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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
46/101

46 一難去って、また難題

「おい、中の方は終わったぞ」

 くたびれた妾が声を掛けると、ようやく男連中は気がついたようで、こちらに顔を向けた。

「あ……リ、リーダーは!?」

「部屋の中で転がっておるから、後はお主らで介抱してやるがよい」

 そう言うと、三人はバタバタとラライルの転がる室内に、駆け込んで行った。

 そして、廊下に残された妾と骨夫の間に、微妙な空気が流れる。


「……随分と気持ち良さそうに謳っていたなぁ」

 妾の言葉に、骨夫はビクリと体を震わせる。

 まったく……お前がちやほやされてる間に、妾がどれ程の恐怖を味わっていたことか……。

「あの……中で何があったんですか?」

 おずおずと骨夫が聞いてくる。

 単に「呪いなんて思い込みだ、バーカ!」と告げてくるだけだと聞いていたこやつには、あの惨状は想像がつかなかったらしい。

 まぁ、それは部屋に入る前の妾もだが……。


 一応、情報の共有化ということで、ラライルと何があったかを簡単に説明する。

「な、なんという事だ! 許せん、許せませんぞ!」

 ひどい目にあった妾の為に、骨夫が怒りの気炎を吐く。

 なんだ、こやつにも少し位は、忠義心というものがあるではないか。

「そういうのは、録画なり録音なり文書で記録するなりして、形として残しておくべきでしょうが! 高貴な姫と冒険者のレズプレイ……字面だけで胸がたぎる!」

 前言撤回。やっぱり手遅れだ、こいつは。

 というか、仮にも主君筋がそのレズレイプとやらをされかけたのに、そういう言いぐさはどうなの?

「背徳的だからこそ燃えるシチュってあるじゃないですかっ!」

 力説するな! 知らんわ、そんなもの!


 そして、もう一つ釘を刺しておかねばならない事がある。

「なぁ、骨夫。妾達が人間界に潜伏しているのはなんの為だったかな?」

「何を言ってるんですか、竜族の目を誤魔化す為……」

 そこまで言って、骨夫の表情が凍りついた。

 そう、ウジンを倒した事を隠蔽する為に、身を隠していたのだよな?

 にも関わらず、ウジンを倒した事を横の繋がりが多くて、噂話が大好きな冒険者達に吹聴していた奴はだーれだ?


 にこやかな笑みを張り付けながら、妾は骨夫に問いかける。

 しばらくの間、言葉も無く震えていた骨夫だったが、唐突に膝から崩れ落ちた。

「し、仕方なかったんやぁ! ワイも……ワイもチヤホヤされたかったんやぁ!」

 嗚咽と共に思いを吐露しながら、骨夫は泣き続ける。

 いや、お前……割りと最低の理由で妾達を危険に晒しているんだが。まったく、泣きたいのは主たる妾の方だよ……。

 はぁ、仕方がない。

 ため息を吐く妾に、僅ながらこちらを伺う気配を骨夫が見せる。

 とりあえず、痛くするからな……そう声を掛けると、骨夫の慟哭はピタリと止み、代わりにカタカタと震え出すのだった。


「おい、リーダーが目を覚まさないけど大丈夫なんだろうな!」

 ラライルの様子を見てきた三郎達が、部屋から出てきて聞いてくる。

 それと同時に骨夫が飛び上がり、何事もなかったかのように澄ましてみせた。ほんとに調子いいな、こやつは。

 だが、目を覚まさない?

 ふむ、ちょっと電撃が強すぎたかのであろうか?

