表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

てぃーん&むーびー&むーぶめんと(脚本)

作者: ヒト

大人になるにつれて失われるものは本当に失って良いものなのだろうか。あの時感じた思いは現実に染まって消えっていったのだろうか。大人になるとはどういうことだろうか。肉体は衰えていくが、この魂は果たして輝いているのだろうか。二十五歳になった僕はふとそういう事を考えた。その思いの果てを今回の登場人物の三人組、早見、吉野、海道に大人との関わりの中で探して欲しかった。経験の浅さは時に革新を生む。この企画が映像化されることで、そもそも何となく年を取っていく僕らに、一つ、眩しい愛おしいこの感覚が蘇りますようにという思いの籠った作品である。



登場人物表

 


早見賢志郎(17)

吉野陽太(17)

海道義也(17)

 日野あすか(17)

井田芳樹(57)

 早見良子(40)

 早見勇夫(48)

 早見芽衣(14)

 前田幸雄(48)

徳田玄太(50)

 海道勉(55)

 海道佑美(51)

 池垣(56)

 浦部高校の生徒達 女子バスケ部部員 男子バスケ部部員

 コーチ

 部員A

小学生A、B、C

中年女性店員A

金髪男

警察官A、B

校長とその他教師たち

スーツ姿の中年男性

その他




○ 早見家・内・二階・早見の部屋(夜)

  ミシミシというベッドのきしむ音。

ズラッと並べられた漫画。

床に転がったラケット。

扉の前に三脚に設置された一眼レフ。

布団がグシャッとなったベッドで奇声

をあげながら一人飛び跳ねる早見賢志

郎(17)。

早見「(呼吸を荒げながら)九十八……九十九

……百! ついに大台! このベッド、な

かなかしぶとい! うおー!」

 ミシミシと音の鳴るベッド。

 飛び跳ねる早見。

 バキっと音を立てて、凹むベッド。

早見「(ベッドから降りてカメラにガッツポー

ズを決めながら)ひゃったあ……やった

ぞ! 結果は百二十八回! でございま

した~ (ポーズを決めて)ちーっす!

 チャンネル登録よろしくねえ」

  突然開かれるドアにぶつかって倒れる三

脚。

早見「あー! ちょっと母さん!」

  開いたドアから覗く洗濯済みの早見の高

校のジャージを抱えた早見良子(よしこ)(40)

良子「(凹んだベッドを見て、フッと笑って)

クズが」

  ジャージを早見に投げつける良子。

  ジャージが早見の頭に乗っかる。

  扉を閉める良子。

  慌てて、倒れたカメラを手に取って確認

する早見。

早見「あっぶねー、記録飛んじまったかとお

もった」

  RECボタンを押して記録を止める早見。


○ 同・一階・居間(朝)

 テーブルで食パンをかじりながらスマ

フォをいじる早見。

向かい側に食事をする早見芽衣(14)、早

見勇夫(48)。

スマフォを見つめてニヤニヤする早見。

インサート―画面「動画に対するコメ

ント 『ママww』『ママ冷たいw』『こ

れぞ、あほ』『いつも楽しみにしてます!』

『きもい』『最低。親の気持ち考えて』『や

ばっww』『ベッドもったいない』

  勇夫に画面を見せる早見。

勇夫「おー。(笑って)世間は色々言うもんだ

な! (ニヤニヤしながら)それでいくら

入るんだ、広告料」

早見「(笑いながら)知らねーよ、だいたい俺

の稼いだ金だろ。俺の取り分増やしてくれ

てもいいじゃねえか」

勇夫「駄目だ。今月の軍資金が足りない」

  冷めた表情で二人をチラチラと見ている

芽衣。

早見「パチンカスが」

  申し訳なさそうに両手を合わせる勇夫。

良子の声「おい、お前ら」

  声の方向を振り向く早見、勇夫、芽衣。

  足の裏に消毒用のスプレーを吹きかけな

がらこちらを睨んでいる良子。

良子「さっき、ションベンした奴どっち」

  顔を見合わせる早見と勇夫。

良子「(怒鳴るように)こぼしすぎなんだよ!」

  同時に指を差し合う早見と勇夫。


○ 街道(朝)

 スマフォで自撮りしながら歩く学ラン

姿の早見。

 インサート―スマフォ画面「早見の顔

のドアップ 『登校中です。寒い。超寒

い。えー今日は登校中、見知らぬ人に挨

拶を本気でしたら何人返してくれるか

という事ですが……人が全然いない…

…』」

前から雑種犬を連れた長髪の井田芳樹(57)。

早見「いたいたいたいたいたいた」

  井田の元へ駆け寄って深くお辞儀をする

早見。

早見「おはようございます!」

  怪訝な表情をして無視して歩いていく井

田。

早見「うわ。傷ついた。ガン無視かよ……」

小学生Aの声「ハヤミンさんだ!」

小学生Bの声「すげー!」

  振り向く早見。

  早見を嬉しそうに見つめている小学生A、

B、Cの三人組男子。

早見「おっと……」

小学生C「撮影中ですか?」

早見「おう……(スマフォに向かって)僕の

ファンです。ガキ……まあ一応知らないの

で……」

  小学生三人組の前に駆けつける早見。

早見「(頭を下げて)おはようございます!」

小学生A、B、C「(頭を下げて)おはようご

ざいます!」

早見「(スマフォに向かって)三人確保」


○ 浦部高校・付近(朝)

  スマフォ画面を見ながら歩いている早見。

  後ろからついてくる小学生A、B、C。

早見「(スマフォに向かって)結局」

  小学生A、B、Cに画面を向ける早見。

  ピースをしてポーズを決める小学生A、

B、C。

早見「こいつらだけです。いや、まじあのじ

じい、いやおじちゃまドライだったよ。と

りあえず今日はこの辺で。ちーっす……」

  早見の横を早足で通り過ぎていく制服に

ロングヘアで細身の日野あすか(17)。

あすかの後ろ姿を惚れ惚れと見つめる

早見。

早見の元に駆けつけてくる小学生A、B、

C。

小学生A「(スマフォを持って)一緒に写メ良

いですか?」

 小学生Aが内側に向けたスマフォにピ

ースをする小学生B、Cと変顔をする早

見。

再びあすかの方へ視線を移す早見。


○ 同・教室・内(朝)

 黒板に数式を書いて、授業を行う徳田玄

太(50)。

 伏せて眠っている生徒や机の下でスマ

フォをいじる生徒、ひそひそと話をして

いる生徒。

徳田「(ぼそぼそと)命題pならばqが正しい

ときは真、正しくない時は偽……」 

一番前の席でノートをとるあすか。

 あすかの斜め後ろの席であすかを見つ

めている早見。

   ×  ×  ×

 チャイムの音。

 鞄にノートを荒っぽく突っ込む早見。

 黒板の字をノートに夢中で写している

あすか。

黒板を消そうとする学級委員の吉野陽

太(17)。

  あっという表情のあすか。

早見「おい! 吉野! (スマフォをチラつ

かせながら)ちょっとこれまじやべーぜ。

見てくれよ」

吉野「何だよ」

  黒板消しを置いて早見の元に駆けつ

ける吉野。

横目で早見の方をチラッと見るあす

か。

吉野の声「うわ、おえっ俺虫駄目なんだよね

え」

  あすかの後ろ姿を満足気な表情で眺

める早見。

早見を見つめる吉野。

早見の視線の先のあすかの存在に気

が付く吉野。


○ 体育館・内・全景(夕)

 半面を男子バトミントン部、もう半面を

女子バスケ部が活動している。


○ 同・バトミントン部・コート(夕)

 ネットを挟んでラリーを続ける吉野&

早見チームと海道義也(17)&部員Aチー

ム。

 女バスの方をチラチラと見ながら打ち

放たれたシャトルを拾う早見。

ドリブルをしているあすかの姿。

 スマッシュをうつ部員A。

 コートの隅に放たれたシャトルに飛び

ついて返そうとする早見。

落ちるシャトル。

うつ伏せで倒れたまま起き上がらなく

なる早見。

  駆けつける吉野。

吉野「おい、大丈夫かよ。お前、いつもに増

してヘタクソだぞ」

早見「(呼吸を乱しながら)いってー……足首

やっちまった」

  倒れたまま女バスの方を見つめる早見。

  シュートを決めるあすかの姿。


○ 歩道(夜)

