遺書
だから、日本を終らせることにした。
まだ大丈夫、なんでもないと言っている内に、徐々に追い詰められている。
ふと気がつくと崖っぷちにたたずんでいる自分に気づく。
今ではもう自由に動けるスペースはほぼない。
今はまだ生煮えの中にいて、痛みもわずかに感じ取れるだけだ。
いずれ痛みが強くなる。
お前たちはかつて言っていた。
今日より明日だと。
しかし今、お前たちはが残そうとしているのは息苦しい世界。
日本という人を決して幸せにしないシステム。
お前たちは言う。
自分達が生き延びるだけで精一杯だったのだと。
しかしお前達は似合いもしない無駄に高価な服を買い、ハワイ旅行をしても決して満足することはない。
お前たちは言う。
こうなるはずではなかったんだと。
知っているよ。
こうなることを薄々分かっていた。
だから必死で先のことを見て見ぬふりをしていたことを。
どういう気分か教えてほしい、そこにあるのに見えないふりをする時は。
多分俺は頭がおかしいだろう。自分でもそう思うよ。
でも甘やかされたまま年老いた子供よりはましだ。
信念のないお前たちは、自分たちの過ちを時代や政府のせいにして、同じ顔をしていれさえすればよかった。
お前たちはいつも気持ちよさそうにありがたい話をしてくれるが、俺がお前たちの目を覗き込む時、なぜお前たちは目を伏せるのだ。
お前たちは未来を恐れ、足元が崩れ落ちる前に急いで立ち去ろうとしている。
お前たちが恐れる未来は、俺たちの今だ。
まるで天国のように見えるけれど、ここは戦場だ。
お前たちは無数の快楽を地雷のように敷き詰めたこの戦場をつくりあげた。
切迫した空気が凍りついてダイヤモンドダストのように輝いている。
建物の壁には幾重にも憂鬱が塗りこめられている。
目に見えない銃弾をかいくぐり、音の聞こえない絨毯爆撃の中、俺たちはこの撤退戦をどう乗り切ればいい?
ただ1つ決めていることがある。
未来を食いつぶしてから逃げようとしているお前たちの後始末はしない。
無傷で逃げ切ることのないように、お前たちの足首をつかんでやる。
この時代に生まれた意味があるとしたら、やっと終わらせられる安心感が得られるということ。終わりがあることは、最後の希望。
お前たちが愛とか希望とかいう薄っぺらな言葉を口にする時、その言葉の裏側には俺達の憎しみや悲しみがびっしり貼り付いている。
いずれ俺たちがひっくり返すだろう。
お前たちが残したのは、憎しみと悲しみで濁った目を持つ生きる屍。
怖いか、俺たちが。俺たちが、怖いのか。
俺たちの仲間は無口で、怒りや悲しみを抱えていて、ほとんど瀕死の状態といってもいいけれど、今この瞬間も確実に増殖している。
今の俺は未来のお前だ。
俺たちの憂鬱は時代の気分となり、いずれお前たちを飲み込むだろう。
人生は素晴らしいなんて呪文は、この先の地獄のような日々を生き延びてから言えばいい。
想像してほしい。
世界を破滅させるボタンが目の前に現れることを。
それは初夏の頃かもしれない。
ボタンを押すと世界が崩壊し始める。
地面が割れ、人や建物が亀裂に飲み込まれる。
焼きたてのイングリッシュマフィンと紅茶を楽しみながら、しばしの間その様子を眺め、やがて自分も亀裂へと飲み込まれていく。
それに勝る優雅な時間はない。
一杯の紅茶と引き換えに、世界なんか消え去ってしまえばいい。




