表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
35/101

35 絶体絶命

「馬鹿め! 魔法を封じた程度で、四天王たる骨夫様が容易(たやす)く倒せると思ったか!」

 迫り来る竜人族を前に、骨夫が何やら格闘技の様な構えを取った!

「食らえぃ! 骸骨神拳奥義『餓蛇髑髏がしゃどくろ』!」

 おおっ! なんだ、その技は!

 何か強そうな技名を吼え、拳を振り上げながら骨夫が竜人族へと襲いかかる!


 ──そして、あっさり迎撃されて吹き飛ばされた。


 ええぃ! 全然ダメではないかっ!

「それっぽい雰囲気出せばなんとかなるかなって思ったんですけどねぇ……」

 床に転がりながら、やっぱりそうそう上手く行かねーなとカラカラ笑う。

 お前、もうホントになんなんだ!


「骨には一人でいいだろう。後の小娘をさっさと済ませろ」

 ウジンの指示に従い、一人は骨夫へ。

 残る竜人族の狙いが妾に集中する。

 いかん、魔法が使えないとなると、妾はただの絶世の美女でしかない! 竜人族二体を相手にしては勝ち目は見えん。

 だが、妙に時間に拘るウジンの様子からして……この結界、長くは持たないのではないかと推測する。

 だとすれば、勝てぬとも時間を稼ぐ事くらいはやって魅せよう!


「ジャアッ!」

 列泊の声と同時に、竜人族の槍が妾へと突き出される!

 しかし、その穂先を舞う様にしてかわしてみせた!

 舞踊で鍛えたこの体捌き、当てれる物なら当ててみよ!


 一発で仕留められなかった事に激昂した奴等は、位置を変えながら次々と槍を繰り出してくる。

 そんな奴等の攻撃を、時に優雅に、時に情熱的に舞いながら妾はかわしていく。

 まるで良くできた殺陣の如く、竜人族の槍は体をかすめはするものの、まともに当てる事は出来なかった。

 ふはははっ! 見たか、これが妾の実力よっ!


 さらに、骨夫の方に向かった竜人族も、奴に止めを刺しかねている。

 まぁ、元がアンデッドだけに急所は無いし、魔法は封じられても魔力供給は続いているから殺しても死なないくらいに、再生力は高い。

よーし、こうやってのらりくらりと避け続けていって……。


 と、不意にドコン! と床石を踏み砕く音が響き渡った!

 見れば、ウジンが足元の床が破壊されている。

 そして、鬼の形相(竜だけど)でこちらを睨み付ける奴の姿。

「間もなく五分だ……魔法も使えぬ小娘と骸骨(スケルトン)ごときに時間を過ぎる事があったら、貴様等どうなるか判っているんだろうな」

 ピクピクと眉と口元をヒクつかせながら、ウジンは部下の竜人族達にプレッシャーを掛けた。

 ……ははぁん、さてはこやつ、自身が行動しない『怠惰(めんどくせぇ)』ではなく、他人(はた)から見て『めんどくせぇ』と言ったタイプだな。

 『神経質』とでも改名したら良いのに。


 目に見えて焦りだした竜人族達の攻撃が、さらに激しくなる!

 だが、それでも妾達にまともに当たる事はなかった。

 なんと言うか、攻撃が激しくなった反面、雑になっているからかわしやすくなったとも言える。

 くくく、ウジンめ。部下に発破を掛けたつもりで、逆に畏縮させてしまうとは。

 単独の戦闘は強くとも、部下を率いる能力は大したことはなさそうだな。

 このまま時間を稼がせてもらおう。

 なんて事を考えていたら、妾を攻めている一体が、バックステップで間合いを開けた。

 そして、思いきり息を吸い込む!

 ブレス攻撃か!?


 真正の竜族には遠く及ばないが、竜人族の中にも様々な吐息で攻撃をする奴がいる。

 こやつもその一人なんだろう。

 奴の位置的に、妾を攻撃すれば味方も巻き込む事になるが、恐らく高い防御力となる鱗に覆われた竜人族ならば耐えられると判断したのだろう。

 だがっ! 奴等は知るまい、妾のドレスが高度の『対魔力防御』を誇っていることを!

 ブレスと言っても魔力で形勢されている以上、問題にならん。

 炎でも冷気でもやってみるがいわ!


「ジャオッ!」

 叫び声と共に吐き出された竜人のブレス、それは予想に反して霧の塊の様な物だった。

 はー? なんだ、これ……は……?

