美しい海
カノコに魚を食べさせる為に川に釣りに行った。
釣り上げた魚を念入りに洗ってからうろこを落とし、内臓を取った。内臓を取った中を洗ってから薬味をすり込む。
それから波打つように枝に刺してから大きめの焚き火を起こした。表面に荒塩をふりかけて、少し火から離して焼いた。
魚を焼き始めてからルカとカノコを呼んだ。
カノコが声を上げる。
「魚、魚、魚」
「川で釣ってきたんだ。そこに座ってて」
「いつも魚ってほとんど煮物で出てくるから、焼き魚は珍しいね」
「全員の分を焼くのは大変だし、意外と焼くのも難しいしね。もう少しで焼けるよ」
ルカが言った。
「カノコ、塩加減はどうする」
「塩多めがいいな」
カノコの魚を外してひとつまみ塩を足した。表面がかりっと焼きあがったことを確認してからカノコに渡した。
こうやって食べるといいよ。ルカが自分の魚を取って、カノコに食べてみせた。カノコは言われた通りに魚にかぶりつくと、その瞬間に大きく目を見開いた。
「なつめくんは、森番じゃなく川番になったらいいよ」
「おほめいただきまして、ありがとうございます」
「旧政府に行っても、この美味しい魚のことは覚えておくことにするわ」
「それを釣ってきて焼いた僕のことも記憶の片隅でいいので、覚えておいてほしいな」
「え~。どうだろう~」
カノコがおどけて言った。
「なつめさん、覚えておいてほしいアピールですかあ」
ルカも合わせるように言った。
「わかりました。僕のことはどうぞお忘れください。これでいいですか」
「忘れようとしても思い出せない」
カノコが笑顔で言った。
「思い出そうとしても覚えられない」
ルカも続いた。
「なんですか、僕を使って遊ばないでください。2人とも息がぴったりすぎじゃないですか。なんだか悪ガキが2人になったみたいだなあ」
カノコが言った。
「いえ、普通の会話です。しかし海は海でも中央広場から見える海と全然違うね」
「あれは漁をするのに適した形に地形を変えているからね。生きていく為に実用な海であって、美しさは二の次だよ」
「ここは何をするのでもない海。私たちが楽しむだけの場所」
彼女が言った。
カノコが鼻歌を歌い出した。
歌声は空に吸い込まれていった。
食べ終わるとカノコがルカの端末を使って写真を取りたいと言い出した。
ルカが撮影用ホログラムを出して調整している間、改めてカノコがコミューンを去るのだという事実を思い出した。
美しい海を背景に撮影された写真の真ん中にはカノコがいて、両端に僕とルカがいた。満面の笑顔の2人、そして対照的にこわばった顔の僕が映っていた。
カノコは自分が食べた魚の頭と骨を手に持っていた。




