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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
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04 因縁の対決

「彼女かと思ってたら、嫁とか! それなのにあんなに街中でイチャイチャしやがって!」

 プンプンと憤慨しながら、骨夫が男を責める。

 男の方もいや~などとまんざらでもない表情で照れていた。

 ねぇ、お主ら緊張感無さすぎじゃない?


「骨夫よ、立ち直ったなら城門の所とここを転移魔法で繋ぐのだ」

 ため息をつきながら発した妾の命令に、一転して絶望的な表情になる骨夫。

「き、危険すぎます!姫様の身に何かあっては……」

「あり得ぬ」

 骨夫の弱気な言葉をバッサリ切り捨てる。

 それを証明するように解放した妾の魔力が、骨夫はおろか捕らえている男も黙らせた。


 確かにあの城門を破壊した事には驚いたが、小細工無しに正面から乗り込んでくる度胸にはなかなか好感が持てる。

 敵が堂々と乗り込んできたなら、それを受けて立つのも王族の矜持よ。


 渋る骨夫であったが、妾の命令には逆らえず転移魔法のゲートを展開する。

 近くにあの女……チャルフィオナとかいったか? がやって来るのがよほど恐ろしいのか、生まれたての子馬よりも震えていた。

 相当なトラウマなのだろう。

 四天王ともあろう者がまったく情けない事だな……。


 ともあれ、城門前を写し出しているモニターの映像、そこに転移魔法のゲートがチャルフィオナの前に出現したのを確認する。

 そして妾は奴に呼び掛けた。


『よくぞ正面から乗り込んで来た』

 どこからともなく響く妾の声に、女が警戒したように身構えた。

『その度胸に免じ、拐ってきた男に会わせてやろう。そのゲートをくぐるがよい』

 そう告げると、チャルフィオナはあっさりゲートに向かって進む。

 むぅ……敵ながらもう少し疑った方が良いのではないか?


 罠だったらどうすると内心でその迂闊さを責めていると、こちら側のゲートからチャルフィオナが姿を現した。

 俯きかげんで表情こそよく見えないものの、醸し出す圧迫感は相当なものだ。

 しかし、それでこそ勇者の系譜と言える。


「骨夫、そやつの呪縛を解いてやれ」

 妾の言葉に骨夫と男がこちらに振り返った。息ピッタリだな、お主ら。

「よ、よろしいのですか?」

「かまわぬよ、最後くらい連れ合いと一緒に居たいであろう?」

 酷薄そうな笑みを浮かべているはずの妾の問いに、男がゴクリと喉を鳴らす。

 妾の余裕の態度、それに強大な魔力……そう、こういった畏怖や驚愕の視線をぶつけられると、魔王の娘として自尊心が満たされる。

 やっぱりこうでなければな、魔王の一族は。


 男が解放されて立ち上がると、向こうもそれに気づいたようだ。

「チャルフィオナ!」

「アルリディオさん!」

 あ、捕らえていた男の方はアルリディオという名前なのか。今さらだが、初めて名前を聞いたな。

 そんな妾の胸中は置いといて、お互いの名を呼んだ二人は、弾丸のような速度で駆け寄る!

 そうして火花が飛び散るほどの勢いで抱きしめあったアルリディオとチャルフィオナは、踊るようにくるくると回り始めた。


「ああ……アルさんが無事で良かった」

「心配させてすまないチャル……でも、君が必ず来てくれると信じていたよ」

「もぅ……そういうのは、女性側のセリフですよ」

「それじゃあ、君が拐われた時には僕が助けに行くから、その時に聞かせてくれ……」

「ダメです、貴方と離ればなれになりたくありませんから……」


 おい……ほんの数秒でどれだけ二人の世界に浸っているんだ……。

 完全に回りを置いてきぼりにして、見つめ合う奴らの目には、お互いの姿しか写っていないらしい。

 この手の連中は二人の世界を邪魔するとひどく面倒になるので、本来なら関わり合いにならないようそっと離れる所だが、今はちょうどいい。

 まとめて父上復活の礎としてくれる。


「感動のご対面、妾もめでたく思うぞ」

 呼び掛けた妾の方に目を向けた奴らの動きが止まる。

 それもそうだろう、妾が手をかざした頭上には、魔力で精製されたバキバキと音を立てながら巨大な氷の塊が出来上がっていたからだ。

 モニターで見た通り、チャルフィオナが対魔法装備をしている以上、炎や雷といったエネルギー系の魔法は効かない可能性がある。

 だからこうして、巨大な質量で一緒に潰してくれよう。

 そうして流れた勇者の系譜の血によって父上が甦るはずだ!


