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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
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90 復活『鋼の魔王』

 部屋を満たしていた煙が晴れていく。

 すると、踞っているような人影が妾達の視界に現れた。


 何処からともなく響く「デデンデンデデン、デデンデンデデン……」というバッグミュージックを背負い、パリパリと音を立てる雷を纏いながら全裸姿(・・・)で片膝をつくあの人は──。

「父上ぇ!」

 妾の呼び声に反応して、父上……『鋼の魔王』はゆっくりと顔をあげた。


「おお、アルトニエ……ル……か……」

 妾の声に答えた父上の動きが急に固まる。

 ん? どうしたというのだろうか?

 その視線は妾……ではなく、隣のエルに向かい、そして二人の間で止まった。そう、繋がれた手と手の所で。

「小僧ぅぉぉぉ! 誰に断って人の娘と手を繋いでおるかぁぁっ!」

 唐突に激昂する父上。

 誰にって、強いて言えば妾にです!

 しかし、そんな言葉も届かないのか、父上は全裸のままズンズンと迫ってきた!

 せめて何か身に付けてください!


「あなた、ステイ!」

 妾達に手を伸ばし、あわや! といった所で動物を躾るみたいに、母上が背後から父上をひっぱたく!

 それで我に返ったのか、父上は母上を驚いたような表情で見つめた。

「カタストルフィナ! 君まで居てくれたのか!」

 母上の名を呼び、途端に満面の笑みを浮かべて父上はそのまま抱きつく。

「おお……君が何処にいてもわかるように魔界を統一しようとしたが、我の元に帰って来てくれるなんて……」

 幸せの青い鳥はすぐ近くにいたんだねと、幸せそうに母上に頬擦りをする父上。

 そんな父上を仕方ないなぁ……といった風に頭を撫でる母上は、まるで子供をあやしてるようであった。


 正直、こんな父上見たこと無い。

 妾の記憶の中では、いつも厳格な雰囲気だった。しかし、母上の慣れた対応を見るからに、これはいつもの夫婦間でのやり取りなのだろう。

 今は封印を解かれたばかりでテンションが上がっているかもしれないが……後で思い出して父上はおろか、妾も恥ずかしくなるやつだ、これ。


「……ところで、アルトニエルと手を繋いでいる小僧はもとより、これは何の集まりだ?」

 ようやく回りに目を向ける余裕ができたのか、父上は母上から受け取ったマントで体を覆いながら周囲を見回す。

「あなたが『鋼の魔王』殿ですね。僕はアルリディオ。二百年前にあなたを封印した勇者の子孫です」

「にひゃっ!?」

 ギョッとしながら、父上は妾と母上の顔を交互に見る。

 頷く妾達に、それがリディ殿の冗談でない事を悟ると、マジかといった顔で呟きはじめた。


「ええ……確か二、三日くらい封印されといて、カタストルフィナが我の元に来たら勇者が『大成功』の看板持って現れる手はずだったのに……」

「あー、それに関してはちょっと手違いがありまして……」

 リディ殿に説明されて、妾の早とちりから封印期間が予想外に伸びた事を知った父上がこちらを見る。

 やめてください……そんな目で見ないで……。

「まさか……我のために仮死の眠りについていたなんて……」

 おや? 父上の声は呆れている様子ではなく、なにやら感極まっているような?


「アルトちゃんが我の事をそんなに想ってくれていたとは! パパ感激!」

 パパ!? 父上が自分で自分をパパなんて言うのは初めて聞いた!?

