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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
45/101

45 百合の花、咲くや咲かじ

 ほ、本当に虎吉の孫なのかっ!?

 わたわたする妾達に、虎二郎は力強く頷いて見せる。

「骨夫さんの事はじいちゃんから聞かされて知っていました。生を呪うアンデッドなのに、『鋼の魔王』亡き後は医療関係の仕事に着いたという慈愛に満ちた人だった……と」

 いや、父上は死んでないからな!


 しかし、骨夫が慈愛に満ちた……?

 虎吉がそんな風に評していたのは意外だった。

 前線で戦う虎吉と後方から指揮する骨夫は、色んな意味で正反対だったからな……。

 でも、骨夫の就職先については、妾が目覚めて現状を聞いた時に見た目が不吉過ぎてすぐ首になったとか言ってたはず。虎吉もそこまでは知らなかったのだろうか。


「アンデッドなのに、医療関係……?」

 ほら見よ、慶一郎や三郎も戸惑っているではないか。やっぱりそれが普通の反応よな。

 そんな事を思っていると、「命を……」と不意に骨夫が口を開く。

「奪う事には疲れた……今はただ、救いたい。それだけさ……」

 そして、なんかポーズをつけながら格好いい事を言った。

 そんな骨夫に、男達は「おおっ」と喚声があがる。

 調子に乗った骨夫は、回復魔法を披露してさらに注目を集めようとしていた。ほんとにお調子者だなぁ、お前は。

「死を司る私が生者を救うというのも皮肉なものさ。だが、この力を授かったのも天命というやつだろう」

 持て囃された骨夫が言葉を続けるが……よく言う。

 たしか「ギャップがあった方が、女の子に持てるから」という理由で、回復魔法を習得したと父上から聞いているぞ。


「い、今も医療関係のお仕事を?」

「がんじ絡めになるのは、性に合わなくてな。今はボディーガードとして、お嬢を守っている」

「ふむ、アルトニエル殿は魔王の血縁……という訳ではないのですか」

「依頼人の素性に興味はない。守るべき相手だから守る……それだけだ」

 再び、おお!っと喚声があがった。

 おいおい……。確かに妾と鋼の魔王(ちちうえ)の関係は隠した方がいいのだが、なんだそのハードボイルドなキャラは。

 もう調子に乗りまくって吹聴している骨夫と、聞き入る冒険者三人は置いといて、さっさとラライルの思い込み(のろい)を解いてやるとしよう。


 男達を無視して部屋の前に行き、コンコンとドアをノックする。

 返事は無いが、どうせ女同士なのだから問題はなかろう。妾はそのままドアをあけて室内に突入した。

「ぐっ!」

 途端に妾を襲う淫靡な臭気!

 なんだ、高位のサキュバスでも召喚されているのかっ!?

 そんな勘違いをしそうなほどの濃密なピンク色の空気を醸し出しているのは……部屋にあるベッドの中で、モゾモゾと動いているあやつに違いあるまい!

 なんか時々「あっ……んんっ……♥」と、押し殺したような声も聞こえてくるし。


 どうやらラライルはベッドの中で何かに夢中らしいので、妾は声も掛けずに一気に毛布を剥ぎ取った!

「あぇ……?」

 十八歳未満がこの場にいたら、確実にモザイクが入るであろうと予測できるくらい、下着姿で蕩けた表情を晒したラライルがそこに居た。

 あー、ダメダメ。エロすぎます。


 突然、外気に晒されたラライルは、いまだに何が起きたのか理解しきれていないようだ。何をとは言わんが、そんなに夢中でヤッていたのか……。

 しかし、妾の顔を眺めている内に彼女の瞳に知性の光が戻ってくる。

「お、おまぇひゃ……」

 呂律の回らない口調ながらも、妾の事を認識できたようだ。

 ラライルはヨロヨロと立ち上がろうとするが、やはり力が入らないのか、途中で崩れ落ちてベッドに転がる。


 いやー、なんかひどい事になっているな。

 息も絶えだえで快楽に抗う姿は、まるで感度三千倍にされた忍者のようである。

 ただの「呪われたという思い込み」で、ここまで肉体に影響が出るものか……すごいね、人体。


「あひっ……ああっ♥ て、てめぇ……あたひの……の、呪いを……解けぇ♥」

 悶えながらも妾に解呪を求めてくるラライル。

 わかった、わかった。今解いてやろう。

「あひゃぁっ♥」

 彼女の肩にポンと手を置いた途端に、快楽に溶けた声が漏れる。

 ええい、悶えるでないわ!

 厄介に思いながらも、その目を真っ直ぐ見つめて、妾は静かに……しかしはっきりと彼女に告げる。

「妾は何も呪いなんて掛けていない。あんなのはただのハッタリだ」

 全てはお主の思い込みだと、解呪(しんじつ)の言葉を伝えた。


「…………」

 ラライルは無反応。

 いや、言葉の意味が解らなくて、混乱しているのか?