 しかし、ここはラライルが消耗していたからという事にしておこう。

「……なんとも恐ろしい呪いですな」

 少しだけ、非難めいた口調で虎二郎が言った。

 正面から妾を責めないのは、こんな目に会ったのも自業自得という事を理解しているからだろうな。

 だが、妾が非道な真似をしたと思われるのは心外だ。単なるラライルの思い込みなのに……。

 まぁ、彼女にもグループリーダーとしての立場とかあるだろうから、武士の情けとしてそこは黙っておいてやるが。


……ただ、一つ気になる事がある。

「なんであいつら、前屈みなんですかね」

 妾と同じ疑問を感じたようで、骨夫がポツリと呟く。

 その呟きに、三郎達はビクリと震えて赤くなった。

「い、いや……何故だか部屋の中には濃密なリーダーの香りが残っていて……」

 悲しい男の生理現象ですと、小声で虎二郎が返してきた。

 ああ、なるほど。獣魔族(こいつら)は匂いに敏感だからな。

 空気の入れ換えはしたが、あれだけ濃密な淫気だったのだ。室内に染み付いたそれに、反応してしまったのだろう。

 やはり教育上よろしくなさそうだし、エルがこの場に居なくて良かったのかもしれんと改めて思う。

 いや……逆に男の本能を刺激されて、強烈に妾を求めて来たかも……。

 ダ、ダメだエル! そんな事……。

 でも、妾もお主になら……。


「……嬢、お嬢! しっかりしてください!」

 大声で呼び掛けられて、妾の意識が現実に戻ってくる!

 あ、危ない危ない。妄想の中で強引に迫ってくるエルに少々、トリップしていたようだ……。

 口元の涎を拭い、表情を引き締める! よし!


「すまないが……少しいいだろうか?」

 そう言って妾達に話しかけて来たのは、ある意味この場で最も警戒しなければならない人物……ドラゴン・慶一郎。

 恐らく人化の魔法で人間の姿になってはいるが、その正体は(名前からして)竜人であろう。

 骨夫がぺらぺらと、妾達が七輝竜のウジンを倒した事を話したものだから、こやつがどちら側(・・・・)なのかによって対策を練らねばならない。

「貴女方に折り入って相談したい事があるんだが……よかったら、時間を作って貰えないだろうか?」

 相談……ね。

「別に構わんよ。妾の仲間が合流するまで時間はあるしな」

「ありがたい。それで……図々しいのは承知の上だが、他者を省いて我々三人で話をさせてほしいのだ」

「場所はどうするのかね?」

 横からの骨夫の問いに、慶一郎はお任せすると答えた。

 ふむ……まぁ、余人を交えぬのなら妾達の方が有利ではある。しかも、場所もこちらで指定できるなら、もはや圧倒的だ。

 逆に有利過ぎて、何か企んでいるのではと疑いたくなる。


「お嬢……」

 決断は妾に一任するといった風に、骨夫が頷く。

 そうだな、よかろう。どちらにせよ、こやつには真意を問わねばならんのだからな。

「妾達は今、領主の屋敷に滞在しておる。話は通しておくから、好きな時間に尋ねて来るとよい」

 ただし、常識的な時間帯にな……と、念を押しておく。

 いや、たまに夜行性の気がある獣魔族が、深夜に行動する時があるのだよ。

 人間や普通の魔族は夜に寝るものだから、万が一そんな時間に尋ねて来られても困るしな。


「……わかりました。では、明日の昼前にでも」

 うむ。了解した。

 頷いて承諾すると、慶一郎は一礼してラライル達の元へと戻って行った。

 あの雰囲気から、厄介事を持ち込まれる事は間違いなかろう。

 ただ、それが妾達にとって吉となるか、凶となるか。


 場合によっては慶一郎の口を封じねばならんな……。


 そんな事も想定しながら、妾達は用事のすんだ冒険者宿を後にするのだった。


「あら、お帰りなさいませアルト様」

 領主の屋敷に戻ると、リーシャが妾達を迎えてくれた。くれたのはいいのだが……何をやっているのだ、カート?

