ドラゴンと異能力
思ったより早く書けました。相変わらずめちゃくちゃなストーリーですが、お楽しみください。
「な、何故こんなところに…」
「先ほどまでこのような存在は周りにもいなかったぞ!」
ソラリスさんとアルフレッドさんが叫ぶ。
余りに圧倒的な威圧感。その巨躯は遍く全てを蹂躙し、その翼は空の支配者であることを否応なく伝えてくる。口から吐き出される吐息には炎が混じり、手足の爪は万物を切り裂く。そして体を覆う鱗はいかなる攻撃をも通さないと言わんばかりに、夕日を反射させてその存在感を主張している。
そう、ドラゴンである。
「に、逃げるんだ…!逃げろおおおおおお!」
硬直した体を、縫われたように閉じた口を開いた。アルフレッドだ。腰を抜かせていた伊藤君をソラリスが背負い、一直線に王都がある方向へと逃げる。俺も震えていた足を奮い立たせ、絶対強者から距離を取ろうと走り出す。
「ガアアアア!」
獲物を逃がさないとばかりにドラゴンが叫ぶ。その咆哮だけで意識が飛びそうになる。
「っ!うあっ!?」
足が縺れて転んでしまった。まずいまずいまずいまずい!死にたくない!
ドラゴンは赤い翼を羽ばたかせ間を詰めてくる。だめだ、余りの恐怖にもう足が立たない。
「うわああああああ!」
「っ!?源さん!!」
伊藤君が叫んでいる。その声もどこか遠く聞こえた。口を開き、食べ物を迎え入れようとドラゴンが迫る。
そして…何とか避けようと、横にずれたところで、俺の右腕は引きちぎられて食われた。
「っああああああああああ!」
痛覚が麻痺しているのか痛みはない。食われる瞬間すら、日が沈んで闇が漂う中では見えず、あるいは夢なのではないかとすら思えてきた。それでも叫ばずにはいられない。俺が食われている間に、外の3人は無情にも距離を取り逃げ続ける。伊藤君は叫び続けているようだが、もう聞こえない。
「グルルル…」
俺の腕が美味いのか知らんが、ドラゴンは口角を上げているように見える。痛覚ごと脳が麻痺しているのか、逆に冷静になってきてしまったようだ。そうして無理やり恐怖を超えた先には、理不尽な怒りがあった。
「…ざけるな…ふざけるな!」
こんなことがあってたまるか!オーバーヒートしそうな頭をフル回転させて、魔法を使うための化学式を頭に思い浮かべる。砂でも土でも、あるいは石でもその鱗を貫くことは出来ないだろう。ならばこそ思い浮かべるのは最高の硬度。炭素の同素体。水を氷に変えられるなら。炭素を変質させることだって出来るはずだ。
「ダイヤモンドパイル!」
そう、ダイヤモンド。槍なんかでは生ぬるい、その巨躯を貫けるのはあまりに無骨な只の杭。地面から生えてくるダイヤモンドは、ドラゴンの鱗など紙に等しいと言わんばかりに貫いた。
「グガアアアアアアアアア!」
腹に大きな穴を開け、ドラゴンが叫んだ。まさか自分から逃げまどうような雑魚に攻撃され、ましてやダメージを受けるとは夢にも思わなかっただろう。暴れまわる巨竜。しかし金剛の杭はそいつを逃がさない。
しかし、そこからすぐに逃げなかったのがいけなかった。暴れるドラゴンは体躯にも等しい長さを持つ尾を振り回し、俺をぶん殴った。
「がはっ!」
吹き飛ぶ体と意識。術者の意識が飛び、ダイヤモンドはマナへと還った。生命力あふれるドラゴンは大量の血を流して尚動き回ることが出来る。意識を手放した義隆を視認して、怒りながらも鼻で笑うという余裕を見せた。今度こそこの美味い肉をすべて喰らってやろうと近寄る。
「うっ…ぐっ…」
目を開けるとドラゴンがいた。怒りに燃えるその紅い瞳が煌々と輝いている。美しいとすら思った。だがドラゴンはその口を開ける。再度美味を味わうために。
俺はここで終わるのか?やっぱり初級しか学べていない俺の魔法では致命傷は与えられなかったようだ。それでも、死にたくない。止めろ、やめろ!
