かれている。
「海岸線を伝って近づいてきているようです。内陸深くに運ばないのは汚染を気にしているからでしょう。この線量では長時間作業はできません」
「現地作業は無理そうですね。これはどの地点の映像ですか」
「この時点では森の端から8kmのところまできています。今は歩いて5分も歩けば投棄現場に行けます。
どの地点から漏れ出ているかは分かりませんが、おそらく漏れ出ている箇所は複数以上でしょう。これを見ても封じ込めると思いますか」
「絶望的な状況といえますね。旧政府は運び込んでいる国を特定しているのですか」
「船や袋に書いてある文字から特定しています」
「彼らは中央政府ではなくなっても一応は外交の窓口のはずです。相手国に抗議ぐらいしてくれてもいいでしょう。これ以上運び込まれるのを止めないといけません」
「確かに取引国との交渉チャネルはありますが、それは貿易用のものであって、それ以外の問題には関与しないというのが旧政府の考えです。
彼らは汚染状況に無関心です。たとえ汚染が急激に悪化してもそれはその土地のコミューンの問題でしかないと彼らは考えています。
コミューン自治の原則を盾にしてこの問題に関与しようとしません。私が政治力を使って働きかけなかったら、この航空撮影もされなかったでしょう」
「しかしこれだけ膨大な廃棄物が投棄され漏れ出ているとなると、離れているとはいえ時間が経てば旧政府の土地にも影響が出かねません」
「彼らの土地が住めなくなっても、政府は技術力と顧客を持っていますから取引先国に設備ごと移住することが可能でしょう。
もう既に移転する話が水面下で進んでいても不思議ではありません。彼らが汚染された国に住んでいるメリットはありませんからね」
「そういえば旧政府の人は皆、外国の言葉ができましたよね」
「はい。表向きの理由はプログラミング言語として使われているからということですが、なぜか試験では日常会話まで要求されますよね」
「もし仮に旧政府が海外に移転したら、端末の新規提供がなくなりますね。通信設備も維持もそうです。当然今の端末に頼ったコミューン運営はできなくなるでしょうね」
「その覚悟はしておいた方が良さそうです。今回のことがなくてもいずれ海外移転したでしょうが、汚染の進行度合いによっては多少前倒しになるかもしれません。
ところでなつめさん、葛葉で説明する為にこの映像が必要ではありませんか」
「いただけるものでしたらぜひとも欲しいとは思います。しかし私の端末は電源が入りません」
「それなら心配いりません。机の上に置いて下さい」
端末を外して机の上に置いた。リーダーが手にとって僕の端末の背面を何か操作している。すると電源が付いた。電源が入るとリーダーの生命値が表示された。
17だった。
見たこともないような数値だ。
感情色も真っ赤になっている。相当苦しいはずだ。
10分程度作業した後に端末を返してくれた。
「終りました。また電源を落としましたが、葛葉に戻ってからリセットしてください」




