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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
52/101

52 魔剣解放

 厄介だった長老(おじいちゃん)達を任せて、用意してもらったご飯を食べていると、ルディさんが戻ってきた。その後ろには涙目になって長老達が続いている。

 何をされたかは知らないけれど相当に絞られたみたいで、僕の前に一列に並ぶと「エルさん、スンマセンした!」と頭を下げてきた。

 そして、ルディさんにお伺いを立てるように顔を向け、彼女が「よし!」と頷くと心底、安堵した表情を浮かべる。


「ごめんね、エル。じいちゃん達が面倒言ってさ」

 私達の監督責任だよなぁ……とため息を吐きながらルディさんが謝った。

 いや、叔母さんに謝ってもらう事なんてないから大丈夫だよ。お爺ちゃん達も反省してくれたみたいだし。


 シクシクと、いまだにショックの覚めやらぬ状態でご飯を食べる長老達を見れば、どれだけの事をされた(・・・・・・・・・・)のか、何となく察しはつく。

 だったら、もうこの話は終わりって事でいいでしょう。

「……とまぁ、そういう訳にもいかないのさ」

 ルディさんはそう言いながら、僕の対面に座った。

「じいちゃん達から、今のあんたらの話を聞いたんだけどね。ややこしい状況に巻き込まれてるみたいだし、あんたの口からちゃんと説明して欲しいんだ」

「……そう、だね。うん、ちゃんと説明する」

 食器を置いて話を切りだそうとすると、「先に食べちゃってからでいいよ」とルディさんが促してきた。

 ついでに、残したら許さんと凄まれたので、言われた通りこちらから片付けよう……。


「──で、今に至ってます」

 食べ終えた僕がこれまでの経緯を説明すると、ルディさんはため息を吐いて天を仰いだ。

「ったく、あいつらは……子供をほったらかして何やってるのかな」

「いや、でも……それが僕の『成人の義』にもなってる訳だし……」

 父さん達に呆れるルディさんに、なんとかフォローを入れようとしたけれど、「甘い!」と一言で切って捨てられた。

「たんに魔界にいるだけってんならまだしも、そこで揉め事を起こしてるんでしょう? あの二人が本気で潜伏したら、見つけるのに年単位かかるわよ」

 う……確かに。しかも、僕はアルトさんの手助けという要件も抱えている。


 でも……正直な所、父さん達の探索は後回しにしてもいいと思う。

 そりゃ、父さんが魔物に拐われた当初はものすごく不安だったし、一人で追った母さんの事も心配だった。

 だけど、魔界で暴れる人間の噂……十中八九、父さん達の事を聞くと僕が思う以上に二人は無敵っぽい。

 だったら中途半端に探すよりも、アルトさんの手助けに全力を出して、復権してもらう方が近道な気がする。急がば回れっていうやつだね。


「ふうん……まぁ、確かにそうかもね」

 なんとなくニヤニヤしながらルディさんは僕の顔を眺めている。何か僕の話におもしろいポイントでもあったんだろうか……?

「で、その話に出ていたアルトさんって人は信用できるのかい?」

「もちろんです!」

 僕は速答した。

「強くて優しくて綺麗で……あと、少しだけ寂しがり屋みたいで」

 協力関係だからという事だけでなく、僕の全力をかけて助けてあげたい(できれば格好よく守ってあげたい)と思ってる。

「ふうぅぅん♪」

 益々ニヤニヤしながら、ルディさんは僕の頭をポンポンと叩いた。

「まったく、チビ助だと思ってたのに、いつの間にか男の顔をするようになっちゃって」

 母さん(チャル)に惚れてた、昔の父さん(リディ)にそっくりだとルディさんは笑う。

 ……どうやら、僕のアルトさんへの想いは、見透かされているみたいだ。まぁ、やましい事はないからいいけどさ。


「とにかく、あんたの状況は解った。だから、じいちゃん達が提示した神器の持ち出しも許可しよう」

 ルディさんがそう言うと、長老達の顔がパッと輝く。

「ただし! なるべく事を荒立てず、かつ極力目立たない事。いいね?」

 そう釘を刺されて、僕はもちろんですと返す。

 長老達は不満そうだったけど。


「じいちゃん達は、勇者の使命だなんだ言ってたけど、結局の所はすごい事やって皆から見直されたいってだけだからね」

 ハァ……とため息を吐くルディさんに、長老達はビクリと震える。そこまで怯えるなんて、どんなお説教をされたんだろう……。

「今の勇者の一族(わたしたち)は目立たず静かに暮らしていく事を是としているわ。もちろん、大きな混乱にならないよう力を尽くすことは認めるけど、魔界の貴族というアルトさんって旗印があるなら、その人をとことん持ち上げてあげなさい」

