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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
55/101

55 骨食み丸

「うおおおおっ!」

 気合いと共に闘気(オーラ)を爆発させて、僕を押さえつけていた竜人達を吹き飛ばす!

 それに邪魔されて、僕の心臓を狙っていたイーシスの攻撃を剃らす事ができた。

「ぷはっ!」

 巻き上げられた埃に巻かれ、イーシスが少し後退する。

 その隙に僕も体勢を整えて、再び彼女と対峙した。


「あー、もう! なに、今のー!」

 ぺっぺっ、と口に入った埃を吐き出しながら、イーシスは周囲を見回して状況を確認する。

 彼女の正面に立つ僕と、それを囲むように立ち上がろうとする竜人(にんぎょう)達。

 それを見て、ふふんと鼻で笑いながら余裕の態度を見せる。

「おーし、今度こそ……」

 イーシスの言葉が言い終わる前に!

 僕の闘気を纏った魔剣(ハミィ)の剣閃が走り、取り囲んでいた竜人達の上半身がズルリと滑って地に落ちる。

 竜人(かれら)の境遇は知っていたけど……心臓を奪われ、人形になった彼らを助ける方法なんてたぶん無かったと思う。

 だからせめて……苦しまないように、一撃で。そして、哀れな彼らが最後を胸に刻んでおこう。


「スゲー! マジでスゲーよ!」

 部下達を斬られたイーシスは、怒るどころか子供みたいにはしゃいでいた。

「あー、もう! ホントに惜しいなぁ……。ね? 考え直してあーしのペットになんない?」

「……なんで、そんなに僕を誘うんですか?」

 この期に及んで、服従を進めてくる彼女の意図がよくわからない。

 僕の問いかけに、彼女は少しだけ思案して答えを口にした。

「なんつーかな、人間なのにちょー強いし! それで、かわいいって珍しいじゃん? そーいうレア物はゲットしときたいみたいな?」

 いや、尋ねられても困る……。

 だけど解った。

 結局の所、イーシスが僕に固執するのは、只の物珍しいアクセサリー感覚なんだ。

 だとしたら、誰がペットになんかなるもんか!


「僕はまだ子供だけど、戦士としての矜持は持ってるつもりだし、その……大切にしたい人もいる。貴女の犬になるなんて、まっぴら御免だ!」

『その通り!ギャルギャルした小娘が主様を従えようなど、百年速いわ!』

 僕とハミィに完全に否定され、イーシスの顔から笑みが消える。

『あ、それとも長命な竜族らしく、見た目以上にババアなのかな?』

 骨夫さんに影響されたんだろうか……ハミィはさらに挑発した。 だけど、それが彼女の逆鱗に触れた!

「誰がババアだ、ナマクラにクソガキぃ!」

 僕は言ってない!

 だけど、完全にブチ切れたイーシスは、足音を鳴らしながら迫ってくる!

「決めたぁ! アンタをあーしの人形にしてから、『大切な人』って奴をアンタ自身の手でにぶっ殺させてやる!そんで……」


 はい、隙だらけ!

 ちょっと卑怯だけど、喋りに夢中になっていたイーシスの首めがけて、言葉の途中で剣を振り下ろす!

 闘気で鋭さを増した魔剣の刃は、同じ七輝竜だったウジンの鱗も斬り裂いたのだ。

 この不意打ちで、彼女の首が飛ぶ!……はずだった。


 僕の一撃は、イーシスの首にかすり傷の一つ付けることもできずに、皮膚の表面で止められていた。

 あり得ない光景に戸惑っていた、僕めがけてイーシスの爪が迫ってくる!が、かろうじて闘気を噴出させる事で、後方に下がりそれをかわす!

「せっかく不意打ちしたのに、どーしたぁ?」

 薄ら笑いを浮かべながら、着地した僕を見下すイーシス。

 ど、どういう事なんだ!?

 ……まさか、彼女の皮膚はウジンよりも強固だというのだろうか。

 魔法で人間形体になっているとはいえ、元が竜族なんだからその可能性は捨てきれない。


「……あーしの体が、ウジンよか堅いって思ったっしょ? 残念だけど、大して変わんないよ」

 僕の考えを読んだように、イーシスが言う。

 図星だったことを僕の顔色から見透かした彼女は、調子に乗ったようで更に言葉を続けた。

「あーしの能力はさ、人形作りだけじゃないんよ。あーしに触れる、あらゆるエネルギーを喰う事ができる……それが『暴食』とか言われる由縁てやつ♪」

 自慢するみたいに、自分からネタばらしをするイーシス。

 つまり、僕の闘気を喰った(・・・)為に、ハミィは通常の切れ味に戻ってしまい、それで彼女に傷をつけられなかったということなんだろうか?

 でも、なにその無茶苦茶な能力……。


「闘気だろーが、魔法だろーが、エネルギー体(・・・・・・)じゃ、あーしにダメージは与えらんないよ。竜族にダメージ食らわ(・・・・・・・・・・)せる位の物理攻撃(・・・・・・・・)じゃなきゃーね」

 き、気軽に言ってくれるなぁ……。

 さっきの不意打ちで、僕がまったくダメージを与える事が出来なかった事を解った上で言ってるんだろう。

 闘気を纏わせてブーストをかける、僕の基本パターンが通用しない。もしかすると、解放されたハミィの能力『闘気剣精製』も通じないかも……。


 うう……どうする?

