おとなりさんと、夏。
暑さしのぎにと齧ったアイスキャンディが丸ごと真っ逆さまに、砂埃やらで汚れきったスニーカーに落ちた。家に帰ったら洗わなきゃいけないな、めんどくさいな。そう考えるほど、俺の脳味噌は緩みきっていなかった。数メートル先の光景に、ただ口を開けて視線を奪われ続けている。
「あ」
腕にぴったりと女の腕を巻きつけた男と、目が合う。こちらの視線に気づいた男は、少しの間だけ時間を止めたように俺を見つめている。腕をべったり巻きつける女が不自然に視線をこちらによこした男に向けて、何かを言う。現実に引き戻されたような顔をしてから、男は女の気を絶対こちらに向けないようにとわざと大きく楽しそうな声を上げながら、早歩きでその場を去った。逃げただろ、俺は見たからな。じとりと目を細めて遠ざかるその二人の後ろ姿を睨みつける。
「おとなりくん、お待たせ」
「……おとなり!」
間抜けたコンビニの退店音と共に出てきた彼女が、突然大声を出した俺に驚く。元から大きいブラウンの瞳が、さらに大きく見開かれた。どうしたの、と言葉にしなくても聞こえてきそうな困惑の表情がこちらを伺う。
「お、遅かったな」
「え、うん? あのね、なんかソフトクリーム作る機械の調子が悪かったみたいで。時間掛かっちゃった」
「そうか……。なら良いんだ」
「うん……? おとなりくん、何か隠してない?」
「え」
不自然に紡ぐ言葉の端くれに、彼女が首を傾げる。どきりと鳴る心臓が、気持ち悪い。頬を伝う汗は暑さからか、それとも彼女への隠し事からか。
「え、えっと」
「んー? ……あ!わかった!」
白く巻かれたソフトクリームを握っていない、もう片方の手で俺を指差す。悪戯っぽくニヤニヤと笑む彼女に、内心ほっとした。多分、バレてない。
「アイスキャンディ」
「え?」
「あたしが奢ったやつ」
「え? あぁー!」
下を辿っていった彼女の指先が、俺のスニーカーに示す。照りつける夏の陽射しは容赦なく、すぐに原型を無くしたアイスキャンディを溶かしていた。白地部分に水色の模様ができる様子に、お隣さんの音鳴が愉快そうに笑い声をあげていた。そんな、夏の暑い補講帰りの寄り道での話。
見切り発車で書き始めました。目標は話の長さとか話の深さとかではなく、ただゴールするだけです。ぐだぐだ。
全然都会じゃないけど田舎すぎもない土地の、高校生男女のある一夏の話だと思ってください。