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魔王の娘と勇者の子孫  作者: 善信
22/101

22 いざ、始まりの場所へ

「こんなもんでどうでしょうかっ!」

「いやぁ、これではおたくらからの損失は取り戻せませんねぇ……これでいかがですっ!」

「んふふ、いくらなんでもその数字はないでしょう!」

 バチバチと火花を散らしながら、商談をするティアームと所長。

 さながら、見えない拳で殴り合っているかのように、二人から発せられるオーラで、間の空間が陽炎みたいに歪んで見える。


「ふははは、まさか脳筋ばかりと思っていたアマゾネス・エルフに、貴女のような話の通じる傑物がいるとは思いませんでしたよ!」

「私も力を使わない言葉の戦いがこんなにも楽しいのかと、感激しています。いやぁ、見識は広げてみる物ですね!」

 修羅のような笑みを浮かべて舌戦を繰り広げる二人の姿は、心なしか作風すら違って見えてきて……その、なんだ……怖い。

 しかしまぁ、この商談が上手く行けば両者は共栄関係になれるだろうから、頑張ってほしいものだ。


「お待たせしました」

 場違いで劇画チックな戦いを繰り広げるこの部屋に、着替え終わったエルが入ってきた。

 一瞬、二人のやり取りにビクリと震えたが、すぐに気を取り直して妾の前に立つ。


 うん。女装姿も背徳的で悪くなかったが、やはり性別通りの姿はしっくりくる。

 最初に着ていた服とは違い、魔族の意匠が盛り込まれた軽装鎧姿に近い格好になったエルは、幼さを残しながらも戦士としての風格を醸し出していた。

「よく似合うではないか、格好いいぞ」

 妾が誉めると、エルははにかむように照れ笑いを浮かべる。

 くっ……かわいい……。


 そんなエルに対して、不意に餓えた肉食獣を思わせる視線を向ける者がいた!

「あ、あばば……エルざ、ま……かわ、かわい……」

 覚束ない言葉と、ギラギラとした目付きで震えながらエルを見つめるのは、言わずと知れたカートことカトス・イプレアロ!

 女装ではなく、本来の男らしいエルの姿に、アマゾネス・エルフの本能が暴走しかけているのか!?


「よさんか、カート!」

 彼女を止めようと、伸ばした妾の手が空を切った。

 すでに動き出したカートは、モデルのようなウォーキングでエルに向かって歩を進める!

「うふふふふふふふ、そんなにカッコ可愛い姿で登場なんて、何を考えてるんですかエル様。誘ってるんですか? 誘ってるんですね? わかりました、いただきます!」

 一歩進む度にカートの肌の露出が増えていく!

 いかん! お子様の目に止まるかも知れんのだぞ!


「さぁ、エル様! 怖くありませんよ、天井のシミでも数えていてくださいな!」

 最後の一枚を脱ぎ去ろうとした時、一筋の影が走った!


「全年齢対象!」

 気合い一閃!

 注意を込めた掛け声と共に、放たれた骨夫の手刀が隙だらけのカートの首を打つ!

「へぐっ!」

 またも奇妙な悲鳴を上げて、カートの意識が断ち切られる!

 ほぼ全裸で崩れ落ちた彼女に、骨夫は自身が身に付けている闇の衣の上半身部分を掛けて、その姿を隠してやった。

 よし、よくやったぞ!

「……堂々と全裸(サービス)が許されるのは、私だけなのかもしれないな……」

 骨だけの上半身を晒しながら、誇らしくも悲しげな骨夫の一言が宙に溶けて消えていった……。


「エル、大丈夫であったか?」

 あまりのカートの迫力に圧されたのか、エルは汗をかきながら大きく息を吐き出す。

「びっくりしました……」

 妾もだよ。

 まぁ、目を覚ましたら少しは落ち着くだろう。


『ところでアルト殿。今、そちらで行われている商談(たたかい)が終わったら、次はどうするのかな?』

 持ち主が女装を止めたら、すっかり元の口調に戻った魔剣(ハミィ)が、妾に尋ねてくる。

「うむ、予定通り妾の城へ向かい、狼藉者を倒して父上を救いだそうと思う」

 ぐっと、皆の表情が強ばった。

「アルトさんを追い立てた人間の戦士……かなりの強敵ですね」

 妾が使う魔法の威力、その一端を知っているエルが、緊張したように呟く。

「ああ、かなりの強敵だ。だが……」

 妾は堅くなったエルの体を、そっと抱き寄せる。

 すると強敵への緊張とは別の意味で、さらに彼の体が堅くなった。

 妾はそんなエルを(なだ)めるように、頭を撫でながら語りかける。


「確かに奴等は強い。しかし、エルの強さは決して奴等に劣るものではないぞ」

 そこまで言って少しエルの体を離すと、彼の体が顔を正面から見据えた。

「だから、妾に力を貸してくれ」

「はいっ!!」

 力強く、そして元気よくエルは即答した!


 うーん、しかしあれだなぁ。

 奴等に勝利したら、何かエルにはご褒美をあげたほうが良いかもしれない。

 ちなみにどんなものが欲しいか尋ねてみると、エルは顔を赤くしながら俯いてしまった。

 ふふふ、R15以内で頼むぞ。


 ほれほれ、教えぬかとエルの頭を妾の胸に埋めながら問い質していると、いつの間にかティアームが、妾の前に音も無く立っていた。

「ひゃうっ!」

 思わず変な声が出たものの、こほんと一つ咳払いをして気を取り直す。


「イチャついてる所、申し訳ありません」

 バ、バッカ! べ、別にイチャついてなんかいませんけど!?

商談(たたかい)が……終わりました。後は権利者として、承認のサインを御願いします……」

 あ、はい。すいません……。

 その静かな一言は、妾に冷水を被ったような落ち着きを取り戻させる。

 そうして、精魂尽き果てた、満身創痍のティアームが一枚の書類を差し出してきた。

 あの……大丈夫……?

 見た目とか、変わりすぎなんですけど……。


「少し疲れました……でも、気持ちは充実してます……」

 口の端しから一筋の血を流し、歴戦の古強者みたいな笑みを浮かべて、ティアームと所長が親指を立てて敬意を示し合う。

 なにこれ……商談って、みんなこんな風になってしまうのか?

 ううん、商人ってスゴいんだな……。


 書類に妾がサインをしたのを見届けてから、崩れ落ちた二人を運んでもらうために使用人を呼ぶ。

 ティアーム達を運んでもらった後、サッと書類をチェックして……いよいよ準備は整った!


「では、行こうか……妾の城に!」

 宣言すると同時に、足が震えてきた。

 ぐぬぬ、この期に及んでもまだトラウマが顔を出すかっ!

 見れば、骨夫も数本の骨が溢れ落ちるレベルで、ガクガクと震えていた。

 んんん~! 震えよ、止まってくだされ~!


「アルトさん!」

 エルが妾の名を呼びながら、手をとった。その途端、(ぎょ)し難かった震えがピタリと止まる。

「大丈夫ですか?」

 心配そうに妾の顔を除き込むエルと目が合った。

 ええい、情けない!

 いつまでもビビってられるかっつーの!


「無論だ!さぁ骨夫よ、転移口を開け!トラウマを克服しに行くぞ!」

 力強い妾の言葉に、骨夫の震えもなんとか収まる!

 よし!行くぞ!

 骨夫が目の前に展開した魔力の入口に、気を失ったカートを放り込み、次いで妾達も一斉に飛び込んでいった。

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