 片足を引きずりながら歩く早見と吉野、

海道義也(17)。

海道「大丈夫……? 荷物持つよ?」

早見「いらない」

吉野「かいちゃんの親切無駄にすんなよ。ハ

ヤミン」

早見「うっせえ、そっちの名前で呼ぶなよ」

吉野「(笑って)ハヤミン。でも、結構稼いで

るんだろう? カリスマ高校生」

早見「全然。お前らが出てくれる回の方が閲

覧数多いし、チャンネル登録者数も格段に

増えたよ」

海道「わさびルーレット……」

吉野「超懐かしい! 俺ら中二とかだったよ

な。わさびの入ってる餃子を喰って当てる

だけ」

早見「とにかく、目立ちたかったもんなあ。

自己承認要求の塊というか」

吉野「今も変わってないだろ」

早見「確かに」

  笑う海道。

吉野「(早見の方を見て)そろそろしょーもね

え三文芝居やめろよ」

早見「……何が?」

足を引きずりながら歩く早見。

やれやれという表情の吉野。

吉野「校門出る時と引きずっている足が逆だ」

早見「あ……」

  普通に歩き始める早見。

吉野「次の大会に出ない言い訳作りの為だろ

う。お前はヘタクソな自分だけが目立つ試

合が大嫌いだ。そもそも、バトミントンを

好きって訳じゃない。俺と(海道の方をチ

ラッと見て)コイツが入部したからとりあ

えず何となくついてきただけ」

早見「(吉野の言葉を遮るように)やめてくれ

ーい! ヘイヘイヘイヘイ」

 吉野に抱き着く早見。

早見「(早見に抱きつかれながら)何故、この

時期にいきなり怪我の演出をするのか。そ

う、お前には好きな人が出来た。かっこ悪

い所は見せたくない。つまり、そいつは同

じ体育館の部活。かっこいい所は見せたい。

黒板を消そうとする俺を強引に呼び止め、

訳も分からない昆虫の動画を見せつけ」

 吉野の口を笑いながら抑えている早見。

 もごもごと喋る早見。

  隣で大爆笑する海道。

海道「吉野君は早見君の事なんでもお見通し

だね」

吉野「(口を押える早見の手が少しずれて)日

野あすか」

 驚いた表情の海道。

早見「あー!(再び吉野の口を押える早見)」

  早見の手を払う吉野。

吉野「転校生の日野あすか。お前に一つ言っ

ておくがな、俺もだ」

  固まる早見。

早見「……おいまじかよー、やめろよー。お

前にはぜってえ勝てねえじゃん。スポーツ

万能、顔面偏差値八十、実家は家賃収入」

吉野「三つめは撤回しろ」

  吉野を睨む早見。

  こっそり手を挙げている海道。

海道「僕も……」

早見「かいちゃん……」

吉野「お前、嘘だろ」

  申し訳なさそうな海道。

早見「(ニヤッとして)お前には勝てる。運動

は俺よりダメ、童貞感MAX、実家は地味

な漬物屋」

吉野「いや、だから三つめ」

  突然早見の胸倉を両手で掴む海道。

早見「(海道に胸倉を掴まれながら)おいおい、

かいちゃんそういうところが童貞なんだ

ってー」

早見を睨む海道。

吉野「(笑いながら)そんなやつ、やっちまえ

やっちまえ」

海道「(ウルウルとした瞳で)可愛いよね……

あすかちゃん……」

早見「(悲し気な表情になって)うん」


○ 公園(夜)

 一眼レフカメラを持って、カメラに語り

かけている早見。

早見「えーただ今午前二時という事で、真っ

暗です。暗闇。やべえもう怖くなってきた。

えー今回はオカルト編ということで遊園

地の廃墟に突撃していきたいと思います。

結構やばいらしいんだよね。おじや。あっ。

てんぱってる。じじいの幽霊が出るって…

…それにしても遅いな……あいつら……

寝てんじゃないだろうなあ……まあ俺が

調子こいて早すぎたっていうのもあるん

だけど……それにしても。(叫ぶように)う

わー!」

 慌てて後ろを振り返る早見。

 後ろからニヤニヤして水風船を手に抱

えている吉野と海道。

早見「何これ! めっちゃ濡れた!」

  本気の投球ホームで早見に水風船を投げ

つける海道。

早見「(手でガードしながら)お、おい、ガチ

の投げ方すんなよ。お前俺に恨みでもあん

のか……(直撃して)うわー!」


○ 遊園地廃墟・入口(夜)

 園内は真っ暗、懐中電灯で照らされて浮

かび上がるメリーゴーランドやキャラ

クターの顔。

カメラに語りかけている早見とその後

ろでピースしている吉野、リュックを背

負った不安げな表情の海道。

早見「やべえ。今世紀最大の恐怖にさいなま

れています。果たして、果たして! 何だ

っけ。じじいは現れるのか! そして、噂

のじじいに水風船をぶつける事が出来る

のか!こうご期待!」

  早見とカメラの間に割って入って変顔を

する吉野。

早見「おい、主人公的には俺だろ」

海道「(震えながら)ねえ……やっぱやめな

い?」

  振り向いて海道の方を見つめる早見と吉

野。

海道「(俯きながら)まずいよ……さすがに…

…呪われたら。ネットに書いてあった。そ

の配信者、数日後交通事故に合って……」

 既に園内に入っていく早見と吉野の後

ろ姿。

海道「(力無い声で)置いてかないで~」

  早見と吉野を追いかける海道。


○ 同・園内・休憩場(夜)

 倒れた座椅子、パラソル。

 細長い木製の机が並んでいる

 倒れた椅子を起こしてドンと座る早見

と机の上に座る吉野、立ち竦む海道。

カメラで周りを映す早見。

インサート―カメラの映像「真っ暗で

うっすらと建物が映る程度。その中に点

灯しているランプが一つ」

早見「光ってる! あれ、何だよ! 誰かい

んのか!」

吉野「うっせえ、あんまでかい声出すなよ」

  吉野に抱きつこうとして手で押さえられ

る海道。


○ 同・ジェットコースター付近(夜)

 明かりのついた従業員専用ボックス。

 おそるおそるカメラを回しながらボッ

クスに近付く早見と吉野、吉野の身体に

抱きついて目を瞑っている海道。

背後より井田の声「(叫ぶように)こんばん

は!」

早見、吉野、海道「うわー!」

 驚いて重なるように倒れる早見、吉野、

海道。

後方に立っている井田。

転がるカメラ。

海道「ででででででででででたあ……」

井田「仕返しじゃ」

 笑っている井田。

早見「あの時の……」

吉野「し、知り合いか?」

  井田を見つめる早見。

  泣いている海道。

  カメラを拾っていじる井田。

  カメラを三人に向ける井田。

井田「不法侵入者発見!」

早見「か、返して下さいよ」

井田「デジタルかあ。良い時代だな」

  早見にカメラを返す井田。

井田「おやすみ」

 スタスタと去っていく井田。

 立ち上がる早見と吉野。

吉野「(早見に肘うちして)おい、まわせよ」

  慌ててカメラを向ける早見。

早見「出ました。生きてます。生きてるよな?

 じじいいまし! 噂は立証されました」

  ボックスに入ろうとして一度こちらを振

り返る井田。

こちらを見ながら固定電話の受話器を

耳にあてる井田。

吉野「ちくられるんじゃね」

  倒れたままの海道を強引に起こして、走

る吉野と早見。

海道「(泣きながら後を追って)待って~」

  逃げた方向を眺めながら携帯電話を耳か

ら離す井田。

千切れてボロボロになった受話器の電

源コード。

  

○ 早見家・内・二階・早見の部屋(夜)

  座卓でノートパソコンと向き合う海道。

  パソコン画面に表示された動画編集画面。

  折れてV字型になったベッドに、身体を

合わせるようにしてV字になって漫画

を読んでいる早見、ベッドにもたれてス

マフォをいじっている吉野。

海道「(パソコン画面と向き合いながら)ハヤ

ミン、これ使う?」

早見「(見向きもせずに)うん、使う使う」

海道「でも、これって不法侵入だよね……」

早見「別に良いって。攻めないと。別に誰か

を傷つけてる訳じゃねーし。守る必要のな

い法律だってあるんだよ。面白ければ正義」

吉野「(茶化すように)かっけえ、ハヤミン」

早見「せっかく撮れたんだぜ。さっきはいき

なりだからびびったけど、こんくらいバレ

てもたいしたことねえよ」

海道「……僕の顔と声は切るけど良い?」

  海道を見つめる早見と吉野。

早見「いやいやいやいやいやいやいや」

ベッドから転げ落ちるようにして海道

の元に近寄る早見。

早見「(海道に肩を組んで)お前のリアクショ

ンはずせるわけねーじゃん。最高だったよ」

 俯く海道。

吉野「そうだよ。かいちゃん、大丈夫だって。何かあっても俺たち運命共同体だろ?」

 浮かない表情の海道。

 海道からマウスを奪って、再生ボタン

を押す早見。

インサート―パソコン画面「ボックス

に入ろうとして一度こちらを振り返る

井田 ズームされる井田の顔」

早見「謎だよな、こいつ。ぜってー今回再生

稼げるよ」

海道「(画面を見て)あっ……」

早見「何? じじいにシンパシーでも感じち

ゃった?」

 突然立ち上がる海道。

海道「気付かなかった!」

早見「は?」

海道「この人! 映画監督の!」

  慌てて近寄って画面を覗いた後、海道を

見つめる吉野。

海道「(興奮するように)井田芳樹だよ! ほ

 ら、『空中真二つ』のSF監督!」

吉野「『空中真二つ』? あれってもう何十

年も前の映画じゃ……」

 不思議そうな表情の早見。

海道「そうだよ。今から……えーっと約二十

年前。表に出た井田監督の作品は後にも先

にもその作品一つだけ。映画祭で新人賞を

とってその後はインディでゾンビ映画や

ってたんだけど売れなくてめっきり姿を

くらませたんだ!」

早見「(海道を見つめて)お前、急に良く喋る

なあ。さすが、映画オタク。(再び画面に目

を移して)このきったねえじじいがなあ」

  画面を見つめる吉野。

海道「(興奮が止まらない様子で)こんなとこ

ろに!」

吉野「大スクープだな。俺らテレビ出られる

んじゃね?」

海道「いや……でも井田監督の名前なんて一

度世に出た程度だし……」

  画面の井田の顔を見つめる吉野、早見、

海道。

早見「で、何でここにいるんだ。俺はこいつ

の映画なんて観たことねえけど」

吉野「追う価値ありそうじゃん・続編決定だ

な」

  ニヤッとする早見。

  パッとしない表情の海道。

  

○ 浦部高校・生徒指導室

 座って俯く早見、吉野、海道、長机を挟

んで前田幸雄(48)、徳田。

徳田「こうなることが分からなかった? (狂

ったように)君たち犯罪だよ! 犯罪!

