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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
91/101

91 それぞれのターゲット

 結局の所、妾達はチームを四つに分ける事にした。

 『傲慢』の七輝竜を狙い、ひょっとしたら竜王ともかち合うかもしれないチーム。

 そして、『色欲』の七輝竜と『嫉妬』の七輝竜をそれぞれに受け持ち、残りは他の竜族を押さえる役目といった振り分けである。

 前の戦いの反省点を踏まえた小数精鋭の電撃作戦ではあるが、チーム分けに少々揉めたりもした。

 ハミィがエルと同じチームに配属を切望し、リディ殿とチャル殿はコンビで動きたいと言う。なにより、父上が母上と一緒じゃなきゃ嫌だとゴネ始めたのには参った。

 しかし、ハミィやリディ殿達ならともかく、父上? なに言ってんですか、父上?

 まさかの子供をじみた言動に呆れていた妾に、「大人の愛はお前にはまだ早いかな」等と説かれては、なんと返してよいのやら……。

 だが、敵に対しての相性というものもあるので、ここは妾が厳選させてもらう事にした。


 反論は許さぬ! そう最初にかまして、チーム分けをしようとした時、不意にハミィが手を上げる。

 ん? なんだね、ハミィくん?

「ちなみに、アルト殿はどのチームに入る予定なのでしょうか?」

 なんだ、そんな事か。

 それはもちろん、エルと同じチームに決まっている。

 そう答えた途端に、ブーイングの嵐が妾を襲う!ずるいずるいの大合唱に、思わずたじろいでしまった。

 だ、だって、妾とエルは相性最高なのだから、最高のパフォーマンスを発揮するためには一緒の方がいいじゃない!

「あーしだって、主様との相性は最高なんですけお!」

 顔を真っ赤にして食い下がるハミィを皮切りに、皆が我も我もと不満を漏らす。


 ぐぬぬ……ええい、良かろう!

 それならくじ引きといこうではないか! 文句無しの一回こっきりであるからな!

 そんな感じで、世界の命運を分ける第一回チーム分けくじ引き大会は開催されるのであった。


 ────ふふん♪

 やはり、妾とエルは運命的に繋がっておるのだな♪

 見事、エルと一緒のチームになった妾は、上機嫌であった。

「……あーしがいることもお忘れなく」

 ちっ……まぁ、静かに牽制してくるハミィも一緒のチームにはなってしまったが。

 まったく、エルの両親にアピール合戦をしてからハミィの攻勢っぷりは何なのか。

 そういえば、前にエルから聞いたことがある。

 ハミィは無機物(まけん)から有機物(イーシス)の体になって以来、本能に根付く事柄に積極性が出てきていると。


 今回もそれか……などと考えていると、ハミィが妾とエルにだけ聞こえるように話しかけてきた。

「仕方の無い事ですが、主様の正妻の座はアルト殿にお譲りします……ですが」

 その時、不意に雷の音が鳴り響く!

「主様の子を最初に孕むのはあーしです!」

 カッ! と落ちる雷の逆光を背負い、ハミィは断言する!

 何を言ってるの、この娘!?


「何を言ってるの、ハミィ!?」

 唐突な彼女の言葉に、さすがのエルも困惑している。

 しかし、当のハミィは誇らしげに胸を張ると、もう一度宣言するように言い放った。

「言葉の通りです、主様にアルト殿。序列は三位かもしれませんが、主様への愛情と忠義は負けませんから!」

 だから頑張りましょうと、エルにすり寄るハミィをなんとか引き剥がす!

 ええい、この孕みたガールが! 何を頑張ろうというのだっ!

 まったく、竜族にも発情期ってあるのだろうか? 教えて、エライ人!

