表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
3/101

03 勇者の系譜に連なる者達

 骨夫が出撃してから二日後。

 人間の男を一人、縛り上げて連れ帰ってきた。

 ふふん、こやつが勇者の系譜か……。

 一見、頼り無さげな優男だが、発せられる魔力の波動は確かに初代勇者に近い物がある。

 が、それよりも気になるのが骨夫の様子。

 見事に任務は成功したようだが……。


「ただいま……戻りました……」

 妾の命令を遂行したにも関わらず、その声は弱々しい。

 多分……ではあるが、骨夫の頭部にヒビが入りまくっているのが原因だろうか?

 なんか泣いてるし。

 とにかく、今回の命令遂行についての報告をさせてみた。

 そこで妾は、意外な事実を知る……。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


(見つけたぞ……)

 勇者の魔力に似た波動を頼りに、転移魔法で人間界に訪れた骨夫は、さっそくそれらしい人物に目星を付けた。

 だが、ターゲットに悟られぬようにそれとなく監視する骨夫の元に、一人の人物が歩み寄る……。


「ふーせん、ください!」

「はーい、どうぞー♪」

 骨夫に語りかける子供に持っていた風船を渡し、にこやかに手を振る。

 笑顔で母親の元に駆けていく子供を見送って、骨夫は自らが街の中に溶け込んでいることに更なる自信を付けた!


(くくく……魔王様が封印されてから二百年。その間に身につけた我がバイトスキル、凡人どもに見抜ける物ではないわっ!)

 付け鼻がついたコミカルなメガネを身につけ、大量の風船を配りながら愛想を振り撒く骨夫。

 魔王の側近がそれでいいのか? という疑問点に目を瞑れば、なにかの宣伝かパフォーマーにしか見えないその姿は、恐ろしくこの場に馴染んでいた。


 そうして、さりげなく尾行を続けていた骨夫であったが、ターゲットに迫る突然の事態に衝撃が走る!

 どうやら人と待ち合わせをしていたらしいのだが、問題はその相手。

 ターゲットと親しげに言葉を交わす見目麗しい女性の登場に、骨夫は動揺を隠せなかった。


(こ、この世に生を受けて(?)以来、私は彼女なんて居た事がなかったのに……)

 骨夫の瞳に嫉妬の炎が宿る。

 奴は魔王様を甦らせる為の生け贄なのだ!

 そんな奴が綺麗な彼女を連れていていいのだろうか? いいや、良くない!

 奇妙なロジックで絶対に許されないよと認定した彼は、楽しげに会話しながら歩く二人をさらに慎重な足取りで尾行していく。 


やがてターゲット達はそれとなく大通りから離れ、人気の少ない方へと向かって行った。

(こっちは確か……)

二人の向かう方向に、何があるかを思いだそうとして……骨夫の脳裏に稲妻が閃いた!


(やる気だ!こんな真っ昼間から、いかがわしい事をやる気だ!)

 そう、この先にあるのは大人の休憩所。そこへ真っ直ぐ向かう男女が二人!

 もはや一刻の猶予もなかった!


「まぁてぇ! 貴様らぁ!」

 バイトの格好をかなぐり捨てて、闇のオーラを全開にした骨夫が二人に迫る!

 突然の強大な力を振り撒く魔物の出現に、彼らは戸惑い動きが止まった。

「ゲットだぜぇ!」

 その一瞬の隙をついて、骨夫はターゲットの男を捕縛する!


「フハハハ! 私の目の黒い内はエッチな事などさせるものかよ!」

 なにやら目的がズレているが、とにかく狙っていた人物を捕まえた骨夫は、そのまま逃走に移ろうとした。

「では、さら……バッ!」

 最後まで言いきる前に、突然の打撃が骨夫を襲う!

 顎の骨が砕ける程の一撃を放ったのは、ターゲットと共にいた女性だった!


「なぜ……いきなり襲われたのかは解りませんが……」

 殴り倒された骨夫の顔面を鷲掴みにして、女性がポツリと尋ねてくる。

「普通、こういう時って拐うのは女性の方ではありませんか?」

 自分が無視され、パートナーの男性が捕らえられた事にいささか女のプライドが傷付けられたのだろうか……。

 淡々とした口調とにこやかな表情とは裏腹に、顔面に食い込む指には万力のごとき力が込められていく。

 ビキビキと、自身の頭蓋骨にヒビが入る音を聞きながら、骨夫はなんとか逃れようとするが指一本、剥がすことはできない。


(こ、このままではヤバい……)

 死にこそはしないものの、破壊されてしまえば同じ事だ。

 任務遂行のため、ターゲットに気持ちいい事をさせないためにも、骨夫はついに最後の手段を取る!


