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ラストリゾート  作者: 水野たまり
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カノコとの最後の休日

 5日後にカノコが旧政府に旅立つことになった。


 ルカはカノコと仲がいい。僕がゲンジさんのところに将棋をしてから泊まる時や、スクールに行っている時にはいつもカノコのところに泊まっているようだ。


 食事の時にルカの周りをくるくる回るように歩いているカノコを見たことがある。そんな風に大人に懐くカノコは見たことがない。


 カノコが学校に来るようになった背景にルカの存在があったことは想像に難くない。


 ルカの提案で葛葉で過ごす最後の休日にカノコを海に連れて行くことになった。前日の夜にカノコを迎えに行き、その夜はルカのところに泊まってもらった。


 当日、僕はルカの家に2人を迎えに行った。


 空がいつもより高く感じられる。つき抜けたような青空だ。いつものように森に沿ってできた道を歩いた。カノコはルカとおそろいの服を着ていてご機嫌が良さそうだ。


 枝や木の葉の間から光が差し込んで空気中の粒子を照らし出している。やわらかな風が木の葉を揺らすと粒子を乱反射させている。


 きらめく光の粒子に包まれながら僕たちは海へ向かった。


 森が途切れてからはなだらかな坂になる。上りきると一気に視界が広がった。今日は海も穏やかな表情を見せている。


 一面の砂浜を見て、カノコが歓声を上げた。


 カノコは奇声をあげて海へと突進して行った。

 

 波打ち際を走って跳び、波を蹴っ飛ばし、ごろごろと転げまわった。カノコが水しぶきに包まれる。


 ルカはしばらく笑いながらカノコの喜びようを眺めていたが、その後海辺でいつものようにダンスを開始した。


 カノコはそれを見つけるとそばに駆け寄って、ルカの動きを真似てダンスを始めた。カノコにも教えていたのだろう。


 最初はうまく合わせられないようだった。彼女の動きは流れるようななめらかな動きをしたかと思えば、急激なターンをし、跳躍から小刻みなステップに移行した。


 それから体全体をうねるような動きをし始めた。手足を様々な方向に伸ばし、体を湾曲させる。柔軟性が必要とされる動きだ。


 そうかと思えば高く跳躍し、ぴたりと着地し静止する。あまりに自由奔放な動きなので、動きを合わせるのが難しいだろう。


 まるでこういう動きもあるよとカノコに教えているかのようだ。


 カノコはぎこちなく、しかし一所懸命に彼女の動きを追っていたが、砂場が不安定なせいか何度も転んでしまっていた。


 しかしその都度立ち上がり、見たことがない真剣な表情でルカの動きにくらいつこうとしていた。次第に動きに合わせることにできるようになった。


 すると彼女が急に動きを止めた。カノコも一瞬動きを止めそうになった瞬間、彼女が「続けて」と言った。


 カノコは目を閉じて、深呼吸をした。それからゆっくりと動きを再開した。


 最初のうちこそ、彼女の動きをなぞるような感じだったが、次第に側転をしたりなど野生的なカノコならではの動きが出始めてきた。

 

 最後にしなやかに手を広げて、ゆっくりと1回転した後に静止した。


 すると名伏し難い感情がこみ上げて来た。いつか時間がたてばこの夏の思い出も消え去ってしまうのだ。この瞬間を止めておくことはできない。


「なにボーっとしているの」

 僕を見てカノコが言った。


「こんなに上手に踊れると思っていなかったよ」


「まあそうね。まあまあかな」


 ルカが言った。

「筋トレと柔軟、ちゃんとやっていたみたいね」


「うん。でもまだまだ足りない。だって転んだからね」


「いい、転ぶことを恐れないこと。まだ体がイメージに付いていっていないけど、イメージはとてもいいよ」


「まるで自分が自分じゃなかったみたいだった」


「じゃあ体が今の感覚を忘れないうちに、もう少しやってみようか」


「うん」

 カノコが答えると走っていって、また踊りだした。

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