「ふ……ふざけんじゃねぇぇん♥」

 突然の激昂から喘ぎ声へと移行しつつ、ラライルは妾の胸元にもたれ掛かる。

「あ、あらひが……思い込みれこうなっれるだと……そんな訳がないらないかぁぁん♥」

 ほんとなら自分が馬鹿みたいじゃないかと、ラライルは顔を伏せながら呟く。

 うーん、みたい(・・・)じゃなくてそのもの(・・・・)だとは思うが、それを言うと切なくなるからここは黙っておこう。


「はぁ……はぁ……呪いを……解かないなら……責任を取って、もらうぞぉ……♥」

 ん? なんだか、猛烈に嫌な気配が……。

 不意に、もたれ掛かっていたラライルが、がっしりと妾の体を捕らえる!

 え?え?

 な、何のつもりだっ!

「ア、アタシの……性欲処理を……手伝えぇぇ♥」

 ひいっ! 何を言い出すんだ、こいつは!


「よ、よさんかっ!妾にそっちの趣味はないぞ!」

「アタシだって……ん♥ あるもんか……。でも、アンタ……綺麗な顔、してるし……いい匂いもする……ハァ♥」

「だ・か・ら! お主の思い込み(呪い)は最初から無かったと言っておろうが!」

「そんなはず無いぃ……♥ でないと、こんな気持ちに、なる訳無いだろぉ……♥」

 ダ、ダメだ……認めたくないのか、自分に自分で暗示をかけているっ!


 うへへへと嗤いながら、ラライルが妾の体の自由を奪おうとホールドを極めてくる。

 さすがは本職の冒険者。魔法使いの妾よりも、フィジカルにおいては上だ。

「いっしょに気持ちよくなろうぜぇ……♥」

 いかん、感心してる場合じゃない!

 このままでは、こやつに犯されるっ!

 なんとか逃れようとするも、ジリジリとベッドの方へ引きずられて行くのを止められない!

 妾の胸をまさぐり、首筋に舌を這わせるラライルに対して、悪寒が走りまくる!

 は、初めてが女なんて冗談ではないぞ!


「ええい、くそっ! 離さんか!」

「だぁめぇ……♥逃がさないぃ♥」

 うおおおっ! 怖い! マジで怖い!

 か弱い妾では、抗いようの無い力で迫ってくるラライルに、恐怖感が溢れかえった妾の中で、なにかが弾けた!

「そんなに呪いを解いてほしくば、解いてやるわっ!」

 若干、やけくそ気味に叫びながら、一か八かでラライルに電撃の魔法(やや強め)を叩き込む!


「あひぃん♥」

 まともに魔法を食らったラライルは、絶頂したような悲鳴をあげてそのまま気を失った。

 ハァ……ハァ……荒くなった息を整えながら、少しでも速く奴から離れる。

 ビクビクと痙攣するラライルから距離を取り、ようやく一心地ついた。

 たしか、「呪いかけた」とハッタリをかました時も電撃の魔法がきっかけだったから、これで呪いが解けたと(・・・・・・・)本人が納得すれば(・・・・・・・・)正気に戻るだろう。

 頼むから、戻ってくれ!


 しかし、この時代に目覚めてから、これ以上ないほどの恐怖だった……。

 とにかく窓を全開にして、妾は部屋にたまってい淫気を追い出す。まるでピンク色の空気が吐き出されて行くようで、入れ換えられた空気が気持ちいい。

 こんな所に籠っているから、あんな風に自分の毒気に当てられてしまうのだ。

 やはり、陽の光を浴びてリフレッシュせねば、人はダメになってしまうな!


 ふぅ……。

 外の陽の光で室内がやっと浄化されたみたいで、我知らず小さなため息が漏れた。

 だが、なんだろう……ラライルの毒気に妾も当てられてしまったのだろうか。

 いつも側にいた、今はここにいない少年……エルに会いたい!

そんな気持ちが溢れてくる。

 エルの小柄な体をハグしたい。エルの香りを嗅ぎたい。エルの頭を撫でて、はにかむ笑顔が見たい……。


「エル……」

 妾の呟きに、当然だが返事はない。その当たり前の事実に涙が出そうになる。

 なんだ、これは……我ながら情けない!

 くっ、やはりラライルの淫気のせいだな! そうに違いない!

鼻をすすり、涙を堪えて妾は立ち上がる。

 約束は果たした。後はエルの帰りを待とう。

 数日後に、妾の元に戻って来るであろうエルの笑顔を思うと、先程までの寂しさは鳴りを潜める。

 代わりに少しだけ沸いてきた、浮かれた気分を胸にして、妾はラライルの転がる部屋を後にした。


「……と、いう訳で最後はお嬢の魔法が七輝竜の一人、ウジンに止めを刺したというわけだ」

「すげぇ……しかし、ほとんど骨夫さんのおかげと言えますね」

「ふふ……まぁ、否定はせんがね」

 廊下に出ると、どんな脚色をしたのか知らんがウジンを倒した話で骨夫が一身に尊敬を集めていた。

 妾が恐怖体験アンビリバボーな状態だったというのに、この骨夫(アホウ)は……。


 いや、アホウども……か?

 ラライルの部屋から妾が出てきた事にも気付かず、骨夫+三人は武勇伝じみた話に夢中になっている。

 そんな奴等に呆れながら、やはりしっかり者のエルに早く帰って来てほしいと、妾は寂しさからばかりではなく心から思うのであった。

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