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前世魔王だった妹のお話

最近、階段から突き落とされた妹が色っぽくなって困る

お兄さんの憂鬱。リア充爆発せよ。

俺には妹がいる。1歳年下の血の繋がらない妹。

何でも、両親の古い知人の娘らしいのだが、どうもその知人は妹を残して亡くなり、他に身よりがなかったので引き取って養子にしたとの事らしい。

当時はまだ物心つくかつかないかという頃だったので、正直全く覚えていない。養子云々の話も少し前に聞かされたものだ。

聞いた当初は………まあ、確かに「似てないな」と思う事はあったため、納得する部分はあった。

だけど、同じくらいショックを受けた。

これまでずっと過ごしてきた妹が、血の繋がらない相手ですと言われれば、ショックを受けるのは当たり前だろう。


だが、だからどうしたと言うのだ。


血の繋がりがなんだ。


養子に来たからなんだ。


彼女が俺の妹である事に何ら変わりはない。


これまで10年以上、俺たちは兄妹として過ごしてきた。

時に喧嘩もした。円満な関係だったと言えないかもしれない。それでも俺たちは兄妹。ほんの少しだけ、余所とは形が違うだけだ。

兄妹である事に、変わりは無い。

………と、そう勢いのままに言ってやると、思いっきり泣かれてしまった。

泣きじゃくる妹を必死に宥める中、側でにやにやしてた父親にドロップキックかましたのはいい思い出である(直後にパイルドライバーかまされた)。


………それから数年。俺も妹も高校生になった。

揃って同じ学校に進学し、気心知れた友人も出来た。

最近は………まあ、周囲がやかましくなる時もあるが、それなりに充実していると言っていい。

そういう中で、ちょっとした事件が起きた。

妹が誰かに階段から突き落とされたのだ。

幸い怪我はなく、少し頭が痛む程度(後日病院へ行ったが、特に異常は無かったので良かった)という事だったが、決して見過ごせる事ではない。

だがそれから間もなく、妹を階段から突き落とした犯人が、あろうことか再びあの子を標的にし、殺そうとしたのだ。


妹を屋上へと呼び出し、事もあろうに首を絞めるという行為に至った。

幸い、俺や先生達が近くで待機していて、あの子が携帯ですぐに助けを求めるという形にしていたため、大事には至らなかった。

………なお、それだけの行為を犯した犯人だが、皮肉にも巴投げの形で校庭へと投げ飛ばされ、木々がクッションになったので一命は取り留めた(妹が殺人者にならなかったので、まあよしとしよう)。

で、それからさらに数日。そんな事件の事などすっかり忘れて………。


「兄さん、お風呂わきましたよ」


「後でいいよ。最後に洗っておくから、先に入ったら?」


「ええ。………でしたら、兄さんも一緒にどうですか?」


そう、妙に色気のある笑みを浮かべて妹は言う。

………最近、妹が俺を性的な目を見るようになってきた気がして、正直、困る。











我が妹、玲夜はかなりの美少女だ。

いや、これは別に兄馬鹿だとか贔屓目だとかそういうのじゃなく、真面目な話で。

背丈は小柄な方だが、スタイルが際立っていい。胸も同世代では特に大きい方で、腰もほっそりしており、尻も大きすぎなくて………いかん、変態じみた感想になってしまった。

大人しい性格もあって、これまあではあまり話題に上ってはいなかったようだが、俺が感じるように色気が増した。………そう思う人間は多いようだ。

玲夜と同学年の友人(女)曰く、「意識してなかった分を意識するようになった」との事らしいのだが、ぶっちゃけよくわからない。

要するに、あの子が異性にモテるようになったという事なのだろう。

………まあ、兄として、妹が人気者になるのは複雑ではあるが、喜ばしい事ではある。

正直言って、あの子は内向的で、あまり周囲に心を開くようなタイプではなかった。

教室でもクラスメイトと談笑するのではなく、1人席に座って読書する、そんなタイプだ。そのせいで小学校や中学校の時はイジメの標的になった事もあり、その都度俺や友人が(物理的に)腕を振るった。

高校に入ってからはそういう事は無かったようなのだが、内向的な面は変わらず、友人も決して多いとは言えないまま、日々を過ごしていた。


それが変わったのは………やはり、あの事件の日以来だろう。

階段から突き落とされてから、どことなくあの子は変わった気がする。

具体的に言うと、色気が出た。

………うん、わかってる。あまり言葉にするような事じゃない。

こう………これまでは無意識のまま霧状にしていたものを、今度は意識的に形になって留まっている………自分でも何言ってるかわからないが、とにかくそういう事なんだ。理解出来なくても納得してくれ。

要するに、あの子の色気が増した。それで俺も困ってる。そういう事だ。


………あと最近、前屈みのままトイレに駆け込む男子生徒が多くなった、という話を耳にするが、きっと無関係だ。そうに決まっている。


「お風呂上がりましたよー」


早くもないが、長くもない。

入浴時間としてはちょうどいいくらいの時間で玲夜が上がってくる。

お湯が冷める前にさっさと入るか、と立ち上がり振り向いて………即座に視線をそらす。


「………玲夜」


「はい?」


「脱衣所でちゃんと服を着てこい」


………全裸、というわけではない。

バスタオルを身体に巻いている。………巻いているだけだ。

やっぱりお前性格変わったよな! これまではちょっと下着見られただけでも動揺しまくってただろ!?


