76 救出への希望
あけましておめでとうございます。
今年も週二くらいのペースで更新していきたいと思いますので、よろしくお願いします。
「この秘術を使用するには、お嬢達の協力が必要です」
「あの……私は魔力とかそういう力はいっさい無いのですが、大丈夫なのでしょうか?」
骨夫の言葉に、リーシャが手を上げて尋ねる。
「ああ、かまいませんよ。女性が男性に対して行う事に意味があるのです」
そう言って骨夫(頭蓋骨)は、自身をテーブルの上に運んでくれるように願い出た。
そんな奴をハミィがひょいと持ち上げると、そうじゃないでしょ! と突然怒り出す!
「そんながさつな持ち方でどうする!エルを抱きかかえて運ぶ事を想定して、もっと胸を押し付けるように持ちなさい!」
どさくさ紛れに自分の欲望を満たそうとするんじゃない!
あと、ハミィも言われた通りに胸を押し付けようとせんでいいから!
どうもエルがいなくなってから、妙に弱気になってる気がするな……。
とりあえず調子こいた罰として五寸釘を数本打ち込み、骨夫を指定の通りテーブルに置いた。
「では、お嬢とリーシャ嬢とハミィには、このような手順で……」
ふむふむ……そんなんでよいのか?
とにかく秘術の手順を説明され通りに、さっそくやってみよう。
テーブルの前に座り、上に鎮座する骨夫の頭蓋骨を上目使いに見ながら……
「ふふ……なんとも立派ではないか……素晴らしいぞ……」
「ああ……骨夫様、とてもたくましいですわ……」
「こ、こんなに太くて堅い骨は初めてです……」
教えられた通りに呪文を口にしてみせた。
…………なんだ、これ?
これって、秘術の名を借りた、ただのセクハラの類いではないのか?
ぬう、ふざけよって!
こんなので男が復活なんてする訳が……立ち上がり、そう骨夫に詰め寄ろうした時、突然奴の頭蓋骨が目映い光を放った!
光はすぐに収まったが、そこには……完全復活を遂げた骨夫が、捻れるようなポーズで妾達を見下ろしていた。
おお! マジで効いたのか!
疲れ果て、倒れ伏した男を復活させる秘術「再生瞬間誓約」恐るべし。
……エルを取り戻したら、彼にも使ってみようかな。でも、元気になりすぎて妾を求めてくるかも……いやん、困ってしまう……ぐふふ。
「待たせたな、子猫ちゃん達……キャルシアム・骨夫、復活の時だぜ!」
妙に格好つけた骨夫の言葉が、エルとの甘い妄想を中断させる。
妾達が無言で、呆れた視線を向けていると「骨夫復活! 骨夫復活!」などと自分で盛り上げ始めた。
復帰早々、騒がしい奴め。うるさいから話せる分だけ残して魔力供給をカットしてやろう。
ゴトンと音を立てて崩れ落ちる骨夫。
「ひどいわ……少しくらい調子に乗らせてくれてもいいじゃない……」
床に転がりながら、なぜかオカマ口調でさめざめと訴えてくる骨夫を無視して、いよいよエル救出のための会議が始める事にする。
さて……単純な話、エルの肉体を乗っ取っているジルチェを追い出せば良いのだろうが、そのための手立てがない。
「悪霊なんかを祓う除霊系の魔法で対処できないでしょうか?」
ハミィの出した案に、皆が難しいといった表情になった。
それができれば手っ取り早いのだが、事はそう簡単ではない。
「私はその手の魔法も使えるのだが……」
一番その手の魔法を使ってはいけない筈の骨夫が、ポツリと呟く。
今さらだが回復魔法といい、なんなんだろう、こやつは……。
そんな疑問をとりあえず飲み込み、話を続ける骨夫の言葉に耳を傾ける。
「お嬢達の戦いを聞いた所、ジルチェは霊的な取り憑き方ではなく、血液を媒介にしてエルに憑いていると思われる」
生き霊、悪霊の類いでないなら、除霊系魔法は通用しない可能性が高いと骨夫は締め括った。
苦い顔つきになりながらも、ハミィは次のアイデアを出す。
「で、では……あーしがイーシスを倒したと時のように、直接ジルチェの魂を攻撃するというのは……」
それは……止めた方が良いな。
「下手をすればエルの魂まで傷つけかねん。肉体を取り戻せても、脱け殻では意味がなかろう」
妾からも否決され、うつむいてしまうハミィ。
しかし、彼女は落ち込むのではなく、必死で他のアイデアを出そうとしている。その姿勢や良し。
他にもエルの肉体にある程度のダメージを与えて、ジルチェが逃げるように仕向ける等の案が出たが、すでに妾がそれをやっているので却下。
その後もいくつか案が出されるが、どれも成功率や実現性の低さで却下されていった。
皆がうんうんと唸る声だけが室内に響き、室内が重い空気に包まれていく。ハミィなど頭から煙が上がる程に頭を捻っているというのに、良いアイデアは出てこず、さらに思考の渦に飲み込まれていた。
そんな中、妾はふとあることに気づく。
そういえば、先程からリーシャが発言をしていないではないか。
妾達の懐刀として、その知恵を発揮してほしい所だが、彼女は口許に指を添えてジッと物思いに耽っていた。
ううむ、どうしたというのだろうか……。
「リーシャ、お主も何か……」
「思い出しましたわ!」
アイデアはないかと問おうとした時、突然立ち上がりながらリーシャは拳を握りしめた!