分かる? やっちゃいけない事だよ!」

  机の下で海道の太ももをつねる吉野。

海道「ひゃっ」

  笑いをこらえる吉野。

徳田「(立ち上がって)ふざけてんのか!」

前田「まあまあ先生(徳田を抑える)」

  前田を睨む早見。

前田「そう焦らなくても、この子達だってち

ゃんと話せば分かる子ですから(少し笑

みを浮かべて早見を見る)」

  何度も頷く徳田。

  泣きそうな表情の海道。

徳田「(震えるように)君たちみたいなクズの

せいで世の中は汚れていくんだ!」

  腕を組んで下を向く吉野。

前田「先生それは言葉が過ぎます。(早見、吉

野、海道の方を見て)気を付けなさい。世

間は味方につけておいた方が得ですよ」

徳田「(怪訝な表情になって)何をおっしゃる、

前田先生」

海道「(突然立ち上がって)ぼぼぼぼぼぼ僕は

反省してます! 本当はやめてた方が良

いっていうの知ってたし、ルールは守らな

いとって……だから僕はやめるようにこ

の人達にも言ったんですけど」

  海道の太ももを強くつねる吉野。

海道「ひゃああ」

早見「(にやっとして)ふざけてるに決まって

るじゃないですか」

徳田「はあ?」

早見「辛気臭いっすよ。あんた達の顔。毎日

何楽しみにして生きてんすか。安定の公務

員。超、つまんない」

徳田「何を!(机をドンと叩く)」

  早見の傍に駆け寄る吉野。

吉野「クールダウン。一旦外行こう」

  早見の服を引っ張って外に連れ出そうと

する吉野。

吉野「(頭を深く下げて)すいませんでした! 

以後気をつけます」

 早見を連れて出ていく吉野。

徳田「何を勝手に! ままま待ちなさい!」

  追おうとする徳田。

  徳田の肩を掴む前田。

前田「先生。僕らもしたでしょう。青春って

やつ」

  笑みを浮かべる前田。

  佇む海道。

  徳田に睨まれる海道。

  泣きながら早見と吉野の後を追う海道。


○ 同・体育倉庫

 マットにもたれかかって座る早見、マッ

トの上に座る吉野、体操座りをして俯い

ている海道。

吉野「やらかしたなあ、はやちゃん」

早見「うっせえ」

吉野「気持ちは分かるけどねえ……いや俺ら

は最悪退学なっても良いかもしれないけ

どかいちゃんが可哀想だろ。学校の先生目

指してるんだから。高校は卒業しないと。ねえ(海道の方を見る吉野)」

 体育座りをしてしくしくと泣いている

海道。

吉野「動画が広まって学校で問題になるのは

想定内だったけど、お前がムキになるって

いうのはさすがの俺でも想定外だったよ。

だって、大人の意見なんてそもそも眼中に

ないだろ? いつもみたいにヘラヘラし

て流せば良かったんだけどねえ」

 悔しそうな表情で俯く早見。

早見「……ヨ―次郎だ」

  不思議そうな表情で早見を見つめる吉野。

早見「前田だよ」

吉野「……」

  顔を上げる海道。

  唇を噛みしめる早見。

吉野「ヨー次郎ってまさか」

  スマフォを取り出して操作し、画面を眺

める(前田を調べる)吉野。

吉野「(画面を眺めるように)再生回数は毎回、

五十万越え。動画内容は旅物で旅先の商品

紹介。顔出し無し。そのハイクオリティな

編集センスとトークセンスでネット界に

名を轟かせる……十万越えって俺らの二

倍……確かにそう言われると声も同じに

聞こえるが本人だって確証はあるのか?」

早見「前田本人から聞いた。しかも授業中……俺のパソコンに動画の添付ファイルを送ってきやがった。番販だとかふざけやがって」

吉野「……まじかよ……でも、そんなのバ

レたらクビじゃねえのか? 言ってや

ろうぜ、今すぐ。俺ら退学になる前にあ

んな奴……(早見の様子を確認して)と

いきたい所だが」

立ち上がる早見。

早見「俺は、あいつを抜く」

  早見を驚いた表情で眺める海道。

吉野「だろうな」

  再び泣き始める海道。

海道「……ごめん……ごめんなさい~……」

早見「何が?」

海道「さっきは裏切って……」

早見「お前そういうキャラじゃん」

  ウルウルとした表情で早見を見つめる海道。

早見「お前はもっと童貞を極めてくれ」

  深く頷く海道。

吉野「(フッと笑って)何だよ。童貞を極めるって」


○ ファミレス(夜)

 ジュース片手にスマフォをいじりなが

ら机を囲む早見、吉野、ノートパソコン

に向き合う海道。

海道「(画面を見ながら)六万いったよ」

吉野「炎上気味だけどな」

早見「それで良い、世間を騒がすんだ。何に

も知らない世間をな」

吉野「かっけ~」

  小指を立てながら音を立ててジュースを

啜る海道。

吉野「かいちゃん、良いのか? 正直、俺た

ちもう大人だし無理は言わないし言えな

い。ハヤちゃんも馬鹿だけど、それぐらい

分かってる」

 吉野の方をチラチラ見ながら氷を口に含んでパソコン画面に向かう海道。

吉野「脱退しても良いんだ」

  思わず氷を吹き出す海道。

  早見の元に飛んでいく吹き出した氷。

早見「きったねーな。お前」

海道「しないよ? 僕ハヤミンと吉野君とい

られるなら教師なんて諦めても良いから」

  海道を見つめる早見と吉野。

海道「……井田監督の事も気になるし……」

  やれやれという表情の早見。

早見「(海道のマネをするように)ぼぼぼぼぼ

ぼ僕は反省してます!」

 俯く海道。

吉野「やめとけ」

  頭を掻き毟る早見。

早見「よし。という事だ。これで、本当に面

白いものを追及できる。前田を超えて、さ

らに有名になる。そして海外進出。あすか

の目も俺に釘づけ。あすかとのラブラブっ

ぷりをセヴ島辺りから毎日配信」

吉野「死ね」

  早見を睨む海道。

早見「はあ? ……すまん。平等。平等こそ

正義だ」


○ 早見家・内・一階・居間(夜)

 ソファで眠っている制服姿の芽衣に向

かってカメラを回す早見。

早見「(自撮りをしながら)爆睡。ではハヤミ

ン参ります」

 芽衣の顔に自分の顔を近付ける早見。

 早見の存在に気が付いて思いっきり早

見の股間に蹴りを入れる芽衣。

芽衣「きもい。消えて」

 うずくまりながらカメラを回し続ける

早見。

  駆けつける勇夫。

勇夫「おい、大丈夫か。勇敢な戦士よ! (芽

衣に向かって)よくも」

 芽衣に抱きつこうとする勇夫。

 芽衣に蹴られて倒れる勇夫。

  起き上がる芽衣。

芽衣「(倒れている早見に近付いて)撮ったや

つ見せてー。さすがにスッピンはきついか

も」

  カメラを芽衣に渡す早見。

  嬉しそうにカメラをチェックする芽衣。

早見「消すなよ」

芽衣「(カメラのモニターを確認しながら)う

わー、私ぶっさ」

  芽衣の隣でカメラのファインダーを覗き

込む勇夫。

勇夫「どれどれ」

早見「終わり(芽衣から強引にカメラを取り

返す)」

勇夫「俺まだ見てねーぞ」

芽衣「ねえ……(申し訳なさそうに早見を見

て)」

早見「駄目だ! 一発勝負。こういうのはテ

イクワンが一番良いんだよ。だいたいガチ

で金玉狙いに来るなよ」

芽衣「私のJCまじ終わるよー」

早見「モザイクかけといてやるから」

勇夫「俺だってネットに顔晒されたらたまら

んわい」

早見「(芽衣に向かって)じゃ、また襲うから」

  自分の部屋に向かう早見。

勇夫「おい待て、出演料くれよ~」

  台所から、白菜を刻みながら三人の姿を

微笑して見ている良子。


○ 同・二階・早見の部屋

 デスクパソコンに向かって大爆笑して

いる早見。

インサート―画面「逆立ちをして顔を

真っ赤にした動画配信者」

 ニヤニヤした顔から不機嫌な表情に変

わる早見。

インサート―画面「リンク動画 タイ

トル:ヨー次郎 渡嘉敷の旅 再生回数

十二万」

パソコンの電源を切って、ベッドに飛び

込む早見。

V字に折れた部分に落ちていく早見。


○ 遊園地廃墟・ジェットコースター付近

(夜)

