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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
53/101

53 山中の怪? ギャル現る

「はあっ!」

 僕の振るった剣が『グレーター・レッサーパンダ』の太い首を一撃ではね飛ばす!

 音を立てて崩れ落ちる魔獣から視線を切って、辺りを警戒する。

 ……どうやら他にはいないようだ。


「ふぅ……」

『お疲れさまでした』

 一息ついた僕に、ハミィが声をかけてくる。

「いやぁ……ほんとに多いね」

 川で顔とハミィの刀身を洗いながら、僕はうんざりしたように呟いた。

 ルディさんから聞いていた通り、『グレーター・レッサーパンダ』と『潔癖アライグマ』は大量発生してるみたいで、かれこれ三十体は狩っている。

 目標としていたのが二十体前後だったから、大猟と言っていい。

 しかし、川や水辺で張っていれば向こうから来るだろうと、マブクラ山脈の奥に流れている、大きめの川を拠点にしてみたけど……正直、予想よりもはるかに多すぎた。

 ほんとに何だっていうんだろう。異常気象ってやつなんだろうか。


「ところで……ねぇ、ハミィ。どうかな……?」

 ちょっとドキドキしながら尋ねてみる。

 『グレーター・レッサーパンダ』と『潔癖アライグマ』、それらを斬る時に僕はずっと『闘気吸収』を使用していた。

 ハミィが封印を解かれて覚醒したそれと、もう一つの能力『闘気剣精製』。

 強力だけど一歩間違えれば、爆発四散か衰弱死というひどい仕様だけど、とにかく使いまくって馴れるしかないという。なので、このバイト中はできる限り能力を使うようにはしていた。

 おかげで狩りを始めた時よりも、明らかに今の方が身体能力や闘気(オーラ)が強化されたのを感じてはいる。

 だけどいつ限界を迎えるか、内心冷や汗ものだったのも事実だった。

 まだ、こんな所で死んでいられないもんな……。


『取り込んだ魔獣達の闘気は、主様の許容量の五パーセント程でしょうか』

 え? そんなもの? 群れ単位ってくらい狩ったのに……。

『所詮は雑魚ですからね。もっと大型の魔獣や、それこそ竜族とかなら満足できるくらい吸収できるかもしれませんが』

 ひょっとしたら持ち上げてくれてるのかもしれないけど、竜でもなければ満足させられない器なんて言われれば、修行中の身ながらもちょっと嬉しい。

 その期待に応えられるよう、もっと頑張ろう!って気になってくる。


 さて、気分が良い所で、いま倒したばかりの『グレーター・レッサーパンダ』も解体しておかなくちゃ。

 ルディさんから譲り受けた神器、『究極・調理道具』から解体用の道具を取り出す。

 骨も断ち切る肉斬り包丁や、皮を切り取るナイフ等々、数本の刃物を使ってなるべく丁寧に切り分けていく。

 そして内蔵関係は、他の野性動物に掘り返されないくらいの深い穴にまとめておいて、後で埋めるか焼き尽くすかして処理する。他のヤバい魔獣を呼び寄せない為のルールだ。


 はぁー……でもこういう事をやってると、村での生活を思い出すなぁ。

 大きな獲物が取れると、村の子供みんなでお手伝いしてたっけ……何だか母さん達を追って村を出てから、長いこと経ったような気がする。

 事がすべて済んだら、一度アルトさんにも僕の住んでる村を紹介したいなぁ……。

 そんな事を考えながらも作業は進み、毛皮と肉を神器の貯蔵庫に放り込んで仕事は終了。

 後はブレフの村に戻って、これらを引き取ってもらおう。


 思ったよりも早くノルマを終えたので、午後は空中殺法(エリアルスタイル)の練習に費やして、日も落ちてきた頃合いで村へと帰還した。

 普段なら夕暮れ時の山道なんて危険極まりないけど、空を飛べればなんてことはない。

 うーん、ほんとに便利だ。ハミィがいてくれて良かったと心底思う。


 そんな感じで翌日も過ごし、さらにその次の日。

 アルトさんと約束した単独行動の期限は一週間。

 帰り道にかかる時間を考えれば、明日にはジャマルンの街に向かわなければならない。

 なんとか今日中に、空中殺法を物にしたいな……。

 午前中に狩りを終え、あれこれ計算しながら獲物を解体していく。

 でも、不思議だな……これだけ一ヶ所で大量に狩られてたら、いくら魔獣でも普通なら寄って来なくなるだろうに。

 この三日間、まるでここしか水を得られる場所が無いみたいな勢いで、魔獣が集まって来ていた。

 もしかしたら異常気象とかじゃなくて、この山脈全体に異変が起きてるんだろうか?


