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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
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30 領主様と会談

 さて、当の呪われたラライルさんは、この街のとある場所に引きこもっているらしい。

 なんでも、外に出たら歴史に名を残すレベルの恥女に成りそうだからと、自ら軟禁状態になれる環境を選んだそうだ。


「姐さんが受けたのは『色欲の呪い』とかいうものらしい。なんでも、男無しでは居られなくなるほど淫乱になっちまうとか……」

 それの何が問題だと?といった表情のカートさんはさておき、そんな呪いがあるなんて初耳だった。

 こっそりハミィに念話で尋ねてみたけど、やっぱり知らないとの事。

 また、カートさんも「そんな呪いがあるなら、是非教えて欲しい」とギラギラした目で僕を見ながら言っていたから、やっぱり知らないんだろう。

 まぁ、アルトさんに直接聞いてみるしかないかな……。


 とりあえず領主様に急ぎの案件があるので、その用事が済み次第、魔界に戻ってアルトさんに相談してみることにした。

 ほんとは魔界まで転移魔法で移動出来ればいいんだけど、覚えたてのカートさんでは『緑の帯』を越えられないらしい。

 あの地帯は一種の結界みたいになってるそうで、その中でも転移魔法を使えた骨夫さんが破格なんだとか。

 さすがは、アルトさんの使い魔だなぁ。


 早ければ二、三日中に連絡をするので、ラライルさんにはもうちょっとがんばってもらうと言うことで、虎二郎さん達と話は着いた。

「頼むぞ。あとこれは、礼も兼ねた俺を倒した者への賞品だ」

 そう言って手渡されたのは『居酒屋 ビックタイガー 特別割引券』

「それを提示すれば、会計時に半額になる。有効期限は一年だから、是非利用してくれ」

 あ、ありがとうございます……。

 でも、僕はお酒なんて飲めないんだけどな……。


 とりあえず、彼らの連絡先を聞いて別れようとした時、ウルフ・三朗が僕の前に立つ。

「姐さんの為だから、俺はお前に土下座した。お前に対してはわだかまりもない……」

 だけどそう言った後、宣言するように言い放つ。

「だがな、あの女は大嫌いだ! それだけは覚えておけ!」

 ……なんで、そんな事を言うんだろう。

 正直な所、虎二郎さんの高感度が上がったのに比べて、三朗への評価は下がる一方だ。


「三朗、いつまでもそんな事を言ってるんじゃないぞ!」

 僕らの声が聞こえていたのか、虎二郎さんが三朗の背中をバンと叩いて嗜める。

 と、その拍子にバサリと音を立てて何かが地面に落っこちた。

 落ちたのは……髪の毛の……束?

 そして髪の毛の束(それ)が乗っていた場所……つまり三朗の頭上には、キラリと光を反射する不毛の大地が広がっていた……。


アルト(あの女)に返り討ちにあった時、丁寧に頭を炎の魔法で攻められた……。ヤケドは回復魔法で直せたが、一度失われた毛根は……もう……」

 泣き笑いのような表情で、髪の毛の束を拾い上げ、再び装着しながら三朗は俯く。

 彼がアルトさんにどんな無礼を働いたのかは知らないけれど、僕にはもう彼を責める気持ちにはなれなかった……。


「久し振りだな、エルトニクス君。先程は冒険者相手に、はっちゃけたそうじゃないか。さすがはチャルフィオナの息子だな」

 愉快そうに笑いつつ『はっちゃけた』なんて今時、聞かない表現をしながら僕を迎えてくれたのは、四十代後半の中年男性。

 屋敷の主にしてこの地方を納める領主、トーナン・シャルペイ・ハクアチューン様だ。

 昔から父さんについてきた時に何度か顔を会わせただけど、相変わらず穏やかな雰囲気と柔らかい口調はこちらの緊張を解いてくれる。

 ちなみに、今この応接室にいるのは、僕とトーナン様の二人だけ。

 カートさんは少し試したい事があると、部屋の外で待機していて、ハンターキャッツ達は普通の猫の振りをしながら使用人達に付いて屋敷内を散策して情報を集めている。


「お久しぶりです、トーナン様」

 急な来訪だったにも関わらず、快く迎え入れてくれた領主様に僕は頭を下げて挨拶をする。

「まぁ、堅苦しい挨拶は抜きだ。それに、お前が尋ねて来た訳も何となく察しはついている」

 やっぱり……。

 だとしたら、下手に回りくどい事を言うよりも、単刀直入に訴えた方がいいかもしれない。


「ご明察です。でも、その上で言わせいただきますが、魔界との戦争を考え直してもらえませんか?」

「はぁ!?」

 すっとんきょうな声と同時にトーナン様が驚きの表情で、僕に顔を向ける!

「せ、戦争ってなんだ!? まさか、魔族は人間と再び争うつもりなのかっ!」

 あれぇ? 何か話がちがう……?


