森の異変
仕事が終った後にイサクから話しがあるとのメッセージがあった。待ち合わせ場所は広場ではなく、海辺を指定された。
イサクは人懐こい男だ。
大勢人がいると自然とその中心に収まってしまう。
僕とは同い年で、共に選抜組にいたがどちらも旧政府に行けずに葛葉に留まった。イサクとはその時からの腐れ縁で、不思議と気が合う。
コミューンでは、柱と呼ばれる人が何人かいる。柱とは周囲の人間におよぼす影響が大きい人のことを指す言葉だ。イサクも柱と呼ばれている内の1人だ。
柱の中でももっとも重要な人間を要と呼ぶが、今は保守派の重鎮がそう呼ばれている。
柱や要は地位や役職ではない。その人の影響力の大きさを示す呼び名だ。
将来はイサクが要と呼ばれると見る人も多い。他の柱に比べても実績が著しいからだ。イサクが関係している議案はこれまで全て総会で通っている。
但しイサクが直接発議することは多くない。イサクの賛同が得られると他の柱に根回しをしたりなど、支援に回ることが多い。
つまり意見を広く集め、自分が賛成する意見については裏方として影響力を行使するのだ。イサクが関わった案件は発議者が違ってもイサク案件と呼ばれている。
僕が森番をやっていられるのも、それがイサク案件だったからだ。
森番、川番、海番、倉庫番の4つがあり、それぞれ持ち回りでその役割を行っている。これらの番制度は仕事とは区別される。交代制の見張り番だ。
森番は葛葉の中央から遠く、森までの道中も危険な為、昔から不人気だった。今は僕が立候補して固定されている。その分川番などは免除してもらっている。
但しいくら仕事ではないと言っても、コミューンの思想上では皆が同じ役割を平等に担うことが望ましいとされているので、快く思っていない人もいるかもしれない。
そういう不満を表面化させない為に総会で時々森の植樹の様子を定期的に報告したり、建設用木材を森から持ってきたりなど、こまめにアピールをするようにイサクからアドバイスを受けている。
「元気そうだな」
イサクが人懐こい笑顔で近寄ってきた。
「こんな場所に呼び出して、まさか世間話ではないだろう」
「もちろんそうだ。じゃあ前置きは不要だな。最近森の様子はどうだ。
言っておくが、これは単なる世間話ではないぞ」
「森の様子って、何も変わらないよ。
もう少しすると木の実狩りの時期だから、そろそろ生育調査をしておこうと思っている」
「やはりお前もまだ知らないようだな。場所は特定できていないが、森の中にコミューンが出現したそうだ」
「確かな情報か」
「ほぼ間違いない。移動の経路も判明しているからな。ただ森に入ってからは追跡できていない」
「森の中を開拓したってことか。誰から聞いたんだ」
「それは勘弁してくれ。しかし他のコミューンからの情報とだけ言っておく。西のコミューンが分裂して、その分派が森に定住したらしい」
「なぜ分裂したんだろう」
「詳しいことは俺にも分からない。情報をくれた人も知らないそうだ」
「森の中にできたとなると、葛葉の隣接コミューンということになるな」
「そうだ。本来は隣接コミューンとは交流して、お互い危険でない関係にする必要がある。
しかし今回は素性の知れない相手だ。相手のことも知らないのに、交流するともしないとも判断はできない。どちらにしても何も知らずに放置はできないということだ」
「俺に調査しに行けということか」
「俺とお前と2人でと考えてる。危険な仕事だからな。
森番をしているお前とだったら総会でも承認を得られやすい」
「お前は残ればいい。僕だけで行くから」
「1人でか」
「そうだ。森には森の歩き方がある。慣れていないと疲れやすい。それにあの森に入ると方向感覚が狂う。何せ昔は魔物が棲む森と言われていたんだ」
「気を遣わなくていいぞ」
「穏やかな連中じゃない可能性もあるんだろう。2人より1人の方が行動しやすいし、見つかりにくい。現実的な考え方をしているだけだよ」
「今すぐ決めなくていい。次の総会までまだあるからな。そこでしばらくお前を労働計画から外してもらうようにするから」
「そこでこの件を皆に知らせるのか」
「いやまだだ。いたずらに心配させる必要はない」
「どうやって労働計画から外してもらうんだ」
「以前お前は森の中に川が流れている場所があると言っていたな。予備農地の調査とでも言っておくつもりだ。その調査をしていたらその連中を見つけたと言えばいい」
「2つ条件がある。まず調査の期間を特に決めないでおいてもらいたい。
森のそばで暮らしている僕が気づかないぐらいだから、相当奥地だろう。
しかも見つかるリスクを考えると期限を気にして行動したくない。もちろんいたずらに時間をかけるつもりはないけどね」
「問題ない。もう1つは」
「ルカにだけはこの件を伝えておきたい。森には彼女も住んでいる。もちろん口外しないようにお願いするつもりだよ」
「それも問題ない。こちらからも要望がある。危険を感じたら、調査は中止してもらいたい。安全を第一に考えてくれ」




