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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
59/101

59 キレる『憤怒』の七輝竜

「お、落ち着いて下さい、シンザン様! あんなのただの白骨死体ですよ!」

「おまっ、バカ! 死体が動いてたら怖ぇだろうが!」

 なんとも新鮮で当たり前と言える反応ではあるが、アンデッドなんか魔界では結構見る部類だろうが。

 それにこんだけビビるとは、どんなヘタレだ……。


 怯えるシンザンをなんとか竜人達がなだめようとするが、奴は骨夫に心を折られかけていて聞く耳をもたない。

 そして、そういった姿を最も見せてはいけないのが、この骨夫という男なのだ。

 見よ! 怯えるシンザンを見つめる、こやつの満面の笑みを!

 絶対、調子に乗っておるわ……。


「ベロベロバァーッ!」

「ギャアッ!」

 竜人達の包囲を潜り抜けて、骨夫がシンザンを驚かす!

「くっ! 寄るな、貴様!」

 ゴルンが拳を振るって骨夫を排除しようとするが、見事な体捌きでそれを掻い潜ってひたすらシンザンをからかう骨夫。

 本当に、こういう時だけいい動きをするな、あやつは。


「フハハハ! 興が乗ってきたぞ! 今こそアレを試す時!」

 骨夫の言葉に、ギラリと瞳を輝かせて反応する者達がいた。

「スケアクロウ! カクリコン! アレをやるぞ!」

「了解ですにゃ!」

「心得ましたニャ!」

 何をする気は知らんが、二匹のハンターキャッツが骨夫の元に駆け寄る。

「いくぞ、これこそ我らが編み出した戦闘陣形!」

 骨夫が大きく手を翳すと、ブン! という虫の羽音のような音と共に、無数に現れた小さな転移口(ゲート)が竜人達を取り囲んだ!

「な、なんだこれは!?」

 狼狽する竜人達に向かって、骨夫とハンターキャッツがぴったりと揃いのポーズで宣言する!

「コードネコ(N)ツイン(T)ドライブ(D)!」

「「にゃー!!」」

 骨夫の号令の元、二匹の猫は走り出す。無数に開かれた転移口(ゲート)目掛けて!


「にゃー!」

「ニャー!」

 ハンターキャッツ達が転移口に飛び込むと同時に、別の転移口から飛び出し、そしてまた別の転移口に入っていく。

 そんな感じで縦横無尽に移動しまくり、竜人達を撹乱させていた!

 んん、なんかスゴいではないかっ!

「フハハ、怯えろ! 竦め! 竜の性能を生かせぬまま、死んで逝けぇ!」

 死の権化たるアンデッドにふさわしい脅しをかけながら、骨夫は不敵に笑う。笑うのはいいのだが……。


「骨夫、その『コードN・T・D 』というのはこれからどうなるのだ?」

「フフフ……本来なら猫達が取り囲んだ内側の相手に、斬りつけたり爆発物を投げたりしてダメージを与えていきます」

 むぅ、それは恐ろしいな。だが、本来ならってどういう事だ?

「まぁ、錬度が足りないので、いまはあの撹乱を維持する事しかできないんけどね」

 おい! なんだ、それは!

 ただ、未完成な必殺技をただ披露しただけって、なんの意味があるというのだ!

「いやぁ、相手がビックリするかなと思って……」

 ア、アホか!

 その場のノリだけで、こんな真似をするでないわ!

 まったく、エルならそんな事はしないと……いや、意外と大人びてはいるがあやつも子供だからな、骨夫に共感するかもしれん。

 ハァ……男とはどいつもこいつも、子供な所があって困る。


「うわっ! ひっ!」

 しかし、そんな脅かしにしか使えていない骨夫と猫達の戦法も、ヘタレでビビりなシンザンには有効のようだ。

 猫が近くを通る度に、(うずくま)りながら悲鳴をあげている。

 うーん、こうやって精神的に追い込めば、ひょっとしたら戦わずに追っ払う事ができるかもな。

 なんて事を考えていたのだが、ふと気がつくと怯えて震えるシンザンに変化が現れた。

「……んでだ、なんで俺がこんな目に合わなきゃならねぇんだぁ!」

 いつのまにか怒りで震えていたようで、勢いよく立ち上がって咆哮を上げるシンザン。

 その目には涙が浮いているあたり、マジ切れしてるみたいだ。


 しかし、そんな奴の姿を見た竜人達の顔色が一気に変わった!

 竜人達の気配の変化に、骨夫も猫達を足元に転移させて距離を取る。

「お、落ち着いて下さい、シンザン様!すぐに我々が……」

「うるせぇ、役立たずどもがぁ! まとめて消えろぉ!」

 宥める竜人達を、駄々っ子のように罵倒したシンザンの肉体が一回り膨らんだように見えた。……いや、あれ本当に膨らんでる?

「こ、こんな場所で……」

 女性竜人のトゥーラが、ガックリと膝を落とす。その顔は絶望に彩られていた。


「死ね! 死ね! 死ねぇ!」

 叫びながら、シンザンの体はどんどん巨大化していく!

 床を踏み抜き、天井を破壊してそこに姿を現したのは、人化の魔法を解いて正体を見せた巨大な竜!

 バカな、こんな街中で正体を現す奴がいるか!

