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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
93/101

93 竜王の玉座にて

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 風が吹きすさぶ、地上から三百メートル程の上空に妾達はいた。

 父上達と別れた後、すぐにエルの魔剣に乗り、この地点まで飛び上がって機を伺っていたのだ。

 妾の張り巡らせた魔力の障壁により、風圧も寒さも遮断した何気に快適な空間で上空を旋回しつつ、地上に目を凝らす。

 地上(した)では父上達を始め、皆が大暴れしている事だろう。

 妾達が今やろうとしているのは、真正面からの突貫ではなく、上空(うえ)一気に玉座を狙う奇襲である。

 これなら万が一にも『嫉妬』や『色欲』の七輝竜とかち合う事もなかろうし、雑魚に時間を取られる事もない。


「そろそろ行きます。準備はいいですか?」

 エルの呼び掛けに、妾とハミィはいつでもOKと頷いてみせた。

「それじゃあ、行きます!」

 掛け声と共に、妾達は急降下を始める!

 色々と遮断してはいるけれど、グングンと城が迫ってくる視覚情報だけで結構怖いな、これ!

 そうして竜の城にある程度まで近づいた時、エルが妾に合図を送った。

「アルトさん!」

「おおう! 任せておくがいい!」

 妾は、待機状態にしておいた魔法を発動させる!と、次の瞬間、四個の巨大な火の玉が発生し、妾達を追い抜いて城壁を破壊した!


「うおおおっ!」

 ポッカリ穴の開いた箇所へと目掛けて、特攻をかける!

 ついでに、横の回転(エル曰く、必殺「サイクロン・リッパー」)を加えて、進路上にあるかもしれない障害物や敵を斬り刻むという、隙を生じぬ二段構え!


 しかし、幸いにもその斬撃にヒットするものは無く、壁を破壊した時に沸いた土煙を払いながら、妾達は城内への侵入を果たした。

 さすがに王の間だけあって有象無象がひしめいていたりはしない。というか、まったく人気(ひとけ)がない……?

 妾達の目の前にいたのは、へたり込んでいた竜族(人化の魔法を使ってるぽい)しかいなかった。

 その格好からして、近衛兵とかではなく秘書か何かの文官っぽいが……?

 いかに『竜王』がこの地で最強だろうと、数人くらいは近衛をつけていても不思議は無いのに、ちょっと無用心過ぎるのではないだろうか?

 おかしいなと思いつつも、とりあえず先に一発かましてやろうと、妾は堂々と名乗りを上げた!


「我が名はアルトニエル・ローゼル・バオル! 『焔の竜王』もしくは『傲慢』の七輝竜に戦いを挑みに参った!」

 いざ尋常に勝負!と堂々と告げる!

 しかし、妾達の前でへたり込む文官は青い顔のまま震えるだけだ。

 えっと……大丈夫であるよ?

 いきなり乗り込んでは来たけど、妾達は無差別にヒャッハー!するようなモヒカンではないぞ?

 ビビり過ぎている文官を落ち着かせようと優しく微笑んでみたが、奴の態度に変化はない。


 んもー!

 こんなに美しく気高い妾と、凛々しくも可愛らしいエルと、外見ギャルっていながらもそれなりに礼儀正しいハミィを前に、こんなに怯えられるなんて心外も甚だしい。

 何をそんなにビビっておるのか。

「あ……ひょっとして、ハミィの外見(・・)が……」

 エルが何かに気づいたように呟く。

 んん? ハミィの外見って……あ!


 そうだ、ハミィの外見……というか、その肉体は『暴食』の七輝竜イーシスのものだった!

 そりゃ、自分の所の大幹部が他所の魔族とつるんでいきなり玉座に乱入してきたら、下克上を疑ってビビりもするか。

 いやー、謎が解けてよかった。

「……いえ、どうやら違うようです」

 納得顔の妾とエルに、何かに気づいたらしいハミィが言う。

 違うってなにが……。

 言われて震える文官を改めて見てみると、奴の視線は妾達を越えてその後ろに向けられている事に気がついた。

 はっ! まさか妾達の背後にっ!

 背中から襲われる可能性が頭をよぎり、バッと振り返る!