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……それでめちゃくちゃ土下座しまくって、油断させた所に特売のチラシで気を引いて逃走してきました」


 骨夫、お主……

 んん……実際、妾はその話にどう反応していいのか、すごく困るんだが。

 不様な真似をした事を責めるていいのか、任務を果たした事を誉めていいのか。


「……その後、何度も転移魔法で逃げたのに、その度に追い付かれ……めっちゃ怖かった……」

 カタカタ震えながら呟く骨夫。ぬう、そんな姿を見せられては、叱るに叱れない。

 ハァ……と小さくため息をついて、妾は沙汰を下す。


「不様な真似をしたのは許しがたいが、そこは任務遂行の為の形振り構わぬ姿勢と解釈しよう。ご苦労であった」

 我ながら甘いとは思うが、現状で一人しかいない部下である。罰するだけが能ではあるまい。

 ここは寛大な態度で対応して、忠誠心を新たにしてもらうとしよう。


「……はぁ~、良かった。みっともない事をしてしまったので、姫様に食われるかとビクビクしてましたよ」

 お主、妾をなんだと思って……。

「いやー、でも骨さんのあの芸術的な土下座を見たら、こちらの姫様って人も絶賛すると思うよ!」

「そっかな~」

 そして、なんで拐ってきた相手と和気あいあいとしている?

あれか、誘拐犯と人質が一緒にいる内に仲良くなっちゃうというやつか?

 全く人間だけならともかく、骨夫までそんな……。

 などと呆れていた時だった。


 ドゴォン!という爆発魔法が炸裂したかのような轟音と、微かな揺れがこの玉座の間に届いた!

「な、何事かっ!」

 城の一番奥まった場所であるここまで響いてくる音と衝撃はただ事ではない。

 魔界でも幻と言われる、巨人族か竜族の攻撃でもなければ、そんな事はあり得ないはずだ。


 再び、轟音が妾の耳に届く!

くっ! 一体、何が起きているというのだ。

 玉座に座り、妾は城内を見渡せる映像機能を発動させる。

 鏡のような四角いモニターが展開され、妾の意思を汲み取って城門付近の様子を写し出す。


「なんだ……これは……」

 思わず妾は言葉を失った。

 あらゆる攻撃魔法や、それこそ先に記した巨人や竜の攻撃にも耐えた自慢の城門……。

 その一部が砕け落ち、ぽっかりと穴が空いている。


 信じられない物を見ている気分だった……。

 だが、破壊の余韻である煙と埃を払って、空いた穴から姿を現す人影が妾の視界に入る。

 おのれ、一体どんな化け物が……。


 しかし……煙が晴れた後、そこに佇んでいたのは、一人の人間の女だった。

 年の頃は二十代後半と言った所か?

 おそらく対魔法処理がなされているコートを纏い、佇まいから解る鍛えられた物腰はただ者ではあるまい。

 そして、コートの下からでもわかるメリハリのある体のライン……やはり、ただ者ではあるまい。

 緩くウェーブのかかった髪をかきあげて城の方を見上げている。

 だが、何より妾の目を引いたのは、この女から放たれる魔力の波動……。

 これは……勇者の系譜と同じ物ではないかっ!

 しかも、捕らえてきた男よりもさらに強い。


「こやつは一体……」

 言いかけた妾の耳に、カチカチと固いものがぶつかり合う音が聞こえた。

 なにかと思えば、尋常ではない様子で骨夫が震えている。

 まるで阿鼻叫喚の予防摂取会場で怯える子犬のように……。


「悪いことは言わない……早く僕を解放した方がいい」

 突然、捕らえた男が解放を迫ってきた。

 こやつは大事な生け贄、そんなことする訳がないであろうに。

 しかし、男の方も余裕が無い様子で説得してくる。

 「彼女は僕らの一族で最強の力を持つ者、チャルフィオナ……」

一族……ということは、やはりあの女も勇者の系譜か。

 「そして僕の愛する妻でもある!」

 ほぅ、愛する妻……妻!? 結婚してるの!?


「マジかよっ!聞いてないよ!」

 先ほどまで怯えていた骨夫が、なぜか一番食いついてきた。

 本当にもう、お主という奴は……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