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ラストリゾート  作者: 水野たまり
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リーダーとの会話1

 食料庫 に向かう通路の脇にいつもリーダーがいる執務室がある。

 ノックをしてみた。


「どうぞ」


「もうそろそろ私は葛葉に戻らなければいけません。明日の朝に旅立つ予定です。戻る前にお話をお伺いしたいのですが、今、お時間を頂いてもよろしいでしょうか」


「問題ありません。最初にあなたの感想を聞かせてください。実際に滞在してみてスクールはあなたにとってどういう場所でしたか」


「大変素晴らしい運営をされていると思います。個人がそれぞれ自由に振る舞いながら、不思議と全体がうまく機能しています。


 ルールがないことを不安視していましたが、現状で問題があるようには見えません。葛葉が見習いたいようなことも沢山見つかりました」


「ありがとうございます。まだ過渡期ですが、今のところは順調に進んでいると思っています」


「早速ですが、どのようにしてこのような風土の集団が生まれたのか、興味を持ちました。スクールの生まれたいきさつから教えていただけませんか」


「元々は西の3つのコミューンがスクールの母体となっています。


 山側にあるコミューンは昔、海側にあるコミューンから喧嘩別れして出来た経緯があって、元の海側とは良好な関係といえませんでした。


 しかし海側にあるもう1つのコミューンに強い発言権を持つ人間が出現したことによって、海側の2つのコミューン同士もぎくしゃくし始めました。

 

 3つのコミューンは隣接していたにも関わらず、友好な関係とはいえませんでした。


 スクールの母体はいがみあっている3つのコミューンの中間に設けられた隔離所から始まりました。私達について語るには、まずこの避難所の存在からお話しなければいけません」


「隔離所とは何を隔離する場所ですか」


「伝染病にかかった人がコミューンを離れて暮らす場所でした。その地域では当時、伝染病が流行していました。


 そこで隔離所を設置して、3つのコミューンが共同で運営管理することになったのです。隔離所は収容された人が自分達でつくった柵で覆われています


 ある程度年齢がいった人は死を選ぶことが多い為、そこに入る人は死を選ぶにはまだ若すぎる人が行く傾向にありました。このまま死なせるには忍びないという訳です」


「食料はどうしていたのですか」


「出身母体のコミューンから運ばれて来ました。点呼をとって存在を確認できなくなれば、その人の食料は運ばれなくなります」


「食料を運べるとは、比較的近い距離なのですね」


「元々狭い範囲に3つのコミューンがあって、その更に中間地点に隔離所が設けられました。充分離れているとは言いがたい距離です」


「3つのコミューンから入ったとしたら端末の通信範囲はどうなるのでしょうか。


 違うコミューンの端末が混在して通信範囲が重なり合っている場合、自分のコミューンだけの通信ができるものでしょうか」


「通信範囲は重なってもコミューン単位の通信となるので問題ありませんでしたが、端末は隔離所には持ち込めない決まりがありました。入り口の管理所で預けなければいけません」


「気の毒ですね。葛葉ではたとえ病気でも端末は取り外しません。端末からの信号によって痛みを緩和できますからね」


「仰る通りです。しかし悪いことばかりではありませんでした。


 隔離所には違うコミューンから人が集められましたが、端末を外すことで出身コミューンの垣根を越えた独特の文化が醸成されました。


 労働しなくても良くなる代わりに自由に行動する時間を得ることができました。また短い命になるかもしれないという思いが、彼らを駆り立てました。


 格闘技をしたり、彫刻をしたり、舞踊をしたり、何かにとりつかれたかのように自分のやりたいことに没頭する場所となりました。

 

 没頭するものを特に持たない者もコミューンとは違う開放的な空気を楽しんでいました。


 そうしている間に伝染病が収束して、隔離所を引き払うことになりました。コミューンとしても労働力として戻ってきてほしかったのです」


「その時あなたはどこにいたのですか」


「旧政府から戻ったばかりでした。私は旧政府の仕事に意味が見出せなくなり、出身コミューンに戻っていました。


 その当時私がいたコミューンはあまり良い状態とはいえませんでした。より潔癖な価値感を持つ人が発言権を強めていたからです。


 隔離所から戻った人は、休日になると息がつまるコミューンから抜け出して、隔離所にまた集まりだしました。すると隔離所に入っていなかった人もそこに集まるようになりました。


 自主的に運営し、端末はこれまで通り入り口で預けることにしていました。もし中で端末を壊したりしたら、隔離所に集まること自体を規制されてしまうからです」


「それがスクールのはじまりですね」


「そうです。私も休日には必ず行っていました。


 日常生活を忘れて自分のやりたいことに没頭できる場所です。私は最初、芸術グループに属し、その後格闘技を学びました。


 我々を眉をひそめて見ている人もいましたが、それで動じることはありませんでした。

 

 仕事もちゃんとやっているし、コミューン運営上で迷惑をかけている訳でもありません。休日にただの空き地となった隔離所で息抜きしていただけです」


「休日の過ごし方は本来自由なはずです」


「その通りですが、彼らの価値感での好ましい休日の過ごし方というものがありました。


 潔癖すぎる価値感を持つ人はその価値感で自分だけでなく、他人をも縛ろうとします。そして自分達が正しいと思いすぎる為に、次第に歯止めが聞かなくなります。


 他人が自分とは違う価値感を持っているかもしれないという当たり前のことを認めようとしないから、相手のことをほんの少しも理解できなくなってしまうものです。

 

 しまいには理解できない相手を怪物のように思ってしまいます」


「分かる気がします」


「そうしたある日、彼らは思い切った行動に移します。


 あるコミューンが要の指示で隔離所入り口に預けた端末を 無断で全て持ち去ってしまいました。同日に臨時総会を開いて隔離所にいた人の受け入れ拒否を決めてしまいました。


 驚いたのは他の2つのコミューンです。


 端末がないまま帰ってきても困ると隔離所に伝令を派遣しました。

 

 行き場のない隔離所の人間全員が押し寄せて来るのではないかと恐れたのです。自コミューンの人間だけ受け入れようにも端末がありません。


 一方持ち去ったコミューンは新たに端末の持ち主となる人達を他から受け入れてしまいました。すばやい動きでしたから、前から水面下で進めていたのでしょう。


 そうして我々は帰る場所を失ってしまったのです」

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