 妾達が目撃したのは、ハンターキャッツ達と一緒になって、リーシャにじゃらされているアマゾネス・エルフの姿だった。

「あふん……ハッ! ア、アルト様!お帰りなさいませ!」

 リーシャに膝枕され、頭を撫でられていたカートだったが、妾の姿を確認すると夢から覚めたように起きあがる。

「ウフフ……カートさんは意外と甘えたがりみたいで」

 リーシャがコロコロと笑うと、慌ててカートは取り繕った。


 ううむ、野生の獣のようなアマゾネス・エルフを、短時間であそこまで手なずけるとは……ハンターキャッツどもも未だに夢見心地だし。

 改めて天然と智謀が同居し、それが魅力となっているリーシャという女性に空恐ろしさを感じる。

 相手が妾でなかったら、エルも取り込まれていたかもしれんな。

「それで、エルに頼まれた約束というのはいかがでしたの?」

「ああ、それがの……」

 リーシャがテキパキと用意してくれたお茶をいただきながら、冒険者宿での一件を妾は彼女に語った。

「……思い込みだけでそこまで悪化するなんて、冒険者の方々の強い精神力というのも考え物ですわね」

 話を聞き終え、リーシャは感心したような呆れたような感想を漏らした。

 いやぁ、アレはラライル特有の物だと思うがなぁ。


 しかし、本題となるのはその後の話(・・・・・)

「それでな。すまぬが明日、慶一郎が尋ねて来たときに部屋を一つ用意してもらいたい」

 妾が告げると、リーシャの目に計算高い貴族としての光が宿る。

「誰も近付ける事無く、アルト様達だけになれる部屋ですね」

「うむ。どの部屋を使用すれば(・・・・・・・・・・)良いかは任せる(・・・・・・・)

「わかりました。人払いが完璧に出来て、それでいて逃げるに困難な部屋を(・・・・・・・・・・)用意いたします(・・・・・・・)

 流石だな……。

 彼女の返答に、妾は満足して頷いた。

 もしも慶一郎が心から竜族の配下として動いていた場合、奴を逃す事はできない。

 リーシャは、言葉に出さないそんな妾の意図を完全に読み取って、配慮すると答えたのだ。


 これで、明日は万全だと安心した妾の隣に、スッとリーシャが移動してきた。

 うん? どうしたのだ?

「アルト様……先程の話の中で、少々気になる所がありました」

 なに? それは一体……。

「アルト様がラライルさんの恥態に巻き込まれた際に、体をまさぐられたとおっしゃいましたよね?」

 それは……そうだが、思い出させないでくれると嬉しい。

 だが、リーシャはげんなりする妾との距離をさらに縮めて来る。

そして、「ずるいです!」と少し拗ねたように言い放った。

 え、何が?


「私だって、まだアルト様とそこまで濃密なスキンシップを、図っていませんのに!」

 言うなり、リーシャは妾の胸に手を伸ばして、鷲掴みにしてくる!

 って、おいぃ! お主まで、何をしておるのかっ!

「ご安心ください。肉欲に溺れた粗野な物ではなく、同じ殿方に想いを寄せる、いわば精神的な姉妹に近い親愛の愛撫ですわ♥」

 なるほど、そうか……って納得できるか! 言ってる意味もよく解らんし!

 だが、ラライルから恐ろしい目に合わされた妾の話を聞いていて、おかしなスイッチが入ってしまったのだろうか。

 妾の胸を揉みしだきながら、是非私にも触れてくださいましとグイグイ迫ってくるリーシャ!

 止めよ、妾にソッチの気は無いのだ!


「それは私もですわ。ですけど、アルト様とエルになら……私の総てをさらけ出してもかまいませんの!」

 そ、そこまで慕ってくれるのは嬉しいけれどっ!

「ああ……お風呂で、お背中を流させていただいた時にも思っておりましたが……やはりアルト様のボディラインは完璧……♥」

 肌触りも素晴らしいですわと、うっとりした表情でリーシャは妾の体に指を這わせ、スンスンと鼻を鳴らして匂いをかぐ。

 ほ、誉めてくれるのは悪い気はしないが、こういうのは勘弁してくれぇ!

 しかし、泣けど叫べど、リーシャの動きは止まらない!


 妾の絶叫と、時おり混じる甘い声……。

 そんな、リーシャの愛情溢れる責めからようやく抜け出せたのは、それから三十分ほど時間が経ってからだった……。

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