 うん。世間的には、僕は彼女の協力者Aみたいな立場でいい。

 対外的な手柄や評価なんかは、立場のあるアルトさんとお姉ちゃんに譲ってしまうつもりだ。


 そんな僕の答えを聞いて、満足したルディさんはそれでどの神器を持って行くのかと聞いてきた。

 もちろん『究極・調理道具』!

 長老達がやっぱそれかよ……みたいな顔をしていたけど、僕にとってはこの選択しかあり得ない。

「オッケー、じゃあそれは持っていきなさい」

 快く了承してくれたルディさんは、こっそり「アルトさんって人に美味しい物を食べさせてあげなさいよ」なんて、からかうように耳打ちしてきた。

「うん! もちろんだよ!」

「照れもせずに堂々と……ははっ、やっぱりあんたはリディとチャルの息子だわ」

 元気よく答える僕に、肩透かしを食らったように苦笑いするルディさん。

 「愛の戦士すぎんだろ……」長老達も呟いてたけど……僕、なにか変な対応したかなぁ?


「ところでこれからエルはどうするの?」

 呼び出しの件も解決したし、すぐに戻るのかと聞かれた。だけど僕は、首を横に振る。

「できれば二、三日くらいハミィと修行したいんだ」

『主様が、剣術と飛行技術を組み合わせた、全く新しい戦術を身に付ける為に、色々と試したい事があるのです』

 声を出したハミィを物珍しそうに眺めたルディさんは、それならバイトしないかと持ちかけてきた。


「ここの所、『グレーター・レッサーパンダ』と『潔癖アライグマ』が大量発生しててね。近隣の村に被害が多くて一族(うちら)の男衆も出払ってるんだ」

 上位なのか下位なのか、迷いそうになる『グレーター・レッサーパンダ』は三メートルほどの体長を持つ狂暴なレッサーパンダに似た魔獣。

 異常に水浴びの回数が多い生態から、その名が付けられた『潔癖アライグマ』は、体長一メートルくらいの鋭い爪と牙を持つ凶悪なアライグマの魔獣だ。

 どちらも繁殖力が高い上に、やたらと好戦的で食欲旺盛、小規模の群れでもちょっとした村が壊滅させられる事もある危険な魔獣達である。


「まぁ、うちらにしてみれば取るに足らないけど、なにしろ数が多くてね。肉や毛皮はあんたが持っていっていいし、ある程度狩ってくれば褒賞金(こずかい)も出すよ」

 それは……なんて素晴らしい提案だろう!

 この魔獣達の肉は、普通なら臭みが強くて食べられないのだけれど、ある香草や酒を用いれば美味しく調理する事ができる。

 また、その毛皮は防寒具の材料として重宝されていて、売りに出せば結構な金額になったりするのだ。

「良いの、叔母さん! そんなに……」

 好条件で……と続ける前に、ルディさんのアイアンクローが僕の顔面を鷲掴みにし、言葉よりも悲鳴が飛び出した。

 ご免なさい、「叔母さん」じゃなくて「綺麗なルディさん」でした!

 よろしいと言って離してくれたけど、骨の軋む音が聞こえていたから、あと数秒遅かったら頭蓋骨に穴が空いていたかもしれない……。


「そうじゃ、エルトニクス。ワシらからも、ひとつプレゼントをしてやろう」

 不意に長老リーダーがそんなことを言った。

 だけど、あからさまに不信そうな顔の僕とルディさんに、慌てて弁明しながら長老リーダーはハミィを指差す。

「おぬしのその魔剣『肉切り包丁骨食み丸』には初代様の封印がなされている。それをワシらが解除してやろう」

 ええっ! そんな事できるのっ!?