ボックスの中を覗く早見、吉野、海道。

小さな木机とパイプ椅子が一つずつ置

いてあるだけ。

早見「(うなだれるように)全然こねえじゃん

かよー。これじゃあ、リスナー減っていく

一方じゃんよ」

吉野「大丈夫だって。……これはこれでフリ

が効いてて面白いかもしれないだろ」

俯く海道。

 海道の後ろにこっそり回り込んで、突然

両手で海道の肩を掴む吉野。

海道「ひゃあああああああああ」

  笑っている吉野。

  不満そうな表情の早見。

早見「4日目だぞ? (ため息をついて)

さすがに、かいちゃんのリアクションだ

けじゃもたないよ」

 ボックスのすりガラスに顔を潰すよう

にしてくっつける早見。

地べたに座り込む三人。

早見「あれから一切学校からのお咎め無しだ。

こっちは退学覚悟でやってんのによ。面白

くねえな」

吉野「前田が上手くまわしてんじゃねえのか」

早見「無理だろ。公務員様だぜ?」

吉野「だから出来んだよ。ちっちぇえ学校の

世界なんて外がどう言おうと簡単に別世

界が作られちまうんだ」

早見「悟りか?」

吉野「いじめなんてまず教師同士であるから

な」

早見「……徳田な」

吉野「可哀想なってきちまったよ。真剣にや

ればやるほど周りの人間に笑われてんだ。

本人も気づきやしねえ。問題児の多いクラ

スに高確率で担当させられてんだろ。あれ

は期待じゃなくて押し付けだ」

早見「ま、俺らも問題児だけど」

吉野「まあな」

早見「海道もあんな感じになるのか?」

海道「(共同不振に)ええ……」

早見「(笑って)なるだろうな」

海道「ならないよーう」

吉野「なるわ」

早見「ま、そのままでいてくれよ。教師なんかになってもよ」

  早見を見つめる海道。

早見「(ため息をついて)……ネタ切れ。……

もうあれしかねえよな。(二人に向かって)

なあ!」

 怪訝な表情の海道と吉野。

 空を見上げる早見。

 つられて見上げる海道と吉野。

 うっすらと星が輝く夜空。


○ 浦部高校・校門付近・物陰(夕)

 物陰でそわそわしながら歩道の方にい

る海道の姿を見守っている

早見と吉野。

海道の先に歩いているあすかの姿。

あすかの元に駆けつける海道。

 足を止めるあすか。

以降ファミレスと浦部高校・校門付近の

シーンのカットバック。


○ ファミレス(夜)

 テーブルに置かれた三つのジュース用

グラス。

  テーブルを囲む早見、吉野、海道。

早見「順番的には一番可能性の低いかいちゃ

んが最初で俺、吉野」

顔を手で覆っている海道。

早見「大丈夫だって。童貞はこういう時謎の

行動力を発揮するんだ」

吉野「……もしかいちゃんが成功したらどう

すんだよ」

早見「そりゃあ、(海道の方を見て)なあ。め

でたしめでたしだよ」

  音を立てて一気にジュースを啜る海道。

  

○ 浦部高校・校門付近・物陰(夕)

 物陰に隠れて海道とあすかの様子を窺

う早見と吉野。

  離れた歩道で笑顔で会話しているあすかと海道。

  互いに顔を見合わせて、焦った様子の早

見と吉野。

こちらを振り向く海道。

海道を睨む早見と吉野。

ビクッとしてあすかの方に向き直す海

道。


○ 同・歩道(夕)

軽くお辞儀をして去っていくあすか。

  立ち尽くす海道。

  慌てて海道の元へ駆け寄る早見と吉野。

海道「(泣きべそをかきながら)あすかちゃん

……」

早見「おい、それはどっちだ」

吉野「まさか」

  崩れ落ちる海道。

海道「駄目だった~……でも、お話できた~

……良かった~」

 鼻水を手で拭う海道。

早見「よっしゃああ」

  安心した表情の吉野。

 吉野とハイタッチをする早見。

  ハイタッチをした後、互いに睨み合う吉

野と早見。

  蹲る海道に手を差し出す早見。

  早見の手を掴む海道。

早見「汚っ(海道の手を払いのけて)そうじ

ゃねえよ」

  しぶしぶポケットから取り出したボイス

レコーダーを早見に渡す海道。


○ ファミレス(夜)

 テーブルを囲む早見、吉野、海道。

早見「で、一気にいこう」

吉野「(軽くジュースを啜って)遊びだと思われねえか」

早見「どうせ普段からつるんでる俺らが日を

変えて告白したところでおんなじだよ」

海道「そうだね……可能性が少ない僕が本気

っぽくて、可能性の高い吉野君が嘘っぽく

なって平等かもしれないね」

早見「(海道の頭をポンと叩いて)そういうことだよ!」

  吉野の服で海道の頭に触れた方の手を拭

おうとする早見。

早見の手をはたく吉野。


○ 浦部高校・校門付近(夕)

  あすかの目の前で頭を下げて手を差し出

す早見と吉野。

  怪訝な表情のあすか。

  逃げるように去っていくあすか。


○ 早見家・内・二階・早見の部屋(夜)

 パソコン画面の前で呆然とする早見、吉

野、海道。

パソコンからあすかの声「やだっ……なにっ」

早見「(力無く)あ、六万いった」

吉野「(力無く)だな」

パソコンからあすかの声「何なんですかいき

なり」

パソコンから海道の声「あ、いや、えっと、

あ。観ましたか? 『受けねライダー』」

ぼーっとした表情で聞いている三人。  早見「(力無く)唐突だな」

  泣いている海道。

パソコンからあすかの声「まだ観て無いけど」

パソコンから海道の声「(焦ったように)面白

いよ! 原作読んでても映像化によって、

躍動感が生まれてて」

パソコンからあすかの声「(笑って)そうなん

だ。それだけの為に?」

パソコンから海道の声「あ、いや……(しば

らく沈黙して)すすすすす好きです! 僕

と結婚して! (焦ったように)一度くら

い! あ、一回で大丈夫だから!」

 吹き出した後悲し気に海道の頭に手を

乗せる早見。

吉野「おっどんどん増えてる」

  インサート―パソコン画面「増えるチ

ャンネル登録者数の数字 動画タイト

ル『三人同時に好きな子に告白してみ

た』」

早見「(棒読みで)やったあ(吉野に肩を

組む)」

突然開く部屋のドア。

 手にポテトチップスの袋を三袋持って

勢いよく入って来る勇夫。

勇夫「ぐへへへへへ、皆さん揃ってエロビデオ観賞会か?」

  勇夫を睨む早見、吉野、海道。

勇夫「何だこの野郎」

  三人に向かって一気に袋を投げつける勇

夫。

よける早見。

キャッチする吉野。

顔面に当たる海道。

勇夫「どれどれどれどれどれ」

  近寄ってパソコン画面を見ようとする勇

夫。

勇夫を押し返して扉の方へ連れていく

早見。

勇夫「(早見に押されながら)ぎゃーやめてく

れーい。DVだDV。ぎゃー」

 勇夫を外に出してドアを閉める早見。

 ため息をつく早見。

吉野「前田越えも案外近いかもな」

  俯く海道。

  ベッドに飛び込む早見。

  うつ伏せになってブ―っと屁をする早見。

 ポケットからスマフォを取り出して画

面を確認する海道。

唐突に立ち上がる海道。

驚く早見と吉野。

早見「びびった。何だよお前」

  画面を見て硬直している海道。

  インサート―画面「日野です。海道君っ

て映画詳しいんだよね? もし良かっ

たら海道君プレゼンツで観に行かな

い?」

  海道からスマフォを取りあげる早見。

  慌てて取り返そうとする海道。

  海道をおさえる吉野。

  ニヤッとしてスマフォを見る早見。

  だんだんと顔面蒼白になる早見。

  呆然とスマフォを海道に返す早見。

  スマフォを取りあげて確認する吉野。

  俯いている海道。

吉野「わお……ミラクル」

  必死に拾う海道。

  三人、沈黙。

吉野「(屁の匂いが漂ってきて呆然と)くせえ。窓あけよ」

  呆然としたままの早見。


○ 浦部高校・体育館・全景(夕)

