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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
98/101

98 神話の魔物の恐怖

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「こおぉぉぉ……!」

深い息吹きと共に練り上げられた闘気(オーラ)が巨人王の右腕に集中する。

さらにその闘気が膨れ上がって、腕の形を形成した。

「いきますわ……『巨神王の一撃』!」

狙い済ましたその一撃、千頭竜の首を巻き込むような首狩り撃(ラリアット)が衝突音と共に炸裂する!

『ごあっ!』

巨人王の一撃に千頭竜が抵抗するも、その一秒後にはブチブチと鈍い音をたてながら竜の首は千切れ飛んだ!

「巨人族に伝わる一撃必殺の奥義……たっぷりと堪能していただけましたかしら?」

ごめんあそばせと優雅に空中で翻り、巨人王は軽やかに着地してみせた。


「獣気、開放!」

竜の頭の一つ狙って、獣王がリミッターを外す。

それと同時に、彼から吹き上がる闘気(オーラ)が巨大な虎の形となった!

「……乱舞!」

獣王がそうポツリと呟いた瞬間、その姿が幻影のごとく掻き消える。

『ぬっ!』

彼を見失った千頭竜が動揺した声を漏らしたその時、その眼前に獣王が現れた!

『っ』

千頭竜はなにかを言おうとしたのだろう。だが、それが声として発っせられる前に、竜の頭は闘気の虎から放たれる無数の攻撃を受けて、細切れの肉片と化しバラ撒かれた!

血飛沫よりも先に地面に降り立った獣王はふう……とため息を一つ吐く。

「今度はちゃんと存在感を示せたかな……」


『我に竜族の攻撃は通じんぞ!』

竜族の祖である千頭竜の言葉に、新竜王はニヤリと笑う。

「化石みてぇな千頭竜(げんしじん)に今の竜族の技を見せてやるよ!」

吠えると同時に、竜王はその口から強力なブレスを放った!

『こんなもの……』

鼻で笑いながら迎撃のブレスを吐いた千頭竜の顔が、突然驚きに染まる。

竜王のブレスは千頭竜のブレスを弾き、掻き消しながら突き進んでいったからだ!

そのまま千頭竜の口内に飛び込んだブレスの一撃は、巨大な爆発と共に千頭竜の頭を消し飛ばす!

「炎も雷も弾き飛ばす、純粋な竜気(・・・・・)のみのブレスの味はどうだったよ?」

だらりと下がる首だけとなった竜族の祖に、竜王は答えが返ってこない事を承知で問いかけるのだった。


(アルトとルフィナに感心してもらう為には、少し奮発せねばなるまい)

そんな邪心を抱きながら、鋼の魔王は神話の魔物と同様に太古の昔に封印されていた禁術を発動させる。

すると、鋼の魔王の手のひらに、野球ボールほどの黒い玉が現れた。

『ふははっ、なんだその情けない魔法はっ!』

上から降りそそぐ嘲笑を無視し、小馬鹿にする千頭竜の頭に目掛けて、鋼の魔王はそのボールを投げつける。

飛んできた黒い玉が当たりそうになる直前に、鼻を鳴らして千頭竜はかわそうとした。が、その頭がグイと玉に引き寄せられる!

『なっ!』

驚く声まで呑み込むような吸引力を発揮した黒い玉は、そのまま強引に千頭竜の頭を吸い込んでいく。

『かっ……ごご……』

小さな穴に無理矢理にでも大きな物を通そうとすればどうなるか……その答えを示すように、竜の頭部は千切れ、砕け、歪みながら小さな黒店に飲まれていく。

やがてその頭が消滅するのと同じくして、黒い玉も消え去った。

「古の虚空魔法……この世に使えるのは、我だけであろうな」

さりげなくアピールしつつ、鋼の魔王はすごーい!の声を期待してちらりと娘と嫁を盗み見る。が、二人とも己の敵に夢中で彼の方に目を向けてはいなかった……。


『エサァァッ!』

餓えた獣のように涎を撒き散らしながら、大きく口を開けた千頭竜の頭がルフィナに迫る!

