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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
33/101

33 小さな火種

 七輝竜!

 その名には聞き覚えがある!

「ご存知だとは思いますが、七輝竜とは竜王の懐刀にして竜族最強の七人に与えられる称号」

 うむ、一騎当千の剛の者によって変遷された、正に破壊の権化と聞いている。

「そうですね……鋼の魔王(そちら)側で言う、四天王に匹敵する強者(つわもの)の集まりです」

 ……なんか、そう言われるといきなり大したこと無いような気がしてくるな。


「彼らは自らの武威ぶいを知らしめる為に、人間界における七つの大罪をそれぞれに当てはめて名乗っています。それが相応しいと思えるくらい、同じ竜族ながら恐ろしい者達です……」

 七輝竜の恐ろしさを思い出したのか、トゥーマはブルリと身を震わせた。

 ふん、わざわざ人間界で忌避される物を名乗るとはハッタリが効いているではないか。


「……これは同盟を結ぶ事とは関係なしに、貴女方の身を案じての、言わば忠告です」

 そう前置きしてトゥーマが伝えようとしたのは、七輝竜についての情報だった。

 一瞬、護衛の二人が渋い顔をしたが、自身らの主が言うことなのからか、余計な口出しはしてこない。

「七輝竜も人化の魔法を使うので、見た目は普通の魔族と大差はありません。ですから、これから告げる名を持つ者達と会敵した場合には、最大限の注意を払って下さい」

 そう言って、トゥーマが語る七人の名は……


暴食(食いしん坊)』イーシス

嫉妬(うらやましい)』アルジェ

憤怒(激ぉこ)』シンザン

傲慢(オレ様)』スーチル

怠惰(めんどくせぇ)』ウジン

色欲(ドスケベ)』リュシエル

強欲(欲しがり)』ジルチェ


 ……馬鹿にしているのか、竜族?

 大罪は合ってるけど、ルビの振り方がおかし過ぎるだろ! それともそれが竜族のセンスなのか!?

 そりゃ、確かに初見で「『色欲(ドスケベ)』の~」なんて名乗られたらビックリするけどさぁ!


 うつむいて小刻みに震える妾と、後ろでカタカタ揺れる骨夫。

 必死で笑いを堪えていただけだが、そんな妾達を見て、トゥーマは至極真面目に妾達が脅威に震えていると受け取ったようだ。

「怯えるのも無理はありません……それとも武者震いでしょうか?」

 それなら頼もしいと、会話のマウントを取ったようにドヤるトゥーマがさらにキツい。

 やめてくれまいか、これ以上妾達の腹筋を壊しにかかるのは!


「──では、我々はこの辺で失礼いたします。まだ、回らねばならぬ所がありますので」

 立ち上がってトゥーマ退室しようとした。が、その言葉に少し引っ掛かる。

「おいおい、妾の返事を聞かなくてよいのか?」

「ええ、鋼の魔王の娘(あなた)に話を通しておいたという事実があれば構いません」

 何ぃ? どういうつもりだ……。

「つまりアレですか、お嬢があなた方と協力してる(・・・・・)かもしれない(・・・・・・)と思わせれば、他の魔王を味方に付ける自信があると?」

 骨夫の指摘にトゥーマはニヤリと笑う。

 なるほど、『鋼の魔王(ちちうえ)』は封印中、『焔の竜王』は倒れた。強力なトップがいない者同士が会談したとなれば、高い確率で手を組んだと思われるだろう。

 本人では無いにしろ、魔王の娘と竜王の次男、侮れぬ力を持っていてもおかしくない。その二人が手を組んだら、孤立しつつある竜王の長男よりも厄介そうだ……。

 だったら同盟を結んで、魔界を制覇しよう妄言を放つ狂犬(ヅィーア)を始末して、労せず戦果を得た方が得だ……と、他の魔王が考えてもおかしくはない。


 むむ……中々、考えているな。

「ああ、それともう一つ。兄の手の者が、私と会っていた貴女方にちょっかいを出してくるかもしれませんので、ご注意を……」

 なんだとぅ! それってつまり、ほぼ確実に刺客が襲って来るっていう事ではないかっ!

 戦力的に劣る(なにしろ兵がいない)妾が(ヅィーア)の攻撃から身を守るには、自分(トゥーマ)と組むしか無いですよと、暗に脅している。

 こやつ……かなりの切れ者。


 退場するトゥーマ達を一応見送り、妾は小さく舌打ちをした。

「まんまとやられましたね」

「ああ、電撃的な来訪も、妾達の選択肢を絞るための行動だったのだろうな」

 最後の一言を聞いても、妾は結局、トゥーマとの同盟を保留とした。

 妾達の読みが会っているなら、トゥーマは妾とヅィーアを噛み合わせようとしている。

 その結果、妾がやられても良し。ヅィーアの戦力が削れればなお良しの二段構えだ。

 妾が負ければ、ヅィーアの脅威を煽って同盟を結びやすくなる。

 妾が勝てば、そんな強い奴が味方にいますぜと同盟を(以下略)。

 どっちにしろトゥーマに損はない。

 全くもって、いやらし野郎である。


 しかし、そう考えると、七輝竜の変な称号も、妾達の油断を誘うためのブラフだった可能性があるな……。

「そうかもしれませんね。人間の奴隷から情報を得たにしろ、そんな呼ばれかたをしていたら嘲笑の的にしかならんでしょうし」

 そうよな。まさか奴隷の方も、命の危険があるのに『絶対に笑ってはいけない奴隷生活』に自らを追い込むとは思えぬ。


「ですが、いいんですか? 同盟の申し出を保留にしておいて」

 ふぅ……何を言っている。

 とりあえず保留と言うことにしたが、あんな腹黒そうな胡散臭い奴と組む気なぞ無いわ!

