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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
47/101

47 竜人からの申し出

 悪夢のような夜が明けて、その日の昼前になってから約束通りドラゴン・慶一郎は領主の屋敷を尋ねて来た。


「ど、どうなされた……」

 メイドに案内され、応接室で相対した慶一郎は、妾の顔を見るなりぎょっとしたようだ。

 無理もない。鏡を見るまでもなく、今の妾は憔悴した表情をしていたのだろう。


 それもこれも、ラライルとリーシャのせいだ。

 同じ日に同性から二度も襲われるって、どんな厄日だというのか!?

 思い込みからの暴走やら、度の過ぎた冗談とか言われても、妾はマジで怖かったんだからな!

 くっ、エル……早く帰ってきてくれ……。このままでは、エル分不足で妾の気力が低下してしまう。


「あの……話をさせて戴いていいだろうか?」

 ハッ……! 慶一郎の声で、妾の意識は現実に引き戻された。いかん、いかん。

 最近、現実逃避に陥る事が多くなってきた気がする。

 気を取り直して、慶一郎に向かい直す。

 さて……こやつはどちら側(・・・・)だ?


 名前や虎二郎達の前例もあるが、妾達がウジンを倒した話を聞いた後に接触してきた以上、こやつが竜人であることは間違いないだろう。

 竜族に情報を渡す為か、竜族から離れる為に情報を欲するのか……。

 後者なら協力体制を取れなくもないが、前者なら……ここで始末しなければならないだろう。

 そのためにリーシャには屋敷の中で最も奥まったこの部屋を用意してもらい、各廊下にはさりげなく兵を配置してもらっている。

 さらに、カートやハンターキャッツ達を遊撃隊として待機させ、敷地内の何処にでも転移魔法で移動できるようにしておいた。

 これで警戒すべきは長距離の転移魔法で逃げられる事くらいだが、それは骨夫がこの場にいるのでは対処できるだろう。


 ぶっちゃけ、いかな竜人とはいえ、一人に対して過剰過ぎる処置ではある。

 しかし、今後の影響を考えれば、初手でしくじる訳にはいかない。

 リーシャもそれを考慮したからこそ、この配置に賛同したのだろうしな。

 さあ、こちらの対処法は完璧だ。後は貴様の手の内を見せるがいい!


「……改めて自己紹介いたしますと、私はドラゴン・慶一郎。虎二郎や三郎と同じく獣魔族であります」

 そう言うと、慶一郎は人化の魔法を解いて正体を現した。

 一瞬、リザードマンを彷彿とさせるも、よく見ればかの者達よりも遥かに力強さを感じさせる。

 流石は竜の因子を持つ者達だ。

「まず話さねばならないのは、我々竜人の立ち位置についてです……」

 そう切り出して、慶一郎は竜族による竜人の扱いや、彼等の現状を訥々と語った。

 まぁ、アマゾネス・エルフの集落で保護している竜人達から大体の事は聞いているから、内容はほぼ知っている。

 妾は空気が読めるから、慶一郎の語りを遮りはせんがね。


 そうして一通り話終えた後、一呼吸置いて本題に入った。

「私は人間界で冒険者として修行を積み、それなりの技術や人脈を得ることが出来ました。そして立ち上げたのが、我が冒険者チーム『竜人解放戦線』です!」

 それはまた……なんともストレートな名前を着けたものだ。

 ある意味、竜族に正面からケンカを売っているのだが、大丈夫なのか?

「それだけの覚悟はあります」

 固い表情ながらも、慶一郎は決意を込めた声で宣言した。

「そういえば、リーシャ殿からそんな名の冒険者チームが少し前に発足したと聞いたことがあるが……それがお前達なのか」

 骨夫の言葉に、慶一郎がコクリと頷く。

 なるほど、一応は本当にあるのだな(・・・・・・・・)。竜族の為にスパイ活動をするフェイクでは無いわけだ。


「ここまで言った以上、私の次の言葉は察しているとは思いますが……あえて言わせて戴きます!」

 次の瞬間、慶一郎はソファから降りると、床に頭を打ち付けるような勢いで土下座をして見せた!

「どうか! 七輝竜の一人を倒したという、骨夫殿(・・・)のお力を貸して下さいっ!」

 覚悟の籠った土下座と、助力を求める必死の声。

 そうか、骨夫の……骨夫?

 ああ、そういえば妾がラライルと揉めている時に、なんか骨夫がウジンを倒したぜー! みたいな話の盛り方をしていたな。

 チラリと骨夫の方を除き見ると、青ざめた表情で滝のような汗を流していた。


「……いかがでしょうか」

 慶一郎が顔を上げると同時に、骨夫の汗がピタリと止まる。そして、何事も無かったかのような澄まし顔で小さくため息を吐いた。

「今の私は、私だけの体ではない。こちらのお嬢のボディーガードが先約だからな……」

 そんな骨夫の言葉に、慶一郎が妾の方を見る。

 ううん、そんな迷子みたいなすがる目で見られると……。

「まぁ、妾は別に……」

 骨夫を貸してもいいよと、続けようとしたが、慶一郎から見えない位置で骨夫が妾の服を引っ張る。

 相変わらず奴は澄まし顔のままだったが、震える指先が「止めて、よして、許して、お嬢!」と訴えかけていた。

 ったく、こやつは……。

「はぁ……」

 大きなため息が思わず出ていた。仕方がない、これも主の務めか……。


「悪いがこやつを貸し出す事はできん。妾にも都合というものがあってな」

 そう言うと、慶一郎の顔にあからさまな落胆の色が表れ、そのまま項垂れる。

「いやー、残念だ。でも、依頼人の都合だからなー。仕方ないなー」

 あからさまに、ホッとした顔で浮かれよって……。だが、安心するのはまだ早い!