 ──そこには、妾が突入の際に砕いた城壁の瓦礫が山のように積み上がり、その下に二匹の竜が下敷きになっていた!


 ……………は?

 え、この二匹って……。

竜王(ヅィーア)様……『傲慢(スーチル)』様……」

 微かにではあるが、文官の声がその二体の名を呼んだのが聞こえた。


 ()ーん……。


 文官の呼び掛けに、竜達はぴくりとも反応しない。

 し、死んでるー!?

「「ええーっ!!」」

 さすがのエルやハミィも、驚愕の声を上げた!

 え、なんで!? まさか、妾の魔法一発で竜王と七輝竜が死んだとでも!?

 予想外すぎる事態にあわあわしていると、「ち、ちがう……」と文官が呟いた。

 ぬ! きさま、何か知っているな!

 グイッと締め上げると、そいつはあっさり口を割った。


「す、数日前にトゥーマ様に勝ったヅィーア様に、スーチル様が戦いを挑んだんだ……」

 何っ!? まさか、七輝竜の筆頭であるスーチルはトゥーマ派だったのか?

 しかし、よく聞けば単にダメージを受けていたヅィーアに、今がチャンスとばかりにスーチルが挑んだようであった。

 さすが『傲慢』、隙あらば上に立とうとしよる。

 だが、これでトゥーマ率いる連合軍に勝利した竜王と竜族が、なぜかしばらく動かなかったのかがわかった。

 まさか、内部抗争をやっていたとは……。

「け、今朝になってようやく争いの声が止んだから確認にきたら……」

 二体が相討ちになっており、ついでに妾達が突っ込んで来た……と。


 ええ~、しかしこんな事ってあるかね?

 意気揚々とボス・ステージに乗り込んだら、そのボスが狙っていた敵幹部と相討ちになってましたって。

 肩透かしなんてもんじゃない、えらい透かし方をされた妾達は、これからどうしようかと顔を見合わせた。こんなの想定していなかったからなぁ。

 もう、勝手に勝利宣言でも出してしまおうか……そんな事を話していると、ふとこちらに近づいてくる足音が聞こえる。


 カツーン……カツーン……。


 徐々に近づいてくるその足音は、この部屋の扉の前でピタリと止まる。え、何? ちょっと怖い……。

 誰が来たのかと注目していると、ギギギ……と重厚な音を立てて扉が開く。

 するとそこには、疲れたように俯いた一人の青年が立っていた。


「……あの時、言った通りにすぐ戻って来たぞ……兄貴」

 顔も上げずに、俯いた体勢のまま青年は呟く。

 あれ、兄貴って……もしかして、こやつはトゥーマか?

 妾が会ったのは竜族との戦争前の時だったが、随分と雰囲気変わったなぁ。

 余裕こいてた良いところのアンちゃんが、破産してホームレス一歩手前って感じになっておる。

「俺はあんたらに負けてから、起死回生の力を求め、手に入れた……」

 妾達の存在に気付かず、クックックッと笑うトゥーマ。さらに何やら言葉を続けている。


 あー、えっとどうしよう……。

 多分、彼はヅィーアに話しかけてるつもりなんだろうけど、俯いているせいか室内の状況が解っていないようだ。

 なんか、すごく雰囲気出してるし、話しかけてる相手は死んでますよなんて声を掛けづらい……。

 せめて、チラッとでも室内の状況を確認してくれたらいいのに。


「見せてやろう……俺が新たに手に入れた究極の力を……」

 やがて、言いたい事を言い切ったらしいトゥーマが、言葉を溜める。

 なんか重大な事を言うつもりなんだろうが、この状況ではやらかす瞬間が迫って来ている事の方に気がいってしまい、彼のセリフが頭に入ってこない。

「今度こそぶっ殺してやるよぉ! ヅィー……あ?」

 叫びながら顔を上げたトゥーマの声が、間抜けな響きになる。

 彼の視線の先には、殺すべき対象が瓦礫の山に埋もれてすでに死んでいたという酷い光景。


「死んでるーっ!!!!」

 トゥーマの絶叫が、室内に響き渡った!

 ……その気持ちはわかる。合掌。

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