 一瞬、ここから離脱してアルトさんと合流してから協力して……なんて少し情けない考えも浮かんだ。けれど、魔法も効かないんじゃ彼女を危険にするだけだ。


「……そういえば、僕と会った時に『見せしめ』がどうとか言ってましたよね……あれ、どういう意味だったんですか?」

 何とか考える時間を稼ぐために、絶対優位のイーシスが更に調子に乗って語ってくれそうな話題を振ってみる。

「ああ♪ あれ!?」

よし! 案の定、乗ったきた!

「ほら、あーしらの王様が人間に()られたじゃん? だからテキトーに人間ぶっ殺してさ、竜族の怖さってのを教えに来たんよ」

 とりま人間の王様辺りをぶっ殺そーとしたけど、道に迷っちゃってさー、なんて軽い調子でとんでもない事を言う。

 そんな真似をすれば、人間界と魔界で大きな戦争になるかもしれないというのに!

 だめだ、こいつ……ここで何とかしないと。

 だけど、現状じゃ打つ手がない。

 どうしたら……と考えを巡らせていると、『主様……』とハミィが語りかけてきた。


「んん?」

 ヒソヒソと、イーシスに聞こえぬように言葉を交わしてした僕達の姿に、彼女が怪訝そうな視線を向けてきている。

 だけど、優勢な彼女からの不意打ちじみた攻撃はないだろう。

 ついでに、イーシスの足を止める為にも、あえて興味を引くように堂々とヒソヒソ話を続ける。

「……解った。それで行ってみよう!」

『御意』

 行動指針が決まると、僕は再びイーシスに視線を向けて剣を構えた。


「作戦会議は終わったぁ? んじゃ、行くよー」

 僕達がどう動くかに興味を持った彼女が、無造作にこちらに歩いてくる。それに合わせて、僕も同時に走り出す!

「へぇ」

 その行動に、意外そうな顔をしたイーシスだったけど、次の僕の動きには驚きが宿った。


 彼女の頭上に向かって剣を投げ、それを追うようにして僕も跳ぶ!

 その全く意味のない動きに、意図を掴みかねたイーシスは棒立ちになっていた。

 絶好のチャンス!

 僕は空中で剣の刀身に乗るように(・・・・・)触れると、全開で闘気を吹き出した!

 爆発的な推進力を得た僕達は、まるで流星のように空を斬りながらイーシスに向かって突っ込んでいく!

 これこそ、特訓した空中殺法の一つ!

 名付けて……『流星落下斬メテオスラッシュ!』(今決めた)


「オイオイオイぃ!」

 さすがに意表を突かれて、イーシスは防御体勢を取る。

 だけど、それに構わず僕達は突進していった!

 僕達が交差した瞬間、ガギィィン! という金属音が響き、凄まじい衝撃が弾ける!

 僕はハミィから投げ出され、地面に転がった。


 なんとか受け身をとって、イーシスにダメージを与えられたのか確認しようと、巻き上がる土煙を闘気で払いのける!

「……やってくれたじゃん」

 視界が開けた衝突地点には、剣先が数センチほど(・・・・・・・・・)突き刺さったハミィ(・・・・・・・・・)をぶら下げて、ほぼ無傷のイーシスが立っていた。

 渾身の一撃だったのに……まるでダメージを受けていないのかっ!


「あー、もう最悪……」

 ケホケホと咳き込みながら、イーシスはポツリと呟く。

 だけど、服や髪が汚れたのが気に入らないのか、その声は恐ろしく重くてテンションが低い。

「もういいや……終わらせよ……」

 抑揚なく言葉を漏らし……一瞬で、僕の目の前に移動してくる!

 逃げる間もなく、抱き締められるように僕を捕らえると、そのまま彼女は万力のような力で締め上げてきた!


「あ……ぐっ……ああっ……」

 メキメキと、全身が軋む。苦しくて、まともに声も出せない……。

「このまま体中の骨、バラバラにしてやんよ」

 簡単そうに言うけれど、竜族の力ならばその言葉に偽りはないだろう。間もなく、僕の背骨が砕ける音が聞こえてくる未来が、ありありと脳裏に浮かぶ。

 だけど……。


『そこまでだ、イーシス』

「!!」

 ハミィの声と共に、僕を捕らえていたイーシスの腕から、わずかに力が抜ける!

 その一瞬の隙に、僕は死の抱擁からなんとか抜け出した。

「な……に……?」

 訳がわからないといった表情で、イーシスがヨロヨロと数歩下がる。

 そして、自分の腕に刺さったままのハミィを睨み付けた。

「この……ナマクラ……何をして……いる」

 ハミィを抜こうとしたけど、ビクともしない事に驚愕しながらイーシスが問う。


『イーシス……『暴食』を冠する竜族よ……』

 イーシスに向けられる、改まったハミィの声。そして彼女に挑むようにハミィは叫ぶ!

『我が真名『骨食み丸』の名に置いて、どちらが真に食らう者なのか確かめてみようではないかっ!』


 そして竜と剣(ふたり)の雄叫びが、山々に響き渡った。

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