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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
51/101

51 お爺ちゃん、それはダメでしょう

「……つまり魔界の情勢が不安定になりつつあるから、先に『勇者』を押し立てて自分達の功績と先見性をアピールしたかったと」

 僕の目の前で正座する五人の長老達から聞いた言葉を、確認するように繰り返してみた。


「事が起こる前に手を打つのが、デキる軍師スタイルだし……」

 ポツリと漏らした言い訳めいた言葉に、ハミィがため息を漏らす。

『なんとも情けない。自らのが前線に立つと言うならまだ解るが、主様達のような少年を前に押し出すとは……』

 そんなハミィの言葉にムッとしたのか、厳つい長老が反論してきた。

「行けるならば、ワシらが行くわい! しかし、一族の中でも最強と言われる、アルリディオとチャルフィオナが立ってくれれば、その方が成功率はあがるじゃろうが」

「適材適所……それを見極めるのも、デキる軍師スタイルよ」

 得意気に、長老リーダーが補足する。

 もう、さっきから軍師軍師って……特にすごい作戦を立ててる訳でもないじゃないか。

 呆れ顔の僕を見て、長老達がヒソヒソと話し合う。

「おかしいのぅ……若い者には軍師キャラが受けるんじゃなかったか?」

「予定では『お爺ちゃん達すご~い!』ってなるはずじゃったんだが……」

 ならないよ! 軍師キャラも自称してるだけだし!


「ま、まぁ待て!ワシらとて無理難題を押し付けるだけのつもりはないぞ? これを見よ!」

 これが奥の手だと言わんばかりに、僕の目の前に宝箱が三つ並べられた。

 これはいったい……。

「フフフ……これこそ初代様が使っておられた、伝説の武具……」

 何処からともなく、ドラムロールの音が鳴り響いてくる。こういう演出するのが、好きだなぁ……。

 さっき間違えたって言ってた「中年女性の笑い声」といい、効果音みたいのを予め用意していたんだろうか?

 そんな風に気を取られていると、ジャン!という締めの音と供にドラムロールが止んだ。

 そうして開かれた宝箱の中には……。


「説明しよう! まずは宝箱その一、『超神剣・没遮欄(ぼつしゃらん)』!」

 右端の宝箱から、神々しいオーラを纏った一振りの剣が姿を現す。

「空を斬り、大地を割り、海を裂く! 鬼に会いては鬼を斬り、神に会いては神を斬る! 全てを斬り裂く鋭さは、その名に相応しく遮るもの無し!」

 熱く解説するのはいいけど、それじゃまるで血に餓え魔剣みたいなんですけど……。

 あと、「ドドドドド」って擬音が聞こえてきそうな、捻れたポーズはなんなんだろう……。


「続いて宝箱その二!『超聖鎧(ちょうせいがい)玉麒麟(ぎょくきりん)』!」

 真ん中の宝箱から、どうやって入れてあったの? って聞きたくなるような立派な鎧が浮かび上がってきた。

「あらゆる物理、魔法攻撃を無効化し、さらには毒や麻痺からも身を守る優れ物! 若干、重量があるのはご愛敬じゃ!」

 またも捻れるようなポーズを付けながら、鎧の説明をしてくる。

 だけど、その奇妙なポーズが気になってあんまり説明が入って来ないよ……。


「ラスト、宝箱その三!『究極アルティメット調理道具クックアイテム』!」

 最後に残った左端の宝箱からは、手のひらサイズの小さな箱のような物が現れる。

「いつでもどこでも魔法空間を形成し、万全の調理場で料理が出来る! 食材を保存出来る魔法冷蔵庫マジックフリーザのおまけ付きである!」

 これには、奇妙なポーズはついていなかった。

 長老達があまりオススメしてないのが、逆に解りやすい。


「さぁ、エルトニクス。お主が持って行けるのは一つだけ……どれを選ぶ?」

 そんな事を言われたら、選ぶのは一つしかない。

「三番の『究極・調理道具』で」

「そうか、そうか。調理道具……って、オイッ!」

 僕の返答に、会心のツッコミか決まった……って感じで、恍惚の笑みを浮かべる長老リーダー。

 そして、一つ咳払いをするともう一度、同じ質問をしてきた。

「いやいや、よく考えるんじゃよ? 武器と防具……どっちを持っていく?」

「三番の『究極・調理道具』で!」

 選択肢から消されても、僕の答えは変わらない。

「うむ、そうじゃろう。調理道具……って、オイオイオイ!」

 今度は長老達全員がツッコんできた。

 そうしてどこか満足気な老人達は、一斉に口を開く!


