第五話「コード交換」
今回は短いです。
「ブレンさん。用って何ですか?」
前にいたサフェラとロニエに追いつくとサフェラは俺の隣に緊張した面もちで立っているブレンの方を見ながら不思議そうに顔を傾けた。おそらく、ブレンの用というのに心あたりがないのだろう。
サフェラの隣にいるロニエは俺たちに会釈をするとアイコンタクトでサフェラに視線を送るってさささーと去っていってしまった。何故かその姿がリスみたいだなと思った。
「え、いやー。メッセージコードの交換がしたくて……」
「メッセージコードってIEの……ですよね」
サフェラが怪訝に思ったのか当たり前のことを聞く。それを聞いたブレンはこくこくと頷いている。こいつ、急に大人しくなって面倒な奴だなと俺はブレンの顔を見た。
「でも、どうしてですか?」
「えと……(チラッ)」
俺としてはサフェラのこの言葉までは想定内だったのだが、ブレンは良い答えが見つからないみたいで助けを求めるように俺に視線を送ってきた。俺は手助けをするだけのつもりで、その手助けとはサフェラに話しかける機会を得ることと勝手に自分で決めていた。だから、助け船をだしてやる親切心はさらさら持ち合わせていない。しばらく見ていることにした。
助けようもなにも第一、ブレンの目的を知らなかった。俺が助けるつもりがないのに気づいたブレンは俺を横目で睨みながらなんとか言葉をつむぎだしている。
「今、『ゼロ』の皆に知らせたいことがあってコードを集めているところなんだ」
それがどこまでが本当なのか嘘なのか俺には分からなかったが、サフェラは一応納得したみたいだ。いつもの明るい笑みを浮かべている。ブレンがほっと力をぬくのが分かった。
「そういうことなら喜んで。ブレンさんのコードも教えてください」
そう言ってどこからかメモ帳とペンを取り出したサフェラはさらさらとコードを書き出し、書き終わったのかメモ帳をビリっとちぎると畳んでブレンの方に差し出した。ブレンはそれをゆっくりとした動作で受け取る。サフェラが何かを待つようにブレンを見つめるとブレンは慌てて何かを探し出した。多分、紙とペンだろう。ブレンがそんな物を持ち歩いている訳がない。というかもし彼が持ち歩いていたら俺は、申し訳ないが普通に笑ってしまうだろう。ブレンが紙にメモをしている光景を思い浮かべて苦笑する。
いよいよ焦り始めたブレンにサフェラがため息をついて仕方ないなという感じでメモ帳とペンを左手に持ってブレンに差し出した。ブレンはそれをうすら笑いを浮かべて受け取る。その顔は俺からしてみると変質者のように気持ち悪い顔に見えた。
「マジありがとう助かったわ」
書き終わったブレンはそう言って、紙を丁寧にメモ帳からちぎって畳み、メモ帳の上にそのメモ、またその上にペンを乗せて両手でサフェラの方へと差し出した。サフェラは笑いながら頷く。
「なんかブレンさんが真面目な感じだと面白いというか新鮮ですね。では、じゃあまた」
と残して俺たちに軽く会釈した後、足早に去っていった。
俺もサフェラの言葉に同感だが、ブレンは不思議そうに顔を傾けてサフェラの歩いていった方向を見ていた。
「面白い……?」
「それはともかく、まぁコードを教えてもらえて良かったな。で、コードが必要だったホントの理由って何だ?あるんだろ?」
密かに気になっていたことをぼーっと考えごとをしているっぽいブレンに聞くとブレンは顔を俺の方に向けて言う。
「後で分かるよ」
その少し日焼けした健康そうな顔には、いたずらを企む子供みたいな微かな笑みが浮かんでいて、その企みは楽しそうなもののように見えた。そして、それは、確実に俺の興味をわかせるものだ。
「そうか」
俺はそう言ってサフェラが去った方向、洋館の入り口に向かって歩きだした。