08 最強のパーティ結成
「本当にすいませんでした!」
骨夫をが妾の使い魔だと知った少年が深々と頭を下げる。
「まったくもう……私だっから大丈夫だったけど、普通の魔物だったら死んでたぞ、坊主!」
てきぱきと倒れているウルフ・三郎及びチンピラどもの身ぐるみを剥ぎながら、骨夫は少年を責めていた。
まぁ、少年にも悪気は無かったんだし、お前は妾からの魔力供給があれば回復出来るんだから、そろそろ許してやれ。
『口の聞き方を知らぬ骨だな……。主殿に代わって我が叩き斬ってやろうか?』
しかし、少年に対して辛辣な骨夫の態度に、彼の魔剣が口を挟む。
「はぁ? 自分一人で行動も出来ないナマクラが何か言いましたか?」
大人げなくベロベロと舌を出しながら魔剣を挑発し返す骨夫。
今更だがお前、舌があったのだな……スケルトンの癖に。
ガチガチと、鞘と骨を鳴らして魔剣と骨夫が威嚇し合う。
仲が悪いな、コイツら……。
「ありがとうね、ハミィ。でも、僕の勘違いで骨夫さんを傷付けてしまったんだから、ここは引いてくれないかな」
少年に言われて、魔剣は御意と答えると大人しくなった。
「やーい! 怒られたー!」
「お前もいい加減にせい」
さらに調子に乗ろうとした骨夫の頭を叩いて釘を刺す。
ったく、仮にも魔王の四天王がそんな事でどうする。
さて、ようやく話ができそうな雰囲気になったので、妾は気になっていた事を少年に尋ねようとした。が、その前に……。
「チンピラどもから救おうとしてくれたようで、礼を言わせてもらおう。妾はアルトニエル。アルトと呼ぶがよい」
さすがにフルネームを教えるわけにはいかなかったが、とりあえずの自己紹介をして右手を差し出す。
「助ける……といったらおこがましいかもしれませんでしたけど……。僕はエルトニクスです。エルと呼んでください」
エルと名乗った少年は、少し躊躇しながらも妾の手を握った。
すると、途端にエルの顔が赤くなる。
ふふふ……初な反応が可愛らしいな。
「ところで、先程たまたま君とその魔剣の会話が聞こえてしまったのだが、なにやら腕の立つ仲間を探しているのか?」
妾の問いかけに、エルは真面目な顔つきになって頷く。
「もしかしたら協力できるかもしれん。良ければ訳を聞かせてはくれまいか?」
普通なら怪しむ所なのだろうが、妾の見た目の高貴さと骨夫のような強力な使い魔を連れている実力を前にして、突然の申し出ながら、エルは素直に話はじめてくれた。
「…………う、うう……そんな若さで、苦労してるんだな……」
エルの話を聞いた骨夫の咽び泣く声が響く。
うむ……確かに、齢十二にして魔物に拐われた両親を助ける為に、単身魔界に乗り込むとは、感心すると共に同情を禁じ得ない。
「見たところ、アルトさんは魔族の中でも貴族階級の方とお察しします。何かそういう事をしそうな魔族に心当たりはありませんか?」
貴族どころか魔王の娘ですけどね(内緒だが)。
しかし……父上復活のために勇者の系譜を拐った(化け物も着いてきたが)妾達ならともかく、今の魔界にそんな真似をする奴がいるのだろうか?
「だいぶ交流が盛んになったとはいえ、未だ人間と敵対する魔族もいますからね……」
眠っていた妾と違い、ずっと世の流れを見ていた骨夫が肩をすくめる。
うん、まぁ勇者の系譜がいるかもと思ったら警戒したくなる奴の気持ちもわかるけど。
とりあえず情報を得られなかった事に、エルは少なからず落胆したようだった。
そんな彼に、骨夫は先程特産品フェアで買ってきた人間界南部地方の焼き鳥料理を一串渡して元気付ける。妾にも一本もらおう。
「エルよ、どうだろう。良ければ妾達に力を貸さぬか?」
焼き鳥を頬張りながら、キョトンとした表情でエルがこちらを見る。
「実は妾達も事情があって、腕の立つ強者を求めているのだ」
そうして妾は魔王の娘であることを伏せながら、事ここに至った経緯を語って聞かせた……。
「そうですか……アルトさんのお父さんを助けようとしたけど、強力な人間に襲われて城を逐われてしまったと……」
うむ。マジで洒落にならなかった。
「こう言ってはなんだが、妾の父上は魔族の中でもかなりの力を持っている。故に、妾達を助けてくれれば、おぬしの両親を拐った犯人に関して、情報を集めてやれるぞ」
両親を助けたいエルに対して、妾の都合を優先させるのはちと心苦しいが、宛もなく広い魔界を無闇にさ迷うよりは効率が良い筈だ。
急がば回れというやつだな、うん。
「……確かにその方が近道かもしれませんね」
そうであろう!
