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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
96/101

96 集結する力

 ミディアムなんて事を言っておきながら、妾達を消し炭にするような威力の炎が迫る!

 ふっ……しかし、慌てる事はない!


「『暴食』!」

 ハミィがその身に宿る七輝竜の能力を発動させると、迫っていた炎は彼女の体に吸い込まれていく。

 見たか、これぞ物理攻撃以外の魔法や闘気(オーラ)を食いつくす『暴食』の力よ!

「なぜ、アルト殿がドヤ顔を……」

 ハミィは呟くが、細かい事は気にするな。


 そして、今度はこちらの攻撃を食らうがいい!

「……満ちよ、爆ぜよ、極光の瞬き!」

 詠唱が完成し、発動した爆発魔法が千頭竜の頭が密集する地点で轟音と共に破裂する!

 どうだ! 詠唱無しでも巨石を砕くこの魔法、詠唱ブーストされた今なら小城の半分くらいは一発で破壊する自信があるぞ!


『ぐるるる………』

 もうもうとした煙が晴れると、うなり声を上げる千頭竜が姿を現す。

 十個の頭は健在だ。ちいっ、頑丈な奴め。

 しかし、さすがに全くの無傷というわけではない。

 十の頭のうち、二つは表面が焼け爛れぐったりとしているし、一つは血泡を口の端しからボタボタと溢している。

 この調子なら、あと数発ぶちこんでやれば勝てるだろう。


 そんな計算をしていた妾の方に、千頭竜(やつ)は目を向けてくる。

 そして気づいたようだ。エルの姿が無い事に(・・・・・・・・・)


『こ……』

 小僧はどこに……とでも言いたかったのだろう。しかし、その言葉を口にする前に、爆発に紛れて千頭竜の死角に回っていたエルが襲いかかった!

「サイクロン・リッパー!」

 必殺技のかけ声と共に、斬撃の渦となったエルと千頭竜が交差する。

 風を巻きながらエルが着地した瞬間、巨木のような奴の首数本から、大量の血が噴き出した!

「くっ……落とせなかった」

 七輝竜の首でも一撃で落とせる必殺技を持ってしても、千頭竜に深手を負わせるのが精一杯……それをエルは悔しがる。

 しかし、それは誇ってよい所だぞ。この世界でどれだけの人間や魔族が同じことをできるか……なんなら後で、妾が個人的にご褒美をくれてやってもよいな。ふふっ……。


『やるねぇ……』

 ほとんど無傷だった千頭竜の頭の一つが、ニヤリと笑いながら妾達を称賛する。

 ふん、この期に及んでまだ上から目線とはな。見ておれ、その首もすぐに吹っ飛ばしてくれるわ!

『残念だが、それは無理だな』

 千頭竜がそう呟くと、ダメージを受けていた箇所にボコボコと泡が噴き上がり、あっという間に元通りになってしまっていた。なにそれ、ずるい!


『見ての通り、この程度の傷など問題にもならんわ。だが、これだけのダメージを我に与えたのは大したものだと誉めておこう』

 くっ……まさかこんなに高い回復能力があるとは。

『さて、我のターンだな。簡単に死んでくれるなよ?』

 遊びの延長みたいに言いおって!

 向こうのペースに乗ってやる必要はない。貴様のターンなぞ知ったことかと、攻めの姿勢を見せた時、千頭竜のすべての頭が妾達に向けて照準をつけた。

 え……十個の頭の同時攻撃!?

 ちょっと待てぃ!

 そう叫ぶ間も無く、竜の口からは炎が、雷が、水流が、竜巻が、毒が、衝撃波が!

 ありとあらゆる、竜のブレスが妾達に向かって襲いかかる!


 さすがにハミィの『暴食』でも、これだけの攻撃を食いつくす事はできない。

 そう判断した妾は、皆を覆うように魔力の障壁を展開した!

 間一髪、凄まじい破壊の嵐が届く前に防御することには成功する。しかし……これはヤバい。

 千頭竜は今だ止むことなくブレスを吐き続け、妾の魔力障壁を削っていく。

 奴にはまだ余裕があるが、詠唱ブースト無しで作った障壁に注ぎ込まねばならない魔力量は、想像以上に多い。

 このままではじり貧だ……。

 なんとか隙を突きたい所だが、迂闊に障壁の外に出ればあっという間に粉々になってしまうだろう。


「ぐうっ……おのれ……」

 ブレスの圧力に押され、ジワジワと膝が落ちていく。

『ぐふふ……ほれほれ、もっと頑張ってみせよ』

 ブレスを吐きながら、器用にこちらを煽る奴のなんと憎たらしい事か。

 しかし、実際に妾は押されて反撃の切っ掛けすら作れない。

 これは本気でヤバい……。

「アルトさん! 頑張ってください!」

 妾の背中に、エルが声援を送ってくる。

 よーし! 妾、頑張る!

 おらぁ! とばかりに少し押し返す妾に、千頭竜は僅かに興味深そうな顔をした。


 エルの応援のお陰で、なんとか互角の状態にまで持ち込んだものの、やはり反撃の糸口は見えない。

『ふむ……どうやら、ここまでらしいな。では、そろそろ終わりにしよう』

 戦いに飽きたと言わんばかりに、終わりを告げる千頭竜。

 そして吐き出すブレスをさらに強めようとして……突然、その巨体がよろめいた!

 先程まで、竜王と『傲慢』の七輝竜が埋まっていた瓦礫の山……それが唐突に弾けて、飛び出した影が千頭竜に体当たりをしたためだ!


