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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
83/101

83 禁忌の地

 妾達の目の前に広がる光景。

 それは……。


「フハハハ! 酌じゃ、もっと酌をせい!」

「はぁ~い、どうぞ骨夫様」

「うむ、苦しゅうない」

「ねぇ~ん、骨夫様ぁ……私もエル様と一晩供にしたいなぁ」

「おう、任せておけ。兄貴分の私が言えば、エルも喜んでお前のベッドにダイブするわい!」


 数人のエルフをはべらせて、殿様気分で豪遊する骨夫の姿だった。

 いや、もう本当にいっぺん死ねばいいのに……あ、すでに死んでたか。

 しかしなぁ……ちょっとは心配したというのに、何をやってるんだ、こいつは……。


「おい、骨夫……」

「あぁん?」

 声をかけた妾に、イキった様子で振り向いた骨夫の表情が固まる。

「お、お嬢……それに皆さんお揃いで……」

 ダラダラと滝のような汗を流しながら、慌てふためく骨夫の様子に、空気を察したエルフ達が音もなく姿を消す。

 どうした、さっきまでの余裕は……笑えよ、骨夫。

「骨夫さん……ちょっと擁護できません」

「主様をダシにするなど……万死に値します」

「最低ですわ……」

「今のは(エルフ)でも、ちょっと引きます……」

 骨夫の醜態に擁護する者もおらず、心から下衆を見るような目で見られて骨夫が俯く。そうして、か細い声で言った。

「なるべく痛くしないで下さい……」


 ────大鍋でグツグツ煮られる骨夫をよそに、妾達は近くにいたエルフにティアームを呼び出してもらう。

 すると間もなく、またも息を切らしてティアームが駆けてきた。

「お、お待たせしました、アルト様……」

 ハァハァと荒い呼吸を吐き、やや汗ばんだ肌が妙に色っぽい。

 以前会った時のように、また男を取っ替えひっかえしてたのではあるまいな?

「そんな事は……前の十人抜きを二周していただけですわ!」

 ああ、うん……もういいや。

 尽きぬ性欲を誇るアマゾネス・エルフの族長に呆れつつ、早々に話を進める事にした。


 妾が今現在、『緑の帯』周辺で起こっている事を話すと、ティアームは驚きの表情を見せる。

 んん……? ひょっとして知らなかったのか?

「そんな……森の外に魔物が……それではまるで、あの伝説の……」

「何か知っておるのか?」

 意味深な事を呟く彼女に詰め寄って問いただす。

 すると、なぜか青ざめた表情でティアームは、アマゾネス・エルフの族長とそれに近い者のみが知る伝説を教えてくれた。

 それによれば、『緑の帯』の最深部、禁忌の地と呼ばれる場所には、かつて世界を滅ぼしかけた巨大な魔物が封印されているという。

 『緑の帯』とは、決して甦らせてはならない魔物の封印であり、結界その物だというとも。

 もしも森から魔力が消え失せたのなら、それは禁忌の魔物が解き放たれた証。そして世界は終わりを告げる……そんな伝説である。

 長く受け継がれてきた族長の系譜だからこそ、その話が本物だと確信しているのだろうか……。

 ティアームの顔色はさらに青くなり、心なしか震えているようでもあった。


 森の魔力が無くなれば、封印は解かれ結界は役目を果たさなくなり、内にいる魔物も外に放たれる……か。

 それは確かに今の現状そのものだ。

「まさか、その伝説の魔物が……」

 神妙な顔で呟くエル。そんな彼の手を握り、安心させるように妾は微笑む。

「なぁに、心配するな。どんな伝説の魔物であろうと、妾達にかかればイチコロよ!」

 そう、旅を通じて強くなった妾達ならば、たとえ最強の竜や魔王と呼ばれる存在でもそう簡単にやられたりはしない! いや、むしろ勝てるんじゃないかな?

 そんな妾達が力を合わせれば、無敵と言っても過言ではない。禁忌の魔物がなんぼのもんじゃいというやつだ。

 妾の言葉にエルをはじめ、彼の空いた手を握ろうとポジションの取り合いをしていたハミィとリーシャも頷く。


 力強く堂々とした妾達の態度に、ティアームも落ち着きを取り戻したようだ。

「なんにせよ、確かめて見なければなりません。ご案内致します……禁忌の地へ」

 決意のこもった顔でティアームが言う。

 うむ、それでその場所は?

