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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
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28 思わぬ再会

 恐る恐る召喚された狼に跨がる。

 振り落とされないように、ハンターキャッツ達を僕が支え、その僕をカートさんが支るといった並びだ。

「エル様、もっと密着してください。危ないですよ」

 巨大な狼の背中と言っても広さには限界があるので、僕は背中越しにカートさんの鼓動を感じるくらい密着している。

 アルトさん以外の女性に、ここまでくっついた事は無かったので、かなり緊張してしまう。

「うふ……うふふ……」

 小刻みに震えながら、湿ったような含み笑いを漏らすカートさんには違う意味で緊張させられたけど……。


 ──四台の馬車を囲むようにして、僕達は街道を進んで行く。

 お客が乗っている二台と、色んな物資を積んだ二台。

 前に僕達が乗っていた時のような緊張感はほとんど無く、乗客の人達が窓から外を眺めながら、むしろ何かトラブルでも起きないかな……なんて会話をするくらい、道中は穏やかなものだった。


 時おり、森の中や上空から魔獣が襲ってくる事もあったけど、ほとんどがアマゾネス・エルフ達の弓矢で仕留められていく。

 前は男性客が全く乗らないくらいに恐怖の対象だったからこそ、逆に彼女達の護衛は心強い。


 そんな感じで順調に進んでいた僕達が、街道の半ばくらいに達した辺りでそいつ(・・・)は姿を現した。

 背の高い草をかき分け、小振りな木々をなぎ倒しながら森の中から道の先に現れたのは、全長三メートル程の巨大な紫色の蜥蜴といった感じの魔獣だった。


「警戒! 敵は『亜竜種・毒撒き大蜥蜴』!」

 緊張感の籠った声で、先頭のエルフさんが情報を伝えてくる。

 亜竜っていうのは、文字どおり竜種に近い魔獣の事だ。

 普通の竜より肉体的には劣っているし魔法なんかも使えない。けど、様々なブレスは吐くし中には飛ぶ物なんかもいて、並の魔獣より遥かに手強い相手である。

 そんな相手に、エルフさん達は馬車の前面に集結して、一斉に矢を放つ!

 妖術によって威力を増した矢が毒撒き大蜥蜴に突き刺さった!

 しかし、亜竜は意にも返さずズンズンと迫りくる。

「ちっ……毒に警戒! 馬車を護れ!」

 リーダーエルフさんの命令に従い、全員で風の防御壁を展開! それと同時に亜竜から紫色の霧みたいな毒のブレスが吐き出された!


 正面からぶつかり合った風の魔法と毒のブレスは、距離が遠かった事もあって魔法の方が打ち勝った。

 毒は風に巻き込まれ、遥か上空へと流されていく。

 しかしホッとしたのも束の間、先程より距離を詰めてきた毒撒き大蜥蜴は再度、毒のブレスを吐くためにタメの状態に入る。

 これはヤバい!


 そう判断した僕は、狼から飛び降りると亜竜に向かって駆け出した!

 馬車と前線のエルフさん達の横を走り抜けて一気に亜竜へと迫る!

「いくよ、ハミィ!」

『承知!』

 腰に下げた魔剣に魔力を送り、力を貯める。

 僕らの接近に気付いた毒撒き大蜥蜴が、ブレスを吐かんと大きく口を開けた瞬間!

「ハアァッ!」

 気合いの声と共に抜き放った魔剣の一撃が、亜竜の口から胴体を切り裂き、尻尾の先まで真っ二つに両断した!


 断末魔の声すら上げる間もなく、絶命した毒撒き大蜥蜴の巨体が、地面を揺るがすように崩れ落ちる。

 よしっ!

 念のため最後のあがきを警戒したけど、奴は完全に動かない。

 一息付いて構えを解いた所に、歓声をあげながらアマゾネス・エルフの皆が僕を取り囲んだ。


「すごいです、エル様!」

「竜殺しの英雄の技、感服しました!」

 きゃあきゃあと黄色い声で誉められて、僕は顔が赤くなるのを自覚する。

 ば、馬車の乗客が見てるのに、ちょっと恥ずかしい……。

 照れてる僕とは逆に、エルフさん達の興奮は高まっていく。

 いつしか僕を揉みくちゃにしながら、服を脱がし始めた……って、ちょっと待って!

 いやっ、そんな! 人が見てるのにぃ! 助けて、カートさん!

 お目付け役の彼女に助けを求めたけれど、いつの間にか先陣切って僕の服を剥ぎ取っていた。ああ、もう! この人はっ!


