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ラストリゾート  作者: 水野たまり
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接触

 森に入って3日が過ぎたあたりから、かすかに人が入った形跡が見つかるようになった。


 不自然に削られた木や罠をしかけた跡がある。生活道を探したが見つからないことから、まだ少し距離があるだろう。


 まだ生活圏ではないのだろうが、行動圏内に入っていることに疑いはない。

 

 昼に動くのは危険すぎるので、夜に移動にすることにしよう。足跡にも気をつけないといけないので、歩きにくくなるが平靴に履き替えよう。


 痕跡から少し離れたところで寝袋に入って夜まで仮眠をとることにした。空を見上げると、枝の間から空が見える。


 強風で雲が流されている。


 イサクからこの調査の話があった時に、なぜ迷わず行くと即決したのだろうか。とても危険な調査だと分かっていたはずなのに。


 これまで僕は自分の周りに円を描き、その外へは決して出ようとしないところがあった。

 

 選抜組にいても旧政府には行きたくなかった。森のそばで暮らしたいのも、1人で平穏に過ごしたかったからだ。


 何もほしくない。

 

 もし何かほしいものが見つかったとしても、それはきっと手に入らないものだ。何も得られないのないなら、今あるものを失わないようにしたい。


 うれしくも悲しくもいたくない。

 死ぬまでずっと心が静かな状態でいられればそれでいい。

 できれば空気を同化するぐらいに希薄になりたい。


 昔はそう思っていた。

 

 しかし今、僕は何を確かめようとしているのだろうか。安全でいられる場所から遠く離れて。何が待ち受けているか分からないというのに。


 夜になってから月明かりを頼りに歩き始めた。しばらく歩くと生活道が見つかった。おうすぐ空が明るくなるだろう。


 生活道をしばらく歩くと、開けた土地が出てきた。予想した通り海に近いところを切り開いて定住したようだ。


 草むらに隠れて観察することにしよう。

 

 広場があって、組み木で作られた床の高い建物がいくつもある。建物は形と大きさもふぞろいで、中には壁に絵が描いてあるものもある。


 中央にひときわ大きな建物が見える。


 ここから見えるのは6人だが、建物の数からするともっと多いだろう。

 

 やはり一旦退避して深夜になったら定点監視する為の隠れ場所をつくろう。実際に接触するかどうかは観察した結果で判断すればいい。


 広場の真ん中にある大きな建物から山のような大男が出てきた。まっすぐこちらの方に近づいてくる。


 ここにいるのを気づかれたのか。いやまさか。草陰に隠れているので見つかっていないはずだ。


 その間も大男は森に入ってくる。距離を詰めてくる。足取りに全く迷いがない。どうやら気づかれたようだ。


「そこにいるのは分かっている。

 捕まえてもいいが、お前の名誉を尊重したい。自分から出て来てもらいたい」


 ここは出て行くしかないようだ。


「隣の葛葉というコミューンから来た者です。敵意はありません」


「ここまでどのぐらいかかったんだ」


「葛葉を出発してほぼ4日です」


「はじめてならまあまあだな。怖がることはない。よく来てくれた。これから俺達のリーダーに会ってもらうつもりだ」


 大男が僕の手首をつかんで歩き出した。

 一瞬、逃げるかどうか脳裏を過ぎった。


 握る力はそれほど強くはないが、任務を遂行しようとする固い意志が伝わってくる。観念するしかなさそうだ。友好的な人達であることを祈るしかない。


「連れてきたぞ。葛葉の男だ」


「ご苦労様」

 答えた男は細身で柔和な顔立ちの男だった。

 しかし顔には多くの傷がある。


「心待ちにしていました。丁重にお迎えするつもりです」


「私は葛葉の人間で、なつめといいます」


「私はこの集団のリーダーをしているアンジェと言います。彼はオリエといって、私の補佐をしてくれています。


 来た理由は察しがつきます。我々の存在に気づき、調査しに来たのでしょう」


「先に聞きたいことがあります。なぜ私が隠れていた場所を特定できたのですか」


「あなたは端末をつけていますからね」


「所属コミューンの通信範囲を離れると端末の電源が落ちるようになっているはずです。現に今も電源が入っていません」


「電源が入っていないように見えますが普段とは違う周波数で位置情報だけ発信しています。旧政府が各コミューンの活動範囲を正確に把握する為の機能です。


 コミューンに開放されている機能ではありませんから知らなくて当然ですが、私が持っている端末は特殊な仕様の機種なので、その電波を拾うことができます」


「確かに私は隣接コミューンができたという情報を確かめに来ました」


「我々が自分達にとってどのような存在か、もしくはどのような存在になりうるか、場所、規模などをあなたは帰ってから葛葉の人に説明するというわけですね」


「それについては、ご理解頂くしかありません。隣接コミューンについては、何も知らないでは済まされないものです」


「コミューンとは旧政府の端末によって定義されている自治の仕組みのことですよね。


 私達はコミューンとは違うという意味で、ここをスクールと呼んでいます。そもそも私は持っていますが、他の皆は端末を持っていません」


「コミューンとは違うとはどういうことでしょうか」


「言葉で説明しても分かったつもりになるだけです。私の言葉よりも、あなたは自分の目で見て判断すべきです。


 もしよろしければ明日から何人かスクールの人間を付けます。一緒に行動してここがどういう場所か自分で判断してください」


「お気遣いありがとうございます。願ってもないことです」


「どのぐらい滞在できますか」


「体を休めるのと調査とで、できれば2日程度いられると助かります」


「少し余裕があった方がいいでしょう。もう1日増やして3日ではいかがでしょうか。4日目に出発すればいい。滞在中の食料は全てこちらでご用意致します」


「お邪魔だとは思いますが、その方が助かります」


「後で朝礼がありますから、そこで皆に紹介しましょう。それまで体を休めた方がいいでしょう。用事がある時はいつ来ていただいてもかまいません。またお会いしましょう」

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