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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
43/101

43 それとなく迫る脅威

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 魔界は大きく分けて四つの勢力圏に分類されている。

 その中の1つが竜族の縄張り。そこで最も奥地にある、豪奢ではないが堅牢な城。

 その中で会議室を兼ねた大広間に、竜族最高幹部である七輝竜が集結していた。

 一見すれば皆、普通の人間に見える。だが、それは魔法によって変っただけの仮の姿である。

 ただ、竜の姿よりなにかと便利だから、普段からそうしているにすぎない。


「おい、ウジンの野郎はどうした?」

 円卓を囲むようにして座る彼らの内、一席だけが空いている事に一人が疑問の声を投げ掛ける。

「ウジンは今、首領の命令で出向いている」

 たったそれだけ答えが返ってくるが、質問をした者でさえふうんとどうでもよさげな声を出すだけだった。

 基本的に竜は個人主義だ。一応は王の下に統一されてはいるが、その性質までは変わらない。

 ウジンが居ないことに大して興味はないが、何となく聞いてみた……大幹部ですらこの調子であった。


「で、今日の集まりはなんのためだ?」

 やる気の無さそうな声が別の者から上がる。

「その事だが、二名ほど人間界に行ってもらいたい」

 議長役らしい落ち着いた雰囲気の中年男性が静かにそう告げた。

「人間界に……?」

 ほんの少しだけ、場がザワリとする。

「うむ、目的は奴隷集めと報復」

 その言葉に、皆の目がキラリと光った。

 彼等の王である『焔の竜王』は、数日前にある人間によって敗北を喫した。

 さらに奴隷としていた人間や魔族にも逃げられ、竜族の縄張り内では労働力不足が目に見えている。

 その全ての原因となったのが人間なのだから、人間界から奴隷を集める事も竜族に迷惑をかけた落とし前を人間に求めるのも当然と彼等は考えていた。


 完全に八つ当たりだが、そんな思いは欠片もない竜達は、その報復のチャンスに誰もが手を上げる。

 まぁ、そうなるだろうと見越していたように、議長役の男はくじを差し出した。

「赤い印がついているのを引いた奴に人間界に行ってもらう。恨みっこは無しだからな」

 議長役に了承を伝え、全員で一斉にくじを引く。

 次の瞬間、歓喜と失意の表情がそれぞれを彩った。


「ぼ、僕が行くことなるなんて、ツイてるのかツイてないのか……」

「あはっ! あーしってばラッキー! 人間界で美味しい物いっぱい食べようっと♪」


 ブツブツと小声で呟く、猫背ぎみなボサボサ頭の青年と、嬉しそうにはしゃぐ可愛らしい少女。

 人間界行きの切符を手に入れたのは、『憤怒』と『暴食』の二つ名を持つ二名だった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 その日の夜はリーシャ嬢と夜中までお喋り地獄であった。

 まぁ、妾もそれなりにトークは好きだが、彼女の話好きはさらに上をいく。

 食事の際はさすがに口数は少なかったものの、その後のティータイムや入浴時(押し掛けてきて背中を流してくれた)、最後は寝室で妾のベッドに一緒に入って彼女が眠りにつくまで、ほぼ話続けていた。

 かなりどうでもいい話題から、それなりに重要な案件まで玉石混淆で話を振ってくるため、無視して寝ることもできずに、今朝は少々寝不足ぎみである。


 でも、そのお陰もあって彼女とはすっかり打ち解けたし、昔のエルの姿がまるで同じ時を過ごしたかのようにイメージできるくらい脳内補完できた。これはもう、妾も幼馴染みと言ってよいかもしれんな……。


 そして翌日。

 この日は所謂(いわゆる)、勉強会である。

 妾も父上の封印に伴って二百年間も眠っていたため、これまでの人間界と魔界の関係について様々な事をそれとなく教わりつつ、妾が知りうる魔界の知識についてリーシャにレクチャーしたりした。

 妾の知識はベースが二百年前ではあるが、王公貴族間の儀礼などそうそう変わるものではない。しかし、巷の一般教養などは意外と変化しているため、そこは骨夫に注釈を入れてもらう。