「あ、あの……僕はトーナン様が魔界に拐われた人間を救出するために、戦いを挑むべく国王に働きかけていると聞いて……」

 それを聞いて、領主様は慌てて首を振る。

「いやいや、確かにお前の両親が拐われた事を切っ掛けに、色々と調べた結果、人間界から魔界に拐われる犠牲者がかなりいる事を知った」

 その数がそんなに多くは無い上に、事故や失踪といった案件に紛れる事がほとんどだった為に、余り認知されていなかったらしい。

「だが、そうやって拐われた人間がいると解った以上、何もしない訳にはいかない。だから、隠密で動ける調査隊や救出部隊を編成して、秘密裏に魔界に向かわせるべきだと進言はしている」

 せっかく友好的になっていると言うのに、一部の跳ねっ返りのために魔界全体を敵に回すのは愚かな事だからな……そう言って、トーナン様はため息を吐いた。


 なんてこった、魔界ネコ達が集めてきた話とは随分違うじゃないか。

 でも、あくまで噂話を集めてきたって言っていたし、話が一人歩きしていた所で耳に入ったのかもしれない……。

「私はてっきり、お前がアルリディオ達を助ける為に、助力を求めに来たのだと思っていたが、意外な話が聞けたな」

 下手に騒ぎ立てられても困るので、早々に手を打とうとトーナン様は約束してくれた。

 これでとりあえずは、不穏な噂は鳴りを潜めるだろう。


「ところで……お前は、その話をどこで聞いたのだ?」

 トーナン様の質問に、僕は今、魔界で協力者を得て父さん達を助けるべく動いている事などを話した。

 あ、勿論、伏せるところは伏せておいたけど。

「……そうか。リオールのナルツグ商会から、ある人物達の協力で『緑の帯』に済むエルフの部族と和解したなんて話が入っていたが、それにお前が絡んでいたとはな……」

 世間は狭いなと小さく笑いながら、トーナン様はなにやら思案していた。

 たぶん、僕の協力者……アルトさんと繋ぎが取れないかどうかを考えているんだろう。

 でも、アルトさんが魔界の貴族であることや、あちら側の情勢なんかを色々と考えると、下手に動けば騒ぎが大きくなるから最良の一手は何かと悩んでいるんだ。


「……エルトニクス、お前はそのまま魔界でアルト殿と協力して、拐われた人間の救出や情報収集を行ってくれないか?」

 すでに魔界に協力者がいることや、人間が魔界で動くよりもはるかに目立たない事を考慮したトーナン様は、僕にそんな提案をしてくる。

「定期的に報告を上げてくれるのなら、資金や物資は私が提供しよう。どうだ?」

 ううん……。

 僕としては、領主様の申し出はすごくありがたい。

 だけど、トーナン様がアルトさんの立場を気にしたように、アルトさんもトーナン様の立ち位置に悩むものがあるかもしれない。

 共に責任ある立場なのだから、僕の一存で話を進めたらダメだよね……。


「とりあえず、魔界に戻ってアルトさんと相談してみたいと思います」

「うむ……お前も速答できる立場でもなかったな。私も少し急ぎすぎた」

 少し落ち着こうと、お茶のおかわりを持ってきてもらうために、トーナン様が使用人呼ぼうとした時、部屋のドアがノックされる。


「失礼いたします……」

 僕たちに一声かけながら、女性が一人、応接室の中に入って来た。

 肩ぐらいまでの金髪はサラサラと流れ、トーナン様に少し似た顔立ちは血縁である事を教えてくれる。

 大きく咲き誇る少し前の、開き始めた美しい華を連想させる容姿や立ち振舞いは、黙っていても人の目を引くようだ。


「久し振りね、エル……」

 にっこりと僕に笑いかける彼女はトーナン様の長女、リーシャ様だ。

 昔、何度かここを訪れた時になにかと僕の面倒を見てくれた、姉のような女性(ひと)である。

「お久し振りです、リーシャ様。その……とても綺麗になっていたので、びっくりしました」

 僕の感想に、リーシャ様はころころと笑いながら、エルもお世辞を言えるようになったのねと僕の頭を撫でた。

 べつにお世辞のつもりは無かったんだけどな……。


 でも懐しいな、この感じ。

 僕がもっと小さかった頃、リーシャ様はよくこんな風に撫でてくれたったけ。

 一人っ子だった僕は、四つ歳上の彼女を本当の姉みたいに慕っていた。

 その頃の気持ちが、ふつふつと沸き上がってくる。

 だから、しばらくの間、僕はされるがままになっていた。


「ところでお父様。なにやらエルに危険な仕事をさせようとしていませんでしたか?」

 リーシャ様の指摘に、僕もトーナン様もギョッとする。

 なんで、知っているんだろう……。

 不思議がる僕に、リーシャ様は「ないしょ♪」といった風に、口元で指を立ててみせた。


「……確かに、危険ではあるだろう。しかし、誰かがやらねばならんのだし、魔界に強いコネクションがあるなら、エルトニクスに頼んだほうが安全かもしれんのだ」

 確かに。

 現地でなにかと融通が効くなら、そっちの方が安全かもしれないっていうのは僕も同意だ。

 しかし、リーシャ様も譲らない。

「そういった無理を通す為に冒険者の方々を雇っているのでしょう? でしたら、エルを最前線に出さなくても、安全な場所で情報の精査や、行動の指揮をとってもらえばいいではありませんか」

「だから、現場の状況に応じてだな……」

 うーん……トーナン様とリーシャ様の言い合いは平行線だ。

 でも、僕としてはやっぱり現場に立って事に当たりたい

 その方がアルトさんが危ない時に側にいれるし……なんてね。


「ですから、エルは私にとって大事な人なんですから、危険な場所に向かわせるのは反対です!」

 その時、一際大きな声でリーシャ様が言い放った。

 昔から本当の弟みたいに可愛がってくれたけど、今でもこんなに気にかけてくれるなんて……。

 過保護かなとは思うけれど、なんだか嬉しい。

 だけど、次にリーシャ様の口から飛び出した言葉は、僕も予想外の物だった。


「なにしろ、エルは私の婚約者なのですから!」


 …………………え?

 リーシャ様の言葉の意味が理解できず、僕とトーナン様はその場に凍りついてしまった。

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