「伝説によれば、そこは『緑の帯』の最北端……この村から真っ直ぐ北へ一週間ほどの距離です」

 け、結構遠いな……。

「さらに途中には大小の魔物の巣や縄張りが在りますので、突っ切るにしろ迂回するにしろ、倍くらいの時間はかかると思います」

 そんなに!

 うーん、まいったな……そんなに時間がかかりそうだとは、完全に予想外だ。


「……ほ~ねお~、フフフフン♪」


 ……どうしたものかな。カートの転移魔法では、そう長い距離は移動できんし。

「そうですね……私の転移魔法では、よくて数日短縮できるくらいでしょうか」

 で、あるな。竜族の動向や、行方のしれぬ魔王の現状と心配事はいくつもあり、あまり時間はかけたくないが……。


「ほ~ねお~、フフフフン♪」


 ……ってもう、さっきから妾達の後ろで鼻唄でのアピールがうっとうしいことこの上ない。

「何か用か、骨夫!」

 妾が声をかけると、鼻唄が止み大鍋の中からプカリと頭蓋骨が浮かび上がってきた。


「フフフ……どうやら私の出番みたいですなぁ」

出汁は録れてなさそうだが、たっぷり灰汁は浮いている。それにまみれて、骨夫が不敵に笑う。

 ふん……わかっておるよ、ただ意図的にお前の存在を廃除していただけだ。

 しかし、背に腹は代えられぬ……骨夫、妾達のパーティに復帰せよ!

「イエス! マイ・マスター!」

 なにやら格好つけながら、大鍋から這いずり出てくる骨夫。川から上がってくるワニみたいな動きで出てこんで、どうせなら格好つけておればよいのに……。


「ふふふ、さぁて……私がただハンサムに磨きをかけていただけではないと言うところを、お見せしましょうか」

 寝言を言いながらコキコキと骨を鳴らして、骨夫は北の方角へ手を伸ばした。

 そうして、じわじわと不可視の魔力を集中させていく。

「んん……………見えたっ!」

 カッと(イメージ的に)目を見開き、いつものような転移口(ゲート)を発生させる!

 おお! この先に禁忌の地がっ!?

 かなりの長距離だし、転移先に目印となる知り合いの魔力も無いというのに、やるようになったではないか。

 珍しくいい所を見せた骨夫を褒めてやると、お嬢やエルに負けてられませんからねなどと頼もしい事を言う。

「頑張って頑張って、精一杯努力しながら生きてりゃ結果だってついて来るってもんですよ!」

 こんな風になっ!とドヤ顔をした骨夫の歯が爽やかに光る!

 うんうん、死んでるくせにいいことを言うな。いつもこうなら、妾ももっと信頼を置けるのだが……。


「ほらほら、行きますよお嬢!」

 己の成果で調子に乗ったのか、骨夫は意気揚々と転移口(ゲート)に飛び込んでいく。

「こら、待たぬか! 一人で行くでない!」

 まったく……禁忌の地が安全な場所とは限らんのだぞ! むしろ危険な所の可能性が大きいんだから、わざわざ一人になりに行くな!

 慌てて妾達も骨夫を追い、転移口(ゲート)を潜る。

 軽い立ちくらみのような、いつもの感覚。

 そうして転移した先で、目を開くとそこは緑深い森の中とは思えぬ殺風景な広場のような場所であった。


「ここが……禁忌の地……?」

「その通り! よくぞここまで来たな!」

 ポツリと呟いた妾の声に答えるように、何者かの声が森に響き渡る!

「誰だっ!?」

 思わず聞き返すと、今度は周囲に笑い声が響き、それと同時に木の上から複数の人影が舞い降りて来た。

 な、何者だ!?

 動揺するこちらを嘲笑うように、突如現れた謎の人影達は覆面(マスク)に包まれた顔を上げ、妾達の前に立ちはだかるのであった。

骨夫の鼻唄はコブラのOPのイメージでお願いします

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