「長かった因縁よ、さらば!」

 振り下ろされた妾の手に倣って、巨人の拳にも似た氷塊が二人目掛けて飛んでいく!

 直撃すれば、ちょっと正視するに絶えない惨状が出来上がるだろうが、これも運命というもの。

 妾達が世界を支配した際には、歴史に名前くらいは残して置いてやるので、安心して永眠(ねむ)るがよい……。


 だが、そんな妾達の予想を裏切り、突然の爆発音と共に妾の放った巨大氷塊は粉々に砕け散ってしまった!

 その破片に直撃して悶絶する骨夫をよそに、妾は驚愕を隠せない。

 あの質量の物体を破壊するなぞ、人間の身は不可能なはずである。

 しかし、砕けた氷塊によって漂っていた(もや)が晴れた場所に立っていたのは、拳を振りきった体勢のチャルフィオナ!

 よりにもよって素手……って、素手で破壊したのっ?

 え、ひょっとして城門を破壊したのも?

 ぶっちゃけ、そんな真似は父上にも初代勇者にもできはしない!

 なにこの化け物……。


「そういえば……」

 ゆらりとチャルフィオナの視線が上がり、妾達を捉える。ヒイッ!

「久しぶりのデートを、邪魔されたお礼もしなければなりませんね……」

 どうぞお構い無く! 全力で拒否しろと本能が叫ぶ。

 くっ……人間のクセになんだ、この圧迫感(プレッシャー)は……。

 こうなれば先手必勝!

 チャルフィオナが歩み出すその第一歩に合わせて、妾はありったけの攻撃魔法を叩き込んだ!

 炎が、雷が、極寒の冷気が奴らを襲う!


 だが、それらも奴の蹴りの一薙ぎで掻き消されてしまった!

 頼む! せめてすごい武器か何か使ってくれぬだろうか!

 素手で魔法を消されまくられると、術士として心が折れていくような感じがしてすごく辛い!

 しかし、そんな妾の心情など知ったことかと言わんばかりに、チャルフィオナは魔法を蹴散らしながらズンズンと間合いを詰めてくる。


 うおおおおおおっ! 来るなあぁぁぁっ!


 ──正直、それからどのくらい戦っていたのか、ほとんど記憶にない。

 最終的には骨夫が召喚した骸骨兵(スケルトン)軍団で足止めしつつ、転移魔法で命からがら逃走したのだ。

 まぁ、ゲートをくぐる際に「今日はこれくらいにしておいてやる!」と、かましてやったので、客観的に見れば引き分けと言っても過言ではないと言えなくもないかな……多分。


 さておき、そんな地獄のような戦闘から逃走してきた妾達は今現在、人間界と魔界を隔てるように伸びる超巨大な森林(通称『緑の帯』)、その森の中で焚き火に当たりながら、どうしてこうなったと頭を抱えていた。


 いや……どうしてこうなったと言うまでもない、あの規格外の化け物(チャルフィオナ)のせいだ。

 あんなのむちゃくちゃ過ぎるであろうが……。

 あんな突然変異(で、あって欲しい)が生まれているなんて……まったく、どこまでいっても勇者の系譜というやつは……。

 でも、父上を甦らせるには、あの化け物との再対戦は避けられないんだよな……。

 あ、考えただけでも吐きそう。


 ハァ……それにしても、魔王の娘たる妾が、城を逐われてノラ魔族に身を落とす事になろうとはな。

 どうしようかなぁ、涙で明日が見えない……。

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