「オイこら、素晴らしい武器や防具を前にして調理道具を選ぶとは、どういう了見だ!」

「まぁ、なんちゅうか可愛らしいのは外見だけじゃないかということか?」

「あの暴れん坊達の息子とは思えんな、女々しいことよ」

「キィッ! こんな連中に好き勝手言わせないで、なんとか言ってやりなさいよっ!」

 なんで僕が女々しいと言われて、曾祖父(ひいじいちゃん)がオネェ言葉になるのさ……。

 まぁ、色々と言ってくれるけど、武器を選ばない理由は簡単なことだ。


 剣ならハミィがいるし、これから僕達が修得しようとしている空中殺法エリアルスタイルには、重量のある鎧は邪魔くさい。それ以前にサイズが合わなさそうだしね。

 だったら鋭気を養う為にも(あとアルトさんに美味しいご飯を食べてもらう為にも)、究極・調理道具が一番いい。

「かぁ~っ! これらは元々お主が使うことを想定しておらんわ!」

「そうじゃ。アルリディオかチャルフィオナに届けてくれりゃあいい!」

「大体、子供には危なすぎるわい」

 口々に言うけど、そんな危ない物を子供に預けないでほしい。

 しかし、これはまいったな。

 どうやら長老達は、父さんや母さんを今の勇者として立てるのを諦めていない。

 二人が今のところ行方不明な事を、どう誤魔化すか……。


 ──なんだか面倒になってきた。

 こうなったら、僕達の現状を話してしまった方が、いっそすっきりするかもしれない。それにこれ以上、権力者を煽ったりしなくなるかも……。

 うん、そうだ。そうしよう!

「あの、実はですね……」

 わいわい騒ぐ老人達に、僕達が巻き込まれている今の現状を説明する。すると長老達の顔色はみるみる変わっていった……。


 ──そうして話を聞き終えた彼等は、ゴクリと喉を鳴らしてから重いため息を吐く。

 皆が皆、神妙な面持ちの中で、曾祖父一人だけが妙に調子にのっていた。

「ヘイヘイ、どうじゃ! ワシの孫一家はスゲーじゃろうが!」

 うん、喜んでくれるのはいいけど、あんまり調子には乗らないで欲しいな。恥ずかしいから。


「まさか、ワシらの預かり知らぬ戦況で、お主らがそんなに深く関わっておるとは……」

 軍師を気取るには、情報収集の能力が低かった事を痛感したのか、長老達はズンと落ち込んでいた。

 でもまぁ、これで変に暗躍しようとはしなくなるだろう。

 まったく、勇者を立てようとしたり、初代様の装備を持ち出したり、一歩間違えれば大変なことになる所だった。

 それにしても……。


「よく他の勇者の子孫(みんな)が賛成しましたね」

 僕がそんな素朴な疑問を口にした瞬間、長老達の表情が固まる!

 えっ? まさか……。

「いや、その……皆にはまだ何も言っておらんのじゃ……」

「!!」

 てへペロでやんすって感じで舌を出す長老達に、僕は空いた口がふさがらない。

 いくら最高決定権があるからって、独断でそんな事をしていい訳がないっ!


「だ、だってアルリディオとチャルフィオナが受けてくれれば、誰も文句なんぞ言わんと思ったんじゃあ!」

 確かに父さん達は一族で最強とか言われてるけど、そんな皮算用で独断専行していい訳がないじゃないかっ!

 なんでそんな真似を……。

「ま、孫達にスゲーって言われたくて……」

 ポッと顔を赤らめて、老人達は言う。

 またも呆れた僕に、長老達は最近の身内からの扱いに対する愚痴を溢す。

 ……もう、何にも言えないよ。

 あー、これはちゃんと皆に叱ってもらわないといけないね。


「か、勘弁してくれぇ!」

「ラナルディオあたりにバレたら、めちゃめちゃ痛くされてしまうんじゃあ!」

 怯えた長老達が一斉にすがり付いてくるけど、ここは心を鬼にしなくてはならない。

 またバカみたいな呼び出しとか食らったらいやだし。

 ルディさんに報告すべく、老人達を振りほどこうとしていると、急に部屋の扉が開かれた!


「おーい、エル。ご飯だよー。ついでにじいちゃん達も……って、なにやってんの?」

 扉を開けて顔を覗かせたルディさんが、長老達にしがみ付かれる僕を見て首をかしげた。

 ああ、ちょうどよかった。長老達は必死で僕に黙っておくよう、ジェスチャーを送ってくるが……諦めて怒られてね。

 そうして僕は、ここに呼び出されてからの経緯をルディさんに語った。


「……じいちゃん達はさぁ、やって良いことと悪いことの区別がつかない人?」

 張り付いたような笑みで、ルディさんが長老達に向かって静かに問い掛ける。

 でも、その目はまったく笑っていない。そんな様子から、かなり怒っているのが伺えた。

 仁王立ちになるルディさんに、老人達は怯えすくんでいる。

「エル……あんたは向こうでご飯を食べてきなさい。私はじいちゃん達と話す事があるから」

 そう言われた途端に、長老達の震えがいっそう激しくなった。

 行かないでと僕に視線を向けてくるけど、間に入ったルディさんがそれを遮る。


「皆を面倒に巻き込もうとしたり、初代様の武具を持ち出したり……」

 つぶやくルディさんの額に、ビシリと青筋が走る!

「これはよーく話し合わないといけないわね……大丈夫、回復魔法は使えるから(・・・・・・・・・・)

 話し合いにどうして回復魔法が……といった思いは口に出さずに、僕は言われた通り部屋を出ていく。

 扉を閉める前にして悲鳴的な物が聞こえた気がしたけど……どうか長老達には、しっかりと反省して欲しい。

 そんな思いを込めつつ、閉ざされた扉の向こう側で起こっているであろう惨劇(おせっきょう)を想像して、僕は手を合わせるのだった。

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