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ラストリゾート  作者: 水野たまり
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緊急告知

 ゲンジさんと将棋をしていた時、端末に緊急告知が出た。



【緊急告知】

この告知を受け取った土地はもうすぐ人が住めなくなるだろう。ボーダーの森からできるだけ遠く離れるのだ。もう時間がない。



「ゲンジさん、この告知はなんでしょう。おかしな告知ですね」

 

「発信者の名前がないし、普段の告知の音とも違っていたな」


「渉外担当のログを見てみます。今、渉外が旧政府の担当者を呼び出しているようです。応答があるといいのですが」


「この時間では明日の応答になるだろうな」


「双葉からこの件について何か知っているか、渉外に連絡が入りました。双葉でも同じ告知が出たようですね。


 そもそもコミューンを越えて周知が出るなんて、その時点でおかしいですが」


「森に一番近い葛葉だったら、何か知っていると思ったのだろうな」


「他のコミューンからも渉外に続々と情報提供を求める依頼が来ています。かなり広い地域に告知が出たようですね。まだ旧政府の応答はありません」


 リーダーが発信した告知だろうか。

 スクールに何かあったのかもしれない。


「広場に行ってみましょうか。何か分かるかもしれません」


「ある程度人数が集まってからでいいだろう。ちょっと見てみるよ。まだ10人ぐらいしか集まっていないようだ」


「提案が出ました。明日、臨時総会を開くかどうか。僕は承認しました」


「俺も承認した」


「渉外にはまだ何も情報が入ってきていません」


「応答は明日だな。明日になったら何か分かるかもしれないな」


「確かにここ1週間で線量が上昇していますからね」


「そのせいか最近みんなピリピリしている。生命値も全体的に急下降しているしな」


「はい。このことがなくても臨時総会が必要でしたね」


 端末が身体から収集した情報は、生命力を示す生命値という値で表示される。端末に触れると自動的に数値が表示される。


 ゲンジさんの生命値は最近かなり低下した。これ以上下がるとシステムが労働対象から外してしまうので、仕事に参加できなくなる。


 仕事に参加できなっても食料は提供されるが、コミューンに迷惑をかけたくない人は端末の自尊死機能を実行する。これまでもほとんどの人がそう選択している。


 自尊死機能を実行すると最初に大量の沈静信号を送り、睡眠状態となってから心臓の動きを停止させるのだ。ゲンジさんはもうすぐで危険水域に入りそうだ。


「まずは手分けして一斉に線量調査をして、総会はそれからのようですね」


「お前はスクールに行かされるかもしれないな」


「要請が出たら行きますよ。森番ですからね。前回の訪問から5ヶ月過ぎましたから、前倒しして行ってもいい頃です」


 実のところスクールが心配だ。

 今、スクールは無事だろうか。


「わざわざ危険なところに行くことはないんじゃないか」


「スクールの人達が答えを知っているかもしれないでしょう。みんなの為もあるけど、自分でも何が起こっているかを知りたいんです」


「代わりに俺が行ってもいいぞと言いたいところだが、正直俺じゃ無理だ。それを自分で分かっているだけえらいだろう」


 ゲンジさんが大笑いした。


「気持ちだけもらっておきます」


「俺は好き勝手に楽しく過ごさせてもらったからな。俺は俺で命の使い道を探すさ。そういえばお前は要に似ているよ。クソ真面目で、どこか甘っちょろいところがある」


「要に似ているなんて、はじめて言われました」


「あいつは俺の1つ下でな。不思議と気が合って、子供の頃からよく二人で遊んでいた。あいつは昆虫好きの悪ガキだった。


 でも成長して学校に通うと立派な男になった。旧政府に行かなければ、必ず将来の葛葉を背負って立つ男だと言われていたよ。当時はよく俺に甘っちょろい理想を語っていたものだ」


「要と仲がいいのは知っていましたが、子供の頃から仲がよかったのですね」


「今ではだいぶ差が開いてしまったけどな」


「要は葛葉に留まって、自分の理想を実現していったのですね」


「いいや、要となった時、あいつは自分の信念を変えざるを得なかった。学校の頃に語っていた甘っちょろい理想は実現できそうもなかったからだ。


 1番目の理想をかなえることができないなら、せめて2番目の理想を叶えようとしていた。最善ではなく、次善の理想を推し進めた。

 

 そのおかげで、俺が子供の頃に比べて葛葉はだいぶマシになったさ。


 あいつを中心にして、葛葉はどんどん良い方向へと発展していった。

 

 あいつは困っている人の手をとって、いつまでも話を聞いてあげていたよ。日々葛葉が良くなっていく実感がある、素晴らしい時代だった」


「今では総会でほとんど発言することがなくなりましたね」


「自分の発言の影響力が大きいことを知っているからな。それが分かっているからこそ、下手に話すことができないんだろう。


 俺からすると1番目の理想を封印したあたりからだんだんと無口になっていったような気がするがな。


 今は次世代を育てる為にあえて口出しをせず見守ろうとしている。いつまでも自分が口出しをしては次世代が育たないからな。

 

 たとえ今の世代が何か間違えたことをしでかしたとしても、自力で気づくよう願っているんだ」


「でも今でも存在感がすごいですね。要の発言1つで風向きが変わってしまいそうです。若い世代の間違いが分かっているなら、口出ししてくれてもいいと思いますけどね」


「自分がお前達より長生きできないことが分かっているから、未来のことについては口出しすべきではないと自分を抑えているんだろう。


 義理堅く頑固な男だ。

 でも甘っちょろい。

 俺はそういうあいつが大好きだ」


「そういえば要があきらめた1番目の理想って何だったんですか」


「ははっ。もう古い話だ。人々の自主性を尊重して、もう少しルールをゆるやかにする。ルールで人々を縛りつけない。


 その方が幸せになれるとな。ルールよりも人間を信じること、それがあいつの本心だ」

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