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ラストリゾート  作者: 水野たまり
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無感覚の男の子の話4

 彼は学校を卒業すると旅に出ました。


 無口な彼は二言三言話せば済む占い師の仕事をすることにしました。

 

 相手の話が終るまで黙って聞いて、最後にその人の心に刺さっている棘を抜いてあげるだけで、相談した人は晴れやかな表情で帰っていきました。


 彼は自分で指先に擦り傷をつくって、その指先で相手の首元に触れ棘を抜きました。抜いた棘は自分の心臓に刺して、心臓が一杯になると体の様々なところに刺しました。


 そんなある日、目が見えない赤ちゃんを抱いた母親が相談に来ました。


 彼女は切羽詰った様子で言いました。

「この子の目はいつ見えるようになるのでしょうか。お医者さんは体は悪くないと言っているのに」


 赤ちゃんは目を閉じていましたが、笑っていました。彼は不思議に思いました。何も見えていないのに、なぜ笑っているのだろうと。


 彼は赤ちゃんに触れて体を透視しましたが、赤ちゃんには棘が刺さっていませんでした。たぶん原因は違うところにあるはずです。


 彼は言いました。

「この子は大丈夫です。心配いりません。だってまだ見えていないけれど笑っているでしょう」


 今はまだもう少しだけ怖いのでしょう。

 もう少しだけ待ってあげてください。

 もうすぐ目を開けるようになります。


 目が見えない赤ちゃんが笑っているのだから、あなたも笑った方がいい」


 そう話しながら、彼の透過した手は赤ちゃんを通過してお母さんの心臓に手を伸ばし、刺さっている棘を抜きました。棘を抜くとお母さんのこわばっていた心がまた動き出しました。


 彼は多くの人の相談に乗って、旅を続けました。

 旅の先々で不吉な噂を聞きました。


 怪物が徘徊しているというのです。怪物は非常に大きく禍々しい姿をしていて、その怪物の影が世界を覆っているせいで、世界が病んでいるのだと。


 その頃彼は高名な占い師になっていました。

 

 ある村を訪れた時に森に怪物がいるのだと村人から聞きました。彼は怪物のところに連れて行ってもらうことにしました。


 案内人に連れられて彼は森の奥深くに行きました。そこには洞窟がありました。怪物はそこに棲んでいるそうです。

 

 彼は案内人に入り口で待っているように伝え、洞窟の中に入っていきました。


 怪物は洞窟の一番奥にいました。


 彼の持っている灯りで照らし出すと、一瞬人がうずくまっているように見えました。

 

 ただしその大きさは人の倍ぐらいありそうです。体からは黒い炎のようなものが揺らめいていました。


 彼は黒い皮膚の部分に見覚えがありました。

 彼の体にも同じように黒くなっている部分があったのです。


 彼は注意深く気配を読んで、察知しました。


 病んでいる。

 しかも死が近い。


 怪物の正体は、自分と同じように人々の棘を抜いてきた人間だったのだ。当然だろう。こんなに多くの棘を引き受けたら平気な訳がない。

 

 もう棘を体の中に抑え込んでおくことができなくなっているのだ。棘をなんとかしないといけない。


 指先で触れるだけではとても間に合いません。彼はその大きな塊を抱きしめました。

 

 抱きしめた瞬間に激痛が走りました。

 これまで感じたことのないぐらいの痛みです。


 彼は棘を自分の中に流入させました。しばらくすると黒い塊が小さくなり、その下にあるものが明らかになりました。


 その正体は小さな男の子でした。

 うずくまっていて、まだかすかに息をしています。


 なんということだ。こんな小さな男の子がこんなに多くの棘を引き受けていたなんて。これを抜かないと助からない。


 彼は少年の皮膚に刺さっている棘を抜こうとしました。しかしなかなか抜けません。


 彼は無理にでも抜こうと力いっぱい棘を引っ張ると、皮膚ごと棘が取れてしまいました。

 

 しかし剥がれた皮膚の下にも棘がびっしりと刺さっているのです。溶けた棘が体に溶け込んでしまっているのです。


 もう少年を助ける方法がない。

 もう何もしてあげられない。

 

 自分はなんと無力なのか。

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