カノコの旅立ち
カノコが旅立つ日になった。もうすぐ空輸機が届くようだ。仕事を中断して見送りをする為、大勢の人が集まってきた。
突然、カノコが僕に話したいことがあると言ってきたので、少し離れた場所に移動した。
「お願い、彼女を守ってあげて。
彼女は自分の価値を分かっていないから、簡単に自分の命を捨ててしまえるの。
何があっても彼女を失ってはだめ。
私はまだ若すぎるけれど、これだけは分かる。人には絶対に失ってはいけないものと失っていいものがあって、彼女は絶対に失ってはいけない存在なの」
「僕もそう思っているよ」
「私達のような人間は彼女のつくりだす世界で生きるしかないの。それ以外の世界では息をするだけで辛いの。自分に魔法でもかけない限り生きていけそうもないぐらい。
分かるでしょう。私もだけど、あなたにとってはもっとそうだから。
彼女はあなたを守ろうとしているの。あなたを守る為に物語を紡ぎそうとしているの。それを分かってあげて」
「教えてくれて、ありがとう。ルカのことをもっと理解できるように努力するよ」
「もし彼女を失えば、あなたはむき出しの状態でこの世界を生きていかなければいけなくなる。私はこれから彼女なしで生きていくつもり。簡単ではないけれど」
「カノコもルカも僕も葛葉で同じ時を過ごして、最後に楽しい思い出を共有することができた。僕はそれには何かしら意味があるように思う。
もしもこれから何か辛いことがあったら、ルカや美味しい魚や美しい海を思い出してほしい。何かあったら楽しい思い出がカノコを支えてくれると思う」
「ばかみたい」
「カノコがいなくなると、とても寂しくなる。でも幸運を祈っているよ」
「本当にばかみたい。
でもクズで偽善者でまぬけぞろいの大人の中で、あなたはなかなか悪くはなかったわよ。
思い出をありがとう。それではごきげんよう」
カノコは笑顔で立ち去った。
こちらもつられて笑顔を取り繕った。
その後カノコはルカと2人で話していたようだ。
最後は子供達にもみくちゃにされながら空輸機に乗って葛葉を離れた。