 その後、なんとか乱入してきたハンターキャッツ達のお陰でアマゾネス・エルフ包囲網から抜け出す事ができた。

 昔、親戚のお兄さんが「美女に囲まれ揉みくちゃにされながら、美味い酒をかっ食らうのが男の本懐」なんて言ってたけど、その「本懐」は僕にはまだ早すぎたみたいだよ……。

 揉みくちゃにされただけで、スゴく怖かったし……。


 とにかく、正気に戻ってもらったエルフさん達とハンターキャッツに亜竜の後始末をお願いする。

 魔法薬の原料になるブレス袋や、一部の部位だけ少しもらって、後はナルツグ商会とアマゾネス・エルフ達で山分けしてもらう事にした。

 亜竜とはいえ、竜は竜。どの部位もお宝と言えるくらいに価値は高いのだから、かなり喜んでもらえたみたいだ。

 馬車の乗客達にも亜竜の鱗を配ったりして、サービスにも余念がない。


 それからの道中は全く順調で、大した襲撃もなく僕達は人間界のリオールの街に到着した。

 そこで商会の人やエルフさん達と別れて、僕達は一路、領主様の屋敷のあるジャマルンの街を目指す。

「エル様、とばしますので、しっかり掴まっていてください」

「わかりました。お願いします、カートさん」

 気合いを入れるカートさんに呼応して、巨狼がぐんぐんスピードを上げていった。


 ───翌日の昼、僕達はジャマルンの街に到着する。

 馬で駆けて二日半はかかる道程をかなり短縮して、カートさんが喚び出した狼は頑張ってくれた。

 街の入り口付近で狼から降り、ご苦労様とその首筋を撫でてあげると、気持ち良さそうに一声鳴いて狼の姿が消え去る。

「私の影に戻っただけですので、ご安心を」

 力尽きたのかとビックリした僕達に、カートさんがそう説明してくれた。

 ただ、少し無理をさせたのでしばらくは喚び出せないだろうとの事。

 そういうことなら、ゆっくり休んでもらいたいね。


 さて、街の中心部に位置する領主様の屋敷に向かって僕達は進む。

 とくに入り組んでもいないので、十分ほどで目標の建物は見えてきた。

 念のために、ハンターキャッツ達には人語を話さないように注意して、大門の前で警護をしていた衛兵の人に声をかける。

 と、奥から出てきた衛兵が「お前、エルトニクスじゃないか!?」と声をかけてきた。


「ボウインさん!」

「おお、やっぱりエルトニクスか!」

 顔見知りの衛兵、ボウインさんが僕の所に笑顔で歩いてきた。

 何度か父さんと一緒にこの街を訪れた時、何かと僕の相手をしてくれたのがこのボウインさんだ。

 もう五十に近い年齢だったけど、経験と統率力を買われて今でも衛兵のまとめ役をやっているらしい。

 そんなボウインさんは、僕の所まで来ると笑顔だった表情がみるみる雲っていく。


「噂で聞いたが、お前の両親が魔族に拐われたそうだな。気の毒に……」

 心配そうに顔をしかめながら、僕の肩をたたく。

「だがな、心配するな! 領主様が今、なんとかするべく動いているからな!」

 元気付けるように言われたけど、僕はそれを止めなくちゃならない!

「ボウインさん、その事で領主様にお話があるんです! なんとか取り次いでもらえないでしょうか?」

 僕の言葉に驚きつつ、彼は僕の後ろに控えていたカートさんにチラリと視線をやる。

 まぁ、知らないエルフの人だし、警戒されるのはのは仕方がないけど。


 とりあえず、カートさんに敵意は無いことと魔界で得たの情報の事をかいつまで話すと、ボウインさんは一つ頷いた。

「わかった、今は来客中で話はできんから、中でしばらく待つといい」

 そう言って、僕達を屋敷の中に招き入れてくれた。そのまま僕達は、一階の客室へと通される。

 その途中で、現在この屋敷には何人かの冒険者が待機している事を教わった。

「主に情報収集を依頼しているから、良かったら彼等の話も聞いてみるといい」

 些細な情報でも、僕達にはありがたい。

 ご厚意に甘えて、色々と話を聞かせてもらおう。


 コンコンと客室の扉をノックすると、中から「どうぞ」と声がかかった。

 失礼しますと一声かけて中に入ると、突然「ああっ!」と大声を出した人物が僕を指差して驚愕の表情を浮かべる。

 ……えっと、誰でしたっけ?

「!!」

 そんな僕の対応に、その人物は少しショックを受けたみたいだった。

「テメェ……テメェらのせいで、どれだけ俺たちが苦労したか……」

 僕への怨みつらみを呟きながら、目の前の人物に変化が現れる。

 ザワザワと体毛が波打ち、筋肉が肥大化して顔に獣の様相が混じり始めた!

 ああ、この人はっ!


「そうだ!忘れたとは言わせねぇぞ!」

 目をギラつかせて僕を睨むこの男。

 ジマリの街でアルトさんにちょっかい出して、僕に倒された狼の獣魔族!

 冒険者チーム、ラライル組のウルフ・三朗!

「その通り! ちゃんと覚えてたじゃねぇか!」

 少し嬉しそうに、狼の獣魔族はボキボキと指を鳴らして、僕へと向かってズンズンと歩を進めてきた。

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