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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
78/101

78 再戦の始まり

 翌日の目覚めは爽快だった。

 朝から天気も良く、絶好の「エル取り戻し日和」であるな!

 魔力もバッチリ回復し、心身ともに力がみなぎっているのがよくわかる。

 昨夜の宴の時にティアームからもらった魔法薬(ポーション)が効いたみたいだな。

 男性の精力回復に使っているとか聞いてたから、ちょっと心配ではあったが。


 身支度を済ませて寝室から出ると、ちょうどリーシャとハミィも宛がわれた部屋から出てきた所だった。

 妾と同じく、やる気に満ちた二人の表情はとても頼もしい。

 必ずエルを取り戻すという決意を新たにし、今日の作戦に参加する者達が集まっている広間へと向かう。


 その部屋に入室すると、珍しい事に骨夫がすでに来ていた。てっきり寝坊すると思っていたのに……。

 奴はなにやら、本作戦に参加するらしいエルフ達に熱く語っている。

 もしかして作戦前の意気込みとかを語っているのか?

 くっ……そんなにやる気を見せてくれるなんて……主人として嬉しいぞ!

「だから、もっと媚びるように! 上から目線じゃなくて、強い女がおねだりすることでギャップを演出するんだよ!」

 前言撤回。何を力説しているのか、貴様は……。


 げんなりした妾に気がついた骨夫が、おはようございますと挨拶してくる。

 何をしているのかと尋ねると、骨夫はエルフ達に「再生瞬間誓約(バイ・アーグラ)」の秘術を教えているという。

 え、大丈夫なのか、それ……。

 淫魔もビックリなこやつらにそんなの教えたら、夜の永久機関が出来てしまわないか?

 まぁ、男の方もそれを望むのなら良いのかもしれんけど……。


「いやぁ、いい事を聞いたわぁ」

「ええ、生きて帰って必ず試してみましょうね」

 エルフ達が笑いながら、そんな言葉を交わす。

 戦いに対する覚悟は決めつつ、生に関する事にも貪欲か……こやつらはある意味、野性動物の死生観に近いのかもしれぬ。

 『緑の帯』という特殊で苛酷な環境が、そういった本能に根差した思考を育んだのだろう。

 そう考えると、彼女らのエロスっぷりも理解できる気がした。

「あ、でもひょっとしたらエル様に試す機会があるかも……」

「あー、それいい! あの可愛いお方に攻められてみたい」

 くうぉら! エルに手を出したら承知せぬぞ!

 妾達に睨まれて「もちろんですよー、てへっ」とか言ってはいたが、その瞳の奥にはギラギラしたものが見え隠れしている。

くっ……ちっとも安心できん!

 本当に野性動物並みに油断のならん奴らよ……場合によってはもう一度、誰が支配者なのか教えてやらねばならんかもしれぬ。


 そうこうしているうちに、そろそろ出発の時間となった。

「さて、では転移口(ゲート)を構築しますけど、エルがどの辺りにいるのかわかりますか?」

 昨晩、エルのいる方向は示唆したが、遠くにいすぎるのか気配を消しているのか、骨夫はエルの魔力が感じられないという。

 妾の魔法でそれなりのダメージを与えていたし、確かに気配を消して休息している可能性もある。


「エルは……この方向、百㎞ほどの先にいる」

「確かに動いていませんわね……」

「少し地上よりも低い場所にいる……? もしや、洞穴かなにかに身を隠しているのかもしれませんね」

 妾達がエルの現状を告げると、骨夫を始めエルフ達までドン引きしていた。

「な、なんでそんなに事細かく解るんですか……気持ち悪い……」

 ストーカーなんてもんじゃねぇ……などと骨夫は呟く。

 なんだ、失礼な。

 これも全ては愛の力! そして愛の力は無限!

 無限であるのだから、相手が何処にいてもわかるくらいは当然といえるだろう。


「うーん……できれば奇襲が良かったのですが、ジルチェがそれを警戒していたとなると、攻め方を変えた方が良いかもしれませんわね」

 作戦を計画していたリーシャが呟く。

 たしかに奴がどこかに籠っているのだとしたら、エルフ達の妖術が使用できない。なんとか外まで引っ張り出さないと……。

「まぁ、なんにせよ行ってみなけりゃ始まりません」

「そうです! 当たって砕けましょう!」

 妾達が指定した場所に向けて転移口(ゲート)を構築する骨夫に、ソワソワしながらハミィが賛同した。

 いや、砕けたらダメだからな……。

 しかし、それも一理あるな……ここで考えてるよりも行動しなくては道は開けまい。

 皆も決意を決めたのか、力強く頷く。

 そうして妾達は一斉に転移口(ゲート)へと飛び込んだ!


