オリエさんとの会話3
出発するまでにオリエさんからも話を聞いておきたい。オリエさんは建物の修繕をしていたが、終ったようだ。
「オリエさん、朝はありがとうございました。
明日の早朝にスクールを発ちます。お世話になりました。屋根から見ると、前回とは全然違います。もう随分広くなりましたね」
「まあな。でも人が増えるし、もう少し開拓する予定だ」
「畑の用地も掘り起こされているし、すぐにでも女性達を呼び寄せられそうに見えますけどね」
「いや、まだだ。土地ももう少しほしいし、実際に作物が育つかどうか確かめておきたい。女達が畑に専念できるようにしておく必要がある」
「男性は狩り、女性は畑と役割分担をするのですか」
「役割分担というよりは、自然とそうなるんじゃないかと思っているだけだ。狩りは危険だ。命を落とすこともある。
仕留めたとしても動物の解体と加工も自分達でやるのがここのルールだ。あまりきれいな作業ではない。
そういうことを全部分かっていて、それでもやりたいというなら話は別だがな」
「女性が狩りをやりたいと言ったらどうしますか」
「やればいい。俺が狩りのやり方を教えてやる。実際狩りはいいものだ。
獲物を仕留めるといつも、自然に手を合わせたい気持ちになるよ。声をかけてやるんだ。しっかり食べてやるよって。いつか俺も命を終える時には一緒に土に還ろうってな。
動物と対峙した時の緊張感もいい。狩りに集中していると、今ここには2つの命しかなくて、他はすべて消えたように感じる。面倒なことを忘れられるんだ」
「ここに女性達が加わればもっと賑やかになりますね」
「それが一番の楽しみだ。合流を希望してくれればいいけどな。もし本人が今いるコミューンに残りたいなら無理強いをするつもりはないよ」
「もともと合流する約束ではなかったですか。こんなにがんばって準備をしているのに、強くは言えないんですか」
「言えないのではなく、言わないんだ。
スクールではみんなが自分のことを好きに決めてもいいのがルールだ。女達も例外ではないからな」
「確かリーダーが女性達と連絡をとっているそうですね」
「そうだ。今のところは来ると言っている女が多いそうだ。せっかく来てくれるのなら、失望させたくない。だからしっかり開拓しておきたい。
ここだったら幸せに暮らせる、子供を産んで育てたい、自然とそう思ってもらえるようにな。あまり待たせたくもない。
しかし同時に男達の負担も考えなければいけない。なるべく楽しく毎日を過ごしてもらいたいからな」
「考えることが多いのですね」
「いや、そうでもない。俺は自分の仕事をやるだけだ。難しいことはリーダーが考えてくれる。これまでそれでうまくいってきた。
俺には分かっているよ。多少試行錯誤はあっても時間が経てばうまくいっているだろうとな」
「今回更に開拓が進んでいるのを確認しました。私も今から次回の訪問が楽しみです」
「目標に向かって黙々とやっていれば、現実の方から尻尾を振ってきてくれる。そういうものだろう」
「私はスクールの人間ではありませんが、半分スクールの人間になったような気がしていますよ」
「もし俺達がうまくいったらの話だ。将来、お前もうちの人間になってみるか」
オリエさんがまっすぐ僕の瞳を見据えてきた。
しばらく沈黙が流れる。
答えようと口が動き出そうとした瞬間、オリエさんが笑った。
「冗談だよ。つまらない冗談だが、そう言われたことは覚えておいてくれ」
僕は何と答えようとしていたのだろう。
うなづきそうになったのかもしれない。
高い能力と岩のような体を持っている割には、慎み深いこの男に僕は自分の残り人生を預けてもいいと思ったのだろうか。