彼女を一口で丸飲み出来そうな竜の(あぎと)に対し、臆した様子も無くルフィナは一歩前に出た。

鋭い竜の牙がその身に触れる瞬間、少しだけ姿勢を低くして攻撃をかわした彼女は、がら空きとなった下顎にショートアッパーを叩き込む!

軽そうに見えたその一撃は、しかし想像以上の威力をもって竜の下顎を打ち砕いた!

『!?』

無理矢理かち上げられた顎部の痛みに反応する前に、お手本通りに放たれたルフィナの右ストレートが千頭竜の顔面に突き刺さる!

たったそれだけで無残にも砕け散った千頭竜に対し、重撃王ことルフィナは感慨も無さそうにポツリと呟く。

「んー……やっぱり、チャルさんと()りあった時の方が楽しかったなぁ」


ルフィナに襲いかかったのとほぼ同時に、チャルにも大きく口を開けた千頭竜が迫っていた。

「よっと」

軽々と身をかわす彼女の耳に、爆発音のような肉と骨が千切れ、砕ける音が届く。

それがルフィナが千頭竜を攻撃したものだと悟ったチャルの口元に笑みが浮かんだ。

「一、二撃ね……じゃあこっちは……」

一口でチャルの細身を捉えられなかった千頭竜の頭が、再び彼女に狙いつける。

今度こそと再接近するその頭部が口を開けようとした瞬間、下顎のみを残して頭部が爆発した!

それを引き起こした蹴りを放ったチャルは、軽く足を振ってまとわりついた血や肉片を払う。

そうして、良きライバルであるルフィナにどんなもんだと、Vサインを向けるのであった。


「僕はチャルほど肉弾戦が得意な訳ではないから、小手先の技を使わせてもらうね」

怒濤のような千頭竜の攻撃をするりするりと避けながら、リディは腰に下げたポーチから二種類の魔法薬(ポーション)を取り出す。

「この魔法薬Aはある病気に、この魔法薬Bは怪我の回復に効果がある。だけど、この二つをある分量で配合すると……」

そんな風に説明しながら、まるで実験をするみたいな口調で、リディは二つの魔法薬を混ぜ合わせた物をすれ違い様に千頭竜の口に放り込む。

次の瞬間、混ざりあった薬は大爆発を起こし、千頭竜の頭を消し飛ばしてしまった!

その結果に満足そうに頷き、リディは一言呟く。

「まぁ、こんな事にならないよう、魔法薬(ポーション)は正しい用量、用法を守って正しく使いましょう……ってね」


「いくよ、ハミィ!」

「ガッテンです、主様!」

元のハミィの器であった魔剣を介して、エルは貯めていた闘気オーラを彼女に送り込む。

「ああ……ん……♥主様のモノが……あーしの中にいっぱい、入って来るぅ……♥」

魔王クラスから見ると一段落ちる彼女の為にエルが提案したこのブースト策ではあるが、ハミィは妖しげに頬を染め恍惚の表情を浮かべる。

いつもならばアルトのツッコミが入る所だが、彼女は彼女で戦っているためハミィは存分に妄想と快感に浸っていた。

やがて、満ち足りた顔になったハミィは、目の前の巨竜に向かって踏み出していく。

「主様から溢れんばかりの闘気(あい)を注がれた、今のあーしは無敵!」

一気に加速しながら両手を硬質化させてハミィは標的に向かって跳んだ!

「超竜気スピン!」

突き出した両手と全身にドリルのような回転を加えて一本の矢となった彼女は、千頭竜の迎撃を蹴散らしながら突き進む!