 ……でもまぁ、それらを調査するのは地元の人達だろうし、ブレフ村の皆もいるからなんとかなるだろう。

 今の僕はそういった現地調査よりも、自分の強さを高める事に集中しないとね。

 さて、解体作業も終わったし、後はこれをしまって……、


「!!」

『!!』


 貯蔵の為に神器を展開させようとした時、僕とハミィは同時に異変に気付いた!

 僕達がいる川原の対面、川を挟んだ向こう岸の森に、ゆらりと人影が現れたのだ!

 しかもその人影は、明らかにこの場にそぐわない格好をしている。

 ちょっと派手目にセットした髪形、胸元や太ももが露出したきらびやかな服装、十代後半くらいに見えるそのお姉さんは、指先にまでしっかりデコレーションしていた。

 うん、ギャルだコレ!

 都会の方の、こういった格好をした若い女子をそう呼ぶと知っていた僕は、即座にそう判断した。

 しかし、都会に出没するはずのギャルなんて人種が、なんでこんな山中に……。

 そんな疑問が浮かんだ、次の瞬間!

 僕の脳裏に、ある記憶がフラッシュバックされた!


 そう……あれは父さんが愛読していた、とある高名な冒険者のチーム、ピロシ・フディオカ探検隊が残した、全二十五巻からなる探検の記録集。

 たしか、そのタイトルの一つが『怪奇!人が踏み入れぬ山奥の魔境に、伝説のギャル原人の姿を見た!』だった。

 つ、つまり……僕の目の前にいるのはそのギャル原人では……。


 すごい! まさか、伝説をこの目にすることができたなんて!

 興奮しながらも、ギャル原人が次にどう出るかじっと観察する。

『あの……主様? なんですか、そのギャル原人て……』

 胡散臭そうにハミィが尋ねてくるけど、僕もよく解らない。

 ただ、ピロシ・フディオカの著書にその名があったんだから、多分そういう種族がいるんだろう。何て言うか、よくわかんない種族ってロマンがあるよね!

『そんな子供みたいな……子供だった』

 ちょっとだけ、ハミィが呆れたように呟いた……。


 しかしそんな時、彼女の視線が解体作業を終えてまとめておいた魔獣の肉に注がれているのに気付いた。

 もしかして、コレが狙いなのか?

 そう思い至ったのとほぼ同時に、雷鳴のような轟音が響く!

 ギャル原人の叫び!? いや……腹の音かっ!

 対岸で駆け出した彼女は、水に足を突っ込む寸前で跳躍し、一足跳びで川を越える!

 なんて跳躍力!

 そんな驚く僕を、ギャル原人はチラリと一瞥する。

 しかし、すぐに肉へと視線を戻すと、飛びかかるようにして食らいつこうとした!

 いけない! 魔獣の肉を生で食べたら、いかに原人でも危険すぎる!

 彼女の指先が肉に届く寸前で、僕は後ろから彼女にしがみつき、その動きを制した。


「ダメです、ギャル原人さん!魔獣の生肉なんか食べたら腹を壊しますよ!」

 言葉が通じるとは思わないけど、それでも意思は通じるかもと、僕は大声で叫ぶ!

「うるっさいし! つーか、ギャル原人ってなんなんよ!」

「!!」

 流暢に言い返してきた彼女に、僕は驚愕した。

 え……ていうか、このお姉さんは幻のギャル原人ではなく、まさか普通のギャルの人?

 いや、でもいま見せた身体能力は、明らかに一般の人じゃないし……。

「てか、んなもんいるわけねーっしょ! 寝惚けんなし!」

え……いないの?