 先程の母上とのやり取りもそうだが、妾の知らない父上の姿に戸惑うばかりだ。

 感涙している父上を母上が再びなだめて、ようやく話は妾達が置かれている現状について説明する事となった。


「──なんとも衝撃的であるな」

 さすがの父上も、リディ殿から聞かされた話を受け入れ難いようではある。

 しかし、現『獣王』や『巨人王』が一同に会している状況では信じる他ない。

「今、僕らにできる事は即座にで竜族を制して、神話の魔物を迎え撃つべく人と魔族が協力する体制を取る事です」

 協力してくださいと、手を差し出すリディ殿に、父上は一つため息を吐いた。

「フッ……かつては力で魔界を征しようとした我だが、こんな形で世界が一つになるとはな」

 自虐的に笑いつつ、父上はリディ殿の手を取る。

 固く握手する古の魔王と勇者の子孫。うむ、なんだか感動的ではないか。


「だがなぁ、娘を任せるかどうかは別の話だからな、小僧ぅ!」

「はい!アルトさんは僕が絶対に守ってみせます!」

 釘を刺すように父上は睨み付けるが、エルはどこかズレた返事を返す!

 それを聞いた父上は少しヒクついていたが……エルの言葉が嬉しくて、つい「ふふっ」と笑い声が溢れてしまった。

 ちゃんと妾を守るがよいぞ?

 そんな妾達の様子に、父上は大きくため息をつく。

「魔界の至宝とも呼ばれた自慢の娘だったが……まさか人間となぁ……」

 寂しそうなその呟きは妾に届く事はなく、母上だけがそんな父上の背中をポンポンと叩いていた。


 さて、無事に父上も復活を果たした事だし、残る問題は竜族と神話の魔物だ。

 できる事なら竜族も魔物退治の手伝いをしてもらえればありがたいのだが、それは難しいだろう。

 竜族は生まれつきの強さ故か傲慢で協調性が無く、自分達以外は奴隷か害虫くらいにしか思っていないドが付くほどのエゴイストである。

 仮に力ずくで従わせても、土壇場で裏切ること請け合いであるから、はっきり敵のままのスタンスでいてもらった方がいい。

 それに神話の魔物の子孫という話もあったからな。下手に魔物の味方されたら面倒だし、先に手を打っておいた方が良いだろう。

 そんな訳で、妾達は竜族を攻略すべく、食事会を兼ねた作戦会議を行っていた。


「んー、だからさ。バーンと行ってガーッとやっちゃえば良いんじゃないかな?」

「そうよねぇ、ドーンとやってしまえば、案外ガチッて行けちゃうものねぇ」

「いやぁ、でも七輝竜という幹部もいるからね。もうちょっとこう、ギュッとするところはいるんじゃないかな?」

「このご飯、美味しいですわね」

「七輝竜ったってあと三人だろ? ガンガンやっちまえはいいんだよ」

「本当だ、人間界の飯は美味いな」

 モリモリ食事をながら、身振り手振りを交えてふわふわとした言葉を交えていた。

 お分かりいただけたであろうか?

 そう、魔王達と勇者の子孫(このひとたち)、揃いも揃って脳筋過ぎる……。

 作戦会議と言いながら、さっきから基本的に正面突破を前提としてしか話をしていないほどの脳筋なのである!

 妾も口を挟みはするものの、結局はどう正面から突っ込むかの話にループしてしまいらちが空かない。

 唯一、それ以外の話が出るのは「エルの作る飯が美味い」という事くらいで、堂々巡りしてる感が半端じゃない。

 せめてエルがこの場に居てくれれば妾の発言にも賛同してくれるのだろうが、彼は今厨房にかかりきりで、ハミィや魔界猫達も給仕にてんてこ舞いてあった。


 はぁ……軍師(リーシャ)……彼女がここに居てくれればなぁ。もっとキチッと作戦は纏まるだろうに……。

『うふふ、アルト様。言葉の洪水で丸め込んでしまうのが一番ですわよ♪』

 なんだか、人間界で後方支援の準備をしているであろう、彼女の声を聞いた気がした。

 そうかな……そうかも……。

 よーし、妾とてエル達と共に激戦を潜り抜けてきたのだ!

 この話を聞かない人達もねじ伏せてやろうではないかっ!

 気合いを入れ、エル作った食事を平らげる。

『アルトさん、頑張ってください!』

 すると、この場にいない彼が応援する声が聞こえた気がした。

それだけで、ちょっと笑みがこぼれる。

 それで気合いの入った妾は、再び魔王と勇者の子孫達の不毛な議論の中へと飛び込んでいった!

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