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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
57/101

57 竜族の計画

「……えっと、つまりハミィとイーシスが魂の食い合いをやってるうちに融合してしまった……って事で良いのかな?」

「はい。そう考えるのが、妥当でしょう」

 お互いに正座して向かい合っていた僕に、イーシス姿のハミィが頷いた。

 うーん、イーシスの姿ってだけでも違和感があるのに、妙に礼儀正しいのにギャルな外見っていうのもちょっと不思議な感じがするなぁ。

「主様の助勢もあり、確かにイーシスを討ち取った感触はあったのですが……まさかこんなことになるとは」

 そうだね……いまだに僕も信じがたいよ。


「恐らく、イーシスに食われた部分を奴の魂で補完しようとしたのが、まずかったのかもしれません。あーしにもどんな影響が出るか……」

 あ、さっそく出てるね。

 僕が指摘すると、ハミィが小首を傾げる。

「あーしに何か変な所が?」

「うん、一人称が『我』から『あーし』に変わってる」

「ハハハ、そんな馬鹿な。あーしが……」

 そう言いかけて、ハミィは絶句した。

 なんか今まで自然すぎてたけど、本当に気付いていなかったんだ……。


 大した事では無さそうだけど、それでも愕然とするハミィに、僕は立ち上がって声をかけた。

「でも、一人称が変わっただけだし、その姿になってもハミィはハミィだよ」

 実際に彼女(彼?)から感じる魔力の波動は、魔剣の時とあまり変わらない。だから、違和感を感じつつもイーシスの中身がハミィだと、割りとすんなり受け入れたんだと思う。

 まぁ、これはハミィと主従の契りを交わしていた、僕に位しか解らない差かもしれないけど。

「主様……」

 僕の言葉に感激したみたいで、ジッと見つめてくるハミィにこっちが少し照れてしまう。

「それにしても……ハミィの人格がイーシスの肉体(そっち)の方に行っちゃったってことは、魔剣の能力はもう使えないのかな?」

「いえ、各種能力は本体に附与したものですから使えるでしょう。ただ、あーしのサポートは無くなりますが……」

 そうなんだ。

 それなら僕が頑張れば、編み出した空中殺法(エリアルスタイル)が使えるみたいだし、訓練が無駄にならみたいで良かった。

 ただ、これからは微細なコントロールを補助してくれたハミィ無しで、魔剣の性能を十全に使えるようにならないとな……。

 試しに、魔剣の『闘気操作(オーラコントロール)』を発動させて刀身に闘気を纏わせてみる。

 ……ん?

 なんかちょっといつもと違うような……?

 そんな違和感を感じていると、ハミィが驚きながら僕の顔を見た。


「あ、主様……そ、その闘気は……」

え? ハミィも感じた?

「やっぱり、何か変な感じがするよね?」

「いえ……ってゆーか、主様の闘気の『竜の波動』が混じってます」

 なんて? 竜の波動?

「多分……ではありますが、イーシスとの戦いの時に『闘気吸収』と『闘気操作』を併用した事、それに魂の絡み合いに介入した事による副作用かと」

 そんな副作用が……。

 で、でも悪いことは無いんだよね? 体調は悪くないし……。


「むしろ大幅なパワーアップかと。闘気を開放すれば、竜族の特性が附与される事になるでしょうから。それに隠蔽の能力を使わなくても、勇者の波動は探知されにくくなるでしょう」

 隠していた物が、感知されにくいままなのはありがたい。

 それにしても竜族の特性か。身体強化とか、魔法防御強化とかかな?

 適当に聞いてみると、ハミィは神妙な面持ちで頷いた。

 そっか、変なリスクがないならそれでいいや。


「それにしても『勇者の波動』に加えて『竜の波動』を持った闘気を纏うなんて……素敵すぎる」

 え? なに?

 最後の方がボソッと言われたから聞こえなかったんだけど。

「な、な、な、なんでもありません!」

 慌てたように、バタバタと身をよじるハミィ。

 そんなに慌てるなんて、なにか悪口だったらどうしよう……。


「と、とりあえず村に戻ろう。ルディさん達に相談して、この辺りの警戒をしてもらわないと」

 驚いたり呆れたりで、尻餅をついていたハミィを立ち上がらせようと、僕は手を差し出した。

 だけど、その手を取った瞬間、ハミィは猛烈な勢いで手を離して自ら立ち上がる!

 ど、どうしたの?

 あまりの勢いに驚いていた僕に、「なんでもありません!」とブンブン手を振って見せるハミィ。その顔は心なしか赤みを帯びていた。

 んー、人型の体にまだ慣れてないから、戸惑っているのかな。


 さて、『闘気操作』で剣に乗ってみようかとしたその時、ハミィがそれを止めた。

「あ、お待ち下さい主様!イーシス(こやつ)、何かメモのような物を持っています」

 そう言うと、ハミィは胸の谷間から一片の紙を取り出した。っていうか、どこにしまってるのさ!