 半面でバトミントン部が練習中。もう反

面は使われていない。


○ 同・バトミントン部・コート(夕)

 吉野と早見チームVS海道と部員A。

 スマッシュをうつ吉野。

 もう半面の方で女子バスの部員がぞろ

ぞろと出てくる。

女バスの方が気になる早見。

 態勢を崩しながらギリギリでシャトル

を打ち返す海道。

 よそ見をしている早見の方へ飛ぶシャ

トル。

吉野「ハヤちゃん!」

  慌てて打ち返すシャトル。

  ふんわりと宙を舞う。

  もの凄い気合の入った海道の顔のスロー

モーション。

飛び上がる海道。

シャトルを強烈なスマッシュで返す海

道。

吉野と早見サイドのコート内に落ちる

シャトル。

身動きもできず呆然と立ち尽くす吉野

と早見。

狂気染みたように必死の表情の海道。

こちらを窺うあすかの姿。


○ ファミレス

 ジュース片手にグダグダとスマフォを

いじっている早見と吉野。

  ソファに寝転ぶ早見。

吉野「おい。やめろって、ここのばばあだり

いんだから」

 無視する早見。

早見「(スマフォを机に置いて)もう何もやる

気しねえ。虚無感だよ虚無感」

吉野「(フッと笑って)まあ、あすかもさ。サ

ブカルだってわけだ。趣向の問題だ(少し

悲し気)」

早見「何だよ! サブカルって! 俺だって

銀杏BOYZとかセックスマシーンとか

聞きまくってんだぜ?」

吉野「何だ。それ」

早見「……お前は良いよな」

吉野「なにが」

早見「別にあすかの事も顔が可愛いからとか

その程度だろ」

吉野「(スマフォから目を離して)何だよ。お

前に何が分かんだよ。お前だって、ただの

性欲の対象なんだろ。分かんだよ。お前の

目見てたら」

  二人のもとに近付く(吉野の言う)中年

女性店員A。

店員A「寝転ぶの止めてください」

早見「俺は本気だけど」

吉野「黙れ」

早見「は? いやガチだから。ガッチガチ」

店員A「あの」

吉野「お前さあ、自分の事おもしろいって思

ってるだろうけど、そうでもないからな。

勘違いすんなよ。ネット住民ってのは滑稽

な姿に興味あんだよ」

 吉野を睨む早見。

 立ち上がる早見。

  睨み合う早見と吉野。

店員A「(動揺して)ちょっと……」

  馬鹿にするようにフッと笑う吉野。

  吉野に殴りかかる早見。

  殴られて倒れる吉野。

  慌てて早見を抱きかかえる店員A。

  こぼれるジュース。

早見「(店員Aに抱きかかえられながら、叫ぶ

ように)そうやって、見下してんだろ! 

俺も海道の事も!」

吉野「(半笑いで)え?……別に」

  立ち上がって財布から千円札を取り出し

て店員Aに渡す吉野。

スタスタと去っていく吉野。

店員A「お釣り」

吉野「(背を向けたまま淡々と)あいつに渡し

といて」

早見「おい!」

  早見に抱きついたままの店員A。

  気が付いて嫌そうに店員Aを振り払う早

見。


○ 早見家・早見の部屋(夜)

 壊れたベッドの上でボーっと天井を見

つめて寝転んでいる早見。

枕元にスマフォ。

スマフォを手にとる早見。


○ スマフォ画面・ダム・ボートの上

釣り竿を垂らしている金髪男。

前田の声「今日ご紹介するのはバス釣りです。この金髪のいかにもっていう人、実はプロなんですねえ」

  照れ臭そうにカメラの方をチラチラと見

る金髪男。

前田の声「バス釣りだけを飯のタネにしているんです。いきなりですが、ぶっちゃけ月いくら稼いでるんですか?」

金髪男「いきなりですねえ。調子によるんで

一概には言えませんよ」

前田の声「ぶっちゃけ、ここだけの話っすよ」

着信音と共に着信画面。


○ 早見家・早見の部屋(夜)

スマフォを手に取る早見。

インサートースマフォ画面「海道」

暫く固まった後、電話に出る早見。

海道の声「(泣きながら)駄目だったー。僕…

…駄目だったー!」

 以降カットバック。

早見「何が」

海道「(鼻水をすすりながら)やっぱりフラ

れちゃった」

早見「(嬉しそうに)また告ったのか?」

海道「(泣きべそをかきながら)映画は隣で

ずっと中国人がお喋りして集中できな

くて、夜ご飯のお店どこ探しても空いて

なくて、二人でウロウロしてたら暗くな

くなっちゃって。用事思い出したって帰

っちゃったあ。ああああああ」

  笑う早見。

早見「(笑いながら)ほんっとにお前は童貞だ

 な……吉野にも言ったのか?」

海道「(泣きべそをかきながら)言ってない」

早見「……あ、そう」

海道「(裏返った声で)あー」

早見「うるせえな(電話を切る)」

  天井を見つめてボーっとする早見。

そのままスマフォを操作する早見。


○ スマフォ画面・ダム・ボートの上

釣り竿を垂らしながらカメラ目線で笑

っている金髪男。

金髪男「ここだけの話ってこれネットに流れ

るんでしょ」 

前田の笑い声。

前田の声「億ですか」

金髪男「あるわけないでしょ。あ、いやでも」

  突然引かれる釣り竿。

前田の声「このタイミングで!」

  騒ぐ金髪男と前田。

  真っ黒になるスマフォ画面。


○ 早見家・早見の部屋(夜)

 スマフォの電源部分を長押しする早見

の指先。

スマフォを壁に思いっきり投げつける

早見。

  床に落ちるスマフォ。

ハッとなって拾いに行く早見。

特に傷ついた様子の無いスマフォ。

安心した表情の早見。

悲しい表情になる早見。


○ 遊園地廃墟・園内・休憩場(夜)

 机の上に置かれた二袋のポテトチップ

ス、カメラ。

椅子に座ってポテトチップスを頬張る

早見、海道。

早見「結局、俺らさ、なんなんだろうな」

  泣きだす海道。

早見「笑かしてんじゃねえんだよ。笑われて

るだけなんだ。世間にもよ、前田にもよ、

あすかにもよ! ……吉野にも!」

  突然光に照らされる早見と海道。

  驚いて椅子から落ちる海道。

  立っている警察官A、B。

早見「(眩しそうに)今さらかよ」


○ 警察署・表(夜)

 中で警官Aに事情聴収されている早見、

海道の後ろ姿。


○ 同・内(夜)

 机を挟んで座る警官Aと早見、海道。

 机の上に開かれた一台のノートパソコ

 ン.画面に流れるのは早見、吉野、海道

が遊園地で騒いでいる動画。

警察A「(欠伸をしながら)何が楽しいの。こ

れ」

 不機嫌そうに一点を見つめる早見。

 俯く海道。

警察A「(馬鹿にするように)流行りの犯罪自

慢?」

早見「なんなんすか。さっさとやってもらっ

て良いですか」

  早見を睨む警察A。

  引き出しから机に紙と朱肉をテーブルに

置く警察A。

警察A「はいとりあえず二人分」

海道「えっこれってえええっ」

  警察Aを睨む早見。

  朱肉に親指を付けて紙に拇印する早見。

警察A「さっすがあ。良く知ってるね。まさ

か経験者?」

 警察Aを睨む早見。

 にやにやしている警察A。

海道「(動揺して)えっでも……えっ」

  海道を睨んだあと視線を落とす早見。

  早見を見つめる海道。

  おどおどと捺印する海道。


〇 浦部高校・生徒指導室

  長机を挟んで、不機嫌そうに座る早見と

そも向かいにずらりと並ぶ前田、徳田、

校長、その他三人ほどの教師。

満足そうな表情の徳田。

早見を見つめている前田。

  

○ 早見家・表(夜)

 電気が消えていく住宅の中に一軒光を

放つ早見家。

 勇夫の大きな笑い声。


○ 同・内・居間(夜)

 ソファでぐったりしている早見。

 その隣で缶ビール片手に座っている勇

夫。

二人の前には木製の長机。

  机越しに呆れた表情で立ち尽くす良子。

勇夫「まあ。良子、落ち着けって。今夜抱いてやるから」

良子「殺そうか?」

  大爆笑する勇夫。

真顔の良子。

だんだん笑うのをやめる勇夫。

缶ビールを机に置いてそそくさと立ち

上がる勇夫。

勇夫「あ、風呂湧いてんだっけな」

 立ち去る勇夫。

 ボーっとした表情の早見。

  早見の隣に座る良子。

早見「ごめん。母さん」

  早見の方をチラッと見た後、机に置かれ

た勇夫の置いていったビールを一気飲

みする良子。

ポケットを漁って何かを探す良子。

良子「タバコ」

早見「……もうやめとけよ。肺やべえだろ」

良子「誰のせい?」

早見「(良子の方をチラッと見て)あーもうは

いはい」

 立ち上がって、立ち去る早見。

  ビールを飲んで一点を見つめる良子。


〇 同・早見の部屋(夜)

