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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
97/101

97 激戦開始

『ふははははっ、エサが向こうから集まってきよった!』

勇者と魔王達を前にしても、千頭竜は捕食者としての態度は崩れない。

おのれ、思い上がりよって! 痛い目見せてやるっつーの!

だが奴は、戦意を高揚させる妾達をぐるりと見回して口の端をつり上げた。

『……この程度で、死ぬなよメインディッシュども』

なに?

こちらを気遣うような呟きを千頭竜を漏らす。

いったい、どういうつもりだ……と疑問に思うのも束の間、突然やつの全身から巨大な魔力が溢れだした!


そして次の瞬間、千頭竜を中心として大爆発が起こり、玉座の間ごと城の上層部が吹き飛んだ!

凄まじい轟音と衝撃波が響き渡る。恐らく、この地にいた者全てが城へと目を向けた事だろう。

そして見たはずだ。巨大な十個の頭を持つ異形の竜と、それに対峙する妾達の事を。


「危ない所でした……大丈夫ですか、アルトさん」

魔剣に乗り、爆発寸前で妾を抱きかかえて浮上したエルが問いかけてくる。

うむ、お主のお陰でかすり傷一つ無いぞ。

「他の方々は無事でしょうか……」

ちゃっかりエルの背後に陣取るハミィが、眼下の惨状を見て呟いた。

竜族の城は上層部が完全に吹き飛び、ようやく煙が晴れ始めた所だ。

凄まじい破壊の衝撃ではあったが、実のところ妾はあまり心配していない。

あの程度でどうにかなるなら、魔王も勇者もやっていられないだろうからな。


「おっ?」

妾の予想通り、煙がだいぶ晴れてくると千頭竜の巨体と共に、父上達の無事な姿が見えてきた。

「おー、エルにアルト嬢。無事だったか」

気楽に声をかけて来るリディ殿に軽く手を振って答える。よく見れば彼らのの周囲にうっすら光る魔法の障壁が展開しているが、あれはおそらく父上が発動させた防御魔法だろう。

あの一瞬でほぼ全員を守るとは、さすがは父上である。

「こら、小僧! 何を気楽にうちの娘をお姫様抱っこしてやがる!」

妾を抱きかかえるエルに体して、抗議の声を父上は上げた。

んもう、感心しておったのに……。

「父上! 今はそれどころではないでしょう!」

「ア、アルトニエル……まさか我より、そっちの小僧の方がいいと言うのか……」

妾の言葉に、父上はショックを受けたように膝から崩れ落ちた。

そんな父上を、母上はよしよしとなだめている。

封印前の魔王として威厳に満ちていた態度からは、今の姿は想像もできないな……。

魔王としてではなく、父として接してくれるのは嬉しくもあるのだが、親バカな態度はちょっといただけない。


『全員、無事だったようだな。よしよし』

完全に視界が晴れ、千頭竜が妾達の無事を確認して頷いている。

自分でやっておいてよく言うものだとは思ったが、それよりも奴の異変に目がいった。

千頭竜は十個ある頭のうち、三つにある物をくわえている。

それは、ここに来るまでに母上達が倒した『色欲』と『嫉妬』、そして竜王に反旗を翻して倒された『傲慢』の七輝竜達であった。

『まずは前菜を片付けよう』

そう言うが早いか、千頭竜は七輝竜の体を丸呑みにしていく。

ゴクリと呑まれた者達が奴の喉を経由した瞬間、千頭竜の体がトゥーマを喰らった時のように、またも変化した。

巨大な体がさらに大きく、溢れる魔力がさらに強力に!

外見のデザインもトゲトゲしい物となり、触るものみな傷つけそうな勢いだ。


「っと……」

「これは……」

誰が言うでもなく、驚愕を含んだ呟きが溢れる。

無理もなかろう、それがこの場にいるすべての者の総意なのだから。

『ふははははっ、死に体の者ばかりだから無いよりはマシ程度で食らってみたが、中々上質のエサではないか』

意外にも予想以上のパワーアップができたのか、千頭竜は上機嫌だ。

敵を食えば食うほど強くなる化け物……万が一にも、ここにいる者達が食われてしまえば、まさに世界を滅ぼす災いとなるだろう。


『ふむ……この体にこの場所は狭すぎるな』

竜族の城でも手狭になるほどの巨体となった千頭竜は、ポツリと呟く。そして同時にその姿が視界から消える!

えっ! と誰もが思った瞬間、頭の上を大きな影が横切った。

と、跳んだぁ!

山のような巨体からは考えられぬほど軽やかに、まさに飛ぶように跳躍した千頭竜は、隕石の落下を思わせる着地で竜族城下の居住区に降り立つ!

『そうれ』

そうして軽いかけ声を上げながら、まるで玄関先でも掃除するみたいに住居となる建物を破壊し始めた!

竜族の居住区だけあって建物は妾達の物より大きいサイズだというのに、千頭竜の前では玩具同然。まるで良くできた町並みの模型を、大人が暴れて壊しているようだ。

妾達の侵入前に竜人の大半が脱出しており、多くの竜族も父上達の陽動にかかっておったから、いま奴が破壊している場所に殆ど竜族と竜人(ひと)がいなかったのが不幸中の幸いか。


一通り暴れて更地を作り出した千頭竜は、こちらを向いて大きく吠えた。

『さぁ、戦いにちょうどいい場所はできたぞ。お前達の抵抗を見せてみろ!』

食う前に遊んでやると言わんばかりの上から目線とその言葉に、魔王と勇者のプライドが逆撫でされる。

よーし、上等だ! 逆に食い殺してやろう!

だが、考えなしに突っ込んでも返り討ちに逢うことは必至。

だからここは一つ作戦を……。


「……ちょうどいいですね、ここにいるのは十人で奴の頭も十個。一人一首で同時に破壊すれば奴も倒せるかもしれません」

エルが皆を見回してニコリと笑う。

ああん、それは妾が言おうと思っていたのに!? でも、彼の笑顔が可愛かったから良しとしよう。

「さすがだ、エル! いい所に気がついた!」

「んもー、ホントこの子は賢いんだから!」

「さすがです、主様!」

ここぞとばかりに両親殿とハミィがエルを誉めまくる。むぅ、妾も参加したい!

「くっ……我が娘も自慢したい」

「アルトちゃん、何かないかしら!?」

親バカに対抗意識を燃やさんでくださいと冷静に両親を嗜めて、城下に佇む千頭竜を見る。

確かに千頭竜(やつ)は強大かつ強力だ。

しかし、ここにいる面子ならば奴の首を一つずつ、一撃で落とす事も可能であろう。

狙いが被るとまずいからと、あらためて誰がどの首を狙うかを確認する。

そうして皆の標的が決まった所で、父上がズイと前に出た。


「これから我がお前たちを魔力で奴の側に飛ばす。各々、絶好のポジションを頭に浮かべよ」

おお、さすが父上。そんな器用な魔法が使えるとは!

感心する妾と母上に、さりげなくピースする父上。そんな父上から発っせられた魔力が皆に届くと、それぞれの体がフワリと浮いた。

「行けぃ!」

かけ声と共に、流星となった妾達が千頭竜へと殺到する!

「はあっ!」

迫る妾達を迎撃しようとする姿勢を見せた奴に向かい、妾は閃光魔法を発動させてその目を眩ませた!

『ぐっ!』

奴が僅かに怯んだ瞬間に、全員が絶好のポジションへと到達する!


うおおおおおぉぉっ!!!!!!!!!!


皆の雄叫びが重なり合い、それぞれの必殺の一撃が千頭竜へと向かって解き放たれた!

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