「その判断には賛成しますがね……。しかし、他の魔王と同盟が締結したら、厄介な事になりませんかね?」

 心配する骨夫に、妾はチッチッチッと舌を鳴らしながら指を振った。

「忘れたのか、そもそも事の発端となった竜王を倒した人間の事を」

 言われて、骨夫もハッとしたようだ。

 妾はそやつらこそ、勇者の系譜(チャルフィオナ)達だと思っておる。

 仮にヅィーアの討伐が成った場合、トゥーマの立場としては他種族と揉める気は無くとも、父を殺したあやつらだけは何としても仕留めねばなるまい。

 そんな時に迂闊に同盟など結んでいたら、兵を出せばよい他の魔王と違って、妾達は真っ正面からやつらと対峙せねばならぬのだぞ?

「か、考えたくもない……」

 ブルッと震える骨夫。うむ、妾も同感だ。


 その点、同盟の外にいれば、連合軍との激突によって弱ったやつらを捕らえられるかもしれない。

 そうすれば、やつらを生け贄にして父上が復活! 疲労した連合を叩いて、らくらく魔界統一って寸法よ!

「おお……素晴らしいまでの皮算用! さすがお嬢はポジティブシンキングの塊ですな!」

 ふふふ、まぁそう誉めるな。いや、誉めてはいないのか?

「では、目の前の脅威であるヅィーア側の襲撃に対応する策も?」

 ああ、それな。それは……どうしようかなぁ。


 おい、そんな目で見でない。

 さすがの妾も、今聞いたばかりの敵に対する対応策など持っている訳がなかろうに。

「つまり、これから考えるということですな」

 そういう事。まぁ、いざとなったら骨夫の転移魔法で退却は出来るから、籠城できるように城外を固めておいた方が良いだろうな。


 方針が決まり、さっそく取りかかる事にした。

 まずはマタイチ達にも、警戒体制の強化と、襲撃があった時には非戦闘猫は真っ先に地下に非難するよう伝える。

 後は攻められた時に臨機応変で動くしかあるまい。

 「臨機応変というより、行き当たりばったり……」といった骨夫の言葉は聞かなかった事にする。


 ──翌日。

 特に何もなかった。

 まぁ、政敵の弟の動向を見張っていても、昨日の今日では動きもないか。


 ──さらに翌日。

 日も落ちかけた時刻になって、城に人影が姿を現した。


「ただいま帰りました!」


 元気いっぱいなエルの声。

 うんうん、妾に会いたくてたまらなかったという気持ちがにじんでいるようではないか。

 んもう、仕方のないやつめ♪


「お帰りなさい、エルぅ♥ご飯にする? お風呂にする? それとも……わ・ら・わ?」


 …………おい、それは一体、誰の物まねのつもりだ?

 気持ちの悪い裏声でエルに迫る骨夫(・・)に、全員がドン引きしている。

 そんな極寒の空気の中だというのに、骨夫のやつは寧ろしてやったりといった感じで笑顔を見せた。

「主が望みながらも出来ない事を代わりにするのが臣下の努め……いかがでした、お嬢?」

 ハ、ハァー?

 な、何を言ってくれてるんですか、お前は!

 それっ、それではまるで、妾がエルに新妻っぽく迫りたがってるみたいではないかっ!

「あれ……もっとお嬢がリードするパターンの方が良かったですか?」

 いや、それも悪くはないが……じゃなくて!

 お前、余計な事をするでない!妾の威厳が無くなってしまうではないか!

「もう、そんな事を言いながら、本当は……」

 魔力供給、強制カット!

 次の瞬間、屍のように崩れ落ちる骨夫。

 ふぅ……危ない所であった。


 とりあえず、ただの屍と化した骨夫は捨て置いて、エル達から人間界の動向について報告を受ける。

 ……ふむう、つまり大々的に戦争とかではなく、拐われた人間を救う為の少数精鋭を送ろうとしていたのか。

 その話がどこから漏れて、人伝になっていく間に話が大きくなったようだな。まぁ、よくある話だ。

 だが、人間との争いが無いならそれは助かるし、領主からの援助をこぎ着けてきたエルの手腕は大した物だ。

 自分は何もしていないなどと謙遜しているが、妾の見る目は確かだったようだな。

 ふふふ、愛いやつめ。妾がハグをしてやろう。

 が、エルを捕まえようと立ち上がろうとしたその時、思わぬ言葉が耳に飛び込んできた。


「しかし、エル様の婚約者を名乗る彼女が現れた時には、驚かされました」

 ……………は? 婚……約者……?

 カートの何気ない一言に、ギョッとするエル。

 え? なんだ、その反応は……。もしかして、本当に……?

「ち、違いますよ! それは誤解だって……」

 慌てて弁解しようとするエル。が、妾の目に写ったそれは……。


 左手(・・)薬指・・に輝く、見なれない指輪。


 それの意味を理解した瞬間!

 ブチンと音を立てて、妾の中で何かが切れた……。

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