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ラストリゾート  作者: 水野たまり
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ルカの生い立ち

 休日の夜はルカの家で過ごすようになった。


 組み登録をしたので形の上では人口計画に参加しているが、ルカと話して避妊することにしていた。


 行為が終るとそろそろ明日に備えて自分の家に帰らなければいけない。いつも少し話をしてから、自分の家に戻ることにしている。


「そういえばいつも話してくれるお話はいつぐらいから考えるようになったのですか」


「とても幼い頃です。当時私は葛葉から遠く離れた山のふもとにあるコミューンで、母親と暮らしていました。


 母親はとても無口な人だったので、一緒にいてもお話を考える時間はいくらでもあったんです」


「お母さんは昼、仕事がありますよね。子供も学校があるはずです。夜に考えていたのですか」


「昼も仕事をしている母親のそばにいました。私は特例で学校に通うことを免除されていたんです。


 母親からは話せないないふりをするように言われていました。また母親は私が精神を病んでいると周囲の人に言っていました。

 

 私は母親からいつも一緒に行動するように言われていて、人前では母親とも話すことを禁じられていました」


「勉強はどうしたんですか」


「夜に端末を使って1人で学習していました」


「学校に行って同年代の子供と遊びたくなりませんでしたか」


「後から振り返ると学校に行ってみたかったと思いましたが、当時は行きたいとは思いませんでした。


 母親は事あるごとに私にそう言い聞かせていましたから。

 この世は本当は恐ろしいところだと」


「当時はそうするしかなかったのですね」


「頭がおかしいふりをしていたので、ひどいことを言われたり、からかわれたり、いたずらされたりもしたけれど、慣れるとそれほど辛くはありません。


 ただ1つ、母親から言うことをきかないと整理屋がやって来ると言われると、本当に怖かった記憶があります」


「整理されてしまうと思ったのですか」


「その通りです。整理屋のターゲットになりやすいのは素行に問題ある人とか働けないのに死を選ぶことができない人です。つまりコミューンにとって有益ではない人が狙われやすい。


 当時の私みたいな存在は整理屋の格好のターゲットですよね。私は頭のおかしいふりをしたまま死にたくないと怯えていたんです」


「なぜ母親はそういうことをしたのでしょう」


「わかりません。世間的には子供を守ることに一生懸命な母親だと思われていたと思います。実際、母親は母親で必死に生きようとしていました。


 いつも子供を連れているのも整理屋に狙われない為だと周囲には説明していました」


「母親の行動には矛盾がありますね。自分の子供のことを愛しているのなら、学校に行かせてみんなと楽しく遊ばせるでしょう。


 整理屋に狙われかねない演技をさせておいて、しかし同時に守ろうだなんて」


「不思議に思われるかもしれませんが母親は整理屋に私が殺されることを本気で心配していました。


 母親の愛情に不純物が多く含まれていることに私は気づいていましたが、幼い頃の私にとって、しがみつくところはそこしかありませんでした。


 ただ私は時々息苦しくなることがありました」


「だからいろいろなお話を考えるようになったのですね」


「その通りです。自然と私は物語を考えるようになりました。


 空想の世界にいる限り、私は誰よりも自由でしたから。そう思いさえすれば、空も飛べそうなぐらいでした」


「確かに現実的なことに邪魔されない環境かもしれないでしょうね」


「その通りです。私は空想に熱中していました。いつからか自分のことすら他人事のように考えるようになりました。


 そこに私はいない。


 魔法の言葉です。

 心の中でそう呟くと痛みを感じなくなります。


 そうすれば石をぶつけられてもなんとも感じなくなります。石をぶつける人にそこに私はいないよって教えてあげたくなるぐらいでした」


「でも今はもう母親はいないのですね」


「ある日朝に母親が冷たくなっていました。


 私は人を呼んで知らせようとしましたが、その時ですら言葉を話せないふりを続けていました。

 

 話せないふりのウッウッっていう、いつもの演技をしていたんです。もう母親はいないというのに」


「その時は何歳だったのですか」


「この時は12歳で、もう少しで13歳になるという時でした。


 母親が埋葬されると、まるで母親がかけた魔法が解けたかのように様々な感情が私を襲ってきました。

 

 私は頭がおかしいふりと話をすることができないふりをすること以外、何もしてこなかった現実に直面したんです。


 まるで丸裸で世界に放り出されてしまったようなものです。

 私は何の準備もできていないまま大人になろうとしていました」


「その後コミューンの人達の誤解を解いたのですね」


「いいえ。今更頭はおかしくないし話すこともできますなんて、とても言えないと思いました。母親がついていた嘘を守らなければいけないと思っていました。


 母親の埋葬が終ると、すぐに私はコミューンを後にしていました。この恐ろしい世界に自分の居場所はない。だから死ぬしかないと思いました。


 でも死ぬまでに一度でいいから海を見てみたいと思って、私はひたすら海を目指しました。その途中偶然違うコミューンに拾われて保護されたんです」

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