 その霧に触れた途端、全身に痺れが走り体の自由が効かなくなってくる。

 一緒にブレスを食らった、妾の足止め役の竜人も地面に倒れてピクピクと痙攣していた。

 まさか、麻痺性のブレス! そんな珍しい技を使うとは。

 くっ……いかに装備が高い対魔力防御を持っていても、体内から影響んわ与えるタイプの攻撃には意味がない。

 慌てて口を塞ごうとしたが、僅かに吸い込んでしまった麻痺性の霧が妾の動きを封じてしまった……。


「最初からそうしていればよかったんだ。さっさと済ませろ」

 痺れて(うずくま)る妾に、ブレスを吐いた竜人族が迫る。

「お嬢!」

 骨夫が妾の元に駆けつけようとするが、隙だらけとなった所を対峙していた竜人に狙われて打ち伏せられてしまった!

「ぐぅっ……」

 辛うじて出来るのは声を出すことのみ。

 しかし、魔法は封じられ、助けを呼んでも部屋の外まで声は届かない……絶体絶命というやつか。


 槍を逆手に持ち変えて、頭上から突き立てんと、竜人族が振りかぶる!

 うおおおっ! 何か、何か手はないか!

 この窮地を脱すべく、脳が高速で回転する。

 しかし、思考が加速し過ぎて回りがスローに見えるほど集中したにも関わらず……何も打開策が見当たらなかった。


 ゆっくりと動き出した槍の穂先が、妾目掛けて落ちてくる。

 死が直前に迫ったその時。

 妾の頭に浮かんだのは、一人の少年の顔……。


「エル……」


 ポロリと落ちた涙と共に零れた少年の名前。

 それが妾の……最後の言葉。


 そう思っていた……が、次の瞬間!

 部屋を揺るがすような破壊音と同時に、部屋の扉が砕かれて、その破片いくつかが妾を狙う竜人族にヒットした!

 むろん、それで倒れる訳でもなかったが、僅かに体勢がぐらついた為に槍の軌道がズレて妾に当たることなく床に突き立てられる。


「なんだぁ……てめぇ」

 来るはずのない乱入者に向けて、ウジンが不機嫌きわまりないと言った声で問う。

「それはこっちの台詞だ……」

 対して、感情を押さえたように平坦な口調で部屋に入って来たのは、妾が最後にその名を呼んだあの少年……。

「アルトさんに何をしてるんだ、お前らぁ!!!!」

 爆発するような雄叫びで妾の絶望までも吹き飛ばしたエルが、怒りの表情でウジン達を睨み付けていた!


「人間風情が……」

 病的なまでに神経質なウジンには、想定外の乱入者(そんざい)だったエルがよほど腹に据えかねたらしい。

 配下の竜人に命令するよりも、自分でエルを仕留めようと一歩踏み出した。


 そして……エルの姿を見失う。


 少し離れた場所から見た妾にも、消えたようにしか見えなかった。

 それほどの神速の動きでウジンの背後に廻ったエルは、ふわりと羽のように跳んで、「こっちだ」と声をかける。

 その声に反応し、振り返ったウジンの顔面にエルの回し蹴りがまともに突き刺さった!


 回転しながら吹き飛ばされて、そのまま壁に激突するウジン!

 ただの小柄な少年が、七輝竜と呼ばれた竜族の最高幹部を蹴り飛ばす。

 その少し信じがたい様子を、妾達と竜人達は唖然としながら眺めていた……。


 ウジンをぶっ飛ばす程の蹴りを放ちながら、軽やかに着地したエルが竜人達に視線を向ける!

「グッ!」

 それだけで一瞬、硬直した奴等の隙を突くように、部屋の入り口から複数の影が飛び込んで来た!

 妾を狙っていた竜人に迫った影の一つが、鞭のようにしなる蹴りで頭部を打ちすえ、敵を一撃で昏倒させる!

「ご無事ですか、アルト様!」

 アマゾネス・エルフのカートが、踞ったままの妾に駆け寄り、安否を問うてきた。

「ああ、少し体が痺れておるが、大丈夫だ……」

 無事であることを告げて、骨夫の方に目を向ける。


 あやつと対峙していた竜人には、他の影……猫王のマタイチと二匹のハンターキャッツが襲いかかっていた。

 竜人は応戦しようとするも、自分達のリーダーがやられた動揺と、変幻自在な猫の攻撃に晒されてなす術なく崩れ落ちる。

「ふぅぅ……竜人族、打ち取ったり!」

 まるで自分が倒したかのように、倒れた竜人に登って骨夫が勝ち名乗りを挙げた。

 ったく、調子のいい奴め。


「何はともあれ、助かったぞエルよ……」

 しかし、なぜ妾達のピンチが解ったのか……そう聞こうとして、エルの厳しい表情に気がついた。

 彼の視線は、いつの間にか蹴り飛ばしたウジンの方に向けられている。

 ……そうか、確かに七輝竜ともあろう者が、一撃で倒せるハズも無いものな。

 ここからが本当の戦いという事か。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