「胸の辺りに違和感があったもので……」

 もう……いや、そこに隠していたのはイーシスであって、ハミィが悪い訳じゃないんだけどね。子供の教育には良くないと思うんだ、子供(ぼく)が言うのはなんだけど。


「これは……主様、大変ですよ!」

 メモに目を通したハミィが、緊張した面持ちになった。

 彼女からメモを受け取り、その内容を読んでハミィの驚きに納得する。

「人間界の王都襲撃……そして、三百人の人間の奴隷を差し出させる計画……?」

 簡単に言えば、メモにはそんな事が書いてあった。

 イーシスが王都を襲撃して王族を皆殺しにし、もう一人の人間界に来ている七輝竜が交渉して奴隷を連れて帰る……。

 竜族の王である『焔の竜王』を殺された報復と、解放された奴隷の補充を人間という種族全体(・・・・・・・・・)に求める(・・・・)滅茶苦茶な計画だ。


 だけど、なんだってそんな重要な計画のメモをイーシスは、む……胸に挟んでたんだろう?

「恐らく……イーシスの頭が悪かったから、ではないでしょうか?」

 そんな身も蓋もない……。

 だけど、イーシス(ハミィ)の胸元からは、同じようなメモがさらに数枚こぼれ落ちてくる。内容に大差は無いけれど、いちいち『忘れるな!』とか『重要!』とか『予定通りにやること!』みたいな注意書きがあった。

 まるで、子供をはじめてのお使いに向かわせるためのメモみたいで、彼女の信用の無さが汲み取れのがちょっと悲しい。


「でも、奴隷を差し出させる為に動いている七輝竜ってどこに向かったんだろう……?」

「なるべく人の多い、かつ安定している地方を狙うでしょうね」

 なるほど、確かにその方が奴隷も集め易いし、話が広まりやすくて竜族の恐ろしさをアピールできるからね。

 うーん、そこから推測すると……多分、条件に合うのはメルゼルン地方だろう。そして七輝竜が目指すのは、交渉相手である領主のいる街……ジャマルン?

 つまり、アルトさんやお姉ちゃんがいる場所じゃないか!


「アルトさん達が、危ないかもしれない……早く戻らないと!」

 まだ憶測に過ぎないけれど、それが当たっていたら大変だ。

 ここからだと、空を飛んで一直線に急いでも、丸一日はかかってしまう。

 今すぐにでも向かわないと……と、焦る僕の肩をハミィが優しく叩いた。

「落ち着いて下さい主様。まずはブレフの村に戻ってこの件を報告しておくのが先かと」

 だ、だけどアルトさんが……。

「ルディ殿に何も言わずに出て行ったら、後でどうなるとお思いですか?」

 ハミィの一言に、そうなった場合の(・・・・・・・・)ルディさんの顔が浮かぶ。

 次いで、頭蓋骨が軋む音と、そこに食い込む叔母さんの指の感触がありありと思い出されて、冷たい汗が流れた。


「そ、そうだね……ハミィの言う通り、一旦戻ろうか」

 冷静なハミィに諌められ、落ち着きを取り戻した僕は、心を静めて闘気を開放する。

 『竜の波動』が混ざった……なんて言われたから気を付けていたけど、意外とスムーズに闘気のコントロールは出来たみたいだ。

闘気を纏った魔剣がふわりと宙に浮く。

「よし……行こう、ハミィ!」

 先に刀身に乗り、ハミィを促す。

「え……あ、はい……」

 なんだか歯切れ悪く答えたハミィは、おずおずと刀身に乗ってくる。乗ってくるのはいいんだけれど……僕から離れるように身を離して、ちょこんと服の裾を摘まんで立つハミィ。

 な、なんだろう。僕、嫌われるようなことしたかな。


「あの……そこじゃ危ないから、もっと僕に掴まってくれない?」

「は、はい! では失礼します……」

 ススッと依ってきたハミィは、僕に掴まる。というか、がっちり抱きついてきた。

 こ、こんどは近い! 近すぎるよハミィ!

 そ、それにこの頭に乗っかる、柔らかくも重量感のある物体は……。

「ご存じ、おっぱいです」

 だよね!

 でも、そこはちょっとぼかして欲しかったな!

 しかし、あんまり近すぎるのもちょっと困る。

 もう少しだけ、離れてもらえないかな!? これじゃ、集中しづらいし……。


「申し訳ありません、この肉体の生物的本能が『めっちゃ離れるか、めっちゃ密着せい!』と訴えてくるのです」

 ほ、本能!? そんなレベルなの?

 それじゃあ、仕方ない……よね。

「鬱陶しいとお思いかもしれませんが、どうかお許しください」

 ちょっと泣きそうな声でそんな風に言われたら、許すしかないじゃないか。

 そうだ! ようは僕の気の持ちようだ!

 集中しろ、エルトニクス!

 頭の上の柔らかい物や、しがみついてくる暖かな身体に気を散らすんじゃない!

 ギリギリではあるけど気を引き締めて、僕は飛行の為に闘気のコントロールを行う。


「!」

 それで気が付いたけど、前よりも「飛ぶ」という行為に対して自然にコントロールが出来るようになった気がする。

 ひょっとして、空を飛ぶ竜の波動が身に付いたからなんだろうか。

「随分と安定していますね……あーしのサポート無しなのに」

 耳元で少し拗ねたようにハミィが呟く。

 うーん、棚ぼた的ではあったけど、そこは僕の成長ってことで納得してほしい。

「ハミィにはこれからも色んな所で力になってもらいたいからさ、そっちの方でよろしく頼むよ」

「そんな……もちろんです!」

 背中越しなんで表情は見えなかったけど、声の調子からして機嫌は良くなったみたいだ。

「さぁ、参りましょう主様!」

 元気なハミィの声に促されて、僕達は大空に舞い上がる。

 待っててね、アルトさん! すぐに行きますから!

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