「おいおい、ちょっと寝てる間に……何がどうなってるんだ、こりゃ?」

 現れた影は、妾や千頭竜を見回してそう呟く。

『なんだ、貴様は……』

 不意打ちを食らった千頭竜に問われ、謎の乱入者は待ってましたとばかりに名乗りを上げる。

「知らぬというなら教えてやろう。我こそは新たに『焔の竜王』の名を継ぎし者! これ以上、部外者に好き勝手な真似はさせんぞ!」

 生きておったのか、ワレ!


「ふん……そこの魔族のガキどもはまだしも、こんな化け物まで城内を彷徨いているとはな」

 憮然とした態度の竜王に、千頭竜も不機嫌そうな唸り声を上げる。

『お楽しみはこれからという時に、よくも邪魔をしてくれたな……貴様から食われたいのか』

「やってみろ、化け物……」

 睨み合う竜王と千頭竜。

 あれ……? なんか妾達、蚊帳の外になってない?

 しかし、これはチャンスかもしれん!


「竜王殿! 妾は『鋼の魔王』の娘、アルトニエルと申す。どうかその千頭竜(バケモノ)を倒すために助力をお願い致す!」

 妾の申し出に、エルとハミィがビックリした顔になる。

 だが、うまい具合に千頭竜と敵対してるし、死んでいたと思っていた竜王がこちらの味方になるならありがたい。

 ところが、竜王はこちらを睨み付けるような視線を送ってきた。

 んん、なんで?

「『鋼の魔王』の娘……ってことは、『どっかの重撃王』の娘でもあるって事だよな?」

 その通りだが、なんでこやつがその事を……あっ!

「うちの親父が世話(・・)になった、あの伝説の魔王の娘か……」

 そうだった! 母上はチャル殿達と一緒に先代の竜王(こやつの親父)をボコボコにしていたのだった!

 あー……その節はどうも。


「あれで弱っていた親父は、表沙汰にはならなかったがトゥーマの野郎(・・・・・・・)に殺された(・・・・・)。お陰で竜族は酷く混乱したもんだぜ」

 何っ!? 母上達にボコられたのが死因という訳ではなかったのか。

 というか、トゥーマの奴め。自身で父上にトドメを刺しておいて、しれっと他の魔族に兄貴の始末も手伝わせようとしていたとは、とんだ腹黒野郎ではないか。


「まぁ、そんな訳だからな。お前らに味方しろと言うなら、条件が……」

「そんな事を言っている場合ですかっ!」

 竜王の言葉を遮って、エルが叫ぶ。

「色々な因縁があるのはわかります。だけど、今はそこの怪物を倒さなければ全てが終わるんですよ!」

「そうです! 主様の言う通り、今は協力し合うべきです!」

 エルを後押しするようにハミィも説得に加わる。

 二人の熱意を向けられた竜王は……。


「というか、ここにいる人間ということは、親父を倒した魔王と一緒にいた人間の関係者か? あと、暴食の七輝竜(イーシス)がなんでそっちにいる?」

 うっ! こやつ意外に鋭いし、細かい!

「えーっと……」

「あ、あーしはイーシスではなく、ハミィですし……」

 簡単に説明できる訳もなく、言葉につまるエルとハミィ。

 そんな二人をじーっと見ている竜王。

 ええい、でかい図体で細かい事ばかり気にしおって!


「話は戦いが終わってからでよかろう! とにかく、今はその千頭竜を倒すために力を貸せぃ!」

 そう、まずは世界の危機を排除しなければ何も始まらないのだ。

 妾達だけでも無理っぽいし、竜王だけでも無理だろう。

「……ふん、まぁ確かにそうだな。いいだろう、今は協力してやろうじゃないか」

 よーし! 新戦力ゲット!

 まぁ、後でなんやかんやとゴネてきたら、みんなで説得(・・)すれば良いしな。フッフッフッ……。


『話はすんだか? では仕切り直しといこうか』

 話がまとまるまで待っているという余裕を見せる千頭竜に、妾達は再び正面から対峙する。

 正直な所、竜王が味方になった今でもまだ奴の方が有利だ。

 しかし、間も無く状況はひっくり返える。

 そう……もうすぐ来るはずだ。


「そいやー!」

 軽いかけ声と共に、玉座の間の扉が吹き飛び、そちらに全員の目が向けられた。

「お待たせー」

「みんな、無事か!?」

 扉を蹴破った母上と、エルの両親が室内に入ってくる。

 そしてそれと同時に、今度は玉座の間の壁が魔法の爆発によって大きな穴を開けた!

「さすがに竜族の居城なら、私のサイズでも余裕ですわね……」

「アルトニエル、ルフィナ!大丈夫か!?」

 壁に開いた穴から、竜族に負けぬ巨体な淑女が姿を現し、その右肩に掴まった父上が叫ぶ。

「あれが神話の怪物……でかいな」

 そんな父上と正反対な反応を、同じく巨人王の左肩に掴まっていた獣王は見せた。

 よし、これで形勢逆転だ!


『ほう……有象無象がよくも集まったものだな』

 続々と集結する魔王達と勇者を前にして、千頭竜は言う。

 その言葉からは、エサが増えた(・・・・・・)くらいの感情しか読み取れない。おのれ、舐めよって!

 余裕ぶる神話の魔物に目にもの見せるべく、魔王勇者連合(わらわたち)は戦闘を開始した!

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