うむ、知識を吸収するのはやはり良い。

 なんというか、脳が活性化しているのが実感できるな。

 リーシャにも軍師やアドバイザーとして活躍してもらいたいので、どんどん学んでもらいたいものだ。

 そうして、その日も過ぎていった。


 さらに次の日。

 今日はようやく、エルから頼まれていた用事を果たす事ができそうだ。

「げ!」

 妾の顔を見るなり、嫌そうな声を上げるチンピラ風の冒険者が一人。

 言わずと知れた、ラライル組のウルフ・三郎である。

 というか、「げ!」というのはこちらの台詞なのだがな。

「エルから話は聞いておる。ラライルの呪い(・・)は解いてやろう」

 妾がそう言うと、敵意が無いことを悟ったのか三郎はほっとした表情を浮かべた。

「……あの坊主、約束を守ったみてぇだな」

 ポツリと呟く三郎の言葉に少しカチンと来る。エルの好意に対して、なんでお前が上から目線の物言いをしておるのか。

 それに、こいつには妾の入浴シーンを覗かれている。

 虫に見られてもどうという事は無いと思っていたが、よくよく考えれば(エル以外が)妾のあられもない姿を覗いたのだから、万死に値するのではないだろうか。いや、する。


「な、なんだテメェ! やるってのか!」

 ふつふつと沸き上がってきた妾の怒りに反応したのか、三郎が警戒の声を上げた。

 しかしその顔は青ざめ、もしも尻尾が出ていたら情けなく巻かれていたであろう事は想像に難くない。

「当屋敷内では無用の争いは禁止いたしてますわ。落ち着いてくださいませ、アルト様」

 間に入ったリーシャが、妾を嗜める。それを見て、三郎もほっとした表情を浮かべた。

 うむ、すまん。つい、こいつがムカついたから……。

 しかし、ムカつく相手とはいえ、エルに頼まれた事案だからな……仕方ない、さっさと終わらせよう。


「どれ、チンピラよ。お前らのリーダーの所へ、さっさと案内せよ」

 そう言うと、なにかしら言いたげに三郎は口を開けようとして……結局何も言わずに「わかった」とだけポツリと答えた。

 てっきり食ってかかって来るかと思ったが、意外に冷静らしい。

 とりあえずトーナン殿に報告書を提出してくるとの事だったので、それを終えてからラライル達がこの街で拠点としている冒険者用の宿に向かうことにした。

 というか、冒険者用の宿ってなんだろう?


「普通のホテルの類いとは違いまして、冒険者ギルドと提携していて冒険者に必用な雑貨の販売や魔獣などの素材の売買、あとはクエストの依頼なども行われている場所ですわ」

 リーシャがそう教えてくれた。ふうん、そういう事か。

 まぁ、確かに一般人に混じって冒険者(あらくれ者)がうろうろしてたら、普通のホテルでは営業に差し支えそうではあるしな。

 そんな話を聴いていると、事を終えた三郎が戻って来た。


「待たせて悪かったな。それじゃあ、頼む」

 先程の妾の迫力に押されたせいか、それともリーシャの手前だからか。少々しおらしくなった三郎に案内され、冒険者宿に向かう事にする。

 メンバーは妾と骨夫のみ。

 カートはハンターキャッツ達と共に、リーシャの所に護衛として置いてきた。

 この際だから、やつらもリーシャとよく交流しておくといい。


 道中、ほとんど会話を交わす事もなく、妾達は目的の冒険者宿に到着した。

 三郎が先頭に立って、次いで妾が入り口をくぐる。

 すると目に飛び込んで来たのは、一階がほぼ丸々酒場となっている光景だった。

 酒場の端にはいくつかのカウンターが設置されていて、宿の手続きやら色んな品物の売買など、各々の目的に合わせて対応しているようである。

 壁には大きな掲示板がいくつかあり、そこに簡単なランク分けされた依頼などが張り出されていた。


 ふーむ、いいね。なんというか、これぞ冒険者のねぐらと言った感じだ。

 魔界にはこういった施設はないので、人間界特有の雰囲気に触れて少しワクワクしてしまう。

 しかし、気になる事が一つ。

 妾達が現れてから室内の喧騒が止んで、誰も彼もがこちらに視線を向けている。一体、なんだというのか。

 敵意は感じぬが、見世物みたいで少し気分が悪い。

「おい、三郎。こやつらは何なんだ? 魔族が珍しい訳でもあるまいに」

 憤慨して奴に問うと、

「あー……あんたが美人だから見とれてんじゃねーのか?」

 そんな投げやりな答えが返ってきた。

 ……なーんだぁ、そういう事かぁ! それでは仕方がないがないなぁ♪

 好意ではなく緊張と戸惑いの視線ばかりだったから、妾も少し警戒してしまったわ。


 いつもの事(・・・・・)だと解れば、問題はない。

 念のため、飲み物を持ったままのウェイトレスににっこり笑いかけると、たちまち真っ赤になって慌て出す。

 よし、反応は上々。

 気分良く室内に入ると、妾に続いて骨夫が入って来た。

 さぁて、荒くれ者達はどんな反応を示すかな?


「キャアァァッ! モ、モンスターッ!」


 絹を裂いたような、おっさん剣士(・・・・・・)の悲鳴が響き渡る!

 それを皮切りにして、室内はパニック状態に陥ってしまった!

 半狂乱で、骨夫から離れようとする冒険者達!

 そんな奴等を見て思う。

 大丈夫なのか、コイツらは……これで冒険者がやっていけるのだろうか……と。

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