 ギラギラと野生の炎を宿したハミィに、妾は底知れぬ恐ろしさと共に、負けられぬという対抗心を覚えるのだった……。


 さて、チーム分けが終了し、どのチームがどう動くのかを(またくじ引きで)決めた妾達は、来るべく決戦の日に備え、それぞれ動き始める。


「噂に名高い『鋼の魔王』殿の話は先々代から聞いていますよ。一つ、手合わせを願えますか?」

「私も一手、御教授お願い致します」

「ふふん、若僧どもめ。寝起きの運動にちょうどいい、一つ揉んでやろう」

 雑兵の竜族を引き付け、蹴散らす役となった『獣王』と『巨人王』、そして父上が、それぞれの腕試しを行うようだ。

 魔王三人による組み手とは、豪華ではあるが怪我が心配である。


「あなたー、あんまり無理しちゃダメよー!」

 単独で『色欲』の七輝竜に当たる母上が、父上達に声をかけた。それに答える父上に、にこやかな笑みを返している。

 『色欲』の七輝竜は男を虜にする能力があり、以前の戦闘では兵が同士討ちをさせられたという。故に、母上が単独で挑む事になった。


「多少の怪我なら僕の魔法薬(ポーション)で回復できますから、安心してください」

「私も少しなら回復魔法が使えるからねー」

 リディ殿とチャル殿も、父上達に声をかける。

 この二人には『嫉妬』の七輝竜を担当してもらう。

 敵の嫉妬心を増幅させ、やはり同士討ちに導く『嫉妬』の七輝竜だが、この二人の間にはそういった暗い感情が無さそうなのでちょうどいい。


 現に今も、

「貴方と一緒に戦えるなら、竜族の幹部だって瞬殺できるわ!」

「おっと、僕だって君が見ていてくれるならどんな敵でも秒殺するさ」

 などと二人だけの世界を作ってイチャついている。言ってる事はずいぶんと物騒だが。

 全く、世界の命運がかかっているのに緊張感の無い二人だ。

しかし、ピッタリくじ引きでコンビになる辺り、この夫婦の絆の強さが半端でない事を感じさせる。

 あと、父上と母上は羨ましそうにリディ殿達を眺めるのを、止めてください……。


 はぁ……父上はもっと厳格なお人だった筈なのに。

 その事で突っ込んだら、「あのキャラ疲れるし……家族しかいないから良いかなって……」などと言い返された。

 そりゃ、部下の前では多少はキャラ造りするものだとは思うけど……。

 でも、何となく父上に作られた骨夫が、あんな性格だった理由がわかった気はするわ。


「アルトさん、僕たちも何か作戦を立てておきましょうか?」

 物思いに耽っていた妾に、エルがそんな提案をしてくる。

 まぁ、妾達が担当するのは七輝竜のリーダー格で最強と噂される『傲慢』なのだし、場合によっては『竜王』との連戦もあるかもしれないのだから、心配するのも無理はなかろう。

 だが、妾の魔法とエルの剣技……ついでにハミィの前では、最強の七輝竜だろうが、成りたての『竜王』だろうが負ける気がしない!

 無論、油断は禁物だが、それでも固くなって実力が出せぬよりは全然良いだろう。

「なるほど、相手が何であれいつもと変わらぬ心構えと言うことですね!」

 さすがはアルトさんとエルに誉められ、ちょっと照れてしまう。いやぁ、それほどでも。

「あ、あーしも頑張りますから!」

 妾が誉められた事に対抗心を燃やしたハミィが意気込みを伝えると、エルは笑顔で彼女に返す。

「うん、頼りにしてるからね」

 その言葉を聞き、ハミィは満面の笑顔で頑張りますと繰り返した。

 もしも彼女に尻尾があったら、凄まじい勢いで振られていたであろうな。

 だが、これでリーシャまで帰還したらどうなる事やら……。

 あやつも妾を認めていながら、時おり出し抜こうとするからなぁ。

 帰還後のさらなる激戦の予感に、妾は小さくため息を吐くのであった。 


 そうして、二日後。

 あれやこれやと準備を整え、妾達はいよいよ竜族の領地へと向かう。

 唯一の懸念材料であった、竜族の支配から逃れたがっている竜人達への離脱の手はずは、『竜人開放同盟』の長、ドラゴン・慶一郎の意思を魔界猫達のネットワークを通じて密かに伝えてあるので、これなら巻き添えなんかもちょっとでも減らせるだろう。


 はたして鬼が出るか蛇が出るか……いや、出るのは竜なのだろうがね。

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