「わかりました……アルトさん、骨夫さん。これからよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げてエルは妾の仲間に加わる事を承諾した。
よし! 人狼を一撃で倒せるくらいの、強者ゲット!
見ておれ勇者の系譜!
「ふはは、まぁお嬢の御父上が復権したら、それはもう凄いから事になるから、大船に乗ったつもりでいなさい!」
何故か大口を叩く骨夫を口を滑らせないように少し締め上げ、ひとまずは相談の場も兼ねて、今日の宿をとることにした。
三郎達から巻き上げた資金もあるし、少しグレードの高い所にしよう。
そうして宿泊を決めたのは少しランク高いホテル。
で、早速妾達はそれぞれの風呂(大浴場、広々としてグッド)に入って汗を流し、食事をしながら互いの戦力について情報交換を行う。
その結果、
妾→ジャンルを問わず色々な魔法が使える。
骨夫→骸骨兵の召喚、転移や回復の魔法が使える。
エル→肉弾戦が得意、魔法剣を使用すれば単独で下位の竜も殺せそう。
といった事が解った。
歳に見合わぬ強さのエルや、アンデッドのくせに回復魔法を使う骨夫はちょっと常識から外れ過ぎな気もするが、妾が不利になる案件ではないので良しとしよう。
妾が普通すぎてしょっぱく見えるのは、些か不満ではあるがな……。
──さて、そうこうしている内に夜も更けてきた。子供は寝る時間だろうし、そろそろ休むとしよう。
そう言って別れた妾達ではあるが……。
「これでは眠れぬな……」
呟きと共に妾はベッドから降りる。
なんという事はない、ベッドが粗末過ぎるのだ。
いや、妾とて城にあったような最上級の物は期待していなかった。
しかし、二百年も眠りについていた、いわば眠りのプロといえる妾からすれば及第点とは言い難い。
何か、もう少しアクセントがあれば……そう思った時、ピンと閃くものがあった!
思いつきを実行する前に、部屋の隅で体育座りをしていた骨夫に声をかける。
「骨夫よ、今日はお前がベッドを使って良いぞ」
「マジっすか! やったー!」
言うが早いか、骨夫は即座にベッドに横になった。
……少しは躊躇せんか、お前は!
叱りつけようとした妾だったが、早々と寝息を立てる骨夫を見て思いとどまる。
考えてみれば、勇者の系譜を捕らえに行き、それから丸二日チャルフィオナに追われ、その後は転位魔法の連続といったハードな日々だったからな……。
疲れがたまっていてもおかしくはあるまい……アンデッドが疲労するのかはしらんが。
少々の疑問に首を傾げながらも、妾は部屋を出て目的の場所に向かった。
──その扉の前で、コンコンとノックをする。
少し遅れて、返事と共にエルが扉の隙間から顔を覗かせた。
「よう」
「ア、アルトさん!」
妾が軽く手を上げると、エルは慌てて部屋の中に入れてくれた。
「どうしたんですか、こんな時間に……」
「ちと、眠れなくてな……」
そう答えながら、妾はこの部屋のベッドを眺める。
当たり前だが、妾の部屋と大差ない物ではあった。
「アルトさん?」
不思議そうに問いかけるエルに答えず、妾はベッドに転がり込む。
そうしてエルを手招きをして、共にベッドに入るように誘った。
「え?……ええっ?」
突然の事に、キョロキョロと慌てふためくエル。その腕を掴まえて、妾は強引に彼をベッドに引き込んだ。
………………うん、予想通り! エルは抱き枕として、凄く理想的だった!
背中から彼の体に抱きつくと、なんとも言えない気持ちよさを感じる。
少年特有の体温の高さ、日だまりみたいな髪の香り、柔らかすぎず堅すぎない筋肉の感触……全てがエクセレント!
密着している肌から伝わる彼の鼓動のリズムも心地よく、しばらくすると妾はそのまま眠りの中に落ちていった……。