「いえ、ついうっかり持ってくるのを忘れてしまいまして」


嘘つけ!

そう叫びたくなるのを我慢しつつ、冷静に事態を捉えようとする。

………俺も男だ。それに決して空気が読めないとか、女心がわからないとか、そういうのじゃない。

玲夜はわかっててやってる。間違いなく確信犯だ。

その目的は………まあ、俺なのだろう。

性格が141度くらい変わる前から、家族愛でない好意を向けてきている事には薄々感じてはいた。

いずれは、それに答えなくてはならない。そうは思っていた。

………でも、ねえ?


「湯冷めしてしまうと困りますし、何だったら兄さんと一緒に」


「いいから、さっさと服着てこい!」


そう言うと、俺は足早に風呂へと向かう。

この分だと「お背中お流します」とかで乱入されそうで怖い。そうなる前にさっさと上がってしまおう。

………烏の行水で済ませようとしていたところ乱入され、結局一緒に入る事になるまで、残り数分。











「という事があって正直困る」


「リア充爆発しろ」


「お前いきなり酷くないか!?」


妹と共通の友人である仁村千春から、そんな言葉を頂戴するハメになった。

なお、複雑な家庭の事情があり、ここ最近家庭板も真っ青な面倒事に巻き込まれていたとか。

そういう関係もあって、玲夜に起きた階段突き落としも防げず、悔しい思いをしていたらしい。

こいつのその複雑な事情を全て話すとなると、確実に2時間のドラマスペシャルだけでは済まなくなるため、割愛する事にする。


「だいたい、リア充って言ったらお前もだろ。玲夜から年下の男捕まえたって聞いたぞ」


「あーあーあー、何も聞こえなーい」


両手で耳をふさぎ、明後日の方へ顔を向ける千春だが、こいつもこいつでやらかしている。

何でも、実家絡みの面倒事を解決したら、もれなく5歳も年下の男の子なら懐かれたとか。

それだけならまだしも、家庭の事情から婚約まで結ぶハメになったらしい。


「でも実際、嫌じゃないんだろう?」


「………まあね」


頬をかすかに染めつつもそっぽ向く千春。

なんだかんだ言いつつ、面倒見のいい女なのだ。自分を慕ってくれる相手を無碍には出来まい。


「で、話を元に戻すけど、玲夜が最近押せ押せムードなんだって?」


「うん。それで困ってる」


「なんで?」


いや、なんでって………。

成人もしていない男女がそういう関係になるのは、ほら、あれだ。

将来の事も全く見えていないのだから、時期尚早というか、なんというか………。


「アンタも真面目だねえ。だから玲夜も惚れ込むんだろうけど」


「馬鹿言ってないで、何かいい対策ないのか?」


「てかさ、玲夜の事嫌いなの?」


誰もそんな事は言ってないだろうに。

ただ、家でやってるみたいな、ああいう肌色過多な姿で迫ったりするのはやめて欲しいというだけであって………。


「………うん、じゃあ聞くけど、陸斗は玲夜の事どう思ってるわけ?」


「どうって」


「ああ、兄としてって意見は聞いてない。男としてどうなの? 好き? 嫌い?」


………返答に困った。

嫌いじゃない。嫌いなわけがない。

ずっと一緒にいて、ずっと一緒に笑い合ってきた。

そんな相手を、どうして嫌えるものか。


「玲夜は間違いなくアンタが好きだ。けど、それは家族愛じゃない。アンタを1人の男として認識して、それで好きなんだ」


「それは………今までのアイツを見てればわかる」


そうでなければ、バスタオル一枚で迫ったり、風呂場に乱入なんてしない。


「で、対するアンタはどうなの? 好きってのは言わなくてもわかるよ。でもそれは男として? 兄として?」


そう言われて………即答出来なかった。

これまで考えていなかった事だ。いや、考えようともしていなかった。

風峰玲夜は風峰陸斗の妹だ。

その認識をこれまで変えた事はない。それ以上に考えた事はない。

だから、今までは兄妹としての認識でしかなかった。だからやめて欲しいと思っていた。単純にはしたないから。

………だから、千春のそんな問いに対し、何も答えられなかった。


「…………………………」


「オーケー。今までからすれば、そうやって悩むのはずっといいよ」


満足したように、千春は笑みを浮かべる。


「じゃ、次は応用編ね。アンタが玲夜をどう好きなのか考えてみて。それが分かれば、きちんとアイツに向き合えるでしょ」











「………ったく、妹も妹だけど、兄貴も兄貴でしょ。なんであたしがカウンセラーの真似事してるんだか」


そう言って、彼女は悪態をつく。

とはいえ、その表情は憎々しげなものではない。むしろ面白がっている。


「あれだけお膳立てしてやりゃ、少しは前進するでしょ。後は当人達の問題だし」


これまでは兄妹でしかなかった。

だが、玲夜が前世の記憶を取り戻した事で、全てが変わった。

認識の違いが、齟齬を生み出す。玲夜の好意と陸斗の好意のすりあわせ。それが今回の相談の大元だ。

とりあえず、陸斗の認識の齟齬は正した。後は当人達の問題だ。


「あたしも彼氏………って、婚約者いるんだった」


どうせだし、彼に癒やしてもらおう。

年下だが包容力は充分にある。疲れ果てた女の子を癒やすくらい、きっと大丈夫に違いない。

そう考え、千春はすぐさま彼の元へ向かうのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 千春の婚約者の名前はなんでしょうね。
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