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ラストリゾート  作者: 水野たまり
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リーダーとの会話4

 執務室のドアをノックすると、どうぞと声が聞こえてきた。


「今、お話をお伺いしてもよろしいでしょうか」


「かまいません。よく眠れましたか」


「はい。とてもよく眠れました。とても居心地が良いお部屋ですね」

 

「あそこはもともと道具をしまうスペースでしたが、あなたが来るというのでオリエが改装して客室にしたのです」


「良い香りもしていて、ベッドには彫り物の装飾まで施してありました。あれもオリエさんが手がけたものでしょうか」


「そうです。考えられるでしょうか。あのごつい手で小さなナイフだけを使って、あの細かな彫り物をしていたんです。


 オリエは建築、装飾どちらの分野でも元いたコミューンでも秀でていました。

 

 ここの建物はどれもふぞろいでしょう。それはそこに住む人の意見を聞いた上でオリエが指揮して立てたからです」


「それに腕っぷしも強いですしね」


「確かに喧嘩があるとオリエに仲裁してもらっています。でも腕力で解決することはほとんどありません。彼の場合、ただそこにいるだけで抑止力になりますからね」


「そういうあなたも昔は格闘技をやっていたそうですね」


「はい。オリエのようになりたいと思って格闘技を始めました」


「でもオリエさんではなく、あなたがリーダーになったのですね」


「実質リーダー格のオリエが私の下に入ると決めたので、自然とそうなりました。


 体を張った仕事は自分がやると言ってくれました。オリエは私に無理をさせない為に、私の下につくことを決めたのです。その頃既に私の体は悲鳴をあげていましたからね」


「だからいつも部屋でお仕事しているのですね。なぜ今も旧政府の仕事を続けているのですか」


「他のコミューンにいる女性たちと連絡をとる為に端末が必要だということと、汚染状況の調査、開拓の道具や種の入手など旧政府の力を借りることがあるからです。


 でももうそれも収束させていくつもりです。もう既に私の後任を育成するカリキュラムを作成し始めています」


「スクールに専念するのですね」


「これからもっと忙しくなります。1年後ぐらい先をめどに女性達を呼び寄せられるよう準備を進めています。


 人数が増える前に、もっと開拓をしなければいけませんし、もうすぐ試験的に農作業を開始する予定です。運営体制も少し変えなければいけなくなるでしょう」


「今後スクールはどのように変わるのでしょうか」


「いくつか事前に考えていることもありますが、その都度考えながら進めることになります」


「端末は使わないのですね」


「はい。なければないで済みますから」


「でも人数が増えるとルールづくりが必要になるのではないですか」


「必要最低限でルールを導入します。ルールをつくるから違反が起こるという側面もありますからね。それに守るべきルールが多すぎると、幸せを実感しにくくなると思いませんか」


「それに関して私は感覚が麻痺しているかもしれません。ルールが多いことは確かにストレスですが、それに慣れすぎていてストレスがないと逆に不安なぐらいです。


 これからスクールが変わっていくとしたら、はたして今の自由な雰囲気を維持できるでしょうか」


「今よりは自由を少しだけ制限することになるでしょう。


 女性たちが増えて、農作業を始めたら、ある程度の自立単位で集団行動する必要があります。但しなるべく柔軟に運用できる仕組みにしたいと思っています」


「現実的な軌道修正は行っても、大きな方向転換はしないということですね」


「私達が目指している方向性は今と同じですからね。


 コミューンではより良いコミューンになれば、そこにいる個人が幸せになるだろうと考えられていますよね。それもいいでしょう。


 確かに集団の規律を重視した方がいろいろと面倒ではありません。でもその方法ではコミューンの発展が必ずしも個人の幸せに繋がるとは限りません。


 私達はまず最初に個人の単位で幸せになれるようにと考えます。そしてそこから逆算して、どういう集団にすればいいか組織全体を設計しようとしています。


 集団を縛るルールを少なくすると、運用が難しくなります。リスクが高まることは事実です。

 

 ただ私達は失うものがないとは言いませんが、失うものが少ない。そういうリスクをとることができる立場です」


「そこがコミューンとスクールの違いですね。基本的にコミューンではリスクをとるという考え方自体しません」


「私達もやみくもにリスクをとるつもりはありません。


 個人が幸せになれないまま人生を終えてしまう、それ以上のリスクなどありません。だから必要なリスクは受け入れようとしているだけです」


「オリエさんも、あなたもそういう考え方をするのですね。自分が何を望んでいるか知っていて、そこに最短距離で進んでいこうとします」


「私達は幸せを追いかけることを、先延ばしすべきではありません。

 なぜなら私達の人生は短いからです。


 私たちは葛葉よりも汚染された土地に住んで、汚染された食料を食べています。おそらく寿命は葛葉よりも更に短いでしょう。

 

 しかし葛葉だって他のコミューンより寿命は短く早死にも多い。なつめさんはそれが不満ですか」


「不満ではありません」


「私達も同じです。でも短い人生でいいと受け入れると不思議と気が楽になります。先のことをあまり心配しなくて済みますからね。素直に今日生きることを楽しもうとする。


 水を両手ですくって飲もうとすると水がこぼれていきます。でもこぼれずに残った水は大切に飲み干そうとするものです」


「人生が短いのは仕方ない。だったらまっすぐ理想を追いかけたいというのですね」


「もちろん現実はきれいごとではありません。


 きれいごとや正しいことを言っているばかりでは、何も解決しません。理想を追いかけるということは、多かれ少なかれ現実と戦うということです」


「でも理想を現実にするには時間もかかるし、試行錯誤も多くなるでしょう」


「もとからそのつもりです。私は未来の為の捨石でかまいません。


 私の考えが正しいとは限りませんし、間違えているところは後で否定してくれていい。それを踏まえて次の世代がより良い場所をつくればいいと思っています。


 幸い私にはオリエもいてくれます。2人でならばもう少し先まで進めるような気がしています」


「あなたは綿密に計画を立てて実行するタイプだと思っていました。悪い意味で言っているのではありません」


「現実は予想を超えて起こるものです。もしうまくいかなければ、そこで再び考えればいい。

 

 心配事を探すのはとても簡単だから、飛びつきたくなるのも分かります。でもあまり心配しすぎると副作用に苦しむことになります。


 人は心配しすぎることで、本当に死ぬまでの間、何度も死ぬものです。


 未来を楽観すること。

 人に寛容であること。

 

 そういうことが大切だと思っています」

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