71 争いの行方
ウジンの捜索に来ているのだから、「実は妾達がぶっ殺しました、てへっ♥」と素直に告げる訳にはいかない。
そんな報告をさせたら、事が落ち着いてから竜族総出で仕返しに来るかもしれん。
それでなくても、イーシス、シンザンといった人間界で工作しようとしたいた者達も倒してしまい、結果的に奴等の計画を妨害しまっくっているからな……うん、改めて妾達と竜族の関係はよろしくない。というか最悪だ。
しかし、どうやってこやつらを丸め込もうと考えていると……ふと奴等が何かヒソヒソと話し合っているのに気づいた。
「おい、あれ……」
「ああ……イーシス様……」
「シンザン様のお付きの……」
ああ、どうやら外見はイーシスのハミィに気付いて戸惑っているみたいだ。それと、元シンザンのお付きであったドゥーラにも。
「お、恐れながらイーシス様ではございませんか!? なぜ、そのような人間や魔族などと一緒にいられるのです!?」
しかし、「イーシス」と呼ばれた「ハミィ」は少し嫌そうな顔をする。
「あーしは、イーシスではない!」
きっぱりと言い放つ! だが、竜人達の顔には「うっそだ~」といった表情がありありと浮かんでいた。
それもそうであろう、なんせ見た目や一人称は変わっていな……そう思ったその時!
妾の脳裏に、稲妻のような閃きが走った!
「ちょっと、皆こちらに」
妾が呼ぶとエル達が何事かと集まってくる。
「妾に良い考えがある」
竜人達を殺さず、こちらに寝返らせる策がな。
「それは一体、どのような?」
やはり同胞を殺めたくはなかったのだろう、ドゥーラが食い気味で尋ねてきた。
ようは簡単、ハミィにイーシスの振りをさせて妾達に寝返ったと言わせるだけだ。
七輝竜の一人が妾達に付いて、他の七輝竜を倒した事にすれば、竜人達もこちらに来やすくなるだろう。
あとは口八丁で状況を説いてやれば、転がす事など容易いことよ。
で、どうかなハミィ?
「嫌です。そもそも、あーしはイーシスの振りなどできません」
殺しあった女の振りなど、真っ平ごめん!と断ってくる。
エルが女装した時には付き合って女声で話していたくせに……。
そう言うと「あれはあれ、これはこれ」と、とりつく島もない。
こうなれば、奥の手を使うしかないようだな。
「ならばエルに屈伏したという設定で、くっつきながら語って良いとすれば?」
正直な所、エルをダシにするようで申し訳ないし、妾以外がエルにあんまりくっついたりするのも嫌ではある。しかし、ここは無駄な被害を出さぬよう、大人の対応をせねばならぬのだ。
許せ、エル! 耐えろ、妾!
そんな血を吐くような妾の提案を受け、返事も待たずハミィは期待のこもった目でエルを見る!
照れ屋なので、必要以上には抱きつかれたりされるのを苦手とする主に、合法的にくっつけるのだからハミィにとってはたまらないだろう。
「ア、アルトさんの作戦に必要なら……」
少し抵抗はあるようだが、エルも承諾してくれた。
「あーしに、任せてください!」
エルの許可を得たハミィは、興奮しながら満面の笑みで説得工作に乗り出した。
「さて、よく聞きなさい。あーしはかつてイーシスと名のっていましたが、今はハミィと名を変えました」
突然そんなことを言い出した竜族の最高幹部に、竜人達は驚愕する。
「今はこの方の剣として、永遠に忠義を尽くす覚悟です」
言いながら膝立ちになり、エルの首に腕を回すとぴったりと顔をくっつける。
竜族が人間に従属する。その言動はさらに竜人達を驚かせていた。
……それはそれとして、ちょっと近すぎるのではないかな?
「ウジン、シンザンの両名はあーしの主様であるエル様によって討ち取られています」
エルを自慢しながら、彼にスリスリと頬擦りをするハミィ。
そして、目の前の少年が七輝竜の内、二人も倒したとの言に竜人達は驚きを通り越して愕然とする。
……うん、それはいいんだけど、なんだかベタベタしすぎではないか?
流石に我慢できなかったのか、リーシャもハミィの服をクイクイと引っ張る。
「あなた達は選択の岐路に立っています。竜族の奴隷のままでいるか、竜族の支配から抜け出すかの」
エルの頭に胸を乗せ、ぽよんぽよんと押し付けながら、キッとした鋭い目付きでハミィは竜人達に問い掛けた。
ところで、何やってんの? ねぇ、何やってんの!?
人には性的な接触は禁止とか言っておいて、それはないのではないか!?
さすがに教育的指導として止めに入るが、「主様と剣の触れ合いはセーフです」とか言って離れようとしない。
ずっる……。
ふてぶてしく言うハミィに、妾もリーシャも呆れてしまう。が、だからといって引き下がりはしない!
「こら、離れぬか! エルも困っているではないか!」
「そうですわ!ハミィさんだけずるいです!」
「剣身一体の言葉通り、あーしが主様に身を任せるのは修行の一つです」
あー、なるほど。達人ってそういう所があるよね……って、納得するかっ!
屁理屈をこねて、ここぞとばかりにエルにしがみつくハミィ。
剣として主に身を任せるとか言っておきながら、やってる事は逆ではないかっ!
なんとか引き剥がすべくリーシャと共に奮闘するも、戦士職との身体能力の差もあり、ハミィはビクともしない。
くっ、こうなったら……。
妾とリーシャは頷き合い、こんな事もあろうかと二人で編み出した必殺技を繰り出す!
名付けて『交差式首狩り攻撃!』
妾とリーシャが前後からハミィの首を目掛け、タイミングを合わせたラリアットを食らわせる!
「ぐえーっ!」
魔力がこれでもかと込められており、重武装の戦士であろうと一撃で兜を刈り取られる事請け合いな妾達からの攻撃に、さすがのハミィも絞められた鶏のような悲鳴をあげてエルから離れて崩れ落ちる。
惨劇に慌てたエルが心配そうに見守る中、彼の腕に抱かれて幸せ……といった微笑みを浮かべ、ハミィは失神した。
それを看取った妾とリーシャの勝利の雄叫びが、無言の室内に響きわたるのだった!
安らかに眠れ、強敵よ……。
そんな勝利を納めた妾達を、竜人達がぽかんとした表情で見つめる。
あらやだ……はしたない所をお見せしてしまったわ……てへっ♥
可愛らしく照れ笑いした妾とリーシャに、竜人達が向ける表情はひどく堅いものだった。
いや、我ながらそんなキャラではない事は理解しているが、そこまでドン引きしなくてもよいではないか……解せぬ。
────さて。
どうやら、妾達が凄まじい実力者であることは理解したのか、竜人は大人しくなった。
さらに、全員が妾達の陣営に着くことを希望する。
ほんとに、竜族は人望がないな。
しかし、竜人達から聞き出した話は、人望の無さと同時にその恐ろしさも再認識させられる事となる。
七輝竜を率いる焔の竜王の長男・ヅィーアVS魔界の各種族の連合を作った竜王の次男・トゥーマ。
この二つの軍勢が、ぶつかり合った結果……戦いは連合軍の圧倒的敗北に終わったという、信じがたい現実を突きつけられるのだった。




