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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
34/101

34 第一の刺客

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 突然、とんでもない事を言い出したカートさんに思わずギョッとした。

「ち、違いますよ! それは誤解だって……」

 変に誤解される前になんとか説明しようとしたけど、アルトさんの視線がとある場所に固定されている。

 その視線の先には……リーシャ様が僕に身につけさせた、左手の指輪!

 なんとか外そうとしたけど、この指輪はマジックアイテムだったみたいで、全く外れなかったんだ。

 それをアルトさんは焦点の合ってない瞳で見つめていた。ちょっと怖い。


 そして……「ブチン」と何かが切れたような音を聞いた気がした。


「ア、アルトさん……?」

 やや俯き加減のアルトさんに声をかけると、バッと勢いよく顔を上げる!

 そして!


「うわあぁぁぁ……」


 彼女は突然、ボロボロと大粒の涙を流しながら、大声で泣き出した。

「エルの……エルの裏切り者ぉ……」

 どうわわぁと滝のように流れる涙と共に、泣き声混じりで僕を非難するアルトさん。

 まさかこんな反応が来るなんて、完全に予想外だ。攻撃魔法が飛んで来るくらいは覚悟していたのに……。


「ううう……『絶対にアルトさんを守る』とか『ずっとアルトさんのそばにいる』とか『アルトさんは僕の生き甲斐です』とか言ってたくせにぃ……」

 え、ええ? そ、そんな事言ってたかなぁ……。

「エルの浮気者ぉ! 女たらし! スケコマシ! 石川〇木!」

 誰ですか、最後のは!?

 もう、ちょっと落ち着いてくださいよ、アルトさん!


「うるさいぃ! バカバカぁ!」

 なんとか宥めようとしたけれど、まるで駄々っ子のように聞く耳を持ってくれない。

 挙げ句、手近にあった骨夫さんのパーツをぽいぽいと投げつけてきた。

「ちょ、ちょっと待ってください、それって骨夫さん的に大丈夫なんですか?」

「知らなぃ!」

 キッパリ言い切って、再び骨を投げてくる。

 いけない……このままじゃ話にもならないし、骨夫さんもバラバラになってしまう。


「エル様、泣いている女子には勝てないという格言もあります。ここは一旦、退却を」

 それがいいかもしれない。少し時間を置いて、冷静になってもらおう。

 はぁ、まさかこんな事になるなんて……。

 だけど、このアルトさんの反応が、僕に対する彼女の想いの反動だと考えると……少しだけ嬉しく思ってしまう。つまりは、それだけ好意を持ってくれてるって事だもんね。

 ……なんて事を考えていたら、骨夫さんの大腿骨が僕の頭にクリーンヒットした。

 ダメージは無いけれど、いよいよ本格的に骨夫さんが原型をとどめなくなりつつある。

 これはヤバイ。


「エル様、こちらです!」

 応接室の扉を開けて待機していたカートさんから声がかかる。

「あの、後でちゃんと説明しますから!」

 そう言って飛んで来る骨をかわすと、僕は踵を返して入り口の方に駆け出した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……。

 荒い息を吐きながら、応接室に一人残された妾は涙を拭う。

 エルとカートが慌てて出ていった扉の方をぼんやりと見つめながら、ある想いが胸中に沸き上がって来る。


 ……やってしまった。

 我ながら、なんとみっともない真似をしてしまった事か。

 冷静になった今になって考えてみれば、何か弁解しようとしていたエルの話を聞いてやれば良かった。

 しかし、あの時は頭に血が上りパニック状態になってしまったのだ。

 しかも誰だよ、石川〇木って……。

 でもまぁ、エルも悪いと思う。

 最初から段階をふんでちゃんと説明すれば、妾だってあそこまで取り乱す事はなかった筈だ。


 しかし、よく考えてみれば唐突に出てきた婚約者っていうのもおかしい。

 これはまさか、エルが望まぬ結婚を迫られているという事ではないのか?

 だとしたら、エルの保護者代わりである妾に話を通していないのだから、無効と言っていいだろう。

 いいや、完全に無効だ!


 うん、そう考えたら何やらすっきりしてきた。

 よし、もう少し時間を置いたら、エルによく話を聞いてみよう。まぁ、醜態を見せてしまった今の今では、さすがに顔を合わせ辛いけど。


「面倒な事案はさっさと済ませた方が良いと思うがな」


 突然、声をかけられて妾は扉の方に顔を向ける。

 そこには見知らぬ男が一人(たたず)んでいた。

 黒い髪をオールバックに固め、眼鏡の奥から神経質そうな目付きでこちらを眺めている長身の男。

 うん? 一体、何者だ……?


「貴様、何者……」

 警戒し、骨夫に魔力供給を再開しながら問いただそうとした妾の瞳に、信じられない物が写った!

