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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
44/101

44 お前あいつの子孫かよ

 相変わらず、ちょっとしたパニック状態の冒険者宿の酒場。

 あんまりにも奴等がビビるものだから、調子に乗った骨夫が「食べちゃうぞ~!」とか脅かしたせいでもあるが。

 しかし、このままでは収拾がつかんではないか……仕方がない。

いっちょ妾がかましてやろうかと息を吸い込んだ時、


「うるせぇぞ、テメェら!」


 三郎の一括が響き、室内に静寂が訪れた。

「この二人はラライル組(うち)の客人だ。お前らに危害を加えやしねぇから大人しくしてろ!」

 妾達が危険ではないと宣言されて、一応は冒険者達も冷静になったようだ。

 遠目に妾達を眺めてはいるものの、それぞれが元の席に戻って再び飲み食いやら雑談やらに興じはじめた。


「……妾が言うのもなんだがな、冒険者(こやつら)はまともに戦えるのか?」

 骨夫へのビビりっぷりは、かなり酷いものだった。こんなんで、未知の世界に挑戦できるのだろうか?

「コイツらは、街の周辺で雑魚狩りばっかやってる連中だからな。俺達と一緒に見られちゃ、迷惑だ」

 そんな冒険者(やつら)の不甲斐なさを三郎も自覚しているのか、忌々しげに吐き捨てる。

 その三郎の台詞が耳に入ったのか、ザ・チンピラといった風体の数人が近づいて来た。


「随分な言い草じゃねえか、三郎さんよぉ」

「いまはアンタらも、底辺冒険者みてぇなもんじゃねぇか」

「へへっ……そっちの別嬪とアンデッドがあんたの客人って事は、新しいメンバーって事かい?」

 ジロジロと妾達を見回すチンピラども。

 これは挨拶代わりの魔法でも食らわせてやろうかなどと考えていると、三郎がチンピラの一人を捕まえて凄みを効かせる。


「何度も言わすな。コイツらはうちの客人だ……余計な真似をするんじゃねぇ」

 殺気を漂わせながら間近で睨まれたチンピラ達は、真っ赤(・・・)になってコクコクと首を縦に振った。……真っ赤?

「行こうか」

 戦意喪失したチンピラ達を掻き分けて三郎が進んでいく。

 その後に続いた妾達の耳に、「三郎さんに凄まれちゃたぁ!」「ちょーカッコいいよねー!」等といった奴等の声が届く。

 いかついチンピラが、乙女な反応しおって! ただのファンか、お前ら!


「ふん、中々の人気者ではないか」

 後ろでキャッキャッとはしゃぐチンピラを見て、骨夫が面白く無さそうに言う。

 一見、小者な反応だが、妾に反抗的な態度のままな三郎を牽制しようとしているのかもしれない。そうだとよいなぁ……。

 だが、三郎はそんな骨夫の言葉にフンと不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「これでもラライル組(うち)はこの地方で上位に入る冒険者チームだったからな。落ちぶれた今なら取り込めるとでも思ってるんだろうよ」

 ふうん、まぁ強いメンバーを欲しがるのは当然だしな。

 だが、お前達の言う雑魚狩りの冒険者よりも、ランクが上なチームからスカウトがあったのではないのか?


「そりゃ声はかけられたさ。だが、あんな状態(・・・・・)のリーダーを置いて他所に行けるかよ」

 ほぅ……なかなか男気のある事を言うではないか。女湯に侵入し、妾のブラをかぶった変態の癖に。

「うわぁ……」

 さすがの骨夫もドン引きである。

 しかし、それを言われても三郎は僅かに動揺しただけで、むしろ妾を敵視するように睨んできた。

「……詫びるつもりはねぇぞ。俺だってこんなにされたんだからなぁ」

 スッと頭に手をもっていくと、ペロリと一部が捲れ上がる。その下には不毛の大地が広がっていた。

 うむ。覗きの罰として、念入りに焼いてやった甲斐があったわ。

「おおぅ……あ、あきまへんわ、お嬢。やりすぎでっせ……」

 悪びれぬ妾に、骨夫がドン引きしたような声を上げる。というか、どこの言葉だそれは。

 しかし、妾の裸体を見たのだからこれくらいは当然であろう?