  箪笥の引き出しを開ける早見。

  どっさりと入っているタバコ。

  タバコを見つめる早見。

フラッシュ―警官Aの台詞「犯罪自

慢?」

タバコを一箱掴む早見。


〇 同・居間(夜)

  ソファに座ってタバコを吸う良子と隣で

ボーっと座り込む早見。

良子「遺伝か」

早見「……」

良子「あいつもねえ。路上ライブで叫び散ら

かして、サツにようお世話になってたよ」

早見「一緒にすんなよ。あんなクソ親父と」

良子「寂しかったんだろうねえ」

早見「……」

良子「わたしにはあの歌が悲鳴のように聴こえた。人と混ざり合えないその悲鳴がわたしには心地良かったんだろうね」

  タバコを早見に差し出す良子。

早見「は?」

良子「吸わないの?」

早見「ばっか、そんな親いるかよ。……やめ

たよ」

良子「じゃあ余ってるやつ全部くれよ」

早見「いや……もうねえし……」

良子「あそ」

  タバコをフーッとふかす良子。

良子「……悪かったな」

早見「……?」

良子「わたしらが悪いんだよ」

早見「何だよ」

良子「身体は勝手に大人になっちまったが、

おめえらに偉そうに教えられる事なんて

一つもねえんだ」

早見「……」

良子「でもな。大人なんてみんなそうなんだ

と思うよ。飢えてんだ。何かに。それがも

う何かなんか忘れちまうんだ」

  良子を見つめる早見。

良子「とはいえ。親としてね、あんたに言わ

なくちゃならないからね。退学になったん

だったら仕事見つけて早く出ていきなさ

い。とかなんとか」

早見「……停学だっつってんだろ。話聞いて

たのかよ」

良子「なーにがちげえんだよ」

早見「大人しくしてたらまた学校いけんだよ」

良子「あそ……え?」

  早見を見つめる良子。

良子「……あそ」

勇夫の声「ふえーい! おめえらまだいちゃ

いちゃしてんのかー? 良子もう良いじゃねえかあ。賢志郎が仕事してくれたら楽だろう?」

早見「だから停学だっていってんだろ」

  全裸で頭にタオルをかけて立っている勇

夫。

勇夫「なーにがちげえんだ。おい、良子。抱

く準備できたぞ」

  タバコに火をつける良子。

  タバコを手に持って突然立ち上がって勇

夫に根性焼きをしようとする良子。

逃げる勇夫。

勇夫も声「きゃー。おま、それは駄目だって!

 死ぬよ! あつっちょ! マジじゃねえか

よ」

  一人座ってタバコの箱を見つめる早見。

  タバコの箱を掴んでゴミ箱に投げる早見。

  外れて床に落ちるタバコの箱。


○ 街道(夕)

 力無くフラフラと歩く早見。

  スマフォをいじりながら歩く多くの若者

の姿。

早見と肩がぶつかるスマフォに夢中に

なっていたスーツ姿の中年男性。

舌打ちする中年男性。

早見「は?(怒ったように振り向く)」

  中年男性の後ろ姿の奥に井田の姿。

  古本屋に入っていく井田。

  

○ 古本屋・表(夕)

 中をひっそりと覗いている早見。

 本を数冊抱えながら本棚を物色してい

る井田の姿。

ポケットからスマフォを取り出して動

画を取り始める早見。

扉付近まで近づく早見。

早見「いました! いましたよ、皆さん! 

亡霊じじいです! かなり本を! 古本

フェチ?」 

  画面に夢中になっている早見。

  突然、画面にドアップで映り込む古本屋

の店主・池垣(56)の顔。

  驚いてスマフォを腰の後ろに回す早見。

池垣「(早見をじっと見つめて)……」

早見「(軽く会釈をして)……」

  にんまりとする池垣。

  数十冊の本を抱えて中から扉を開く井田。

井田「おやっさん。会計(早見の姿に気が付

いて)……」

 ゆっくり店内に引き返す井田。

 足を引きずりながら井田の後に続く池

垣。

井田の後ろ姿をじっと見つめる早見。


○ 街道(夕)

  人気の少ない通り。

  数十冊の古本が入ったビニール袋をさげ

て歩く井田。

電柱の影に隠れてスマフォで井田の後

ろ姿を撮影している早見。

踏切の警報機が鳴る。

踏切を渡ろうとする井田。

早見「やっべ」

  慌てて井田の後ろを追いかけ始める早見。

  自動閉鎖される踏切。

  渡り終えた井田の後ろ姿。

早見「くっそ……」

  横切る電車。

  佇んでスマフォをポケットに入れる早見。

 去っていく電車。

 自動開閉する踏切。

 踏切の向こう側でこちらを見て立って

いる井田。

早見「えっ……」

  

○ 電機屋「電気の井田」・表(夕)

 雑然と並べられたテレビや扇風機、エア

コン、オーディオ器。埃をかぶったもの

も多い。

吠える雑種犬。

 かき分けるように店内に入っていく井

田。

 その後ろ姿を怪訝に見つめて立ってい

る早見。

井田「(振り返って大きく手招きして)おおい、

入れ」

早見「いや……」

井田「入れ」

  しぶしぶと電気製品をかき分けて入って

いく早見。


○ 同・内・畳座敷(夕)

 隅に並ぶ大量に積み上げられた古本。

 小さなちゃぶ台でカップラーメンを啜

る井田。

  正座してじっとしている早見。

  早見の前に置かれたカップラーメン。

井田「食え」

早見「あの……すんませんでした」

井田「食え」

早見「いや、あの、俺……家に飯あるんで…

…」

  早見を睨む井田。

早見「(気まずそうに)……」

    ×  ×  ×

  井田の様子を窺いながらラーメンを啜る

早見。

井田「カメラは」

早見「……持ってきてないですけど……」

井田「さっきのは」

早見「スマフォです」

井田「スメホ?」

早見「スマフォです」

井田「ス……メ……」

早見「マだって。知らないんですか?」

  ポケットからスマフォを取り出して井田

に見せる早見。

井田「(喜んだように)おおスメホ! これじ

ゃ。ちょっと、ちょっと貸してくれい」

 迷う早見。

 ほとんど奪うように早見からスマフォ

を取りあげる井田。

手に取って嬉しそうに見つめる井田。

早見「(焦ったように)さっきの動画も全部消

しましたんで。カメラの中の動画も帰りに

データ落としちゃって消しちゃいました。

なので安心してください。おじさんのプラ

イバシーは守られて」

井田「(早見の言葉を遮るように)はあ!?

 消してまった!?」

早見「え、いや」

  焦ったように勝手にスマフォを操作し始

める井田。

早見「(奪い返そうとして)ちょ、返して下さい!」

 流れる動画。

 固まる早見。

 動画に映る井田の後ろ姿。

井田「あるじゃねえか!」

  画面を食い入るように見つめる井田

早見「(焦るように)……それは……消し忘れ

……」

井田「アイリスがちょっと低すぎるなあ。ま

あこんなもんか、スメホは」

早見「えっ」

井田「(画面を見つめながら)あーブレブレじ

ゃねえか。手持ちは臨場感出るから良いん

だが。せめて止まっている時ぐらい……こ

れは見るに堪えんぞー」

 静止する動画。

 スマフォを早見に返す井田。

井田「あのな、ドキュメンってのはな。出来

る限り観客に分かりやすく、かつテーマが

ドーンっと浮き上がってくるようなもんじゃないとうけん」

早見「はあ……いや……別に……」

井田「んまあ、しかし、お前の根性は認めて

やるよ。他の奴は遊園地に来ては俺をゲテ

モノ扱いして逃げるだけ。それじゃあ、結

局一つの側面でしか描けないわな」

早見「……」

井田「回すんだったら回せよ」

早見「はあ?」

井田「そういうのは言われる前に回しとくん

だよ。分かってねえな」

 怪訝な表情になる早見。

  スマフォで井田を撮影し始める早見。

井田「違う。まずは内装だろ。俺がどんな場

所にいるのか。内装を映して俺の所にパン

してこい」

早見「……パン?」

井田「そんなことも知らんのか。全く」

  早見からスマフォを取る井田。

井田「(手に取ったスマフォの裏側などを探り

ながら)RECボタンは」

早見「画面の丸いところです」

井田「分かっとるわ」

  怪訝な表情の早見。

ボタンを押して周辺を映し始め、そのま

まスマフォの向きを変えて早見を映す

井田。

  録画を停止させスマフォを早見に返す井

田。

井田「見ろ」

  動画を再生する早見。

  インサート―スマフォ画面「滑らかに

移される『電気の井田』に内装、最後に

ばちっと決まる早見のワンショット」

早見「ああ、こういう意味」

井田「(得意げに)パン。横パン。縦にすれば

縦パン。常識だ」

早見「はあ」

  ラーメンの汁を一気に飲み干す井田。

早見「ってか、色々聞きたい事あるんすけど」

井田「じゃあ早く回せよ」

早見「ええ? ちょっと分かんないっすわ、

おじさん。これネットに配信しますよ?