え、何を思い出したというのだ?
「ええ、何か引っ掛かっていたのですが、以前アルト様達が我が家に滞在していた時に、カート様からエルフの使う妖術について聞いたことがあるんです」
ふむ……アマゾネス・エルフの妖術か……妾が知っているのは同士討ちを避けるとか、矢の威力を増すとかくらいだが、起死回生となる物があるのだろうか?
「彼女達の妖術中に、仲間に取り憑いた悪しき物を祓う術があると聞いたことがありましたわ!」
何!? アマゾネス・エルフにそんな術が?
「し、しかしその妖術が除霊系であるなら、やはり通用する確率は低いと思いますよ?」
骨夫に言われるも、リーシャはいいえと首を横に振った。
「エルフの妖術は魔法とは別の……そう、先ほど骨夫様を癒した秘術に近い魔術体系です。さらに『霊』のみではなく、『悪しき物』と認識されればそれを祓う事ができると聞いております」
なるほど、確かにそれなら行けるかもしれない!
かわいいエルの肉体に取り憑くあのジルチェは、邪悪その物と言っていいからな!
しかし常にエルの貞操を狙う、ある意味では最も邪悪なカート達にそんな技があったとは想像もせなんだ。なんていうか、妾の回りにはそういうお前が使うな的な技を持つ奴が多いな……。
それにしても、さすがはリーシャ。よくぞ思い出してくれた!
希望が見えてきた事で、皆の瞳に力が宿っていくのがわかる。
「では、急ぎアマゾネス・エルフ達に協力を要請しましょう!」
鼻息も荒く意気込むハミィを、まぁまぁと一旦落ち着かせた。
もちろん急ぎはするが、今後の事も一通り考えておかねばならん。捕虜にした竜人達の事とかもあるし。
ざっと意思を確認したところ、やはり竜人達は竜族サイドに戻るつもりはないようだ。それはそれで結構。
ならばこの中でも目端の利きそうな者達に、敢えて竜族の縄張りに戻ってもらい、スパイの役目を担ってもらう。
情報のやり取りは、魔界の各地に散っている魔界猫のネットワークを使う事でクリアできるであろう。
そんな訳だから、頼むぞマタイチ。
お任せくださいにゃ!と胸を叩くマタイチに頷いていると、ハミィが急かすように妾の袖を引っ張る。
「もういいですよね? 早く主様を助けに行きましょう!」
だから落ち着け、まずはアマゾネス・エルフの村だ。
ハッとするハミィに、思わずため息が漏れてしまう。ほんとにエルがいないとポンコツと化すな、この娘は。
「では参りましょうか……転移口オープン!」
妾からの魔力供給が再開されて元気百倍! になった骨夫が、またも格好つけながら転移口を構築する。
こやつは、ここまで調子にのるキャラではなかったと思うのだがなぁ……?
「ほらほら、お嬢! 置いてっちゃいますよ☆」
我先にと転移口を潜り抜けようとするハミィ達に見ながら、骨夫がキラリと眩しい笑みを浮かべる。
その目はまるで、自分の彼女に向けられる視線のようだった。
……ああ、そうか。さっきの秘術の工程で疑似モテみたいな状況になったから、浮かれてる訳か。
これだから非モテの童貞は……そう思いながらも、それを口にしないくらいの情けはあるので、妾は何も言わずに転移口へ向かう。だが、
「おいおい、ハミィにリーシャ殿。そんなに急がなくても私の魔法を信じてくださいよ」
二人の肩に手を置き、器用にウインクする骨夫を見て、情け無用な気持ちになった。
すれ違い様に「調子に乗るなよ童貞……」と囁いてやると、がっくりと膝を折って奴はうずくまる。
ふっ、調子にのり過ぎた者の末路がこれよ……。
そんな骨夫はさておいて、いざアマゾネス・エルフの村へ向かう!
ただ……少しだけ思う所がある。
何て言うか、手分けしたばかりで下手打ったからすぐ合流というのも、ちょっとだけバツが悪いなぁ……。
そんな事を考えながら、妾達は転移口へと足を踏み入れた。