 注意一秒、()は一生と言うやつである。


「……まぁ、アンタらにやられて鼻っ柱をへし折られたお陰で、目は覚めたぜ」

 だから個人的な思いはともかく、敵対する気はもうねぇよ……三郎はそう言って再び妾達の前を歩き出す。

 ふっ……確かに初対面の時は、さっき絡んできたチンピラと同じような雰囲気だったからな。

 ちゃんと冒険者として目が覚めたなら、妾に感謝してもよいぞ。

 しかし、返ってきた答えは「それだけは絶対無い」というものだった。

 なんだ、つまらん。


 冒険者宿の最上階である三階まで登り、その一番奥にある一角。

 案内されたとある部屋の前に、二人の男が扉を守るように立っていた。

「戻ったぜ、兄貴達!」

 三郎が声をかけると、二人は妾達に少し訝しげな目を向けながらも、ごくろうさんと三郎を労った。

 まぁ、怪しむのは当然であるな。こんな美女とアンデッドだし。

「三郎、そちらの方々は……?」

「例の……リーダーの呪いを解いてくれるお人ですよ」

 その言葉に、僅ながら二人の顔が強張った。ふむ、複雑な思いを抱くのも無理はないか。

「……なるほど、エルトニクスは約束を守ってくれたか」

 エルの名を口にした二十代後半といった風の男……こやつがタイガー・虎二郎か。

 となると、もう一人はいったい……?

 三郎が兄貴()と呼んでいた以上、彼らの関係者なのだろうが。


「お初にお目にかかる。ラライル組のNo.2を務めている、タイガー・虎次郎です」

 丁寧に名乗った虎二郎は、ペコリと頭を下げて挨拶をする。

 ほぅ、三郎と違ってなかなか礼儀正しいではないか。

「なるほど、三郎がちょっかいを出したのも頷ける。美しいお嬢さんじゃないか」

 虎二郎に続き、もう一人の男も妾に声をかけてきた。

 ふむ、正直な男よな。

「私はドラゴン・慶一郎。元ラライル組の副長をしていた者だ」

 三十代半ばほどの、ベテラン冒険者といった雰囲気を持つ男ではあったが、ちょっと名前が引っ掛かる。


 ウルフ、タイガーと名は体を表した獣魔族だった。

 その流れから行くと、こやつは竜人ではないのか?

 別に竜人が冒険者をやっていてもおかしくはないが、その背後関係が気になる。

 竜族に敵対しているなら良いが、もし仕えているなら結構まずいかもしれぬ。

 元と言った所から、今はラライル組を抜けているのだろう。それでも、虎二郎や三郎の様子から友好的な付き合いが続いているのは解る。

 もしも慶一郎が竜族の手下なら、今後ラライル組が敵に回る可能性もあるかもしれんな……。


「……あの、良かったら名を教えてはもらえないだろうか」

 虎二郎に言われてハッとする。

 ああ、エルからすっかり話は行っていると思っていたが、まだ初対面であるものな。確かに自己紹介くらいはしておかなければ。

 うっかりしていたわ。

「妾はアルトニエル。訳あって姓は明かせんが、そこは察してくれ」

 虎二郎達は一つ頷き、よろしくと返礼してきた。

「私はキャルシアム・骨夫。お嬢の護衛を務めている」

 次いで、骨夫がそう自己紹介をした時だった!


「ええええっ!」

 突然、虎二郎がすっとんきょうな声を上げる!

「ど、どうしたんだトラの兄貴!」

 三郎の声も耳に届かぬ様子で、骨夫の方をじっと見つめる虎二郎。

「迸る闇のオーラ……歴史を感じさせる暗黒のローブ……そして死を超越した不死者の体……」

 プルプル震えるながら、虎二郎は骨夫を格好よく表現していく。

 え、ひょっとしてアンデッドファチかなにか?

「間違っていたらすいません……もしかして、『鋼の魔王』四天王の方ではありませんか?」

 言われて、ギクリとした!

 な、なぜそれを!?


「だ、だとしたらなんだ? サインならお断りだぜ!」

 そう言いながらペンを取り出す骨夫。ヤル気満々ではないか。

 やっぱりそうなんだと、感激した様子の虎二郎と、骨夫の素性を知って驚く慶一郎と三郎。

 ええい、いったいなんだというのかっ!

「骨夫さんの事は、じいちゃんたらからよく聞かされていました!」

 むっ! 何者だ、その爺様は!?

「俺のじいちゃんはタイガー・虎吉。貴方と同じく『鋼の魔王』四天王の一人だった者です!」


 …………え?

「「ええええっ!」」

 思わぬ出会いに、妾と骨夫のすっとんきょうな声が響きわたるのだった。

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