 男の後ろから姿を現したのは三人の蜥蜴型・獣魔族(リザードマン)……いや、背中の羽やリザードマンよりも堅そうな鱗、さらには僅かに漏れる魔力のこもった吐息。

 こやつらは竜人族かっ!


 ──竜人族は、言ってしまえば竜型の獣魔族だ。

 しかし、奴等は他の獣魔族とは違い、竜人族だけで群を形成して、真の竜族に仕える事を誉れとしている。

 そんな連中とつるんでいる所を見るに、この男は人化の魔法を使用した竜族である可能性が高い。

 まさか……。


「ふむ、どうやら察したようだな……頭の回転は悪くないようだ」

 上から目線の見下した態度にカチンと来るが、これでハッキリした。

 人化の魔法を使いこなす上位竜族。

「私は七輝竜が一人、『怠惰(めんどくせぇ)』のウジン。無駄な時間を過ごすつもりは無いので、十分以内に死んでもらおう」

 怠惰の名を冠している割りに、勤勉そうな雰囲気を纏いながら、ウジンは妾への殺害予告を口にした。


()めてくれたものだな……」

 魔力供給が成されて復活した骨夫が、闇のオーラを吹き上がらせて立ち上がる。

「ほう……流石は『鋼の魔王』の側近、四天王のキャルシアム・骨夫氏。その名に恥じぬ実力をお持ちのようだ」

 感心したようなウジンの言葉に、骨夫は照れたように笑みを浮かべた。

 敵の言葉に嬉しそうにするでないわ!

 しかし、こやつめ……骨夫や妾の実力を認めていながら、この妾を殺すと言ったのか? しかも十分で?

 敵陣に在りながら大口を叩く度胸は認めるが、過剰な自信は命取りになると教えてやろう。

 だが、その前に!


「貴様等に二つ質問がある!」

「手短にしろよ」

 案外、素直にウジンは答える態度を見せて、質問を促してきた。

 よし、まずは一つ目!

「貴様等、どこから進入してきた?」

 城門に大穴が空いていたとはいえ、ここまで来る間に誰にも会わない訳がない。

 だとすると、誰かが手引きをしたか、もしくは出逢った者を全て始末したか……。

 そんな第一の質問に対して、ウジンは人差し指を立てて見せた。


「上だ。最上部位にあったバルコニーの辺りは無防備だったんでな」

 ……妾は骨夫の方をチラリと見る。

 たしか、「任せてください、城の警備は万全ですよ! ガッハッハッ!」と豪語していたよな?

 だが奴は『てへペロッ☆』って感じで、可愛らしく舌を出して誤魔化そうとしていた。一向に可愛くはないが。

 うん、後でお仕置きな。


 そしてもう一つの質問。ある意味、こちらが本命だ……。

「わ、妾とあの人間達の会話……き、聞いたりしておらぬよな?」

 恐る恐る尋ねると、ウジンは少しだけ思案して見せた。そして、

「石川〇木……の辺りからかな?」

 そう答えた。

 んんん~! 聞かれたかー!

 後半だけだけど、聞かれたかー!

 石川〇木とは何者だとウジンは問い返して来るが、そんなもの妾が知るかっ!

 だが……ふ、ふふふ……妾の恥ずかしい姿を見聞きした以上、ただで帰す訳にはいかなくなったな。

 恨むなら、迂闊な己等を恨むがいい。


「質問は終わったな? では、始めよう」

 ウジンの宣言に、竜人族達が戦闘体勢に入る。

「クックックッ、十分以上は引き伸ばして、『もうとっくに十分過ぎたんですけおっ!』っ感じでいっぱい煽ってやろう……」

 なにやら陰険な事を骨夫が呟くが、妾も概ね同意見だ。

 ちょっと騒がしくすれば皆が駆けつけるであろうから、自信過剰な愚か者に、数の暴力というものを教えてやろう。


 だが、ウジンはニヤリと余裕の笑みを浮かべる。

「なんの準備もしていないと思ったのか?」

 そう言うと、奴は懐から拳大の水晶玉のような物を取り出した。

「これは『竜宝(りゅうほう)』というマジックアイテムの一つでな……」

 こんな効果があると、ウジンはそれを発動させる!

 それと同時に部屋全体を、奇妙な力が覆い尽くした!


「な、なんだこれは……」

 魔力が……掻き消される?

「この部屋を魔法封じの結界で覆った。外へは物音一つ漏れる事も無いので安心してほしい」

 あ、安心できる要素が一つも無い!

 これは結構、やばいのではなかろうか!?

 妾の隣で、何か魔法を発動させようと骨夫がアワアワとやっているが、やはり上手くいかないらしい。

「魔法を封じられた魔法使い……魔王の娘(こむすめ)四天王(ただの骨)を殺すのに十分もいらないと言った意味が解ったろう?」

 ウジンの言葉に弾かれるようにして、三体の竜人族が妾達へと飛び掛かってきた!

特に石川〇木をディスる意図はありませんので、あしからず。

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