「しかし」

 言葉を続ける妾に、慶一郎が顔を上げた。

「妾達も諸事情で、竜族と揉めることになるとは思う。その時にお主らが竜人を蜂起させられるのであればありがたい」

「それって……」

 慶一郎がパッと顔を輝かせた!

「骨夫は貸せんが、協力体勢ならとっても良いという事だ」

「おお……」

「せいぜい、頑張ってもらうと良い。きっと七輝竜相手にも、活躍してくれるであろうよ……なぁ?」

 妾の最後の問い掛けに、骨夫は若干引きつりながらも親指を立てて答えた。


 ひとまず話が済むと、プルプルと慶一郎が歓喜に震える。

 やがて一呼吸、置いて「感謝しますぞ、アルトニエル殿ー!」と抱きついてこようとした!

 どさくさ紛れて何を狙ってやがる、貴様!

 幻の左ストレートで慶一郎を迎撃し、「協力体勢、解消されたいのか?」とかましておいた。

「か、感極まっただけです! 他意はありません!」

 慶一郎は慌てて身を正して、謝罪してみせる。

 ふん、ならば今回は見逃してやろう。二度と軽々しく淑女(レディ)に抱きつこうとするでないぞ!

 そんな妾に、お嬢はよくエルに抱きついてるじゃないっすか……と、生意気にも骨夫がツッコミを入れてくる。

 バカめ、淑女の方から抱きつくのはアリに決まっておろう。

 あと殴った拳が痛いから、早く治して。やくめでしょ!

 実際に骨夫が回復魔法を使うところを、慶一郎は珍しそうに眺めていた。


 ……さて、曲がりなりにも協力体勢を取ろうと言うのなら、互いの戦力は知っておかねばなるまい。

 もはや密談形式で無くても良かろうと、リーシャやカートを転移魔法で呼び寄せる。

 領主の娘であるリーシャや、あまり見かけぬアマゾネス・エルフのカートが妾のチームにいた事に多少面食らっていた慶一郎だったが、カート集落で竜人を数人保護していると聞かせるとさらに驚愕していた。

 で、そちらの戦力はどんな物なのだ?


「今のところ私を含めて三人。そして竜族の縄張り内で諜報活動をしているのが十数人といったところでしょうか……」

 全員が竜人であるとは言うが……思ったよりも戦力は少ないな。

「すいません……本気で竜族に心酔している者や、保身の為に裏切る者も居なくはないので」

 仲間選びには、慎重に慎重を重ねる必要があるということか。解らんでもないな。

「ラライル組の協力は得られないのですか?」

 カートが問うと慶一郎は首を振る。

「私はすでにチームを抜けた身……今さらそんな虫の良いことは……」


「水くさい事を言うなよ!」


 バン!と扉が開いて、室内にズカズカと入ってくる三人の人物!

ラライル! 虎二郎! 三郎!

 その三人が、妾達の前まで来るとビシッ! とポーズを決めて見せた。

 いや、その行程いるか?


「あ、姐さん! 体の方は大丈夫なんですか!?」

「あったり前じゃない。あれくらいでいつまでも寝てたら、冒険者なんかやってられないってね」

 全快したっぽいラライルの姿に、慶一郎はホッと胸を撫で下ろす。

「それよりも聞いたわよ、リュウ」

「俺たちとリュウの兄貴の仲じゃねーか!」

「もっと俺たちを頼ってくれていいんだぞ」

 三郎と虎二郎が慶一郎の肩を叩き、ラライルが頷く。

「お、お前ら……」

 かつてのチームメイト達の、暖かい言葉に感激していた慶一郎だったが、ハッとしたようにラライルの方を見る。

「姐さん……いいんですか?」

 彼も一応、リーダーとして部下を纏める身。同じくリーダーとして、そしてかつての仲間として危険なミッションに巻き込む事になるのを危惧しているようだ。

「…………」

 ラライルはそんな慶一郎の問いにすぐには答えず、なぜかチラリと妾の方を見た。

 ん?

 小首を傾げる妾と目が合うと、ポッと顔を赤らめてそっぽを向く。

 ええ……なにその反応……嫌な予感が止まらないのだが……。


「別に構わないわ。確かに危険ではあるけど、ハイリスク・ハイリターンは冒険者の華だしね」

 それに、リーシャ様が絡んでるなら領主様からの報奨も期待できるし……と加えてから、やはり妾の事をチラ見する。

 んん? な、なんなのだ、いったい……!


 盛り上がる冒険者達を余所に、なんだかでかい爆弾を抱えたような……そんな不安が妾の胸を過っていた。

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