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ラストリゾート  作者: 水野たまり
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無感覚の男の子の話1

 僕がスクールから帰った翌日、森に向かっている時にルカが言った。


「またお話を考えました。でもこの話は楽しい話ではありません」


「楽しくなくてもいいですよ」


「退屈な話かもしれません」


「退屈な話でもいいです」


「そして長い話です」


「つまり楽しくなくて、退屈で、長い話なんですね」


「その通りです。加えて難しい話でもあります」


「ルカの話ならどんな話でも聞きますよ」


「なつめさんなら、そう言ってくれると思っていました。でもとても大切なお話のような気がするので、あえてお話ししたいと思います」



 昔、ある村に神様が住んでいました。

 その村に住む人は神様と共に暮らしていたのです。


 そこに1組の夫婦がいました。奥さんは生まれつき体が弱く、お医者さんから出産は諦めた方がいいのではないかと言われていました。


 旦那さんは子供がいなくても2人で一緒にいられればそれでいいと言いましたが、彼女は赤ちゃんがほしいと強く望みました。


 彼女は薄々気づいていたのです。

 たとえ子供ができなくても自分は長生きできないことを。


 彼女が妊娠したと知った時、旦那さんは複雑な気持ちになりました。でも奥さんはとても幸せそうでした。

 

 その喜ぶ姿を見て、父親はどんな結末でも受け入れる覚悟を決めました。


 妊娠してから母親は何度も危険な状態に陥りました。お医者さんはこんな状態では奇跡でも起きない限り出産は無理だろうと言っていました。


 何度目かの山場を越えたある日、母親はお腹の赤ちゃんに話し掛けました。


「お母さんはあなたを産んであげられるか自信がないわ。


 でもあなたを身ごもったと知った時、私はとても嬉しかったの。あなたを産む為に、残りの人生すべてと引き換えにしてもいいぐらいにね。


 だからあなたの力も借りたい。産まれたいと強く思ってほしいの。引き換えに私の全てをあなたにあげるから。


 きっとあなたはこの世界でとても素晴らしいものを見つけられるわ。私はそう確信しているの」


 母親はもし出産の時に自分の命が危険な状態になっても、赤ちゃんの方を生かしてほしいとお願いしました。お医者さんと父親にも何度も何度もお願いをしました。


 ある日突然、陣痛が始まりました。

 急いで彼女はお医者さんのところに向かいました。


 大変な難産でしたが、ついに男の子が生まれました。しかし産んだ後、母親に生きる力は残っていませんでした。


 お医者さんは産まれたばかりの子を、死んだ母親の腕の中に入れて抱きしめさせました。


 母親はとても苦しんで死んだはずなのに、不思議と微笑んでいるように見えました。父親はその姿を見て、涙を流しながらも男の子の誕生を喜びました。


 その日は村全体にとっても悲しい出来事がありました。

 神様が亡くなったのです。


 男の子は神様が死んだ日、村が悲しみに包まれる中で生まれました。


 神様が死んでから村に次々と災難が襲いました。畑の野菜は動物たちに食い荒らされることが増えて、残った野菜も悪天候が続いて育ちませんでした。


 そこに狙いすましたかのように流行り病が襲いました。人々はまるでやせ細った枯れ木が朽ち果てるように力なく死んでいきました。


 神様が死んだ場所には黒く大きな石がありました。人々は死期が迫るとその石の元へと向かいました。


 自分が死んだ後、残された人々の幸せを祈る為です。人々はその石を抱きしめて神様に最後のお願い事をしました。


 人々は口々に言いました。

「死に臨む前に抱きしめるものがあるということは、なんと幸せなことか」


 最盛期にはとても活気があったこの村は寂れていきました。しかし誰もこの村を去ろうとしないのです。この村はかつて神様と一緒に住んでいた村だからです。

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