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ラストリゾート  作者: 水野たまり
19/63

映画嫌いの男の話 前編

「僕の研究している旧世界を舞台にして、何かお話が思いつきませんか」


「分かりました。少々お待ちください」

 ルカが考え始めた。


「ところでなつめさんはアーカイブで映画を見たことがありますか」


「何度かあります。でも研究の資料として見ているせいか、面白いと思ったことはありませんね。ルカは映画を見たことがありますか」


「あります。私は映画が好きですよ。ストーリーはよく分からなかったですけれど」


「ひょっとしてこのよく分からない会話は、話を考える時間をかせいでいるのでしょうか」


「その通りです。おかげ様で、話が決まりました。


 この話はなつめさんのようにひねくれていて、映画が好きではない人に為にお話しします」


 昔、あるところに映画館に通うことを日課にしていた少年がいました。


 彼は周囲から映画好きと言われていましたが、自分では違うと思っていました。

 

 確かに毎日のように映画館に通ってはいましたが、好きな映画どころか少しでもいいと思える映画すら見つられずにいたからです。


 彼は映画館に通いながら成長しました。大人になるとより一層映画好きと言われるのを嫌がり、彼は周囲の人にこう言いました。

 

「映画なんて好きじゃない」


 ある時彼は友人にこう言われました。


「もしつまらないと確信したら僕なら映画館を出るよ。そうすれば時間を無駄にせずに済むからね」


 確かにその通りだと思いました。


彼はつぶやきました。

「つまらない映画でもなぜ最後まで映画館を出ようとしないのだろう」


 しばらくしてから彼は実際に映画館を出られることを見せて証明すればいいというシンプルな結論にたどり着きました。


 彼は思いました。

「問題は映画館を出るタイミングだ。つまらない映画は最初の10秒以内で見抜いてみせる。10秒で映画館を出て行ったら、皆はさぞかし驚くだろう。


 いっそのこと映画館に入って映画のタイトルが出た瞬間に出て行ってやろうか。そうすれば誰も俺のことを映画が好きなんて言わなくなるだろう」


 しかし彼はそうすることができませんでした。


 彼はエンドロールが終るまで、いや終ってもしばらく肘掛けを握りしめ、まるで座席にしがみついているようにさえ見えました。


 それから随分と年月が過ぎて、彼は年老いていきました。


 友達もいません。興味を持っていることもありません。彼は時の流れに怯え、何も気づかぬよう息をひそめて暮らしていました。


 そんなある日、映画館を出た時に遠くから調子はずれの音楽が聞こえてきました。その瞬間彼の中で何かスイッチが入ったような感じがしました。


 彼はつぶやきました。

「まるでこの空っぽな自分の人生にふさわしい音楽だな」


 そうすると今度は遠くから大きな笑い声が聞こえて来ました。

 彼の胸は締め付けられました。


 遠くから聞こえてくる音楽や笑い声はなぜこんなにも切なく胸に響くのか。自分がこうして独り言をつぶやいている間にも、世の中は他人が出す音で満ち溢れているのだ。


 しかし音楽が流れていると、自分の人生が映画になったみたいに思えるな。こんなつまらない映画でも音楽が流れてくれるのはありがたい。


 子供の頃は映画を見て映画に詳しくなれば人生への理解が深まり、人間的にも成長できるのではないか、そう思っていた。しかしそんな夢から覚めてもうずいぶん経つ。


 笑顔も涙も、恋愛も冒険もすべては映画の中にしかない。

 

 俺は自分が恋愛に縁がないことを確認する為に恋愛映画を見て、笑いを理解するセンスがないことを確認するためにコメディ映画を見ているのだ。


 映画館を出ても、違うストーリーに回収されるだけだ。映画が終って映画館を出ても、待っているのはもっとつまらない自分の人生ということか。


 どんなつまらない映画も自分の人生よりもまだましということだろう。


 子供の頃はサンタクロースを信じていた。

 

 いつの間にかサンタクロースを信じなくなって久しい。でも今はきっと子供の頃とは違うサンタクロースを信じているのだろう。


 きっと今信じているサンタクロースは、子供の頃のものよりつまらないものに違いない。


 俺は何を探し求めているのだ。

 答えがほしい。

 他には何もいらない。

 この命もくれてやる。

 俺の命じゃ不足というのか。

 俺はこのままみっともなく生きろというのか。

 

 傷つき癒されず放置されたこの心はどこに向かえばいいのだ。

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