 しかし、二十メートルはあろうかという巨体と、人の腕のように異様な発達を遂げた四肢が特徴的な異形の竜は、ゆっくりと力を込めた両腕を振り上げていく。

 破壊された建物に巻き込まれぬよう、後退してそれを見上げていた妾達だったが、シンザンの行動の後に確実な死の気配を感じた!

 い、いかん!


「骨夫! カート!」

 転移魔法の使い手である二人に、妾は呼び掛ける!

 前もって作戦を立てていた通り、二人は巨大な転移口(ゲート)をシンザンの足元に形成させた!

 それと同時に、シンザンの姿がスルリと落ちるように沈んでいく。

 よし! 作戦成功!

 本来なら竜人達もまとめて飛ばしてやりたい所だったが、緊急事態では仕方があるまい。

 と、ホッとした次の瞬間!

 街から遠く離れた場所から、何かが爆発するようなドーン! という音と微かな振動が響いてきた。

 う、嘘であろう……。

 転移で飛ばしたのは十キロほど離れた平原だというのに、この距離で衝撃が届くなんて、どんな破壊力だというのか!?


「や、やばかった……」

 間一髪で破壊の嵐から逃れた全員が、ホッと胸を撫で下ろした。

 しかし……ヘタレに見えていたが、やはり七輝竜。恐ろしい奥の手を持っていたものよ。

 だが、奴隷を集めにきたとか言ってたくせに、街ごと破壊するような攻撃を使用する後先考えない奴には、違う意味でゾッとする。

「終わりだ……」

 安心していた妾達に、あちこち傷ついた竜人達が声をかけてきた。

 倒壊した部分に巻き込まれたと思っていたが、無事だったか……。


「シンザン様が『憤怒』の化身たるあの姿になった以上、もう終わりだ。すぐにこの街に戻ってきて破壊の限りを尽くすだろう……」

 自棄(やけ)になったのか、喉を鳴らして笑うゴルンの言葉には、自分達の死も確定されたという諦めが混じっていた。


「ふん、貴様らは勝手に諦めているがよい。妾達はまだやらねばならぬ事があるのでな」

 戦意を失った竜人達にそう言って、妾達は次の行動に移るべく計画を立てる。

「先ずは先程の(シンザン)の姿に動揺している街の人達を落ち着かせる為に、兵を出して防衛を固めます。それからハンターキャッツのお二人は冒険者組合に向い、私の名を使ってラライル組を中心とした討伐部隊の結成を要求してきてください」

 一般人がパニックで暴徒化しないよう、さらには即座に討伐を促すことで安心感を与える……さすが治安にかけてはリーシャは頼りになるな。


「さて……アルト様と骨夫様には、とても危険な役を担っていただく事になります」

 固い表情で、そう告げるリーシャ。フッ、言いたい事はわかっておるがな。

「妾達に任せたいのは、シンザンの足止め役であろう? 安心するがよい、元よりそのつもりである」

 力強い妾の返事に、リーシャも少しだけホッとしたようだった。

 骨夫は、マジですかって顔をしておるが。

 おそらく討伐部隊が纏まるまでに、早くても三十分から一時間。

 それまで少数で奴を足止めできるのは、妾達くらいしかおらぬだろうからな。


「わ、私もアルト様達と共に!」

 カートが名乗り出るが、リーシャはそれを却下する。

「カート様には、討伐部隊を転移魔法でシンザンの元に送ってもらわねばなりません。ゆえにここで待機していただきます」

 リーシャの強い口調に、カートと口を閉ざす。

 なるべく街から遠い場所で、そして素早く冒険者を送り込むにはリーシャの敷いた布陣が確かに合理的だったからだ。


「アルト様と骨夫様に一番危険な役をお願いするしかない、我が身の無能をお許しください……」

 申し訳なさそうに妾の手を握るリーシャに、無理はしないから心配するなと声をかける。

「妾達をなめるなよ? 討伐部隊が来る前にシンザンを倒してしまうかもしれんぞ?」

 軽口を叩いて見せると、彼女は微かに笑って見せた。

「本当に無理はなさらないでください……エルの為にも」

 当ったり前だ、むしろ妾達で七輝竜を倒してエルを驚かしてやろう!

 ドンと胸を叩く妾を、「やだ、かっこいい……」と見つめていたリーシャだったが、次いで骨夫の手をギュッと握った。


「骨夫様……アルト様の事をお願いいたします」

 リーシャに頼まれ、骨夫はキリッとした顔で頷いた。

「うひょー! お嬢様のお手て柔ーらけー♪(任せておいてください、お嬢は私が必ずお護りします!)」

 ベタに本音と建前が逆だ、馬鹿者。

 ハッとして顔を赤らめながら口を塞いだあたり、冗談ではなく本気で間違えたようだ。

 さすがのリーシャも、笑顔も若干ひきつらせながらソッと手を離す。

 まったく、いざという時に締まらぬ奴よ。


「さぁて、では行くとするか」

「へーい」

 骨夫が、先程シンザンを飛ばした座標に向けて転移口(ゲート)を開く。

 そんな妾達を見ていた竜人のトゥーラが呟いた。

「どうして……七輝竜(アレ)に立ち向かえるのですか……」

 その呟きに妾は笑って答える。

「これも上に立つ者の役目よ」

 力無き者を護れぬ支配者に、誰が着いてこよう。

 当たり前だと平然と言う妾に、竜人達は衝撃を受けたようだった。

 まぁ、見ておるがよい。

 かつて魔界を統一しかけた『鋼の魔王』の娘、その実力をな!

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