 ………ここは、また森の中か?

 とはいっても、『緑の帯』みたいな圧倒的植物地帯ではなく、少し生い茂った魔界の森の中らしい。

 そして妾達の目の前には、予想通り洞穴がぽっかりと口を開けいた。この中にエル(ジルチェ)が……。

「……たしかに、エルの魔力をビンビンと感じますぜ。これはヤバいですね」

 ここに来て、ようやくエルの魔力を感知できるようになった骨夫が、器用にゴクリと喉を鳴らして警戒の声を発する。


 さて……どうやって奴を引っ張り出すか。

「煙で燻り出しますか?」

「適当に矢を放つとか……」

「前に『緑の帯』で捕まえた、大量のでかいカメムシを投入しましょうか?」

 様々な案が出てくる中、リーシャが一歩前に踏み出す。そうして大きく息を吸い込むと……


「 エルを返してもらいに来ましたわ! そこに居るのはわかってますので、早々に出ていらっしゃい!」


 彼女は、堂々と穴の奥にいるであろうジルチェに向かって呼び掛けた!

 おいおいおい! 良いのか!?

「下手に小細工を仕掛けて、籠城されては厄介です。真正面から声を掛ければ、相手も何らかの駆け引きのために出てくるかもしれませんわ」

 な、なるほど。そういう考えもあるのかと感心していると、洞穴の奥から足音が聞こえてきた。

 ほんとに出てきよ、これ!


「……ちっ! 随分と早い追っ手じゃねーか」

 ダメージも回復しきれていないのか、薄汚れた格好のエル……ジルチェが、気だるげに言いながら姿を現す。

 妾とハミィ以外は直接対峙したわけではなく、話にしか聞いていなかったので、あまりの雰囲気の違いに皆は動揺しているようだった。

「エル……」

 さすがのリーシャも口元を押さえ、絶句している。


「なんだ、結構な数で押し掛けてきたな。そんなに、この小僧にご執心かよ」

 笑いながら、ジルチェは妾達をざっと見回す。

 エルフやアンデッド、さらには人間の混成グループに、ほんの少しだけ驚いたようではあった。

「何人で来ても無駄だがな……どうせお前らに、この肉体を殺すような真似は出来やしないだろう?それとも、小僧の体が忘れられないなら、集団で味わうか?相手をしてやるぜ?」

 などと、こちらを完全に見下し、腰をクイクイと動かしながら奴は下衆な笑みを向けてくる。

 おのれ、エルの容貌でよくもそんな真似を……!


「わ、私はあんな口説き文句を教えていない……お嬢、あいつほんとにエルじゃないですよっ!」

 だからそう言っている。そんな所で判断するな、お前は!

 あと、エルフ達! なんか物欲しそうな目で奴を見るんじゃありません!

 そして唯一、変わり果てたエルの姿に愕然とするという、まともな反応をしていたリーシャも怒りの炎を瞳に宿しながら顔を上げた。


「許せませんわ……早々にエルを返していただきます!」

「はっ!できんのかよ、お前らに? 俺を攻撃することもできねぇ連中がよぉ」

「……なんの策もなく正面から現れると思いましたか?」

 ヘラヘラ笑っていたジルチェの顔から笑みが消える。

「へぇ、策があるってか……是非教えてもらいたいね」

 そう奴は言うが、ばーか! そんな事を言われて、誰が教えるもの……。

「私達に協力していただいたエルフ皆さんは、仲間に取り憑いた悪しき物を祓う能力を持っています。精々、矢には(・・・)お気を付けなさい(・・・・・・・・)

 って、おい! バラしてしまうのかっ!?

 奥の手をあっさりと話てしまったリーシャ。

 ど、どういうつもりなのだ!?


 だが、内心ドキドキ物の妾とは打って変わって、リーシャに動揺は見られない。

 つまり……敢えて彼女は、奥の手の存在を明かしたのだろう。ならば、これも策の一環なのかもしれないな。

 見れば、ジルチェの方もこちらの考えがよく解らずに落ち着かぬ様子だ。

 そんな奴に、リーシャは手を伸ばして告げる。


「さぁ、始めましょう……あなたのような方から、一刻も早くエルを助けさせてもらいます!」

「……けっ!やれるもんならやってみやがれ!」

 ジルチェが剣を抜き放ち、妾達も臨戦体勢に入る!

 エルを取り戻す戦いの火蓋が、再び切って落とされた!

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