「ふっふっふっ……伊達に歳はとっておらんわ」

「だがな、それにはしてやるには二つ条件がある……」

 二つの……条件?

「そうじゃ、そしてその条件とは!」

 指を突き出した曾祖父に一瞬だけ緊張が走る!


「ワ、ワシらにぃ、可愛らしくお願いすること。あと、上手くいったら『おじいちゃん達、すご~い!』って褒め称えること!」

 顔を赤らめて恥ずかしそうに、そんな条件を出してきた。

 ……なにそれ。

「あ、それから今後、活躍した時は『おじいちゃん達が助けてくれたおかげです』と宣伝するのも!」

 条件増えてるよ!

 調子づく長老達だったけど、ルディさんの殺気のこもった咳払いが聞こえ、最後の条件は無しでと半泣きで告げてきた。

 そんな様子に、ちょっと呆れながら他の長老達を見てみると、みんなも照れながら期待するような目で、こっちを見てる。あー、うん……。


長老(おじいちゃん)、おねがぁい……」


 上目遣いで、子供っぽく(子供だけど)言ってみた。


「『お願い』入りましたぁ!」

 うおおっ! っと歓声を上げて異様に盛り上がる長老衆。

「んもう、しょうがないなぁ。おじいちゃん達に任せておけぃ!」

 テンションも高く、長老達はそれぞれ印を結んでハミィに向ける!

「封印……解除!」

 結ばれた印から光が走り、ハミィに当てられた!

 すると、一瞬だけハミィの刀身の回りに術式のような文字が浮かび上がって、ガラスのような音を立てて崩れ落ちる。

「よし! 解除完了じゃ!」

 え? もう!?

 思ったよりも、あっさり終わった解除の儀式。少し拍子抜けしつつも、僕はハミィに問いかけた。


「ハミィ……どう?」

『あ、はい。封印されていた能力が復活しました』

 長い間封じられていた能力が戻ったというのに、特に感慨も無いような口調でハミィは続ける。

『解放された能力は『闘気吸収(オーラ・イーター)』と『闘気剣精製(オーラブレード)』ですね』

 ふぅん? それって、どんな能力なの?


『『闘気吸収』は斬った相手から闘気を吸って主様の身体能力を上げる事ができ、『闘気剣精製』は主様の闘気から巨大な刀身を作ることができます』

 おお……!

 でも、前者はともかく、後者はいままでも出来てなかったっけ?

『今までは『闘気操作(オーラコントロール)』で刃に闘気を纏わせていましたが、『闘気剣精製』は闘気(オーラ)自体で刀身を作れます』

 その強度や鋭さは持ち主次第だが、そこらの名剣等とは比べ物にならないよう攻撃力が期待できるらしい。

 それはすごいね!


 ハミィを掲げて感心していると、後ろからちょんちょんと肩をつつかれた。

 そちらを見れば、長老達が「わかってるよね?」と言いたげにモジモジしている。

 ああ、はいはい。解ってますよぅ。

 封印解放のもう一つの条件を遂行すべく、僕はこほんと一つ咳払いをした。

 そうしてなるべく子供らしさ全開で、


「おじいちゃん達、すご~い!」


 そう言いながら、一人一人に抱きついて行った!

 よっしゃあぁぁっ! と、歓喜の渦に巻き込まれる長老達。

「これじゃあ! このスキンシップと尊敬の言葉が欲しかったんじゃあ!」

「若者にありがたがられるのは、最高じゃよう!」

 喜んでくれて何より。


「あ、そうじゃエルトニクス」

 ご機嫌な長老リーダーが、声をかけてきた。

「注意点が一つ。解放された能力を使いすぎると死ぬから、気を付けるんじゃぞ」

 へぇ、そうなんだ……って死? 死ぬのっ!?

「『闘気吸収』を必要以上に使えば体が爆発四散するし、『闘気剣精製』を使いすぎれば衰弱死する……言わなかったっけ?」

 聞いてないよっ!

 だ、だけど……それは封印されるよね……。

 初代様の考えがよく解り、僕はがっくりと膝を付くのだった……。

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