良いんすか?」

井田「馬鹿もん。取材対象の気勢をそいでど

うする」

早見「いやだから……」

  しぶしぶとスマフォで井田を撮影し始め

る早見。

  かしこまったように態勢を整える井田。

早見「(井田を撮影しながら)何で、廃墟なん

かに住みついているんですか?」

井田「なんとなくだ」

早見「……(ちょっとムキになって)何のた

めに通っているんですか?」

井田「……(にやっとして)なんとなくだ」

早見「……」

  遠くを見つめる井田。

早見「監督」

瞬時にチラッと早見を見る井田。

早見「(ぶっきらぼうに)映画監督やってたん

でしょ。空中なんちゃらって映画撮ったん

でしょ。井田監督」

 カメラ目線で険しい顔で睨んでくる井

田。

井田「(変顔で)忘れた」

  スマフォをポケットに入れて立ち上がる

早見。

早見「もう良いっすわ。おじさん、面倒くさ

いっすよ。ってか別に俺自身はそんなにあ

んたに興味ないから」

  早見の動きに反応して突然吠え出す雑種

犬。

  少しもの悲し気な表情で微笑する井田。

  怪訝な表情で井田を見つめた後、雑種犬

の傍を通って出ていく早見。

立ち上がって、雑種犬にドッグフードを

手渡しで食べさせる井田。

  振り返る早見。

早見「映画監督かなんか知らねえけど、あん

 た相当ダサいしウザいし臭いっすよ。そう

いうの老害っていうんです。分かります

か? 老害。マジ無駄足でしたわ」

 さっと背中を向けて去っていく早見。

去っていった早見の後ろ姿を見つめる

井田。

  

○ 道(夜)

 小さな川に映る街灯を消すように動く

早見の影。

 スマフォを握ったまま早足で歩く早見。

 転がった缶を思いっきり蹴る早見。

 缶の中身のコーヒーが飛び散って早見

にかかる。

早見「くそ! くそが! どいつもこいつ

も!」

 ポケットからスマフォを取り出して、ス

マフォを川に投げようと振りかぶる早

見。

  フラッシュ―良子「大人なんてみんなそうなんだと思うよ。飢えてんだ。何かに。それがもう何かなんか忘れちまうんだ」

 腕をおろす早見。

 立ち竦む早見。

  

〇 早見家・表(夜)

  トボトボと歩いてくる早見。

早見の背後から勉の声「早見君」

振り返る早見。

  立っている海道勉(55)と海道佑美(51)。

早見「こ……んばんは……」

  頭を下げる佑美。

早見「本当にすいませんでした!」

  悲しそうな表情の佑美。

佑美「いえ、私達にも責任があります。義也だって(突然嗚咽するように泣き出す)」

  佑美を支える勉。

勉「ごめんなさいね」

  呆然とする早見。

勉「こんなこと言いたくはなかったんですが、義也とはもう関わらないでください……」

  呆然とする早見。

勉「(頭を下げて)お願いします!」

早見「……」

  泣いて崩れそうになる佑美の身体を支え

ながら引き返す勉。

立ち尽くす早見。


〇 早見家・二階・早見の部屋・表(夜)

  必死で階段を駆け上がる良子、勇夫、芽

衣。

早見の部屋の扉を勢い良く開く勇夫。


〇 同・内(夜)

  ボロボロに砕かれたパソコン。

画面がひび割れたスマフォ。

  ラケットを片手に持って立っている早見。

  唖然として扉の外に立っている勇夫、良

子、芽衣。

勇夫「あああ、あああああああ」

  眉間に皺を寄せた表情で三人を見る早見。


〇 同・一階・居間(夜)

  テーブルでうつ伏せになって泣いている

早見。

早見を囲むようにして見つめている勇

夫、良子、芽衣。

勇夫「(早見の背中に手を乗せて神妙そうに)

金なら返すよ……」

 舌打ちをして勇夫を睨む良子。

 早見の背中から手をのける勇夫。

芽衣「お兄ちゃんの動画すっごい再生回数増

えてたよ。あすかちゃんだっけ? 皆で告

ったやつ。あの回超ウケたよ」

 うつ伏せのまま肩を震わせている早見。

 早見を悲し気に見つめる良子。


〇 同・二階・早見の部屋・内(朝)

  ベッドから落ちかけて眠っている早見。

  落ちて目を覚ます早見。

  インサート―掛け時計「九時半」

  焦って起き上がる早見。

  部屋を見渡す早見。

  散らかったパソコンの破片。

  転がって折れ曲がったラケット。

  ひび割れたスマフォ。

  その近くに綺麗に畳まれた早見の高校の

上下ジャージ。

ジャージを見つめる早見。

  ため息をつく早見。

  再びベッドに戻って毛布にくるまる早見。

  

〇 同・表

  砕けたパソコンの破片などが詰まったゴ

ミ袋を持って玄関から出て来る、寝ぐせ

頭でパジャマ姿の早見。

  玄関口に立っている海道と吉野。

  二人の姿に気が付いて驚いた様子で佇む

早見。

海道「(鼻息荒く)早見君。動画撮ろう!」

吉野「どうせ暇だろ?」

  吉野を睨む早見。

早見「お前らとはもう関わらない。俺さあ、

高校辞めるわ」

 ゴミ袋を持ったまま引き返して部屋に

戻ろうとする早見。

ドアを閉めようとする早見。

ドアが閉まる瞬間にドアを開こうとす

る海道の手。

  隙間から覗く必死の形相の海道の顔。

海道「僕ね。早見君と吉野君と動画撮ってる

だけの人生で良いんだ。でもね動画も撮る

し、教師にだってなるよ。なってみせるよ。

高校退学になったってまた他でやり直せ

ば良いんだから!」

早見「……俺はな。お前の事馬鹿にしてたん

だぜ? 俺以下の奴もいるから大丈夫だ

って目でお前の事見てたんだぜ。俺がお前

だったら俺の事一瞬でぶっ殺してるよ」

  早見の持つゴミ袋を見つめる海道。

早見「な。帰ってくれ」

  扉を閉めようとする早見。

海道「いやだ!」

  こじあけようとする海道。

早見「帰れつってんだろ!」

  閉まりそうになる扉。

  海道に加わって扉を開こうと手をかける

吉野。

早見「何だよ。くそっ」

  扉を両手で閉めようと踏ん張る早見。

吉野「見下すも、見上げるもどうだっていい

じゃあねえか。(海道の方に目を向けて)こいつな、あすかにもう一回告ったやつちゃんと録音してんだぜ。もはや盗聴だよ。動画にあげるためによ」

早見「そんなもんあげてどうする! 俺らが

惨めになるだけだろ!」

海道「吉野君だってね! 僕らが停学になっ

たっての聞いて自分から停学志願したん

だよ!」

早見「は?」

海道「でも駄目だって言われたからね。一人

で廃墟ではしゃいだ動画撮って警察に届

けたんだよ。しかも上裸で!」

吉野「おい、お前それは言うなって」

海道「動画撮ろうよ! 何だって良いじゃな

い! 僕らのだけの世界だよ!」

吉野「そうだ。ハヤちゃん。俺はな、確かに

お前らより運動はできるし、顔も良いし、

実家は家賃収入で安定してる。だからなん

だっつんだ! 俺は羨ましいんだ。お前達

が。自分がどう見られようって構わんくら

いに全身全霊で自分を表現できるっての

がよ!……でもな。俺も全部捨ててきたよ。

ちっぽけなプライドも全てな。今ならもっ

とできる気がするんだ。やるしかないんだ。

ここまで人生きちまったらよ」

早見「(半泣きで)クズ野郎……」

  突然座り込む早見。

  突然扉が開いて崩れ落ちる海道、その上

に乗っかるようにして倒れる吉野。

早見「(泣きながら)おめえら……ほんとにク

ズ野郎だな……」

  笑って顔を見合わす吉野と海道。


〇 割れたスマフォ画面の映像

  胡坐をかいて座っている井田。

早見の声「(ぶっきらぼうに)映画監督やって

たんでしょ。空中なんちゃらって映画撮っ

たんでしょ。井田監督」

 カメラ目線で険しい顔で睨んでくる井

田。

井田「(変顔で)忘れた」


〇 早見家・内・二階・早見の部屋

  床に置かれた早見のスマフォ。

  スマフォを囲むように床に座って足を組

んで座って円になる早見、海道、吉野。

早見「俺らが追ってたのは結局こんなきったない、撮れ高ゴミ以下の端くれじじいだったって訳だ」

  スマフォをじっと見つめている海道。

吉野「もう一回行こう。廃墟に通う理由をつ

きつめないとリスナーが離れちまう」

早見「そんなに会いたきゃおめえらだけで行

ってくれよ」

  考え込む三人。

  唐突に立ち上がる海道。

早見「(驚いて)ビビった。なに」

  にやにやしている海道。

海道「(自信ありげに)映画、映画撮ろうよ!