「止まれえええええええ!」
思わず目をつぶって叫んだ。どうしようもない、止まるわけがないと分かっていても叫んでしまった。
1秒、2秒、3秒と時間は経っていく
…ん?おかしくないか?
いつまでたっても食われない。まさか誰かが助けてくれたのか!?おそるおそる目を開けてみるが、そこには変わらず口を開いたドラゴンの姿があった。
「ひいっ!?」
余りの恐ろしさにまた叫んでしまった。だがドラゴンは動かない。まるで時が止まってしまったかのように。痛覚が戻り、ギシギシと悲鳴を上げる体。腕の出血はもはや致死量を超えかけているため、意識が再び朦朧としてきたが、それでもまだ死にたくないのでドラゴンの口から避けるように横にずれる。
「まさか…本当に止まってる?…だったら!」
10秒は経過しただろう、だがまだドラゴンは止まっている。最早理解不能だが、それでもこのチャンスを逃すわけにはいかない。再び金剛杭の構築式を頭に思い浮かべ、今度は必ず殺すために狙いやすい腹ではなく頭を狙う。
「ダイヤモンドパイル!」
体内のマナが枯渇し始めたのか、あるいは出血多量の影響か分からないが、頭痛がする。さらに朦朧とする意識を唇を噛むことで無理やり覚醒させて、渾身の一撃を叩き込んだ。
その一撃はピクリとも動かないドラゴンの頭を顎ごと貫いた。瞬間、止まった時が動き出す。ドラゴンは声も上げず力が抜けたように倒れ伏した。
倒した。ドラゴンを倒した。いまだに信じられないが、どうやらドラゴンは本当に止まっていたらしい。
俺が止めたのか?時間を操ったのか?それとも金縛りのようなものか?
「時間を操ったのだとしたら…」
出来るはずだ。
「巻き戻し」
自身を対象として録画したアニメのように巻き戻しを想像しながら唱えてみる。すると、間違いなく巻き戻しが起こり、傷は塞がり、腕がどこからか現れた。何事もなかったかのように。
「…は、ははっ」
いや、チートすぎるだろう。これどうすんだよ。時間止めてドラゴン倒しました、なんて報告した暁には、今まで低レベルだからと見逃されてきたのが、よくて監視が強まるだけか、最悪の場合はそのまま処刑されるんじゃないか。いや、伊藤君が俺を擁護してくれる限り、あるいは投獄くらいで済むかもしれない。少なくとも、龍殺しの英雄として称えられるようなことはないだろう。ではどうすべきか。まあここは名も知らぬ最強の人物を作りあげて、助けてもらったことにするのがいいだろう。俺が殺せるとはさすがの彼らも思ってないだろうから、案外あっさりと受け入れてくれるかもしれない。そう考えていたら、王都のほうから大人数で騎士達がやってきた。迅速な対応だな、きっと優秀な軍隊何だろう。伊藤君は見当たらないから、報告した先で休憩してるのかね。
先頭の隊長と思わしき人物が驚いた顔をして話しかけてきた。
「これは…一体…。まさか、貴殿が倒したのか?」
「いえいえ、あり得ないでしょう。私が殺されかけた時に、偶々通りかかったという冒険者の方々が助けてくれたんです。私の傷も治していただきました。」
「そうだったのか…運が良かったのだな。それでその者らはどこに?」
「急ぎの用事があるからと、ドラゴンの素材もはぎとらずにどこかへ行ってしまいました。もしかしたら目立ちたくなくてそんなことを言ったのかもしれませんね。」
言外に探すなと言ってみる。こう言っておけば、もしそんなパーティーが居たとしても、知らないと言われれば目立ちたくないと思ってくれるかもしれないし。
「ふむ…分かった。ではドラゴンの素材はこちらで回収させてもらってもらうことにしよう」
よかった、何とかなりそうだ。隊長と思われる人物が他の騎士達に伝え、早速彼らは素材の回収を始めた。そして彼らの一部隊を借りて、俺は王都へと帰還した。