その勢いのままに竜の頭部を穿ち貫いた彼女に、エルと対峙していた頭の注意がほんのわずかに引き寄せられた。

「もらった!」

一瞬の隙。しまったと思う間もなく、その刹那の瞬間に千頭竜が見たものは、巨大な闘気の刃に乗って自身の首をはね飛ばす少年の姿だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……神の怒りが満ちる場所、罪深き遠砂の地より来たれ、理を乱す破滅の搭!」

詠唱ブーストで発動させた土魔法の巨大な杭は、千頭竜の首に大穴を開けるだけに止まらず、その頭を千切り飛ばす!

ドスン! と鈍い音をたてながら地上に落ちてきた首を見て、妾はようやく一息吐いた。

そうして辺りを見回してみれば、数秒の差はあれど皆ほぼ同時に千頭竜の頭を倒していた。

まぁ、千切る、細切れにする、切断する、打ち砕く、消し飛ばすとバリエーションはそこそこ豊かである。おかげで周囲は血の匂いに満ちていて、少々気分が悪い。

しかし、こちらサイドには被害らしい被害もなく、皆無事のようだ。

うん、この最後の戦いは、はっきり言って楽勝だったといっていい。


ふはは、なんだなんだ?

神話の魔物とかいって大口叩いて出てきた割りはには大した事はないではないか。

いや、むしろ妾達が強すぎると言った方が正しいかな?

なんといっても、魔界の魔王達に人間界の勇者達だ。そんなポッと出の神話の魔物ごときが敵うはずもない。

「アルトさーん!」

妾を心配していたのか、エルが手を振りながら駆け寄ってくる。

おお、愛い奴め。

少し気分が高揚していた妾は、駆けてくるエルを抱き締めてやろうと両腕を広げて彼を迎える。


ドクン!


不意に脈打つような響きが聞こえたのは、その時だった。

勝利を得たはずの皆の視線が、心音の元……つまり、千頭竜の胴体に集まる。


ドクン!


またも心音が鳴り響く。と、同時に、千切れた奴の首飾りから噴水のように噴き出していた血がピタリと止まった。

え……まさか……。

脳裏をよぎる嫌な予感。そして、それが大正解だと言わんばかりに、千頭竜の首の切断部が盛り上がりをみせる!

それはみるみる大きく延びていき、やがて破壊されたはずの各頭部は何事も無かったかのように再生を果たしていた。

いや、再生したことはしたのだが、何やら当初とデザインが少し違うような気がする。

そんな風に変化した頭部を観察していると、奴の真っ赤な目が再び見開かれた!


『やられた……と言うよりは、やってくれたな……と言うべきか。こうも見事に全ての頭を落とされたのは初めてだ』

称賛に値するぞと、珍しく千頭竜はこちらに敬意を示す。しかし、その穏やかな口振りがかえって恐ろしい。

『が、見ての通り我は首を落とされても再生が可能でな……これが我、千頭竜の名の由来よ』

なるほど……頭が十個なのに千頭竜(・・・)とは随分名前負けしてるなと思ってはいたが、その再生能力故か……。


でも、ちょっと待ってほしい。

首を全て落としても再生可能って、それはほぼ不死身ということではないだろうか?

少し無茶苦茶すぎない?

『さらに貴様らに絶望を教えてやろう』

追い討ちするように千頭竜は口を開く。

なんだ、まさか「あと二回変身を残している」とか言うのではあるまいな!?

『我は再生するたびに、ダメージを受けた攻撃に対して耐性を得ることができる。つまり先程と同様の攻撃では、さほどダメージを与える事はできんぞ』

マジであるか……。

ポカンとする妾達に、なんとも愉快そうな千頭竜の含み笑いが聞こえてきた。

な、なんて理不尽な! 再生した頭のデザインが少し変わっていたのはそのためかっ!


食えば食うほど強くなり、不死身の再生能力と耐性を得ていく超チート能力。

くそう、誰だ楽勝なんて言ったのは! 妾でした……。

だが、このとんでもないかくし球を持っていた神話の魔物をどうすればよいと言うのか……。

奴の言う通り、絶望を教えられた気がして、妾は背筋に冷たい汗が流れるのを感じていた。

この時期は杉の木を撲滅したい衝動に駆られますね……

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