 井田監督に監督してもらってさ!」

早見「(腕をズボンで拭きながら)きったねえ。

お前唾飛ばすなよ。そのぐらい俺だって考

えたよ」

海道「(座って嬉しそうに)さすがハヤミンだ

ね! クリエイティブ!」

  舌打ちして海道を睨む早見。

吉野「なるほど。今までの動画とは一味違う

って訳だ。面白そうじゃん。そんな動画配

信者いねえもんな。……やろうぜ。ハヤち

ゃん」

早見「あー(困ったように頭をかく)……」

  沈黙。

吉野「な、頼むよ。俺がなんとかうまい事取

り合うしさ」

  思いっきり屁をこく早見。

吉野「イエスってことだな」

海道「やったああ」

  面倒臭そうに二人の顔を見る早見。


〇 電機屋「電気の井田」・内・畳座敷

  吠える雑種犬。

  井田の胸倉を掴む吉野。

吉野「おまえ。このやろ」

  必死で吉野を井田から引き離す早見と海

道。

早見「それはやべえって。落ち着けって。と

りあえず」

 呼吸を乱している吉野。

吉野「お前、それでも元映画監督かよ。こん

なきったねえところでウジウジしやがっ

て。おまけになんだそのふざけた態度?」

 襟元を正してフッと笑う井田。

早見「(吉野をおさえながら)お前が取り乱し

たら意味ねえだろ」

井田「どうしてそんなに吠える」

吉野「あ?」

井田「どうしてそんなに吠えるんだ」

吉野「ふざけんのもいい加減にしろよ」

  立ち上がって雑酒犬の方に立ち寄って頭を撫でる井田。

井田「俺は大丈夫だ。ありがとう」

  井田の後ろ姿を見つめる三人。

井田「ありがとう。ありがとう。……(泣き

ながら)ありがとう……ありがとう」

早見「だから頭おかしいって言ったんだよ」

  慌ててスマフォを取り出して撮影し井田

を始める海道。

井田「……(雑種犬を撫でながら)あの遊園地で俺は昔経理をしていた」

  眉を細める早見と吉野。

井田「だが近くにでっけえテーマパークが建てられて以来客足は途絶えた」

  再びよろよろと三人の方へ歩き出して座

敷に座る井田。

井田「まあ、座ってくれんか」

  顔を見合わせて座る海道と早見。

  早見に腕を引かれて座る吉野。

井田「逃げたんだ。俺は。何人分もの給料を

計算せずに退職届を叩きつけて逃げた。全

てから……怖かった。立場上もうここが無

くなるって分かっていた。……毎日挨拶し

てくる数少ない従業員と常連の家族の笑

顔に耐えれんかったんだ……」

早見「怒られなかったんすか?」

井田「さあ。当時の社員からの連絡先は全て

断ったからの。数か月後のニュースで廃園

になったことは知った」

早見「やっちゃったなあ」

井田「……そして数年後、誰もいなくなった

廃園に忍び込んだ俺は自分のデスクの中

を開いた。計算しかけた給与明細はそのま

まだった。おそらく引き継げなかったんだ

ろうな」

吉野「給料払えなかったと」

井田「……おそらく」

海道「(唐突に手をあげてスマフォを回しなが

ら興奮した様子で)じゃ、じゃあ、未練で

ずっと廃墟に通っていたのですか」

井田「(軽く頷いて)計算をしとった」

  キョトンとする三人。

井田「そしてようやく算出できた。払えなか

った賃金を。だがもう時すでに遅し。誰と

の連絡もつかない。誰一人じゃ。……すまん……すまんかった。一度失った信用はもう戻らんのだ」

吉野「映画は? 映画はいつ撮ったんだよ。

空中真二つ。商業だろ? そんな大事そう

な仕事の片手間で映画って撮れんのか?」

井田「……それは遊園地に努める前の話じゃ。

そして俺は次なる自分の映画を撮るため

にあそこで働いた。金の為だけにな。映画

なんてもんだけで食っていけるはずが無かった。俺にとって食うための仕事なんて

それ以上でもそれ以下でも無かった。懸命

に客に笑顔を見せ続けて顔がひきつって

る従業員を哀れに思っていた。そんなやつ

だったから、逃げることができた」

吉野「(笑って)最低だな」

  視線を落とす井田。

早見「ほかの映画は?」

井田「遊園地を去った後撮った。しかしイン

ディにも届かなかった。主演女優には嫌わ

れ、まさかの途中辞退。というよりも女優

そのものを辞められちまった。俺の映画は

挫折したんだ」

吉野「捨てた奴が捨てられたってわけだ」

井田「俺はその時初めて分かった。自分のし

たことの重みを。あの時、俺が放棄したこ

とで生まれた人の苦しみを……」

  泣き始める井田。

井田「悪かった……悪かった……謝りたい。

取り返しはつかないかもしれない。でも皆

に会って謝りたい。謝りたいんだ……でも

もう遅い。時間は心を癒してくれない。こ

の後悔はずっと、この十字架はずっと背負

って生きていくしかないんだ」

早見「(立ち上がって)はい、カット!」

  顔をあげる井田。

早見「(海道に向かって)止めて良いぜ」

  スマフォをしまう海道。

早見「全部撮った。おっさん。俺らネット界

では有名なんだ。皆見てるよ。おっさん面

白いよ。やっぱ。(吉野と海道の方を見て)

作戦変更だ。監督は俺がする」

  笑みを浮かべている吉野と海道。

早見「たまには人のためになる動画も良いだ

ろ。おっさん、俺ら全員停学中なんだ。不法侵入で。やりすぎだろ? でもそれで良

かった」

  ポカンとしている井田。

  顔を見合わせて笑みを浮かべる海道、吉

野、早見。

  

〇 ノートパソコン画面

  座敷に座って泣く井田。

井田「悪かった……悪かった……謝りたい。

取り返しはつかないかもしれない。でも皆

に会って謝りたい。謝りたいんだ……」

  インサート―コメント欄「おさむ虫:ち

ょっと感動。 パリ:許してやるよ。俺

じゃねえけど。 ライオット:涙ちょち

ょ切れ ワイン好き:神回じゃん。こい

つらこんな動画も撮れるんだ。 スクロ

ールされていく画面」


〇 早見家・内・二階・早見の部屋

  ノートパソコン画面に寄り添い合いながらながら見ている吉野、海道、早見。

早見「あっ」


〇 ノートパソコン画面

インサート―コメント欄「ヨ―次郎:ずっと見てました。信じてました。君たちなら撮りきってくれると。僕には撮れない動画を。ありがとう」


○ 浦部高校・体育館・内・全景(夕)

 半面を男子バトミントン部、もう半面

を女子バスケ部が活動している。

体育館の隅の方で腹筋をしている海道

を挟んで吉野。


〇 同・片隅(夕)

  腹筋をしている早見、吉野、海道。

  ラリーをしている他部員。

早見「俺らって、なんなんだろうな」

  海道の腹に手を乗せて負荷をかけるよう

にちょっかいを出す早見。

海道「(起き上がろうとしながら)ううううう

うううう」

吉野「クズとか、ゴミとか、ダメ人間とかそ

の辺は凌駕してる気がする」

早見「だな」

海道「うううううううううううううううう」

  海道の声に反応して三人の方に振り向く

コーチ。

海道の上から瞬時に手をどける早見。

  突然真面目に腹筋をし始める早見、吉野。

コーチ「おい、海道! さぼるな! 一生試

合出さんぞ」

海道「ええええっ」

  慌てて腹筋を再開する海道。

コーチ「もっと反省の色を見せろ!」

  そのまま別の部員の指導へとうつるコー

チ。

早見「結局前田は抜けなかったし、あすかに

はフラれたし、部活はメンバーから外され

た」

  海道の腹の上に腕を置く吉野。

海道「ううううううううううう」

  振り向くコーチ。

  真面目に腹筋を始める吉野と早見と遅れ

て海道。

  他部員の指導に戻るコーチ。

  突然体育館にドンドンという音。

  一斉に走りながらドリブル練習をする女

子バスケ部。

  その中にあすかの姿。

  腹筋を終えて仰向けのままあすかの方を

見る早見と吉野、海道。

早見「揺れてんなー乳」

吉野「おれ一生ここで良いわ」

  鼻息の荒い海道。

早見「まあ。なんだ。俺らには俺らしか知ら

ない世界があるっつうかさ。大人になって

も忘れなたくないっつうか」

吉野「だな……」

早見「俺、ぜってー忘れねえよ。この今の感

覚」

 ドリブルをしてレイアップシュートを

始める女子バスケ部。

吉野「お前将来何なんだよ。このまま動画で食っていくのか?」

早見「あほか。……とにかくあすかの乳は絶対に揉む」

吉野「非公式にか?」

早見「ばか。公式にだよ」

吉野「……ま、俺が揉むけどな」

早見「負けるかよ」

  鼻息の荒い海道の膨らむ股間。

  仰向けのままあすかを見続ける三人。

海道「あああああああっ」

  三人の前に立つ鬼の形相をしたコーチ。

  強張る三人の表情。

エンドロール


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