「んでもいいからさぁ! いい加減、離れろし!」

 ショックで呆然としていた僕だったけど、エロガキかよと罵られて慌ててしがみついていた彼女の腰から手を離す。

 開放されたらそのまま肉にまっしぐらかと思いきや、彼女は僕の方に振り替えってきた。

「つーか、なにあーしの事、止めてんのよ。邪魔すっと、ガキでも容赦しねーよ!?」

 ギロリと凄みを効かせてくるけど、お腹から「くぅくぅ」と音が鳴っていて、なんだかあんまり怖くない。


「とにかくねぇ……」

 さらに何か言おうとした彼女だったけど、へなへなとへたりこんでしまった。

 どうやら空腹が限界らしい。

 でも生肉を食べさせる訳にもいかないし……仕方がない、ここは僕がこの肉を食べれるように調理しよう。

 少し待っててくださいねと声を掛けると、返事をするように腹の音が聞こえる。

 変な成り行きだけど、僕は神器を展開させて『調理場(キッチン)』を形成し、空腹で(うずくま)る彼女の為に包丁を振るう。

 でも、彼女は何者なんだろうか……。

 ギャル原人じゃないんだとすると、もしかしたらどこかに捕らわれていて、そこから逃げ出してきた……なんて事もあるかもしれない。後で落ち着いたら、話を聞かせてもらおう。


「……っはぁー、ちょっち物足りないけど、まぁこのくらいにしといてあげるわ」

 それなりに満足したように、彼女が一息つく。って言うか、今日狩った分の肉を殆ど平らげてしまった……。

 あの細い体のどこに、あれだけの量が消えていったんだろう。

まぁ、痩せの大食いなんて言葉もあるくらいだから、こういう人もいるんだろうと納得しておくしかない。

 それよりも、さっそく彼女の素性を聞いておかなくちゃ。

「あの、お姉さんは……」

「にしてもさー、アンタ料理上手いよねー。あーしさー、アンタの事、ちょっち気に入ったなー」

 僕が何か聞こうとしたら、それに被せるように彼女は話始めた。しかも、そのトークは連弩の如く止めどなく続いていく。


「ちょ、ちょっと待ってください!」

 強引に、ギャルさんの言葉を遮って話を止めさせる。そんな僕に、不思議そうに小首を傾げる彼女。

「あの、自己紹介もまだでしたよね。僕はエルトニクスっていいます。あなたは?」

「あーしはイーシス。ヨロシクね♪」

 僕が名乗ると、ギャルさん……イーシスさんも明るく名乗ってくれた。

 さて、ここからが本題だ。さっきも少し思ったけれど、こんな山奥に未確認生物以外のギャルが一人なんて、何かの犯罪に巻き込まれた可能性がある。

 場合によってはブレフの村で保護することも考えながら、彼女が何故こんな所にいるのか聞いてみた。


「んー、なんてーの? そう……見せしめってやつ?」

 見せしめ? やはり、何かの犯罪行為が関係しているんだろうか?

「ああ、あーしじゃなくて……」

「いらっしゃったぞー!」

 彼女が何か言おうとした時、川の対岸に新たに姿を表したら数人の人影が声を上げた!

 しかし、その数人のシルエットは人間のそれではない。

「竜人……」

 川の向こう岸にたむろう数人の人影は、魔界で見た竜人達に良く似ていた。

 でも、なんで竜人が……? いや、慶一郎さんみたいな人もいるから、あっちとは関係ない竜人かもしれないけど。


「おー! こっち、こっちー!」

 そんな竜人達に、イーシスさんが明るく声を掛ける。

 え? 敵や追っ手じゃないの? っていうか、貴女はいったい……。

「あ、あの……イーシスさんは何者なんですか? あいつらはいったい……」

 我慢できずに尋ねてみると、イーシスさんはにっこり笑い、

「あー、あいつらは……あーしの下僕? あーしは、七輝竜ってのやってんからさ」

 さらりととんでもない事を告げてきた。

「七輝竜の一人、『暴食(食いしん坊)』のイーシスちゃんだよ! 改めてヨロシク!なんつって」

 そして、さらにとんでもない事実を告げてくる。

 なんて……こった、だよ。

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